執事長 2020-02-25 19:00:33 |
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>ルシアン
ん――…、悪い悪い
( 震える声で指摘されて初めて、自分で思っている以上に力強い抱擁になってしまっていたと気付く。はにかむような語調で謝意を告げ、腕の力を緩めても解きはしなかったのは、貴方が泣いていると察してしまったから。こうして自分の腕の中で涙を流してくれる小さな貴方を、腹の底から愛おしいと思う。そんな大切な貴方は、泣き顔を自身に晒すことを是としないだろう。ゆえにトン、トンと一定のリズムで静かに背中を弾きながら、貴方が落ち着くのを待つ。この暖かで幸せな時間が永久でない事は理解しているつもりだ。青空の絵が完成したのも、二人の出会いから確実に時間が流れている事を如実に示す証となる。「 ――いつから俺は、こんなに強欲になったんだろう。まさか、永遠を望むなんて 」胸中だけに留めておいたつもりの独白は、控えめながらも確かな肉声となって、色彩に溢れたこの部屋の静寂を揺らした。胸板に圧力を感じた事で、貴方が離れたがっていると気付く。きわめて名残惜しいが、するりと腕を解こう。先ほどまで泣いていたのに、もうこんなに目を輝かせている――きっとそれも、俺を慮っての事。優しい子だな、そう言葉にする代わりにわしゃりと一度だけ髪を撫で「 ああ、そうだった。喜んでくれるといいんだが…、 」ジャケットの懐から取り出した、翡翠と菫色の包装紙。自身の大きな手の平を二つ並べてもはみ出てしまうほどの大きさのそれを、両手で以って差し出し「 交換こ、だもんな。ほら、開けてみてくれ 」捕食の頻度とは関係なく、常に鋭利に輝く牙を見せてニカ、と微笑む。貴方が包み紙を解いてくれたのならば、二色の向こうに現れるのは艶やかな黒い毛並みの付け耳と尻尾。オオカミのものを模して造られたそれは、耳はカチューシャ、尻尾はベルトに装着出来る形にされていて「 これで、ルシアンも俺達の仲間入りだ。何たって本物だからな 」ゆらゆら、背後で細くなった尻尾を揺らす。今回のプレゼントは、正真正銘自身の毛並みから生み出されたもの。魔法でコーティングをして経年劣化を防ぐ工夫も忘れずに。「 ……やっぱり、ちょっと引くか? 」たはは、と片方の眉を下弦に弛ませ、自嘲気味な笑みを描いては自身のうなじ辺りを摩って )
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