執事 2020-07-30 19:43:59 |
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(彼の手を引いて廊下を歩いていく。この前の自分の誕生日までとはいかないが、所々にきらきらとした装飾が施されている部屋の中へ入っていき、中央に設置してある椅子へと座らせると彼の目隠しを外す。暗闇から明るい場所へ、彼の目が慣れてきたあたりで一言、)
誕生日おめでとう、
……え、はい?
(視界が明るくなり、目が慣れてきたあたりで再びぱちぱちと瞬きしつつ当たりを見渡す。きらきら飾り付けられた部屋に何事かと思ったものの、彼に誕生を祝われてやっと、今日が自分の誕生日だったと気づいたのかはっとした表情で、)
自分の誕生日を忘れるとはな、
(彼の新鮮な反応。十分だと言いたげに笑みを浮かべつつ、呆れたような口調でそう言っている……ところに、使用人の一人が、クローシュの被されたお皿を持ってくる。それを受け取って、唖然としている彼の前へ。そっとクローシュを開ければ、少し不格好なショートケーキが顔を覗かせる。料理人に無理を言って自分で作ったものだ。事前に用意してあったティーカップにカフェオレを注げば、どうぞとカップを彼の前へ移動させ)
これは、その_お坊ちゃんの手作りですか、
(本当に、忙しくとも充実した日々に自分の誕生日だなんてすっかり忘れていた。いつも自分がしている側のことを彼にされ、なんとなく不自然な態度を取ってしまう。開けられたクローシュの中からはお世辞にも綺麗とは言えないショートケーキが顔を覗かせ。手を付ける前に、彼の顔を見ながら問いかけた、)
……一応、側には料理人も付いてたからな
(自身の手料理を食べさせるのは、これが初めてではないだろうか。少し緊張、照れた様子でコクリと頷けば、もしも不味かったときの言い訳としてそんなことを口に出し)
…今まで食べた中で、1番美味しい
(フォークで一口大に切り、それを口に運ぶ。基本的にキッチンには彼を入らせないことになっているから、かなり無理を言ったのだろう。慣れない作業を自分のために頑張ってくれたのか、その気持ちだけで今までの自分がしてきた全てが報われた気さえする、子供のようにふにゃりと笑い、)
!…………それなら良かった
(いつもの毒舌で、甘過ぎるとか形がまだまだだとか言われるのではないかと心配する部分もあったのだが、それは全くの杞憂であった。いつもは聞かない彼のそんな誉め言葉、いつもは見せない柔らかい表情にこちらも表情が緩んでしまう。きらきらと嬉しそうな笑顔を見せ)
美味いよ、なあ、本当にさあ…
(自分の誕生日をまともに祝って貰えたのはいつぶりだろうか、自分の好きな組み合わせをいつの間に調べたのだ。嬉しくて嬉しくて、思わず口調が崩れてしまった。口の端にクリームが着いているのに気付かぬままショートケーキとカフェオレを交互に味わい、)
…クリーム付いてるぞ
(そこまで喜んで貰えるとは、頑張った甲斐があった。彼のこんな口調を最後に聞いたのはいつだっただろうか。なんにせよ、彼にとっていい誕生日になったのなら何の問題もない。いつも彼が自分にしてくれているように、ハンカチ片手に彼の口に残るクリームを拭って)
よく見ていらっしゃる、
(彼のその行動を見ては、へらりと思わず笑顔を浮かべて。いつも自分がしていることだ、それを彼はしっかり見ていた。口調を戻せば、ぱ、と照れたように顔を背けて、)
今日の主役がよそ見してどうする、
(顔を背けた彼にそんな言葉を掛けて半ば強制的に此方を向かせる。そして近くの使用人達にその場から立ち去るよう命令すると、広い部屋の中、彼と二人きりになり)
…全く、かなり無理を強いたでしょう?
(ほかに使用人がいないのを良いことに足を組んで完全に気を緩めていて。口では叱るようなことを呟いたものの、口調は優しいものであり。「一日で準備したんです?」じ、と今度は彼の目を真っ直ぐ見つめて)
……ま、まあな!
(嘘である。只でさえ不器用なのだから、ここまで形にするのにどれくらい時間がかかったか。しかし変なプライドか、この苦労を彼に知られたくなく、そんな風に強がって)
どんな形であれ、お坊ちゃんに祝われるのが嬉しいですよ
(嘘だ、不器用である彼が一日でここまで形にするのはいくら何でも無理がある。だがしかし、彼は自分に一日でしてやったと見せてやりたいのだろう、その気持ちを汲んでなにも突っ込まず、ぽろりと素直な本音を零し)
一人だと、外に出るのは難しい…から
(本当は、彼がしたようにネクタイピンやらハンカチやらをプレゼントしても良かった……のだが、自分の置かれている立場上、街に出ること自体稀だったりする。仮に街へ出掛けたとしても、いつも彼が側にいる、誕生日プレゼントを本人の目の前で買うのはなんだか、とも思い、最終的にはこうして手作りのプレゼントになってしまうのだが、彼から零れた素直な気持ちに心が温かくなる。折角二人きりになったのだ、実は先程のショートケーキ等は本当のプレゼントではなく。ポケットをごそごそと漁り)
…探しものですか?
(彼の言葉を聴きながら、最後の一口を食べ終えた。ごそごそポケットを漁る彼を見、なにか探しものだろうかと心配して。しかし、先程彼が放った言葉から考えるとどうも探しものではなさそうだ、きょとりとした顔のまま、彼がポケットから手を引くのを待って)
……その、手紙を書いてきたんだ
(目的の物、白い封筒を取り出すと、そのまま中を取り出す。どうやらここで読み上げるらしい。紙に視線を落とし、ゆっくりと口を開く。)
「ヴィラへ──」
__手紙、ですか
(プレゼント、と言っても手紙とは予想外だった。白い封筒を彼が取り出し、そのまま中身を読み出した彼に目を丸くして。2人きりだということ、久しぶりに好物を食べたことで完全に気を弛めており、)
「いつもありがとう、お前は──」
(自分の書いた文章を人に聞かせるのは恥ずかしい…。まるで小学生のような拙い文を一言一言読み上げていく。感謝から始まり、彼への労いの言葉だったり、いつもの自分の態度の謝罪だったり、彼へと向けて綴られた思いを届けるように。もう手紙の内容も終盤に差し掛かってきた頃、照れながらも彼の眼をしっかり見つめ)
「最後に──」
こんなことを面と向かって言うのは、やっぱり恥ずかしい……な。
……ずっと、大好きだ
私こそ、ずっと大好きですよ
(どれくらい考えてくれたのだろうか、この手紙1枚にどれ程彼の思いが詰まっているのか、考えただけで心が満たされる。彼が文面を読むあいだ、穏やかな表情で見つめていて。最後の1文を伝えられては、ふふ、と心底幸せそうに口元を緩めながらそう呟き、)
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