匿名さん 2019-06-10 15:59:22 |
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『梅雨・紫陽花・ほほえみの金平糖』
( じっとりと纏わりつく湿気、屋根の上に降り頻る粒。外に出る事さえ億劫になる重さを含む昼間に、それでも傘を広げて玄関を踏み越える。家の立ち並ぶ小道を抜け、大通りを十数分は歩いてやっと着いたのは、得意にしている菓子の老舗。
「どうも、こんにちは。」
努めて朗らかに挨拶を告げた所で返ってくるのは無愛想な店番の声くらいだが、いつもの事と流して目の前の商品達に視線を移す。饅頭、大福、練りきり――どれも素晴らしく味の良い物である事は知っているけれど、今日の目的はそのどれでもない。
「これを一袋、頂けるかな。」
指差したそれを辿った店番は相変わらず何処か不機嫌そうで、しかし仕事には真面目なその人は丁寧な手付きで己が指した品を小さな袋に詰めて此方へ差し出す。それを受け取る代わりに対価をきっかり渡して店を後に、だが足を向けるのは自邸ではなく、逢瀬を約束した愛しい人の家。
「……喜んで、くれるといいな。」
雨音に掻き消される程の小声でこっそりと希望を籠めながら、片手の内に納めたその菓子を眺める。それは青に桃色、白に緑――まるでオタクサを象ったような彩りに染まった、この季節にはぴったりの金平糖。花が好きで、綺麗なものも好きで、甘いものはとびきり大好きなあの人がこれを頬張って微笑む姿を想像して。思わず綻んでしまう口の端もそのまま、逸る鼓動に合わせて弾む拍子任せの歩みで水溜まりを跳ね上げていく。 )
(/拙い文にて失礼しました。素敵なお題とスペースをお借りさせて頂けまして、感謝致します。/〆)
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