執事 2020-07-30 19:43:59 |
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(/了解致しました!)
──数日後
……
(普段よりも早く目が覚めた。目が覚めた、というよりも、緊張であまり眠れなかった、というほうが正しいだろう。なんといっても、今日は特別な日……執事である彼の誕生日である。数日前から、使用人やら料理人の協力の元、色々な準備をしてきた。……が、まだ仕上げが残っている。彼に気付かれていないかが心配だが、今日は一段と忙しくなりそうだ、と気合いを入れると、そろそろ彼が起こしに来るんじゃないか、とそわそわしつつ念入りに今日の準備を始め)
おはようございま……
(いつもの時間に彼を起こしに来たものの、どことなくそわそわしている彼の空気を感じとり、つかつかと彼の傍まで寄っては「どこか悪いのですか」と心配そうに彼の顔を覗き込んで。どうやら、日頃の忙しさからか今日が誕生日だということは忘れているらしい、)
っ!、なんでもない!
(無闇に近付かれて、折角のサプライズが見つかってしまっては困る。慌てた様子で否定すると、誤魔化すようにクローゼットの扉を開き)
今日の服は自分で選ぶ、お前は朝食の準備でもしてろ
…そうですか、では後ほど
(どこか体調が悪いのではないかと心配したのは全く見当違いだったようだ。彼の目覚めも良さそうだし、素直に彼の意見に従えば部屋を後にして、)
……危なかった
(彼の背中を見送ると、取り敢えず一安心、と息を吐く。開けたクローゼットから適当に服を出して着替える。今日は彼の誕生日、いつも自分の世話をしてくれる彼に、今日一日だけでも休んでほしい。その為に、自分の事は出来るだけ自分でやろうと決意を新たにし)
お待たせ致しました、
(彼の部屋に入れば、既に着替えている彼がいて。驚きつつも、ころころと引いたワゴンの上にはバターたっぷりの焼きたてクロワッサン、とろとろのスクランブルエッグに新鮮な野菜のサラダ、それに絞りたてのオレンジジュースをてきぱきとワゴンの上から彼のテーブルの上に載せていき)
いただきます
(両手を合わせて挨拶をすると、クロワッサンをパクり。サクサクといい音を立てながら、クロワッサン、スクランブルエッグ、サラダ……と、綺麗に完食していく。最後のオレンジジュースを飲む間、ストローから口を離すと、今日の彼の日程を把握しておくために質問。)
……ヴィラ、今日のお前の予定はなんだ
今日は日中だけですが、此処を離れて街に書類を出しに行きます
(毎月出さなければならない書類を出さなければならない、変わったことといえばそれくらいだろうか。他には変わりがない、「後はお坊ちゃまのお世話ですよ」にこりと笑いながらそう告げて、)
……そうか
(対して興味なさそうに返答するも、密かにガッツポーズ。彼がいないのであれば、隠れてこそこそ準備する必要もない。小さく笑みを浮かべれば、御馳走様、とジュースを飲み終え、食べ終えた食器等を運ぼうと立ち上がり皿を両手に持ち)
今日は随分優しいですねぇ…
(いや、彼にこうして偶に自分の予定を聞かれたり、彼が率先して食べ終わった皿を運んでくれることもあるのだが。今日はそれにしても、いつもと違う気がして顎に手を添えては首を傾げつつ。)
何か企んでいますか?
そ、そんな訳ないだろ!お前は早く出掛ける準備でもしてろ、
(鋭い指摘に思わず声を詰まらせる。流石は執事。察しがいいというか、全て見透かされている感が否めないというか……、慌てて否定すると話をそらすようにそう言って)
そうですよねえ、お坊ちゃまは企み事が苦手ですものね
(その慌てた否定を、いつものように自分の言った言葉が図星であるから焦ったのだと解釈した。彼に言われた通り、このまま街に行こう。やることが一段と多い今日、4時には帰りますねと一言伝えてはワゴンを引きながら部屋を後にして)
……あぁ、
(“四時には帰ってくる”心の中でその言葉を反芻しながら、彼の背中を見送る。時間は十分にあるだろう。彼が完全に部屋から見えなくなったところで、近くに使用人を呼び寄せ耳打ち。彼が街へと出掛けたらまた連絡を寄越せ、と伝えると、自分は部屋の机でおもむろにペンを取り出し作業を始め)
…少し早いか、
(コートを羽織り、トランクに必要な書類をきちんと詰めては時計を見る。予定より少し早いが、念の為これくらいの時間に出ても問題ないだろう。使用人に彼のことを頼むと一声かけた後、屋敷を出て街へ降りていき)
いいか、ヴィラが帰ってくるまでに──
(使用人から、執事が此処を出た、という連絡を受ける。ペンを置いて今の作業に一区切りつけ、使用人達を集め指示を出す。一人一人に作業を割り振った所で、先ずは厨房へ行かなくては、と早足で廊下を進む。時間はあると言っても、彼がいつ戻ってくるかは分からない。出来るだけ早いうちに準備を終わらせたいという希望も抱いており)
_はい、伝えておきますね
(用事自体は4時前に済んだものの、この前のあの騒動で、街人は自分の顔を覚えていたらしい。小さい子どもまでもがわらわらと集まってきてしまえば対処するほかなく。にこにこ笑顔のまま適度なところで切り上げ、時間を確認する。4時には着くと言ったのにこれでは屋敷に着くのは5時になりそうだ、)
──あとはヴィラが帰ってくるのを待つだけだな
(手間取った部分もあったが、なんとか彼が帰ってくる前に準備を終わらせることが出来た。これで一安心、といったところだが、まだ本番は始まっていない。念には念を…と、最後の確認を済ませ、使用人には待機場所に付くよう指示。自分は玄関にて目隠し用のタオルを片手に彼の帰りを待ち)
只今戻りました、
(予定より1時間も遅れてしまった。使用人は下手なことをしていないだろうか、彼に伝えていた時間よりかなり遅くなってしまったことに反省しつつ、いざ屋敷に戻れば彼が片手にタオルを持っているのに気づいては首傾げ、)
──今だ!
(側に隠れていた使用人達にそう合図をし、帰ってきたばかりの彼の身体を押さえ付けさせる。自分はそのまま執事の背後へと周り、目を覆うようにタオルを巻くと後ろを縛って。少々強引だが、自分一人では目隠しをするのはほぼ不可能。簡単に外れないよう、念入りに縛った後、彼の手を取って)
行くぞヴィラ、足元には気を付けろ
_何の真似ですか、これは…
(屋敷の中、それもおそらくは彼の命令で使用人たちに体を押さえつけられては上手く抵抗できず、あれよあれよときつく目隠しまでされ、まるで死刑を待つ囚人のような格好になってしまった。悪ふざけだとしても度が過ぎる。呆れたように息を吐けば彼に連れられていき、)
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