「主」 2019-11-24 22:36:01 |
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>03
――……ねこ
(通学路、篠突く雨がアスファルトに打ち付ける音に紛れて、確かに声を聞いた。店主がまた腰を傷めたとかでシャッターの下りた駄菓子屋の入口でそれは蹲っていた。
嫌だ、と思う。どうして他に誰も通らない道で見つけてしまったんだろう。なんで自分なんだ。厭う理性とは裏腹に同情心に従った身体は気付けば近付いてしゃがみこんでいて。雨のお陰だろうか、この距離ならばまだ大丈夫なようだ。
さてこうしたはいいが何をしてやれるだろう。食べ物なんか持っていない。そういえば雨で自習に化けた体育があったっけな、多分どっかに突っ込んだ筈。首と肩で傘の柄を支えて学生鞄を開き)
……っ、ちくしょう、
(目の前の小動物がふるえて、か細く鳴いた。助けを求めていた、言葉が分からなくても分かった。――そうだよなあ、寒いよなあ。誰も助けてくれなくて、辛くて、苦しいよなあ。…俺が、ちょっとしんどいくらい、何だってんだ。――
勝手に痛いくらいの共感を得た馬鹿な頭は、自分の中の制止の声を遂に無視して文字通り命知らずな行動に出た。傘を畳み、鞄からタオルを引きずり出してぼさぼさの毛むくじゃらをくるんで傘ごと胸に抱いては、全速力で走り出す。
直接の接触はもう誤魔化しようがないようで、すぐに身体が警戒態勢に入ったのが分かった。水を吸った学ランが重いくらいずぶ濡れなのに、熱いのか寒いのか分からない。涙腺がぶっ壊れたみたいに涙は止まらないし、腕は炎の中に突っ込んで焼き付けたいほど痒くて仕方なかった。呼吸の度に気管支がひゅうひゅう鳴る。何度も転びそうになりながら、バシャバシャと水溜まりを派手に踏んづけて家路を急ぎ)
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