執事長 2020-02-25 19:00:33 |
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>クォーヴ ( >>1526 )
( 次の夜、とクォーヴは言った。恐らくもっと先のことになるだろうと想像していたため、楽しみがぐっと近付いたような気がして頬が緩む。正しく次の夜でなくたってよかった。彼も楽しみにしてくれているのだということが何より嬉しかったから。「楽しみだなあ。そうだ、カメラとか……写真機の類ってあったりする?」まだ見ぬ異界の薔薇園を想像し、ふと思い付いたようにそう尋ねて。人に見せて評価してもらっていたわけではないので客観的な上手い下手はわかりかねるが、写真を撮るのは好きだった。もしカメラやそれに準じる何かを貸してもらえるならぜひ薔薇園を記録に残したいと考え、ねだるような目で彼を見て。吐息を漏らすように笑ったのを見ると一気にくすぐったい心地になって、恥ずかしそうにうつむくとそれ以上何も言わなかった。
到底一人では行かせられない……正直、予想できた答えではある。食堂ですら付き添いがいるのだ、本来客人とは無縁であろう場所に人間一人で行けるようになっているはずもない。予想はできたが残念であることには変わりなく、肩を落とすと「やっぱりそっかあ」と眉を下げ。クォーヴが何かを考え始めたことに気がつくと黙って次の言葉を待ち、期待にそわそわと指先を合わせる。本当に優しい死神だ。この屋敷ではじめに出会えた住人が彼でよかったと、もう何度思ったかわからない。「……ううん、嬉しい!」外出をきっかけに横の繋がりが広がるかもしれないという別の意図を持っていたことも真実だが、それでも本心からの言葉だった。たしかにここは広さの割に殺風景で、この部屋に物を持ち込んで何かをする、という発想がなかった自分にとってクォーヴの提案は素直に喜ばしいもので。部屋を出るたび誰かを付き合わせるのは気が引けるし、この部屋で植物を育てられるならそれで充分だと心から思えた。生き死にの手綱を握られている家畜の分際で。贅沢をさせてもらっているなと頭の隅で考える。「色々考えてくれてありがとう。余分なプランターをわけてもらえたら嬉しいな」そう呟くとまた笑った。 )
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