執事長 2020-02-25 19:00:33 |
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>ナザリ(>1525)
おや、そうかい。
(言葉の戯れ、その最後にはふっと柔い笑みだけを括る。言語の壁へ取り零したかと思った童話がまた拾われた提案に、「それは……」一瞬躊躇で言葉を濁したのは、“寝かしつけ”なんて幼子相手のような単語の所為。その気恥ずかしさと好奇心との葛藤は、眉を垂らしたまま自らの膝元と彼を行き来する目線と、人差し指の背を当てた唇から洩れる微かな吐息がよくよく顕して。「……うん。そうだね……もう読み聞かせで眠る歳ではないけれど、微睡むまで異国の話へ耳を傾ける夜も、偶には良いかもしれないね。」悩む事たっぷり十秒程、此度の天秤は好奇が優勢に傾いた模様。消しきれない羞恥が言葉を些か遠回しに飾り付けはすれど、微笑む視線はきちりと依頼する相手である彼へと向ける。――今初めて己が名を象ったその声は、それまでの捕らえ所が見えぬ春風のような音ではない。暗澹が立ち籠めて肌を微かに痺れさせるそれに、「……“御役目”の話かい?であれば、問題は何も無いよ。」椅子に預けた身体を再度正して、すっと細めた瞳に毅然を湛えて彼を見据える。「僕は何時であれ立場を弁えぬ振る舞いはしない、己の在り方を違える事もしない。…僕は僕のまま、最期の一刻まで翔んでみせるとも。」凛と静かに、しかし堂々朗々と。どれ程常軌を逸した場所に拐われども、限り無く弱く儚い立場へ落とされようとも――果たすべき務めを放棄せず、成したい信念をも通す、その確固たる不変の意志を。「僕が授かったこの名と――あの異界の月に誓ってね。」張った胸にそっと掌を当て、誰もが初めに自己の寄す処とするそれと、いつ何処までも己を見詰めるだろう常夜の光へ誓言したその後。不意にくすりと表情を弛めてみせて、「……それとも。他に何か必要な心構えがあるのかい、サー・ナザリ?」ゆるり傾げた首と共にそんな問い掛けをする声は一転軽やかに、優雅なウィンクも一つ添えて緊迫を断つ悪戯を投げる。――“食事”。意識を僅かに和らげた所へ訪れた一言に下げた視界はまた彼へ。目が搗ち合ったその刹那、心臓から爪の先までざわめき立つ何かに囚われて息を詰まらせた一瞬の次、「……有り難いね。食事の時が待ち遠しくなる言葉だ。」それでも泰然を保ち微笑んだ面持ちと、悠然を崩さぬ物言いを返す。――今目を逸らせば丸飲みにされる小鳥のような萎縮の心地。けれどもだからこそ、怯え臆する本能は震えを握る拳に押さえ伏せて、その大蛇の瞳から逃げず真っ直ぐ視線を交わす。)
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