吟遊詩人は天を仰いだ。
明日、この身は魔族に喰われ、命は潰えるのかもしれない。
分厚い壁に囲まれたこの世界で、生き永らえて何になろう。
嗚呼、せめて自分にも、あの秘奥の力が使えたなら。
「 にいちゃん、にいちゃん!今日もあの詩きかせてよ! 」
「 おや、今日もですか?お気に入りなんですね 」
「 そうさ、おれも大きくなったら黎明の七騎士みたいに強くなって戦って、母さんや兄弟たちといつまでも暮らすんだ! 」
「 …素晴らしい夢だ。では、一曲。雪原の巨人と【拳帝】の戦いのお話だよ__ 」
手風琴を操る肩が僅かに引き攣る。
自身もかつてはこの少年と同じ夢を追い、剣を振るい訓練に明け暮れた。
しかし秘奥の才は開花せず、初陣で肩の腱を切られ二度と剣を持てぬ身体となった。
__ルーンの騎士よ。あなた方が背負うのは、人類の未来だけではない。
どうかこの世を、夢の墓場にしないでおくれ。
>ルーンの騎士以外は結界に阻まれ、一歩たりとも此処へ踏み入る事能わず。