神崎 棗 2019-08-12 22:16:05 |
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駄ー目。叔父さんはな、良い子が好きなの( 濡れた指先で相手の鼻先をつんとつつき、流し目で微笑みながら相手の好意を感じ取った上で意地悪を一つ。手を引っ込めくるり振り向いて後方の棚に食器類を片付けながら「 ま、手伝ってくれンのは助かるがな。俺としては可愛い甥を夜の店に関わらせたくねえの。お前が面倒事に巻き込まれでもしたら、両親に顔向け出来ねえだろ 」あくまで建前に過ぎない言葉を並べつつ、本当は愛おしい相手を人目に晒す機会を少しでも潰す為で。首だけで相手へ振り返れば )だから、お手伝いしてぇなら風呂でも入れてくれ。そっちのが余っ程助かる
( 彼にそう言われてしまえば、自身にとって唯一残された選択肢は、良い子になる事でしかなかった。不本意ながらも彼に牙を向いて逆らうなど到底出来ず「 親父達のことなんて気にしなくて良いのに。けどまぁ、叔父さんに迷惑かかんのは俺も嫌だし 」出来る限り聞き分けのいい子供になろうと、うつむき加減のまま渋々そう返して。すると、想定外に与えられた仕事に勢いよく顔を上げ顔を綻ばせて「 ああ、やる。今すぐ入れてくる 」今度は意気揚々とした様子で慌ただしく二階へ駆け上がって )
__お前は充分、良い子だよ( 二階へ上っていく足音を聞きながら、困った様に眉を下げつつも口許は穏やかに弧を描き。一人呟いた後、片づけを終わらせて自身も二階へ上がり「 あ"ー…疲れたァ 」どさり、ソファーに座り込んで大きく息を吐きながら目を閉じ。このままでは微睡んでしまいそうで )
ーー叔父さん、……寝てる?
( 風呂場で一通り入浴の準備を整え、ガチャリと扉を開けて再び姿を表し。瞳が捉えたのはソファに深く座り込み体を預ける叔父の姿で、驚かせないようにと声を抑えて話しかけ。「 後はお湯が溜まんの待つだけだから。え、っと。今日もお疲れ様 」隣に座って良いものかと一瞬躊躇したのち、目の前にしゃがみこんで視線を合わせ微笑みかけて )
ン、あー…危ねぇ( 密やかな声に微睡みから復活し、額に手を当てながら数度瞬きし「 助かるわ、有難なァ。…そうだ、一緒に入るか? 」眼前の相手の笑顔に疲れを癒されながら、此方もつられて表情を緩め。次いで顔を覗き込めば揶揄うように低い声音で誘いをかけ「 __なァんて、冗談だよ。キモいだのセクハラだの言わないでくれよ、 」相手の肩をとんと叩き、ソファーから立ち上がって風呂場に向かおうとし )
( 余程疲れているのであろう彼にどう労いの言葉を掛ければ良いものか探るうち、聞き捨てならない誘い文句が耳に飛び込んで来て。「 ッえ、 」思わず漏れ出た声と共に、もはや隠す気も恥じらいもなく期待の眼差しを向けるが、冗談だと分かれば幾度か瞬きをした後力が抜けたように肩を落として「 本っ当、叔父さんの冗談って心臓に悪い…… 」今になってつい先程の自分の反応が恥ずかしく思え、ガシガシと後頭部を掻いて誤魔化すように振る舞い ) ーーとにかく、いってらっしゃい。
何だよ、動揺しすぎ。案外初心だな、彼方( 相手ほど見目も良く性格も明るい好青年であれば、恋人と一緒に入浴する機会も有った筈。思いの外心を乱されている様子を見ると、思わずふと笑いが零れ。相手の送り出され風呂を終え、脱衣所で下着とタオルだけの姿で鏡を見詰め。自身の牙を観察する表情は渋く )__牙、伸びて来たか。そろそろ吸わねえとな…。
( 相手が長年の想い人であるからこその動揺を今は悟られまいと何とか平常心を保ったまま見送って。彼が風呂場へ向かってからは、シャワーの音を遠巻きに聴きながらひたすら彼の帰りを待つのみで。入浴後に温かい珈琲でもあれば喜ぶだろうか、冷えた麦酒の方が彼の好みだろうかとアレコレ考えを巡らせた結果、勝手に台所を借りてひとまず一杯の珈琲を煎れ )
お先ィ。彼方も入って来い、良い湯だったぞ( 濡れた髪をわしわしとタオルで拭きつつ、未だ水滴の滴る首や胸板のままリビングへ。暑さを紛らわすようにクーラーの下に立てば、芳しい香りに反応し )珈琲か?良い香りだ、
あ、おかえり叔父さんーー、
( 背後から聞こえた声の方へ反射的に振り返るが、目のやり場に困る格好に即座に視線を逸らし「 待て待て無理、……直視出来ないんだけど 」ぽそりと呟いて。滲み出る大人の色気に目眩のひとつでも起こしそうになりながら、なるべく視界に彼を入れまいと簡単に珈琲の説明をして促されるまま続けて風呂場へと向かい ) あ゛ー、ええ、今日熱いかと思ってアイス珈琲にした。じゃあ俺も入ってくるから。
おいおい、叔父さんの身体そんなに見苦しいかァ?これでも鍛えてる心算なんだがなぁ( あからさまに視線を外されれば、苦々しい微笑を浮かべて頬を掻き「 お、美味そう。ちゃんと温まってこいよ、暑いからって烏の行水すんなよー 」去っていく背中へ子供扱いと取られても可笑しくない内容を投げ、薄い部屋着を身に纏いアイスコーヒーを一口含み。吸血鬼の味覚ではそれを美味とは感じられないが、愛しい甥が淹れてくれたそれを残さず飲み干しぽつり独り言を落とし )…美味い、と思えたらなァ。
や、そういう訳じゃねぇの、……その。( 自身の挙動不審な反応が誤解を招いたようで慌てて訂正を試みるも、いずれにせよ一旦頭を冷やそうと、言葉尻を濁してそそくさと浴室へ足を運び。短時間でシャワーを済ませて無駄のない所作で簡単に身体を拭けば、軽い足取りで寝巻き姿で居間へ戻り ) ただいま、珈琲どう?今日は結構上手に淹れられたからさ。
美味かったよ、有難な。さ、坊主はもう寝な( 味を感じないなどと言える筈もなく、穏やかな笑みを浮かべて飲み干したグラスを掲げ。生半可な水分は血への渇きを助長するばかりで、相手が寝た後に狩りへ行く心算か就寝を促し )
本当?喜んでもらえて良かった。
( 彼のために珈琲を淹れるのも上手くなった物だと脳内で密かに自画自賛しながらも、安堵の溜息をついて。仕事も落ち着いた所でやっと二人の時間を過ごせるかと思いきや、予想外の言葉に目を丸くしたのち何度も首を横に振って )
嫌だ、まだ寝たくねぇよ。俺だってもう大人だし、なぁ、……駄目?
__しょうがねえな。( 全面的に就寝を拒否されるのは此方も予想外で、尋常ではない様子に折れるしかなく。今夜の吸血は内心で諦め、がしがしと自身の髪を掻きながら、相手の顔を見詰める。自分と話したいという事は、悩み事でもあるのだろうか )何かあるなら言ってみな、叔父さんが聴いててやるからよ。
( 必死に頼み込んだ結果無事彼からの許しを得て、安心から幸福そうに柔らかな笑みを浮かべしかし何か特別な要件があると思われたのだろう、こちらの話を伺おうとする彼に、何の躊躇いも見せず正直で開けっぴろげな台詞を吐いて、表情は笑みこそ薄れたものの相手に気を許したままの態度は依然として変わらず )
何かあるっていうか、……叔父さん忙しいから、せっかく一緒に暮らしてんのに中々二人になれなくて、俺が勝手に寂しかっただけ。
__ぶふッ、( 隠している牙が見えない様に、大口を開けて笑わぬ様にした結果唇の隙間から吐息が漏れ「 ほんッとまだまだ餓鬼だなァ、彼方。一緒に暮らしてるたァ生意気な、お前は居候だっつの 」相手の腕を引っ張り、硬い胸板に抱き込めてはわしわしと頭を撫でよう。その後背中をとんとんと優しく一定のリズムで叩きつつ )うし、今日は一緒に寝るか。…特別だぞ
( 己にとっては大変深刻な問題だったのだが、その当事者である相手に吹き出され驚きを隠せず。餓鬼だの生意気だの言われ、喜べはしないものの彼相手に腹を立てる訳でもなく「 俺考えなしに家出して来たから、叔父さんが受け入れてくれたの、本当に嬉しくてさ。だから舞い上がってて、ーー 」頬を掻きながら " ごめん " と続けようとするが、突如視界が移動して気が付けば彼の腕の中へ。この歳になって再度彼に抱き締めてもらえた事に感激しながら、激しく高鳴る心音を誤魔化すように強く抱き締め返して )
俺、冗談抜きで今最っ高に幸せ。
こんなンで最高かァ?勿体ねえ、世の中にはもっと幸せな瞬間が山程あるぞ( ストレートな言葉はその分胸を擽り、邪念を追い払うのと照れ隠しを含めて天邪鬼な軽口を叩いて。そっと相手から離れれば「 二人で寝るにはちと狭いベッドだが、我慢出来るか? 」寝室に向かおうと一歩踏み出した瞬間、思い出したように確認を )
この幸せは俺だけが分かってればいーんだよ。
( 不意に口から出た正直な言葉を軽くあしらわれても全く気に留めず、それどころか一人幸せを噛み締めるように緩む頬を両手でパチンと叩いて喜びを抑制しようと必死で。「 えっ、あ、……俺は全っ然大丈夫 」寝床が狭いのは寧ろ己にとっては好都合であり僅かに吃るも動揺を隠そうと咳払いを。寝室へ足を向けた相手にひっつき虫のごとく着いて行き、ふと後ろから問い掛けて )
叔父さんは?俺が邪魔しても平気?
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