執事長 2020-02-25 19:00:33 |
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>秋天(>>1510)
(我を忘れて周章狼狽するでもなく、往生際悪く運命を拒もうと足掻くでもなく、この数十秒の間に大いなる理不尽を受け入れるに至った彼はやはり凡庸な人間ではないのだろうと感じる。逆に言えば、この間に彼が何を考え何を諦めたのか、そこに思いを馳せるには捕食者という立場が通せんぼをして、しかしそれに気付かずにいられるほど無神経ではなかった。使い魔に選ばれ此処に攫われてしまったからには逃れられない最期ならば、否だからこそ「 僕こそ、きちんと聞いてくれてありがとう。どうかチウの最期の夜が哀しいだけじゃありませんように 」いつか必ず黒薔薇になってしまう貴方へ万感の願いを。命が終われば母の元へ行きたいと言っていた彼に、その尊い魂はもう二度と輪廻の環には還らず永久のこの屋敷を彩る黒薔薇になってしまうという事実は今はまだ伝えられず、自身がそうまごついている間にも未来へと思考の舵を切る彼の物分かりの良さに一抹の不安さえ覚えながら「 そう……だね。気が向けば僕も混ぜておくれ、一緒に思い出を作ろう 」無論彼自身が考え定めた方針を咎めるつもりは無く、いつか彼が列挙するだろうしたい事の中に自身も存在できればと伏し目がちに微笑んで。閉じこもっても意味がないなら――その言葉から、遠くない内に、ともすれば明日にでも部屋を出て無限の迷宮へ探検に出てしまうかもしれないと推量すれば目の前に在るにもかかわらず途端に彼の命を遠く感じて。呆気なく終わりが訪れた時、果たして自身はどう感じるのだろう。何か出来たかもと悔いるのだろうか、そう考えれば俄に両手を動かし、手のひら同士を淡く上下に向かい合わせるようにしてその間の空間に黒と水色の混じった魔力の光を集約させてゆき――やがて何もなかった手中には彼の髪や瞳と同じ漆黒に鈍く輝くシンプルな意匠のネクタイピンが生成されて「 チウ、どうか君の冒険のお供に。いつか何かに襲われて君がその結末を不本意だと感じた時、一度だけ盾になってくれるはずだよ 」両掌に乗せたそれをテーブル越しに差し出す。いつでも傍に居ることは出来ないけれど、この形ならば。小さな物に込められる魔力量は決して多くはないけれど、無防備な丸腰の状態で彼を行かせるよりは万倍良い。無論強制的な贈り物ではないため此方から請う形を取りながら、受領も拒絶もどちらでもにこやかに受け入れるであろう揺らぎのない微笑にて彼を見つめて)
***
もう見つけてくれていたんだね、ありがとう。僕が否定的でなければ?……ふふ、チウが隣人達との冒険を望むのなら勿論快く送り出すよ。君はとっても素敵な子だからね、僕が独り占めしてたら彼らから顰蹙を買ってしまうでしょう?ふふ。
備忘録を見つけたい時は一声かけておくれ、何せあれはどんな場所にも存在するものだからね。資格ある人間が望んだ時に自ずと目の前に現れるものだよ。
日常イベントも活用の検討をありがとう。この時に君を襲うバケモノは僕達のような住人ではなく徘徊する理性のない獣に固定しているんだ。バケモノの姿形なら事前に打ち合わせしておけば変更可能だから、またその時に遠慮なく声を掛けておくれ。…ふふ、このお屋敷に相応しい花言葉だよ。いつか君が思い出しますように。
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