No title（〆）

（寝具の端で呆然と突っ伏し疲弊した身体を休めるも、眼は硝子玉の様に生気を失っており。臀部は布団が触れる度にひりひりと痛み、酔いも相俟って無遠慮に嬌声を揚げた喉は掠れていて。速いペースで飲み過ぎたせいでずきずきと痛む頭を悔やむ様に唇を噛んでは、低く呟く様に）…もう暫く飲まないっす。

(未だ仄かに酒気を帯びた自分の吐息に未来の姿は想像に容易く、ため息混じりにキッチンからミネラルウォーターを持って寝室へ戻ってくれば、視界に映る疲弊し切った恋人の姿に心配より先に言いようのない愛おしさを感じてしまうのが自身の歪んだ愛情故だと理解しつつ、傍らにそっと腰を下ろして極力優しげな声を出しながらハイトーンの髪を梳き)いやー、酒も飲み過ぎたし…毎度の事だけど無理させ過ぎたな、ごめん。水、飲めそ？眠かったらこの儘寝ちまっても良いしよ、ちゃんと腕枕してやるから。

（恋人が寝室へと戻るのを把握するも、上体を起こす気力はなく。相手が傍に腰を下ろしたところでそちらへと視線を向けると僅かに笑みを浮かべ、髪を撫でる手を心地良さそうに享受しつつペットボトルへと手を伸ばし一口嚥下し。紡がれた台詞に首を横に振ると体勢を横へと向け、うつらうつらと瞼を揺らし微睡んで）謝らないでください、俺ちゃんと喜んでたんで。…あーでも、お酒が…明日が怖いですね。水、ありがとうございます。浩二さんもちゃんと飲んでくださいね。…ん、じゃあお言葉に甘えて寝ておきます。きっと浩二さんも明日は二日酔いになっちゃいそうなんで、腕枕は大丈夫ですよ。蹴って寝ちゃってくださいね。…おやすみなさい、愛してますよん。

(髪を整える様に梳かす手を止めずに、弱々しい笑みを浮かべる相手に応えるべく微笑みを携え。相手の飲んだペットボトルを受け取ると宣言通り一口飲んでは、恋人が寝付いた事に気付けば起こさない様に気を払いつつ額に口付け、その儘隣に横わると背中へと両腕を回し抱き寄せて、腕の中から聞こえてくる寝息に眠気を誘われ目を閉じて)明日ぜってぇやべぇよなぁ…休みなのがせめてもの救い。ん、俺も水ちゃんと飲むから平気。俺の心配は良いからゆっくり寝て。悠チャンのが体力使ってるだろーし。…ふ、じゃあ俺が悠チャンを抱き枕にしたいからそーするわ。おやすみ、悠チャン。今日もあんがと。愛してるよ。

（目覚めると幾分か頭が重たいものの、想定していたよりも二日酔いは軽く安堵の息を吐き。寝具を抜け出すとシャワーを浴び、猫に餌を与えてからセットアップを纏い気乗りしない身体を無理矢理動かして憂鬱な天気の中アルバイトへと。電車内で恋人に『ココちゃんのお土産、何がいいですか？』と猫の絵文字を添え送信しては、ワイヤレスイヤホンを耳に嵌めプレイリストに追加したばかりの曲を再生し）

──ココ、悠チャンがお土産何が良いってさぁ。(形容し難い倦怠感が午後になって漸く収まればベッドから這い出し、シャワーを浴びてから生え揃ってきた髭を入念に整えてTシャツとジーンズに着替えリビングへ。ソファーに座ると数ヶ月前までは終ぞ嵌める事はないと思っていた左手の指に収まる指輪を翳し見て断片的な記憶を掘り起こし、笑みを浮かべながらスマホを手に取り。愛猫へと呼びかけると膝に飛び乗るその姿を写真に収めて添付し『パウチのカツオがいいニャ。カロリー高いのはパパが心配しちゃうから。』、『バイト頑張っておいで』と送信して)

（ひと気が殆どないオフィスで社員の死角にて雑用業務をする最中、作業に飽きてスマホを見ると真っ先に恋人が送信した猫口調のメッセージが目に飛び込み、口元を手で覆いながらテーブルに突っ伏し笑いを押し殺して。笑いの波が去ったところでニヤけつつ画面をスクロールし、猫の写真を暫し眺め癒されると『了解でーす。じゃあ、ありったけのカツオを買って行きますね。』、『ゆるーく頑張ってきます。早く帰って、パパとココちゃんに会いたいです。』と送り、大きく伸びをしてから再び作業へと戻り）

(飛び込みの会議通話が終わり周囲に広がるデータ資料や殴り書きをかき集め、企画書を纏めるため暫し真剣な表情でPCに向かい。不意に集中が途切れればタバコとスマホを手に取りベランダで雨音を聞きつつタバコを深く吸い込むも依然として頭の冴える感覚が訪れず、落ち着きなくジッポを開閉させる手を止め代わりに恋人へ『早く帰っておいで。待ってるよ。』と綴り)

（強風に煽られ覚束無い足取りでふらふらとマンションに辿り着くと、ジャケットに付いた雨水をハンカチで拭ってから扉を開け帰宅を果たし、真っ直ぐに手洗いうがいをしに洗面台へと。衣服を消毒してからリビングに向かうと、満面の笑みで買い物袋を掲げて見せ）ただいまでーす。ココちゃんのお土産買ってきましたよー。とりあえずカツオってついてるパウチ全部買ってきましたわ。後は焼いたカツオ。パパ、二日酔い大丈夫でした？

──あ…ほらココ待てって。一緒に行こーなぁ。(PCを片付けようとした所で玄関扉の開閉音が聞こえると耳を揺らしキャットタワーから今にも降りる構えの愛猫を落ち着かせる為に小さな頭を撫でて、しっかりと両手で抱き留めながらリビングのドアへと緩慢に歩み寄り'。恋人の手中の品を見て腕の中から聞こえる甘えた鳴き声に破顔しながら塞がった手の代わりに首を伸ばし恋人へと頬擦りをして)おかえり、悠チャン。ハハ、買い過ぎ。でもあんがと、お陰でこのとおりご機嫌だわ。…ん、まぁもうへーき。悠チャンは？バイト大丈夫だったかよ、しんどかったろ？

あらま、2人でお迎えありがとうございます。ははっ、やっぱお土産ちゃんと解るんすね。かわいー。一応ココちゃんも巣ごもり生活楽しめる様に、色んな味を買ってみたんすわ。俺が居ない時はこれでイチャイチャ浮気して良いですよ。（恋人と猫に出迎えられれば嬉しげに目を細め、頬擦りを享受しお返しにとその箇所へ口付けを贈り。癒しを求める様に相手の腕の中の猫を抱き寄せ鼻先に口付けては、土産が詰まった袋を差し出しウィンクを投げ）えー、なんかあんまり体調良くなさそうっすよ。大丈夫ですか？バイトは楽勝っすわ。聞いてた通り余裕ある環境だったんで、ゆったり先輩のお手伝いして終わりましたわ。

一時期仕事忙しくて構ってやれなかった時に毎日の様に土産買って帰ってたから学習しちまったのかなぁ。フハ…んじゃたっくさん浮気しようなぁ、ココー。(恋人と愛猫の戯れを穏やかに見つめる最中、相手からの冗句に破顔しながらビニール袋を受け取り空いた手を腰に回すと先導する様にソファーへと進んだ所で解放してテーブルの上に散らかった書類をPC諸共端へ寄せて)あー、ちょっとだけ仕事してたからそう見えるだけだよ。ま、記憶は所々ねぇからどんだけ飲んだかあんま覚えてねぇけど。そっか、そっか。そんなら良かったわ、今日も一日お疲れさん。

あーね、偉いっすね。自分の時間すらなかったでしょうにココちゃんにお土産買って帰るのは、正真正銘パパっすわ。言わずもがな、浮気はココちゃんとだけにしておいてくださいネ。指輪もしっかり指につけて頂いた事ですし。（冗談めかした口調で告げては、相手の指を視線で示し悪戯に笑って見せ。誘導される儘ソファーの前へと移動しては、感嘆の息を溢しつつテーブルの上の品々を眺め着座し）わー、すげー。なんかデキる男って感じっすね。あ、仕事の残りあったら全然やっちゃってくださいね。…あっは、ウォッカほぼ1人で全部あけてましたよ。しかもビールとコカレロとちゃんぽん。やばっ。──ん、ありがとうございます。浩二さんもお疲れ様でした。

偉くはねぇのよ、モノでご機嫌取りしようっつー浅はかな考えだし。今は悠チャン居るからなぁんも心配無いの有り難え。…あー、これね。気づいてたら付いてたんだよなぁ。どっかの誰かさんが結婚式よろしく付けてくれたんなら記憶ねぇのが勿体ねぇわ。(恋人の視線を追って自分の左手を見つめては緩慢に持ち上げ気障ったらしく指輪に口付けて見せるも、虫食い状態の記憶に溜め息を漏らし。次いで隣へと腰を落ち着けると背凭れに身を預けながら戯れる様に相手の耳元を手の甲で撫ぜて)んなこたねぇよ、普通。寧ろ俺は上司の粋な計らいで今は仕事やってねぇ方だわ。やる事っつっても新卒のリモートワークの評価と今後の店舗の売上回復策練る位だしいーの。…うっわ、アレ俺が空けたのかよ。キメェ…そりゃ覚えてねぇ訳だわ。あぁ、でもベッドの記憶はちゃあんとあるけど。──ん、あんがと。…で？折角だし浩二クン充電しとく？

ご機嫌取りするだけ良いじゃないっすか。案外して貰う方は手を掛けて貰ってるって嬉しくなる訳ですし。うんうん、俺っちお姫様の執事なんで、任せてくださいね。指輪は所詮酔っ払いが勢いで付けたもんなんで、ムードもへったくれもなかったですよ。只、すっごく嬉しかったなー。（相手が指輪へと口付ける所作を微笑ましげに眺めては、その手を取り己も上からキスを贈り。耳元への戯れを暫しじっと享受するも、次ぐ甘い誘いには口元に手を添えくすくすと笑いつつ頷き、猫をそっと床へ下ろすと相手の首元に腕を回し抱き付き）おー、マジで粋な上司さんですね。でもって浩二さん、なんか先生みたいですね。カッケー。とりあえず忙しいって事は理解しました。…あー、実際のトコは俺が煽って飲ませただけっすよ。でも思い出したらウケる、ちょっと挑発したらグイグイ飲んでくれたんで、俺がまだバーテンだったらマジで良い客と思って。…あれま、逆に俺はベッドの記憶がイマイチっすわ。こっちもなかなかの酔いっぷりだったんで、すげー良かったって事と、浩二さん食い逃したって事くらいしか。──あっは、そりゃ勿論喜んで。丁度バッテリー切れそうだったんですよ。

ふ、悠チャンが言うんなら嫁さんのご機嫌取りも心配ねぇかな。…ハッ、別にムードなんか要らねぇよ、俺ぁ悠チャンと違ってロマンチストって訳じゃねぇから。ただ、お前がどんな顔してたのかっつーのを覚えておきたかっただけ。(目を細め薄く笑みを浮かべながら恋人の唇が指輪へと触れるのを見届け、その手で顎のラインを掠める様に撫でてからするりと引き抜いて。首に伸ばされた腕を迎え入れ、相手の背中に両腕を回しては額に口付けを贈り、労う様に暫し頭を撫でてから徐に立ち上がり恋人を抱き上げて寝室へと向かい)ここ数ヶ月仕事漬けだったからこのタイミングで少しゆっくりしろって言ってくれたんだわ…有り難ぇ話だよなぁ。フハ、まだマンツーで付く新卒とほぼ話した事ねぇけど強ち間違っちゃねぇな。…あー、煽られたのはなんとなく覚えてるわ。飲み比べダメなんだよなぁ、負けず嫌い出ちまうから。…いや、アレマジで食う気だったのかよ…危ねぇ…。俺そっちの経験も趣味もねぇし、多分全然楽しくねぇぞ。──ハハ、可愛い事言ってさぁ。昨日も遅かったし、今日もなんだかんだで気ぃ張って疲れてるだろーから、ベッドでくっつきながら寝るか。このまま運んでやるから眠かったら蹴ってそのまま寝ちゃっていーし。

うん、浩二さんの嫁は大体ご機嫌なんで上手くやってるって事っすわな。ははっ、ロマンチストって言わないで下さいよ。事実なんで恥ずかしいじゃないですか。多分想像通りの顔してたと思いますよ。独占欲満たされて喜んでる、やらしー笑顔。…あーね、本当に仕事大変そうでしたもんね。こんなバケーションなかなか取れないでしょうし、ゆっくりするしかないですね。ほえー、弟子まで出来るんすか。良いなー、俺っちも浩二さんに手取り足取り仕事教わりたいなー。──うん、絶対に勝負吹っ掛けたら乗るって確信があってやりました。そしたらもう面白いくらいに…あ、でもちょっと凄まれて怖かったです。ぴえん。…えっへ、なーんか酔った浩二さん可愛かったんで、本能的に。──やった、人力タクシーだ。正直気は張ったんすよ、精神はへろんへろん。だからお兄さんとぎゅーして寝たら、明日も頑張れそうっすわ。（暫し相手の労りに甘え瞼を伏せリラックスしているも、不意に浮遊感を感じれば驚いて目を開き、直ぐに己好みのシチュエーションに耳を染め喜びながら首筋へと口付けを贈り。寝室へと辿り着くと厚手のパジャマへと着替え、寝具へと横たえ腕を広げて相手を待ち）今日は浩二さん不足なんで、俺がぎゅーして寝ます。でもって蹴って寝ちゃって大丈夫ですからね。んー、好きですー。

──だあってベタなの好きじゃん。でも悠チャンのツボ抑え易くて恋愛童貞は助かるわ。うーわ、尚更見てぇわ…ぜってぇテンション上がる。…悠チャンに仕事教えるとかぜってぇヤダ。甘やかすの目に見えてるし、ちゃんと仕事教えてやれねぇ気しかしないわ。──あー…酔うとなぁ、態度デカくなるとかガラが更に悪くなるとかよく言われんだわ。ごめん。…いつか酔ってお前に食われそうで怖ぇわ。家であんま酔わねぇようにしよ。──やっぱそうだよなぁ。頑張って偉かったな、ゆっくり寝よ。(寝室に入れば首筋に顔を埋める恋人に甘い声で囁いてからゆっくりと下ろし、Tシャツとジーンズを脱いで下着姿になれば誘われる儘、相手の胸に吸い込まれる様に寝転がり目を閉じれば次第に微睡み)ふ、仰せのままに。おやすみ悠チャン。明日も無理せず頑張ってなぁ。愛してるよ。

うん、ベタなのは大好きですよ。括弧イケメンに限るなんで、浩二さん以外にはピクリともしないでしょうけど。あははっ、多分俺も幾ら仕事を教えて貰ってもお兄さんの顔ばっかり見て話聞かない自信ありますわ。でもランチデートしたりー、秘密のミーティングしたりー…ウケる、直ぐクビになっちゃいますね。──いーえ、柄悪くなった浩二さんも男前できゅんとしました。きっと学生時代とかこんなんだったんだろうなーって。でも俺っち喧嘩弱いんで、本気で怒らせたらワンパンで吹っ飛ばされそう。とは言えまたあんな浩二さん見たいしー…程良く煽りますわ。…そっすね、今は浩二さん専用ネコちゃんなんで取って食ったりはしねーっすけど、楽勝で自分よりガタイの良い男前も抱けるんで危険っちゃ危険っすね。まあ俺が泥酔しない限りは無害なんで、また飲みましょ。（恋人が腕の中へと来れば愛しげに包み込み、ゆったりとしたテンポで背中を撫でて寝かし付ける様に。規則正しい寝息が聞こえてきたところで離れていた時間を埋める様に寝顔を眺めつつ髪や頬を撫でたり、口付けを贈り不足した愛情を補充しては、更に深く抱き締め瞼を伏せ）浩二さんに並ぶ良い男になるために、頑張りますよ。いつも愛してくれてありがとうございます。俺も愛してますよ。おやすみなさい。

…ちと早いけどいっか。やる事やったわ。──ココー、悠チャンのお土産食べよっかぁ。(一日のタスクが終わればPCの時計は想定より早い時間を指し示してはいたものの、見切りをつけそのまま閉じて。キャットタワーから見守る愛猫へ手招きをしながらキッチンへ向かい、恋人が買ってきた餌を手に取ると踵を返してソファーへ身を投げる様にして座って、手元の品を開封してはひとかけ手で千切り腿の上の猫に与え始め)