No title（〆）

（事後の身体は各所が鈍く痛み、行為の激しさを改めて実感しつつ下着姿で暫し寝具に横たえ余韻に浸り。手首に刻まれた悶絶の痕を己で笑い飛ばしては、先程までとは打って変わり甘える様な声を発して愛を乞う様に両手を広げ）浩二さん、ぎゅーしてください。…あーもう、好き過ぎて心臓がおかしくなりそうです。早く早く。

(程よい倦怠感に包まれながら恋人に背を向ける様にしてベッドに腰掛け、大方整いはしたものの依然として浅い呼気と、暑さのせいで額から首筋へと伝う汗は下着姿な事を除けば健全なスポーツ後といった風体で。タバコに火を付けようとする手を止め緩く振り返れば掌で軽く首元の汗を拭ってから微笑みを浮かべて身を寄せ)…ふは、可愛い事言ってさぁ。大丈夫？しんどくねぇ？…結構マジで好き勝手やったからなぁ。

そりゃ、あちこち痛いしシンドイっすよ。だからこそ良いんじゃないですか。何日も余韻に浸れるし、痕見る度に浩二さんの事愛しいって思い出すし。…ははっ、汗掻くまで頑張ってくれたんすか。ヤンチャかよー。浩二さんってそう言うとこ本当に可愛いっすよね。（身を寄せられれば嬉しげに双眸を細めるも、首筋まで流れる汗に気付けば愉快げに声を立て笑い、ティッシュを数枚手に取り丁寧に拭い。次いで相手の顔を胸元に招く様に抱き寄せては、ゆったりと髪を梳く様にして撫でて）…つかお兄さん、ヤる時完全に別人になりますよね。どっちも好きだけどウケる。

ハハ、こんなグロい痣付けられて悠チャンみてぇに幸せそうにしてる奴なかなか居ねぇわ。にしても、制服ある系のバイトじゃなくて良かったな。今背中もすっげぇ事になってんよ。…だぁって折角お膳立てしてくれたし？加減出来る程器用じゃねぇから楽しい事にはいつでも全力でぇす。(相手の首元を彩る赤黒い痣の余りにも派手な様子に悪びれもせず満足気に笑みを浮かべながら、ティッシュで汗を拭われれば肌を伝う不快感も晴れて。為されるが儘に相手の胸元へと頬を触れさせるも、自覚の薄い部分を指摘されてはいくつかの言葉を飲み込み、些かバツの悪そうな表情で相手を見遣り)…あー……うん。いや、別にあんま変わんないと思うんだけどなぁ。

酔狂なのは認めますよ。俺だって他人には言いたくない素敵な趣味な事くらい自覚してます。…あー、背中もやけに痛えと思ったら…。尤も、来週からバイト減るんで何でも良いんですけどね。（腕の中で罰が悪そうにする相手を見遣り不思議そうに目を細めては、徐に相手の煙草へと手を伸ばし握らせて）何でそんな顔するんすか。こちとら普段はこんな甘い人のギャップを俺だけが知れて嬉しいって喜んでるのに。…多分ヤニ切れのせいだ。俺が邪魔しちゃったから。すんませんした。

そーね、イイ感じに歪んでて最っ高に俺好みだわ。もうちょい自分で見やすい所にも残してやりゃ良かったかなぁ。…お、バイト減らすの？まぁタイミング的にもあんま出かけてんの心配だしなぁ。(握らされたタバコを見つめ苦笑しては腕を伸ばしヘッドボードへと追い遣りながら相手の胸元に口づけを落として)…いや、変わるってんなら多分ヤッてる時のが本性だなぁ、と思って。そもそも別に俺、甘いタイプのら奴じゃ無かったしなぁ。…気持ち篭ってない耳触りの良い言葉は得意だったけど。

そっすね、背中じゃ流石に何個付いてるのか解んないっすわ。数えてみて下さいよ、全身の痕。（自身の背を見せる様にうつ伏せになっては、緩やかな口調で楽しげに）まあもうちょいで新学期なんで、そりゃバイトも減らしますよ。つっても、授業開始日の繰り下げは確定してるんですけどね。…へえ。聞く奴からすりゃ、甘い言葉も耳障りの良い言葉も区別付かないっすよ。…俺だって──…ま、深く考えないでおきます。先にシャワー借りますね。（開き掛けた口を閉ざし言葉を呑み込むと、緩慢に寝具から降りシャワールームへと足を向け1人の空間で深く嘆息を吐き）

ふ、キスマークは量がエグいからアレだけど…歯型は……背中に4つ、首に２つかな。…いや、マージで好き勝手されてんな。やば。(上腿を起こしくつくつと笑いながら相手の腰からから首元へかけて飾る痣をなぞり数えては思わずその数の多さに口元を押さえ)うーわ…そーいやそーか。…ちぇ、悠チャンのバイトが減るんなら一緒にダラダラする時間増えっかと思ったのに次は学校に取られる訳だ。……全然ちげぇんだけどなぁ。(呆気に取られた様に廊下へと消えていく後ろ姿を見送れば、漸く出てきた独り言は情け無い声色で響いて。ため息混じりにタバコへと再び手を伸ばすと上の空で火を灯し)

…やば、メンヘラじゃん。（脱衣所へと辿り着くと鏡に写り込んだ己の背を見据え、痛々しく刻まれた痕に僅かな自己肯定感を覚え思わず自嘲し。下着を取り払い扉を潜り微温めのシャワーを頭頂部から浴びれば、髪を掻き上げる際に左手の指輪が目に留まり、脳裏に記憶が巡り胸が締め付けられ。先刻湧き上がった不安を悔やんでは、暫し水音に耳を傾け漫然と佇むも、ふと我に返り水を止めボディーソープを手に取り、掌を自身の体へと滑らせて）

(黙々とタバコを吸っていれば今にも落ちそうな長さになっている灰に気づき、ニコチンで抑え切れない煩慮ごと火を灰皿で揉み消して。後頭部を乱暴な手つきで掻いて徐に立ち上がり寝室を抜け出し脱衣所の前まで進むも、ドアノブを握った所で逡巡しては扉の傍らに蹲み込んで僅かに漏れ聞こえる水音を聞きながら膝に腕諸共頭を預け目を瞑りつつ相手を待ち)

──…うわぁ、吃驚したぁ。コンビニ前のヤンキーかよ。（全身を洗い終えバスルームを出ると、タオルで全身を拭いパイル生地のパジャマを纏ってからドライヤーを掛けて。入念にスキンケア用品を塗り終え、何気無く扉を開け一歩踏み出したところで相手の存在に気付けば、背を震わせ驚きつつ後退し。喧しく心臓が鳴るも相手と目線を合わせるべく屈んでは、柔な声色で問い掛け首を傾げ）…こんなとこで小さくなって、どうしたんです？

──…やっと出てきた。(シャワーの音が止まってからも開かれない扉に痺れを切らしそうになっていれば、漸く相手の声が聞こえ視線だけ向けて出た声は思いの外不貞腐れた様な色が濃く出てしまい歯噛みして。近づく視線の高さに手を伸ばしかけるも汗に塗れた自分の身体を思い出しては所在無さ気に引っ込め、緩慢に立ち上がり)べっつに…どっかの誰かさんが俺の事置いてくからハチ公みてぇに待ってただけ。…俺もシャワー浴びるわ。

へぇ…ハチ公がそんな遅ぇよみたいな顔で待ってたなら興醒めも良いトコっすわ。…焦らしちゃったみたいですね、ごめんなさい。つか入って来れば良かったじゃないですか。（珍しくも不貞腐れた様な声を耳にすれば、口許に手を添えつつ笑いを溢し相手を追い立ち上がって。背伸びしつつ頭部を抱き締める様に腕を回しては、至極穏やかな口調で）…どっかの誰かさんもさっきまでは拗ねてたんです。俺だけが特別だって思い込んで調子に乗った事言っちゃったけど、紛らわしい言い方されたんで…あれっ、俺が勝手に自惚れてただけなのかなって、不安になりました。俺を安心させてくれない彼氏はきらいですー。

いや、謝る事じゃねぇけど。俺が勝手にそわそわしてただけだし…入って行って拒否られたら嫌だし。(素直に心情を吐露するも子供染みた自分の言い訳と笑みを向けてくる相手に対する気恥ずかしさに自ずとため息を漏らし。頭を抱き寄せられながらも投げられた相反する言葉が与える胸の痛みに眉を潜めつつ相手の顔を見つめて)…あのなぁ、んな簡単に嫌いとか言うのやめろって。地味に凹むから。つか、前にも言ったけど、気持ちが伴わない言葉なんかなんの意味もねぇよ。悠チャンに言ってる言葉がそんなんじゃねぇのくらい伝わってると思ってたんだけど。

浩二さんが勝手にしてたにしろ、待たせたなら謝るのが筋じゃないですか。拒否るねぇ…未来永劫、俺がそんな事する事はないって断言しておきます。括弧、寝起きとガチ拗ねの時は除く。…うー…簡単に嫌いって言ったのはすんません。でも、嫌いの逆だって言いたかったんですもん、日付的に。何なら粋な事したぜくらいに構えてたゆーくんを馬鹿だって笑い飛ばしてくださいよー。この通り！（徐に相手を解放すると、すまなそうに眉を下げつつ手を合わせ頭を下げ）生憎俺も演技派なんで、空っぽの言葉で稼いだ銭は数知れず。身から出た錆ですけど、言葉だけじゃ不安になるんすわ。──…でも、こんな話をしたいんじゃないんです。折角の浩二さんとの時間なのに…上手く出来なくてごめんなさい。きっと俺、ちょっと頭冷やすべきですわ。ゆっくりシャワー浴びてくださいね。（意思に逆行する運びに悩ましげな口調をしては、鼻で深く息を吐いた後に弱く笑んで見せ相手の横を擦り抜け扉を潜り）

──…ま、べっつに悠チャンが俺に嫌いって言うのなんか今に始まった事じゃねぇから良いんだけどさ。特に怒ってもねぇし。ただ、まぁ…悪いけど毎回笑い飛ばしてやれる程優しくねぇのよ、俺。次言ったら俺も言ってやろって思う位には捻くれてるもんで。(眉を下げる相手が視界に入れば苦笑を漏らしながら頭を撫で遣ってから、扉へと向かう背中に声だけ掛けて浴室へと進み)あー…ま、お互いちと良くねぇよな。俺も上手く言葉選べてねぇと思う、ごめんな。シャワーで頭冷やすわ。…外寒ぃんだから身体冷やす前に戻って来いな。

…うん、ごめんなさい。言葉は気をつけます。嫌われてもしゃーないって理解してますし、後は浩二さんの判断に任せます。…じゃあ、俺コンディション良くないみたいなんで暫く自宅に戻ります。ちゃんと休んで反省します。おやすみなさい、このまま蹴って寝ちゃってくださいね。（紡がれた言葉に僅か萎縮する様に浮かない顔をしては、防寒具を纏い恋人宅を出て足早に自宅へと向かい。）

(シャワーを浴び終えてTシャツと下着だけ身につけ僅かに湿り気を帯びた髪の儘ベッドに寝転ぶも、暫くぶりの一人寝に形容し難い欠落感を覚え、その居心地の悪さから逃げる様にリビングへ向かい、愛猫の寝息に恋人のそれを脳裏で重ね僅かな安心感を抱きながらソファーに横たわって。スマホを取り出して『今日は悠チャンと久しぶりにのんびり出来て楽しかったよ。桜も綺麗だったし、ココも喜んでたし。だから余計に最後のはごめんな。折角記念日祝う為に出掛けたのに最後あんな風にしちまったのは良く無かったわ。おやすみ、ゆっくり寝てな。愛してるよ。』とメッセージを送り来る気配のない眠気を待ちつつ目を瞑り)

（アルバイトの休憩時間、落ち着いた雰囲気のカフェに着座し疲弊した顔で相手からのメッセージを確認し内容を反芻しては、『昨日は楽しかったですね。本来ならそのまんま１日を終えるべきだったのに、すみません。このご時世なんで、俺達ちょっと疲れてるのかもしれないですね。しばらくはお互い自分の事に集中するとして、楽しい事だけ連絡し合いましょ。もちろんこれは俺の考えなんで、浩二さんも思うことがあれば教えてください。じゃあさっそく俺から。昨日家に帰ったら隣からいかがわしい音が聞こえてきたんで、うんちゃらマウスマーチのリズムで壁叩いて応援したら止まった事かな。』と送信し、スマホでタイマーを設置して浅い眠りへと就き）

…楽しい事ねぇ。(定時を僅かに過ぎてから会社の喫煙所で連絡を確認して紫煙と供に言葉を吐き出し。『別に良いけどそれって』と途中まで打ち掛けた文章を思い直しては消し、相手の言葉に従って1日を振り返ってみても脳裏を巡るのは業務の事ばかりで一先ず返信を控え帰宅しては、遊び相手が居ない事に戸惑った様な鳴き声を上げる愛猫に出迎えられ代わりにとばかりに暫し戯れて。漸くスマホを取り出し、寂しさを埋める様に腕の中に収まる猫の姿を添えて『壁ドン厳つすぎて笑うわ。俺の方は今日もココが可愛い。あと来週からテレワーク申請通りましたー。』と送信してから持ち帰りの仕事に取り掛かり)