No title（〆）

(喫煙所で徐にスマホを取り出すと手早く『タバコ買いに出たついでに一服してる。迎えに来ても良いけど疲れてるだろうから無理しないで帰ったら連絡ちょーだい。愛してるよ。』と綴っては、場所とは不釣り合いな文章の甘さに顔を隠しつつ1人笑いを零してからスマホを仕舞い)

（アルバイトを終え恋人からの連絡を確認すると、マスクの下で口元を緩め帰路を進み。喫煙所の前へと辿り着くと賑わった室内を覗き込み、談笑する恋人の姿に穏やかに目を細めて。徐にスマホを取り出すと『了解です。ゆっくり楽しんで来てくださいね。浩二さんが帰る時に連絡貰ったら迎えに行くんで、呼んでくださーい。』と絵文字を交えて送り、壁に寄り掛かってゲームを起動し）

──…なぁんでこんな所で待ってんのかねぇ、俺の可愛い恋人は。疲れてんだろーからんな気ぃ遣わなくて良いっつーのに。(相手からの連絡に返信しようとスマホに目を落としながら喫煙所を出れば視界の端を掠める人影に顔を上げ、その正体が恋人だと気づくのに時間は掛からず。眉間に皺を刻み歩み寄り、不満気な声色で呟きつつ対面から相手のスマホのゲームを覗き込み)

…あれまあ、バレちゃいましたか。別段気を遣った訳じゃなくて、一緒に帰った方が楽しいから待ってただけですよ。それに恋人が楽しそうに話してるの見たら、やっぱ幸せじゃないですか。（聴き慣れた声が耳を擽れば、スマホへと向けていた視線を上げ相手の表情を尻目に嬉々と目を細め。ゲームを中断して首元に腕を回しハグしては、次いで手を繋ぎ帰路へと足を進め）さーて、帰りましょ。浩二さんは今日もお仕事だったんですか？

…あー、その言い方はずりぃ。可愛いからついつい甘やかしたくなんじゃんか。(相手の返答に愛おしさが込み上げてくれば悶絶する様に抱きついてくる肩口へと額を埋めて軽く頬擦りをして。続け様に繋がれた手の感触を確かめる様に握り自宅へと向かい)ん、まぁちっとだけなぁ。暇つぶし程度のモンよ。悠チャンは？今日バイトどうだった？

ははっ、可愛いって程のもんじゃないっすわ。でも甘やかして貰える分には喜んで。パパおんぶー。（相手の反応に思わず口元に手を添えつつ笑いを溢しては、周囲にひと気がない事を確認し握った手を開放して背後へと。首元に腕を回しては、戯れる様に背中へと飛び乗り楽しげに声を立て笑い）偉いですなー。お疲れ様でした。俺はねー、初めてメールを打ちましたよー。んー、頭使うのはやっぱ嫌いですー。

知ってた？俺の悠チャンへの可愛い判定ガバガバなの、しゃーないべ。──う、わ…っお前ねぇ…。俺が落としたらどーすんだよ、危ねぇだろ。(不意に背中へとのし掛かる体重に前傾姿勢になるものの、一歩足を踏み出して耐えては相手の臀部を後ろ手で支えて姿勢を正し。首だけで振り返っては小言染みた言葉を漏らすも相手の楽し気な表情に絆されてしまえば満更でもなく、笑いを帯びたため息を漏らして視界の奥に見えてきたマンションへと再び歩き出し)…お、新しい事覚えたのか。偉いじゃん。良いよなぁ、色々任されるっつーのは期待されてる証拠だし。…新人の頃とかめーちゃくちゃ懐かしいわ。

うんうん、色眼鏡ぱねぇのは薄々勘付いてました。でもこうも男前な人に可愛いだの何だの言われると気分良くして付け上がっちゃうんで、タチ悪いっすわ。あははっ、落とされたら死んじゃいますねー。怖いなー。（危機感の無い声色で紡ぐと、甘える様に頬へと口付けを贈ったり相手の髭を撫でたりし戯れて。マンション近くに辿り着いたところで自ら降りると再び手を繋ぎ、相手の新人時代の姿を妄想し宙へと視線を向け目を細め）んー、先輩が横で喋った言葉を打ち込んで送っただけなんですけどー…あっは、そう言えば指輪に気付かれて、結婚してるの？って聞かれました。ウケる。──浩二さんの新人の頃ってどんなんだったんでしょ。きっとキラキラしてたんだろうなー。

ハハ…いーよ、いくらでもつけ上がってりゃあ。俺に言われて喜んでるっつーのがこの上なく可愛いんだし。…ほぼ見せ筋だけどこんなに鍛えてて良かったって思った事ねぇわ。ふ、おんぶとかいつぶりよ。(相手の戯れ付きの擽ったさに耐えながら背中が軽くなれば、繋いだ手の儘引く様にしてマンションのエントランスを抜けてエレベーターに乗り込み。目的階の釦を押しては徐に振り返り、相手の左手薬指軽く口付けては悪戯な視線を向けてすぐに顔を離し何事も無かったかの様に振る舞い)お、良い先輩じゃん。ちゃんと段階踏んでくれるのは育てんの上手い人だよ。…んで？この指輪なんて誤魔化した訳？──キラキラっつー感じでは無かったんじゃねぇかな、爽やかぶってたし。ま、すーぐ飲み会でバレて取り繕うのやめたけど。

またまた甘い事言っちゃって。付け上がったら駄犬が更に馬鹿になりますよ。うんうん、実は浩二さんの背中見て飛び乗りたい衝動を堪えてたんすよ。なんで、太る前に乗っておこうと思いましてね。ははっ、ですよねー。弟さんがちびっ子の時はそりゃおんぶしてたでしょうけど…まさか、成人男性を担ぐだなんてね。（何気なく相手に続きエレベーターへと乗り込むも、指輪を嵌めた指へと口付けられると唇を結び耳を染め、言葉無く相手の肩口へと頭部を傾け。目的の階へと着くと通路を進み恋人宅前へと赴き、解錠して扉を開けて相手の入室を待ち）先輩はそっすね、かなりの優男っすわ。お陰様で楽勝っす。指輪はねー、はーい、結婚したいでーすって言いましたー。そしたら先輩ニヤニヤしてましたー。…あっは、爽やかな浩二さん見てみたいっすわ。数年前ですもんねー…入社当時の写真とかないんですか？

あー…まぁ……でも俺あんま馬鹿すぎる犬は嫌いなのなんとなく分かってんだろ？だから平気。どーせ勝手に賢い犬になるよ。…フハ、丁度今日太らせる為にいい事思いついたんだよなぁ。この間の菓子まだ食ってねぇだろ、食べたい？ふ、そーね。マジでガキん頃以来じゃねぇかな、高校ん時ダチ背負って廊下競争した位。(したり顔で肩を揺らし自宅前まで辿り着けば、促される儘一足先に玄関を潜り靴を脱ぐと廊下を歩きながらパーカーを脱いでTシャツ姿になり、そのままタバコの匂いが染み付いたパーカーを洗濯機へ放ると手を洗いうがいを済ませてからリビングへと進みつつスマホを見つめ)へぇ…惚れられんのは別に良いけど惚れんじゃねぇぞ。ま、そんな事言ってる時点で別に心配もねぇけどなぁ。…にしても、結婚ねぇ。そーいや前も言ってたよなぁ。…あー、あるかな。ワンチャンどっかに残ってるかも。…ちょい待ってなぁ。

…ちょ、いきなり辛辣でビビりましたわ。賢い犬がご所望なら頑張りますけどー、俺らしさがなくなっちゃいますよん。…ほ、太らせる方法とは。勿論、折角買って貰ったんで食べたいです。丁度腹減りですし。──へぇ、可愛い遊びしてたんですね。廊下走っても怒られないの、羨ましいっすわ。ははっ、心配御座いません。先輩はノンケで彼女居ますし、俺もご存知の通り彼氏いるんで。（相手に続き帰宅を果たすと、手洗いうがいをしてから真っ直ぐに猫の元へと向かい抱え上げて毛並みに顔を埋め戯れて。ソファーへと着座すると、腿に載る体をゆったりと撫でつつスマホを操作する恋人の姿をわくわくと見据え）あると良いなー。あったら俺にも送って下さいね。

ハハハ！半分冗談。悠チャンなら思い通りにいかねぇのも悪くねぇよ、それはそれで楽しい。今までの奴なら、お前が嫌なら他当たるからいーけどって突き放してっつーだけ。…お、言ったな？やっぱナシはもう聞かねぇからなぁ。あー…つってもスマホ触っちったからもっかい手ぇ洗わないとだわ。──いや？怒られたし、なんなら俺がタッパあったせいでダチが巫山戯て天井に穴開けて呼び出しくらったわ。そんなんばっかよ、俺の学生時代って。…ハハ、そんなら安心だわ。(画像フォルダをひたすらスクロールしながら過去の写真を見返し入社当時男女含めた同期数人で集まって撮った写真を見つければ、恋人を不安にさせる様な要素がない事に小さく安堵し。癖毛風にセットしたベリーショートの黒髪も殆ど着なくなったブラックスーツも懐かしく思いながらケラケラと笑い、画像を開いた儘ソファーに座る恋人へとスマホを放るとキッチンシンクで再び手を洗ってから冷蔵庫を開けて)あった、あった。いや、こうして見返すとクソガキ感あるなぁ…嫌だわ、こんな生意気そうな部下。

なら尚更駄犬が許される限りそう居なくちゃ。特別で居たいから他の人と被るのはまっぴら御免ですし、何より浩二さんが好きになってくれたのは生意気な俺なんで。…えー、やっぱナシができないって何でしょ。スイーツ早食いとかですかね。それなら得意分野なんだよなー。──ははっ、天井に穴開くって相当っすよ。同じくヤンチャの俺でもその記録は破れないっすわ。（緩い放物線を描きパスされたスマホを受け取ると、画面に表示された若々しく爽やかな印象の恋人の姿に目尻を下げ、拡大しうっとりと眺めて。己のスマホに転送すると、満足げに相手の方へと顔を向け嬉々とした声色で）わっ、やっぱ黒髪だと若い感じしますね。マジで爽やかだ。生意気な感じはしないっすけど、なんかこの時からデキる感ありますね。えい、転送しちゃいまーす。

んじゃずっと駄犬じゃん。悪かねぇって思っちまう辺り末期なんだよなぁ。それに可愛い時はちゃあんと可愛いから別に良いし。…あー、違う違う、もっと楽しそうな奴。お前がハマってくれりゃあ餌付け楽だなぁって──…んー、シュークリームで良い？──冗談で箒で天井殴ってたんだよ。でも俺完全にとばっちりじゃねぇ？言い出したのは俺だけど背負ってただけだっつーの。(冷蔵庫の中のスイーツに視線を巡らせ、微かに思案するとリビングの恋人へと振り返り呼びかけたものの返事を待たずに該当の品を手に取るとソファーへと歩み寄り、隣に腰を下ろすと相手に渡すでも無く自分の手元で開封しつつ。自分のスマホを見つめる恋人を微笑ましく見ては)今だってほぼ黒髪みてぇなモンじゃん。まぁでも、この時が1番マトモそうな見た目してたわ。悠チャンは？高校ん時の写真とかねぇの？見てみてぇ。

ほら、あんまり賢い犬って可愛くないでしょ？でも然るべき年齢が来たらちゃんとしますよ、多分。保証はないですけど。えー、楽しそうな奴ってなんでしょ。もしかして、浩二さんがあーんしてくれるんですか？──うんうん、シュークリームでＯＫです。マジで何だろ、わくわくしますわ。…あっは、何で天井を殴っちゃったんすかね。ウケる、それはとばっちりっすわ。でもまあ男は呼び出し喰らった方が箔が付くんでね、良いんじゃないっすか。（相手がこちらへと来れば猫を床へと下ろし、キャットタワーへと身軽に戻る姿を微笑ましげに眺めて。菓子の封を開ける所作を楽しげに眺めるも、続く言葉に己のスマホを操作し過去の画像を遡れば、ブレザーを僅かに着崩した高校生時代の写真を表示させ。アッシュレッドの髪をフェザーマッシュにし、ノンメイクで現在よりも男らしい印象ながらも斜に構えた表情をし、首に手を掛けている姿を自嘲しては掲げて見せ）やっぱ真っ黒とは違いますよ。でもって今はセクシー。どっちもイケメンですけどね。あー、ホスト時代の写真とかも見てみたいっすわ。…俺は顔作り自体は変わってないんすけどー…ふっ、これとか。多分人生で一番モテた時期です。

フハ、然るべき年齢になっても少なくとも俺の犬っころで居てくれるっつー事？随分と熱烈だねぇ。…お、ご名答。俺が直接手から食わせてやろーなぁ。悠チャンは手ぇ使うの禁止、言わずもがな残すんじゃねぇぞ。…高校ん時なぁんかみんなバカだからなぁ。学校の昼休みにピザの配達頼んだり、昼間っから校庭で花火やったり…今考えるとぶっ飛んでんなぁって思うわ。(袋からシュークリームを取り出すと反対の手で恋人の顎を掴んでこちらを向かせ、笑顔の儘傍若無人な物言いをしては相手の口元に触れさせて。その体勢を保ちつつ相手が掲げたスマホに視線を移せばその画面の中の気障な表情の中に年相応の幼さの残る恋人の姿に目尻を下げるも、眼前の相手と見比べてはしみじみと呟き)そうかぁ？…ま、色気が出たってんならいーや。あー…ホストん時は…マジでダセェからヤダ。今より全然筋肉付いてなかったし、多分碌な写真ねぇ。…お、イケメン。つーか、やっぱちょい童顔だな、可愛い。んー…でも今の方が好みだわ、それこそ色っぽいし。

当然じゃないですか。そりゃずっと一緒に居る気が無きゃ、遊びたい盛りの学生最後の歳を1人の人に注いだりしないっすよ。…あっは、ちゅーるのお菓子バージョンって訳っすね。そりゃいつも以上に美味しく食べれそうだ。…やっば、浩二さんの方がずっとヤンチャでしたわ。ピザもあれっすけど、花火はヤベー。多分先輩でいたら怖くて近寄れませんでしたわ。──うんうん、俺と比べちゃ新卒時代も大人っぽいっすけど、垢抜けた今は縋りたくなるオーラがありますね。あっは、筋肉ないお兄さんの想像が付かない。益々気になりますわ。…そ。アパレルに進んでカマッぽくなる前なんで、まだイケてるんすよ。今はそりゃね、浩二さんのためのゆーくんなんで、好みでいて貰えて幸いですよ。（強制的に顎を誘導されると心臓を仄かに高鳴らせ、満更でもない顔をし。相手が画像を見たのを認めるとスマホの画面を消しソファーへと載せ、口元に宛てがわれた菓子を前歯で齧り溢れ出そうになるクリームを吸い上げ嚥下し。煽る様に目を細め唇に付いたクリームを舌先で舐め取っては、再び歯を立て食べ進め）

ハハ、悪ぃな分かってて態と聞いたわ。にしてもほんっと…俺のツボ上手く抑えやがって。かーわいい。…そ。楽しそうだろ？お前に食わされる事はあっても俺が食わしてやる事は殆どなかったしなぁ。…え、嘘だろ。ピザは割とやんねぇ？花火はまぁ…アレだったけど、でも俺なんだかんだで後輩からも慕われてたぜ？ま、つってもバンド効果だけど。──あー、俺ぁどっちかっつーと老け顔だしな。…いや、でもお前の口から縋りたくなるって聞くの良いなぁ。もっと縋ってこいよ。…うん、ありゃモテんの納得だわ。あのまんま成長してたらそれはそれで言う事聞かせんの楽しいだろーけどなぁ。(夢想する様に呟くのも束の間、相手が自分の手から直接食み始めた事に気がつけば魅入る様に注視して。背徳的なその光景に己の嗜虐心が煽られるのは必然で、恍惚とした吐息を微かに漏らすとクリームを押し出す様に菓子を持つ指先に力を込めつつ相手の口元から離す為に僅かに手前に引いて)…ハッ、エロ…。いーねぇ、思ってた以上に楽しいわコレ。

やった、お兄さんのツボを擽れた何より。…ま、狙った訳じゃないんすけどね。真顔で語っちゃうくらいには本心ですよ。…うん、浩二さんに餌付けして貰えんならそりゃもう尻尾を振って。食べるトコ見られんのは若干恥ずかしいっすけどね。ピザは買う金も無けりゃ発想もなかったっすわ。でも知ってりゃやりたかったなー。あー、バンドなら慕ってた後輩っつーのは女がメインっすかね？いいなー、俺も学校祭とかで真ん中の席陣取って観たかったです。──お、今でも大分縋ってるのにもっと良いんですか？そりゃ大盤振る舞い。どうせならベッドで、ネ。…あー、あの頃は女子が昼に教室に来て笑った瞬間に盗撮したり、勝手に連絡先回されたりで若干荒んで生意気だったんすよ。口も悪かったし、虐めたい人にはなかなかの物件でしたわ。（菓子が口元から離れれば驚き僅か見開くも、宙でクリームが垂れ掛かっているのを認めれば舌を突き出し受け止め、挑発する様な笑みを浮かべつつ口端に溢れたそれ指で拭い再び食べ進め。菓子が小さくなり相手の指にクリームが付着したのを認めると、完食してから甘える様な舌遣いで舐め取り）はい、全部食べました。ご褒美はありますか？