執事長 2020-02-25 19:00:33 |
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>ナミル(>>1568)
(物憂げな視線を落とす先は両手の内に収まるグラス。あと少しで飲み干せてしまう量まで減った透明の液体に目を伏せ、傍に控えるトカゲの使い魔は空っぽになったボトルの上にちょろちょろと登り心配そうに主人を見つめ「 …分かってる。今夜は一本って約束だもんね 」力なく微笑しグリーンを基調としたネイルに彩られた指先でつるつるとした使い魔の鱗をそっと撫でる。小さなトカゲは心地良さそうに目を細め、また主人の深酒を止められなかったら…という懸念が杞憂に終わった事に安堵するようにその場でくるりと一周してからぷきゅいと鳴いて「 この近くに新入り?……そう、また… 」またひとつ、理不尽に黒薔薇へ縛られる命が増えてしまった。陰る表情を引き摺ったままとぐろを巻いていた下半身をしゅるしゅると解いて立ち上がり、手慣れているというよりすっかり癖になってしまったという手つきでテーブルの上のシガレットケースから黒い煙草を一本取り出し咥えながら自室を後にし、向かうのは件の不運な新入りの部屋。あまり煙の出ない仕掛けをしているのか、僅かな紫煙をくゆらせながらノックの応答を待つ事数秒。怯えなど微塵も感じさせない、寧ろ微かな喜色さえ含むような声が扉の向こうから聞こえてくればきょとんと眉を上げ、その表情のまま想像だにしなかった剛毅な笑みと対面し「 ……こんばんわ。あんた、人間にしちゃデカいね 」些か抑揚に欠けるトーンで思ったままを告げながら相手の顔を見上げ「 新入りって聞いたよ。色々困ってるだろうから説明しに来た 」端的に訪問の用件を伝えれば答えを待つこともなく上げていた視線を真正面に戻し、明らかに人ならざる下半身を器用にくねらせその鱗をずるずると引き摺りながら彼の横をすり抜けるようにして室内へと進み、まだどの怪物の残り香もない部屋に一番乗りだと悟りながら特段それを嬉しいとも面倒とも感じることなく彼の方に顔を向けて「 …煙草、苦手だったらごめん 」言いつつ消す気は無いのか、灰が床へ落ちる代わりに微細な粒子となってハラハラと消えてゆく不思議なそれを咥えたままソファーの背凭れ部分に両腕を置くようにして体重を僅かに預け「 あたしゼズゥ。あんたは? 」自然と視線の先にある、不気味なほど巨大な銀色の満月を見据えながら問い掛けて)
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