執事長 2020-02-25 19:00:33 |
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>クォーヴ(1420)
(それはこのお屋敷に来た夜の話。この一月余り、ずっと頭の隅に有った謎。ゆるり引かれた己が手元から射抜く視線を受け止め、語られる回答へじっと静かに聞き入った後、「…そう、良かった。」吐いた息に混ざるのは恐怖でも惑いでもなく、安堵の一声。「オレちゃん、“覚える”のは得意だもの。それならきっと、分けられるねぇ。」人でありたいと足掻いた故に、存在を見てほしいと願った故に、自身が抱えて締め上げたものの全て。拘泥と執着の結実でもあるそれらこそ、目の前の死神へ渡せる饗膳なのだと、熱を含めた目は一層と艶やかに細められていく。「……まずは、そう。貴方のお口に合うか解らないけど、」ふと区切った言葉の次。己から一歩、更に彼との距離を詰め、その己とは何もかも正反対の色をした“捕食者”の瞳を獣の深紅が見詰めて、「今から6つ前の冬、初雪の中で追いかけっこしたお話、なんて味見にいかが?」彼の顔に程近い食指の爪でその下唇を掬って弄びながら、いつもの戯れに同じのんびりとした口振りで問いを重ねて。――彼と共に着いた扉の前。開いたその向こうから漂う芳醇な香り、そして広がる色とりどりの実を蓄えた樹木の光景に、瞳は煌めきに大きく瞠られて、「ははっ、すっごーい!」まるきり幼い賛美と共に彼方此方目移りする最中、「ふふ、ホントに楽園に来たみたいだねぇ。」もう一つ届いた彼からの朗報にふわふわ浮かれた喜びを返して、彼の手を離れ果樹の林に分け入って。よく知るオレンジ、バナナに、初めて見る石榴や無花果。どれもこれもと興味津々好奇のままに幹をなぞって枝先を摘まみ、五感全てで探険しているその途中、「あ、」見付けた馴染み深い一種に漸く足は一度止まり。その樹木に生る実の幾つかの匂いや光沢を窺った後、一番大振りで甘い香をしたそれに触れ、「ねぇ、これって食べても良いの?」しかし刈り取るその前に彼の方に顔は向き、“これ”と示した果実――宝石の如く真っ赤に熟れた林檎の滑らかな肌を、掌でそろり撫で擦りつつ彼へきらきらと眼差しを投げかける。)
***
ふふ、こんばんはぁ。お話し中にごめんねぇ。
別に大した事じゃないの。今ちょっぴり話題にした“追いかけっこ”の話、後で綴って宝箱に仕舞っておこうかな、ってご報告。いつになるかは解らないけど、お暇が出来たら見においで、って。ただそれだけ。
それじゃ、今は“楽園”を楽しませてもらうねぇ。
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