執事長 2020-02-25 19:00:33 |
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>ゼズゥ(>1603)
ふむ。では、ここから先は私の出番だな。
また久しぶりに彼に会えるというのに、嫌だと思う事などある筈が無い。…夢に見るほど楽しみにしていたのだからな。
虎の彼についても承知した。それでは、今夜も楽しい一夜になる事を願おう。
***
(狐の神通力による騒動から少々。無事元の姿へと戻り、自室へと帰って暫し経った夜の事。ここ何日かは約束通りに貰った大工仕事の端材を相手に、作業台と決めた机の上で笛作りに勤しんでいた。「ふむ、」一つの区切りに道具を置いて、拙いながらも見た目だけは整った笛を掌に乗せて眺めながら、「……困ったな。」ふとそう呟いたのは、この数日間目の前を過る追憶の所為。木や土の香りが沈んだものを起こすのか、それともドラゴンの彼と過ごす際に辿りなぞった想い出が呼び水になったのか、不意に浮かぶ幼い記憶が作業の手を何度も止めてしまう。「…どうしたのだろうな、私は。」この異界での運命を受け入れた。元の山に未練と呼べる程のものを残してもいないし、帰りたいと願う郷愁も無い。それなのに追憶の度に胸に吹き抜ける木枯らしのような寒さ。その解決策を見付けられず慣れない悩み事に困惑する思考回路は寄った眉に顕れる。「……ラザロ、」つい、口から彼の名前が零れ落ちた。危険な道では手を引いてくれた、困った時弱った時、助けてくれた彼の姿が灯火のように思考を拓いて。――会いたい。それは殆ど直感だった。彼に会えたのなら、話が出来たのなら、この囚われて絡まる“何か”も解けるだろう、などと。無防備なまでの信頼に根付くらしくもない衝動のまま立ち上がり、ポケットの“お守り”と持ったままだった形だけの笛を確と握り締めながら部屋のドアを開き、まずは通路を見回して無意味に等しい安全確認を――と、そこに。見覚えのある蜥蜴が視界を横切っていった。「あれは、ラザロの……」烏、蝙蝠と数居る中でもこの個だけは唯一間違える事は無い、彼の使い魔。「そこの君、待ってくれ、」初夜に受けていた忠告が縛った躊躇いを振り切って、その小さな背を追う。……その後どの角をどう曲がって、どの階段を上り下ったかは解らない。ただ、いつの間にか追い掛けていた姿を見失い、その代わりに――あの夜見た頑丈で無骨な、彼そのものを表したような扉が眼前に佇んでいた。事態を理解出来ず一度瞬いて、しかし本来の目的を思い出した右手の甲でノックを三度。「ラザロ、其処に居るか?」まず在室の確認を取った次、「その……今日はどうにも、寂しい、ようで。君の顔を一目見たいのだが、」普段に比べて辿々しく困惑を含んだ物言いになるのは、この感情にも、それを音にするのも不慣れであるから。それでも彼是と飾る事を知らない言葉を真っ直ぐ扉の向こうに伝えて、「…良ければ、此処を開けてもらえないだろうか?」己の膂力では到底開きようもない重厚な扉に掌を添え、請い願う声で面持ちの知れない彼の意思を窺い返答を待つ。)
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