「主」 2019-11-24 22:36:01 |
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(寒さに全身が総毛立つ。わずかなひさしを見つけてその下に潜り込んだが、薄い癖にぼさぼさにもつれた毛皮は、土砂降りの雨がはらんでいる冷気からちっともこの身を守りやしない。
寒い、寒い、ひたすら寒い。そして痛いほどに腹が減る。にゃおう、とだれにでもなく文句を言うために大きく牙を剥いて鳴く。
最後に食べたのはいつだったろう、何だったろう、記憶もすでにおぼろげだ。温かい何かを食べたい。熱で胃を満たしたい。だが現状は、すきっ腹を抱えたまま、あまりの雨脚の強さに餌探しをあきらめて惨めに縮こまっているだけだ。こんなはずじゃなかったのに。
どこから来たか覚えてないし、どこへ行くのかもわからない。ただ寒さと空腹をしのぐことだけを考えて生きてきた。そしてその日々は、そう遠くないうちにどん詰まりになりそうだ。どうにかしなくてはいけない。いけないのに、考えなくてはいけないのに、とにかく寒い、寒い寒い、寒さばかりが侵食してくる。
ぶるっ、っと大きく身を震わせて――今度はか細く、力ない声をこぼした。考える前に出た声だ――もう一度――だれでもいいから、誰か助けて、とあまりに頼りなく呟いて。)
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