*.+゚ 2019-06-02 00:01:43 |
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( 心奥に押し込み気配すら殺して鍵を掛けた筈の真実が掬い上げられた時点で白い旗を立てる他なかったのである。聞き分けの良い幼子、目指した理想像として己を等閑にする存在など此処にはおらず、こっくりとしたワインレッドは纏う仮面をいとも容易く透過した。追い打ちをかけるように突き付けられた不承認を奈落行きの通牒と捉えるのも致し方あるまい。食事を握っていたはずの掌からは筋繊維がその働きを放棄したかのように力が抜け、机上にはパン屑とそれを生み出す元凶が散らばって。待ったの情けは無いらしい。続けて下された謝絶の刻印は死刑宣告と同等以上の重さを押し付けて、容赦無く潰してくる。解放されたはずの心臓が見る間に鉛を纏い、即座に働かせるべき脳味噌の時が止まったなら、上手に和らげて見せた口の端が徐々に攣っていくのが分かってしまい。自然の光に照らされた周囲が瞬きのうちに影となり、透明な脅威に呑まれる感覚。喩えるなら深海。生まれたての空気が巡る森の中、呼吸の術を根こそぎ奪われてしまったようだった。__けれども、引き戻されたのは酸素を喰らう血の色によって。音が滑り込む余裕なんて何処にも無かったはずなのに、脚の隙間を抜ける猫と同じ自然さで脳へと上がり込んだ一つの条件。空虚よりいづる物々しい物、物、物。美しく底の無い人外の三日月。蜘蛛の糸と呼ぶには難がある其れ等は、冥府への切符を裂かれた少年にとって、しかし、呪縛であると同時に確かな救いでもあったのだ。ふわり舞うミルクを垂らしたベージュの隙間、瞬くうちに気配すら隠した彼の者との生活が始まったのはそこから一拍を置いた直後であったのだろう。 )
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__……決めた。チキンソテーにします、肉を捌くのに集中したいのでキッチンには立ち寄らないでください。では。
( 散乱した小型のナイフ。両の指より少し多いそれを拾い集め、曲げた膝をすっと伸ばしてから一言。何時の間にか自分の少し下に位置するようになった眼前の顔を確認することもなく、額に滲む汗を拭うと家の中へと戻るために歩き出し。真横の腹が直線で重なった瞬間手にした一挺を突き出してみるも皮膚を捉える感覚が得られることはなく、何となく予想できていたとはいえ溜息が溢れそうになる。__小さな箱入りが死に、生まれ変わったあの日から数えきれない天体の巡りを見た。気付けば国が違えば大人と見られるそんな齢。マナー通りに動かしていたカトラリーの代わりに刃を研ぎ、筆記を綴るペンの代わりに弾丸を放つ引き金を引いて。地面の色を見て辛酸を嘗め、息一つ切らさぬ赤い三日月を睨み付けて、日の下で、闇の中で、真正面も真後ろも刺して打って潰して穿って。負わせた痕は、……零。憂さ晴らしにと次第に凝り始めた料理の腕だけが上達していく現状で、同居する師範への好感というのも未だ見ぬ傷痍の数と殆ど等しいか、より低く。脳味噌の中で先程の奇襲を反芻しつつ、足許へ擦り寄ってくる影__今日は狗の形を模したらしい__の口に抱えた凶器を遠慮無く突っ込んで仕舞ったなら、自身の専用スペースと化した調理場へと赴いて。 )
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