執事長 2020-02-25 19:00:33 |
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>ナザリ(>1532)
(この短い間だけで幾度、年相応以上に童らしい扱いを受けただろうか。蔑視でも嘲弄でもないと理解していたとて、やはりそれを受け取る手はどうも余してしまう。頼み込んだ口にまた指を当て、ぱちりと泳ぐ目を瞬かせる一秒足らずの逡巡の後、招く仕草に応じて徐と立ち上がれば彼の居るベッドへと己も足を踏み出す。「ふふ、そうかい。…それなら、僕も恐悦の至りだね。」軽やかに弛めたとしても品を崩さぬ桔梗の如き笑みの下、彼の言葉に此方も心からの喜びを示してみせる。――元の世界でもいつもそうしたように、コート類を脱いで畳み、その上へ外した装飾品達を添えて。慣れた所作でそれらを枕元へと置いて簡易の寝仕度を整え、己の屋敷と遜色無いベッドへ身体を横たえる。……人を喰らう者を前にあまりに無防備なその体勢故、話の始めにはほんの僅か強張りを窺わせて。しかし物語を綴る長閑な低音、ゆったりと身に伝わる柔い振動に段々とそれは解け、主人公が冒険へと旅立つ頃には傾聴にばかり心が向く。お伽噺の頁が捲られる毎、端から少しずつ思考の糸も綻んでいき――やがて“めでたし”で話が閉じられる頃には微睡みにすっかり揺蕩い、瞼はその重さに従順と瞑られる。「……おやすみなさい、」殆ど機能していない頭から、それでも言葉を交わした彼へ告げる挨拶は、意識の揺れから年齢よりもずっと幼いもので、それを最後に夢の内へと緩やかに沈んでいく。――まだ羽根も万全と揃わぬ一鶴の飛翔。その懸命と羽撃いた先、どんな結末へと進むか今は知れぬ物語の序章は、久方ぶりの穏やかな寝息を締め括りと筆を休める。)
***
――この辺りが一つの区切りかな。うん、幾ら動揺していたとはいえ、初めはあんな不躾にお堅い態度を取ってしまってすまないね。…でも、初夜が終わる頃にはすっかり緊張が解してもらえたのだから、本当に君は会話上手だね。
それで、そう…次について話さなくてはね。前に言った通り、もう一夜続けて僕がお話を綴らせてもらうのだけれど……ご指名したい怪物様がまだ絞りきれていなくてね。良ければ少し相談に乗ってもらえると嬉しいな。
先ず気になっているのは、僕がこれから読む書の主演であるサー・ギンハ。それから会話に少し登場した悪魔の方々…このお三方の内からであれば、僕と同じ“兄”という立場にあるサー・レンブラントとお顔合わせを願いたい。あとは、そうだね……話に挙がった以外であれば、サー・レオニダスにも少々興味を惹かれている。
……手を煩わせてしまって申し訳無いね。何せ僕、気の多い性分だから、何方も魅力的に見えて仕方が無くて……ふふ。それで、どうかな。僕が挙げた怪物様方、またはそれ以外のまだ見えぬ誰かの中で、僕とお話をしてくれる者は居るかい?
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