/ 案内人 2020-04-19 15:43:05 |
通報 |
〈 マーリン 〉
「 愛と云うのは、たったひとつの箱庭さ 」
( 無機質な電子音だけが部屋に響いている。寝台の上へと横たわる愛しい生命を繋ぐ為だけの音。点滴の管から流れ落ちている透明が彼の血と為り肉と為っている等、未だに信じる事が出来ていない )
( 美しく磨かれた床を踵で蹴ると小気味良い音が無機質な部屋の空気を震わせた。彼が眠る寝台へと腰掛ける、スプリングが軋む。真白いシーツに散らばる髪を指で梳いてやれば、夢の世界に落ち乍らもゆるりと口角を上げるいたいけな少年に此方迄頬が緩んで仕舞った。髪の一本から爪の先迄 純潔 清廉と云った二文字が似合う彼は、偶にこうして身体を壊すのだ。彼程に黒が、“ 救世主 ” と云う肩書きが似合わない人間が居るのかと云う程に。果たして、今回の傷は何を護ってつくったものやら。─異聞帯での苛烈な戦いに耐えうるようにと、より性能が上がったらしい黒い魔術礼装が 床の上で死んでいた )
「 …… ゆっくり休むと良いよ
今だけは、ね」
( 愛と云うのはひとつの箱庭。愛は盲目、恋でさえ盲目。未だに閉じた儘の瞼に口付けを落とし、白いローブを翻しては部屋を後にした。──彼が “外には出たくない” とその口で云う迄、あと幾度繰り返せば良いのだろうか。思いとは裏腹に口角は上がりに上がっている )
トピック検索 |