執事 2020-07-30 19:43:59 |
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…これは私からのプレゼントです
(音楽プレーヤーを大切そうにポケットにしまう彼を見て、にこりとまた笑いかける。そうこうしながら杖を振れば、いつもより明らかに薄い魔法式の問題集と書き取り用紙1枚がふよふよと空中に浮いて、)
特別ですよ、どちらがいいです?
……こっち
(彼からもプレゼントが貰えるのか、と期待を込めた瞳で相手を見つめるが、そこに現れた問題集や書き取り用紙等の勉強道具にうんざりした表情に早変わり。クリスマスだから今日は勉強無し!と密かに願っていただけあって、ショックもそこそこ大きいものだったが、その量に関しては彼の優しさが感じられる気もする。ここで反論して量を増やされてしまえばたまったものではないので、渋々ふわふわ浮いている問題集に手を伸ばし)
メリークリスマス、お坊ちゃん
(ふわふわ浮いていた問題集に彼が手を伸ばし、その指先が問題集に触れた途端、問題集が新しい杖へと姿を変えた。先端には綺麗な宝石が嵌め込まれ、彼の手に馴染みやすいような形になっており。特別だと言ったでしょう?、そう付け足して、)
(一瞬、何が起きたのか分からなかった。確かに、ついさっきまでは見慣れた問題集が宙にあったのだが、今はどうだ。そこには問題集も何もない空間、その代わりに、自分がいつも使っているものよりも十分に質のいい杖が手のひらの中にある。随分とにぎり心地も良く、数回振ってみただけで使いやすさを実感した。本当に問題集がプレゼントなのか、と半分諦めていたところにこれだと、貰ったときの嬉しさや感動も倍になるというもの。きらきら、感謝の念が籠もった瞳で彼を見、)
ありがとうヴィラ。大切にする。
もう下手な失敗はできませんねぇ、
(彼が一定量の魔法を安定して扱えるようになった時には、彼に似合う杖を贈ろうと決めていた。もちろんこの杖は彼が元々使っていたものを元に仕上げたもので、これで無駄は無いはずだ。これからも彼の成長を見届けたい、その思いで贈ったプレゼントをこうも喜ばれるとは思っていなくて。いつもの嫌味をちくりと刺しながらも、彼の目を見てこくりと頷き)
(自分に向けられたその視線。毎度恒例となっている嫌味はさておき、それには彼の期待が込められていると言ってもいいだろう。その思い、無駄にはしたくないと頷き返す。……なんだか今日は物を貰ってばかりだ。そりゃあクリスマスだから当然といっては当然なのだが、こう自分だけプレゼントを貰って喜んでいると彼に申し訳無い気持ちなんかも芽生えて来て。そもそも、彼がクリスマスプレゼントを貰ったのかどうかも定かではない。まだ彼くらいの年齢でもサンタは来るのかどうか、と思考を巡らせつつ)
……お前は貰ってないのか?その、クリスマスプレゼントとかは
………私ですか、?
(なにを言われるかと待ち構えていたら、クリスマスプレゼントの心配をされてしまった。基本的にもう12歳頃で世の中のサンタクロースは役目を終えると思っていたのだが、彼が信じているサンタクロースの存在は潰したくないし、はてなんて答えようと若干答えるまでに間が空いてしまいつつも、素直に答えて)
もらっていないですね、
(やはり彼くらいの年齢になるともうサンタさんは来てくれなのか……。その返答を聞いて少ししゅんとなるも、それが大人になるということなら仕方ないのかと納得し。しかし、自分だけプレゼントを貰うのはやっぱり申し訳ないという気持ちは変わらないまま。何か決断したように立ち上がって引き出しから硬貨の入った──自分のお小遣いが入った袋を取り出してはポケットに仕舞い)
町に行くぞ、ヴィラ。お前にクリスマスプレゼントを買ってやる。
いえ、その、それは…
(基本的に自分は与える側の人間であり、与えられるのは慣れていない。しかもこのクリスマス、自分は彼のために色々用意していたのだ。自分にクリスマスプレゼントと言われればその慣れない言葉にふるふると首を振り、「その硬貨は、お坊ちゃんのためにお使い下さい」_一度意思を固めた彼が中々下がらないことを予想しつつもやんわり断ってみて、)
駄目だ
(断られるのは想定内、ここで折れてしまえば結局意味が無くなってしまうため、引き下がる訳にはいかないのだ。クリスマスプレゼントのお返し、彼への感謝の意を込めての自分からのプレゼントでもある。彼の言葉をばっさり切り捨てると、彼の片腕を引っ張って)
ほら、早く出掛けないと店が閉まるだろ
…まるで猪ですね
(こうなると彼は止まらない。それがもし、危険なことであれば止めるのが自分の義務だが、彼は自分に渡すクリスマスプレゼントを買うと言っているのだ、その気持ちを折る訳にはいかなくて、彼に腕を引っ張られながらやれやれと首を振りつつ、ぽろりとそんな嫌味を零し)
(いつもなら嫌味には言い返す所だが、今日はわざわざ反応している暇はない。あれから止まること無く足を進め、街中へとやってきた。アンティーク雑貨の専門店や宝石店やら時計店など、洒落た店が並んでいる。クリスマスプレゼントを買ってやる、なんて言ったは良いものの、そういえば彼本人の欲しいものはまだ訊いていなかった、一度足を止め彼の方を向いて)
なぁヴィラ、何が欲しいんだ?この近くにお前の欲しいものが売ってればいいんだが。
お坊ちゃんが選んで下さらないのですか?
(アンティーク雑貨、煌びやかな宝石、小洒落た時計店など様々な店が並ぶ中、正直、これが欲しいと明確な物は決まっていなかった。それもこれも、どれも彼の笑顔や存在には劣るものばかりなのだから。
彼の気持ちを無下にはできず、さてなんて答えようかと数秒の間を置いたあとで目を丸くしながら問いかけ、)
僕が……?…………分かった、
(普段彼は物を欲しがらない、だからこそ、口に出していないだけで本当は何か欲しいものがあるのではないかと思っていたが、どうやらそれは違ったらしい。回答に困っているであろう彼の口から飛び出したのは想定外の言葉で。まあなんにせよ、それが彼の願いならば無理矢理欲しいものを聞き出す必要も無いだろう。……となると、今度は自分がなにか、を探さなくてはならない。今まで彼に貰ったもの、彼の好きそうなもの……やはり日常的に使えるものがいいだろうか。その結論は未だ出ないまま、取りあえず商品を見てみようと彼を連れてアンティーク雑貨の店内へ)
へぇ、美しい時計ですね
(連れてこられた雑貨屋で、様々なアンティーク雑貨を珍しいそうに見回して。どれも凝った細工や細やかな色の変化がそれは美しいが、欲しい物は特に無い。彼が何かを選んでくれるのだろうか、年甲斐もなくわくわくと心を踊らせながらそう呟いて、)
(店内へ入るとそこは圧巻の品揃え。アクセサリーや筆記具を眺めつつプレゼントはどれにしようかと思考を巡らせていると、彼の呟きが耳に飛び込んでくる。自然と視線は時計の置かれている場所へと移動された。そこには置き時計、掛け時計、腕時計と多種多様な時計達が一定のリズムで時を刻んでおり、どれも劣らぬ優秀品。そっと値段を確認すると、流石はアンティーク。一般的な時計の何倍もするであろう数字が書かれており、思わず表情を曇らせる。お金を貯めていたとはいえ、今の自分には到底届かない値段であった。残念そうに視線を落とすと、その視線の先には懐中時計の並べられたガラスケースが。ふらりと近づいてデザインにも目を通す。安定の細かな装飾と、他の商品に比べてリーズナブルな値段。これに決めた、こっそりと此処の店主を呼びつけ、その商品を指差して会話を交わす。彼は気付いているだろうか、自分が今何を買っているのか──。支払いを終え、ラッピングされたそれを丁寧にポケットへ仕舞うと、商品を眺めていた彼の背へ声を掛け)
もう用は済んだ。帰るぞ、ヴィラ。
……おや、もう決められたのですか?
(こちこちとそれぞれの時間を刻む時計の音が心地よく、もう何年も彼の隣で仕えているとはいえ日頃の緊張された精神が解かれていくようだった。自分の部屋にも、こんな風に癒される時計があっても良いかもしれない。そうだ、雨の日がつまらない物にならないよう、彼の部屋に綺麗な時計を置こう。
いつの間にか、考えていた彼のこと。やはり自分には彼の成長と、彼と一緒に過ごせるのが1番のプレゼントのような気がする。
そんな物思いに耽っていたからか、彼が何を買ったかなんて気づいていなかった。帰る、と言われてぱっと意識を引き戻し、)
…まあな、
(彼を連れて店を出ると、人気の少ない路地へ移動し。こう、改めて二人きりになると変に緊張してしまう。普段そんな話をしないからこそ、つい表情が強張ってしまっているのだ。もう一度周りに人が居ないことを確認すると、おぼつかない手付きで先程買ったばかりのプレゼントを差し出し。丁寧に包装された箱の中身は薔薇をかたどった懐中時計であり)
……これ、お前に……メリークリスマス
メリークリスマス、……中を開けても?
(彼の強ばる表情と、おぼつかないその手付きに自分になにかを渡したいのだろうと察する。差し出されたその箱の包装を壊さないようにそっと両手で受け取って、まるで初めて外の世界を目にした鳥のようにわくわくした心を表に出さぬよう、彼に首を傾げて問いかけて、)
あぁ、
(照れくさいのか短くこくりとだけ頷く。果たして彼は喜んでくれるだろうか、ドキドキと徐々に大きくなる胸の鼓動は落ち着きそうになく、そわそわしながら相手の反応を伺い)
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