梔 2019-05-10 21:27:49 |
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>>榊
(小さいながらも確かに聞こえた溜息に、何か失敗をしてしまったと慌てて自分の手元から突如消えてしまった寝具を視線で追いかけるとばちり、と視線が彼とかち合う。彼の瞳にはまっすぐな光が宿っていたが、彼の言葉が進むにつれて水彩絵の具のようにそれがじわりと揺らぎ、淡く様々な光が混ざる綺麗なその瞳が鮮明に網膜に焼き付く。自分にかけてくれた彼の暖かい言葉が、まるで氷を溶かすようだ、なんて一瞬だけ脳裏をよぎるがそれよりも彼のその弱ってしまったその微笑みがひどく痛く見えて、心臓がきゅう、と締め付けられる。「…申し訳ありません…自分は…。」あぁ、確か先代にも同じ事を言われたな、と思い出すと自分も視線が揺れてしまうのを感じた。自分の行動に後悔はないが、彼にこんな表情をさせてしまうのは自分の落ち度だな、と反省を胸に抱えるとどうしても言葉が詰まってしまう。「……はい。…今日は、お言葉に甘えてもよろしいでしょうか…?」それでも漸く戻ってきた彼の笑顔を曇らせたくなかった。少しだけ視線を下げたものの、すぐに彼をまっすぐに見ると、照れ臭さと戸惑いの混ざった視線を彼に送って。)
>>梔
(微かに揺らいだ紫銀の瞳はすぐに真っ直ぐに此方に向けられるもその表情は何処か戸惑いの色が見られて。思慮深く懇切丁寧な彼のこと、此方の気持ちを汲んで言わせてしまったかとも思うがそれだけでもない気がして。もしかしたら彼はただ甘えることに慣れていないだけではないかと。生まれながらにしてマフィアの生まれ。自分では想像も付かぬ厳しい教育や訓練を幼い頃から受けてきて、親に甘えるという一般では当たり前のことも出来なかったのかもしれない。…思えば自分は彼のことをあまり知らない。元々深入りする性分でもなく聞く機会もなかったこともあるが…まあ過去など関係ないかと。それよりももし彼が甘えることに不慣れなら自分が甘やかしてやりたいと、調子の良いことを思えば抱えていた寝具を一旦畳の上に置くと何処か子供を褒めるように彼の髪を柔く撫で「…うん、ありがとう。そうして貰えるかな?今日に限らずその傷が癒えるまで。」と小さく微笑んで。それから風呂場の浴槽に湯を溜めると以前も彼に着せた先代の着流しを用意して持たせて背中を押すように風呂場まで付き添い「ゆっくりしておいで。もし何か困ることがあれば呼びつけてくれていいから。」再び彼に艷やかな髪を指を梳くようにして撫でると怪我をしていない右肩をぽんとして)
>>榊
(嗚呼、やはり彼の掌は暖かい春の陽だまりの如くじわりじわりと温もりを与えてくれる。不思議と気持ちが晴れやかになるのもそれと同じだ。それを唯一与えてくれるこの手を自分は守りたかった。危うく失いかけた。その事実を思い出すと目を伏せかけるが、その時耳に届いた『ありがとう』に驚いて視線を彼に戻す。マスクがあって良かった、この情けなく染まり緩んだ頬は誰にも見せられない。
勧めてもらった風呂場もやはり清潔で頭の中の整頓も楽になりそうだ。程よい温度の透き通ったお湯が張られた湯船に浸かるとじわじわとこみ上げてきていた痛みも揺らぎ、これからのことに少し思考を巡らせる。組は彼が戻ってきてくれたから大丈夫だろう…残念ながら彼に反発を覚えるものもいるとは思うが、その時こそ自分の出番だと考えれば良い。今の組に彼が必要なのは間違いないのだから。問題は大蛇だ。大蛇といえばろくな話を聞いたことが無かったが、まさか彼の仇であったとは…己の情報収集の甘さに反省しつつ湯浴みを終え、渡された以前と同じ着流しに袖を通し終えると客間に戻り、襖を静かに開けて。)
>>梔
(彼を風呂場へと送り出したあと、客間に戻ると畳の上に置きっぱなしになっていた寝具を敷いて皺を綺麗に伸ばし整える。続いて空気を入れ替えるために縁側に続く襖と硝子引き戸を開けるとほんの少し肌寒い風が頬を撫でていき季節が巡りゆくのを感じて。ここ数日、様々なことが立て続けに起こり彼には多大な負担を強いた。彼は頭も冴えて立ち振舞いも上手いから辛い部分も見せなければ弱音も吐かない。悪いことではないのだが、欲を言えばもっと甘えてほしい。まあ、今の自分はそんな所望を言える立場でもないのだが…。もう二度と今回の過ちを繰り返さぬために、自分を慕ってくれる尊い部下たちを裏切らぬために己の精神を鍛え直さねばと強く誓い、吐きかけた息を飲み込んで。さて、そろそろ彼が湯浴みから上がるころかと思えば、彼が体を冷やして更に体調を悪化させてはいけないと押入れを開けて丁度良い羽織はないか探して。丁度そのとき襖が開かれては彼が顔出し、以前と同様、その普段とはまた異なる佇まいに目を奪われ、そこはかとなく纏う儚さと色気に小さく息を飲む。ふつりと沸いた不心得な感情を抑え込み、平常心を保てば「…湯加減どうだった?」と微笑みかけて今取り出したばかりの羽織を持って彼に近づきそっとその肩に掛けてやって。「…俺も今から入ってくるけど先に休んでていいからね。…って言っても起きてそうだから先に布団の中に押し込んでしまったほうがいいかな?」以前のように軽く冗談を交えて緩く笑みを浮かべて顔を覗くと、柔く手を取り布団へ誘うように軽く手を引いて)
>>榊
ありがとうございます、榊さん。先にいただきました…とても良いお湯加減でしたよ。(たん、と軽い音を立て襖が閉まるのを確認して正面に向き直ると手に羽織を持った彼が思ったよりも近くに見えると驚きよりも先に嬉しさから笑みが溢れる。ふわりと肩にかけられた羽織は優しい香りがした。思いやりと信頼の成す柔らかな香り。こんな幸せを独り占めしてしまっては、明日バチにでも当たるんじゃないだろうか?わりと真剣にそんなことを考える。戦いの中、勇ましい光を宿す瞳が慈愛の色彩を帯びて弧を描く様子は美しくも可愛らしいと愛でる気持ちが強く、独占欲が鎌首をもたげ、その笑みと同じく柔らかく映る皮膚に手指を伸ばしかけるが、それよりも早く彼の口から悪戯気な声が文字を紡ぐ。「…はは、やはり榊さんには敵いませんね。」彼の冗談は冗談でありつつ、的確に相手の考え、行動を読んでくるものだから返す笑い声は脱帽の意が強く出る。つまりは図星だ。彼が戻って来るまで大蛇やヤマトの事について考えようかと思っていたが彼の読みの方が鋭かったらしい。取られた手は彼の仕草の柔らかさに雲を触っているのかと勘違いをしたが、この強く、美しい手を雲と見間違える筈はないので助かった。のそりと身体が緩慢な動きで彼と布団に引き寄せられる。師匠、今日だけは主人よりも先に布団に入る悪事を許してください…痛み止めが切れてきた頭ではぼんやりとしか許しを請えないし、まして彼の暖かい手に逆らえるほど我慢強くもない。「…榊さんの手は暖かいですね。」ゆるり、と目元と口元を緩めて布団に入るものの、手が離れるのが惜しくて、指を絡めて引き止めた挙句、その手の甲にマスク越しの口づけを。)
>>梔
…そうかな?…っ、
(手が暖かい、そう言う彼は疲労や眠気のせいかどこかぼんやりとして幼く見え、そこに湯浴み上がりの艶っぽさが差し絶妙な色気を纏っていて。そんな彼に見惚れているうちに彼の細く長い指先が絡めばトクンと鼓動が跳ねる。それだけで終わらずマスク越しではあるが手の甲に柔らかな感触が伝わればピクリと指先を震わせあっという間に鼓動は早鐘を打って。全くこの子は…、敵わないのは君ではないのかとさっき落ち着かせばかりの不心得な感情が再び胸中で揺れ動きだす。彼とは紆余曲折あったが口付けを交わした仲、その関係にまだはっきりとした名はなくとも自分の彼に対する想いだけは変わっていなく。つい数時間前で彼を避けていたというのに貪欲な我が心は単純明快。でも今は堪える時だと少し困ったような微笑みを浮かべて「…梔、あまり煽らないで。君にそのつもりは無くても俺も男だから。…今夜は君を寝かせないといけんだから、ね?」絡められた手はそのままに彼の素顔が見たいななんて色欲を抱きながら空いている手で彼の艷やかな髪をどこか子供に言い聞かすように優しく撫でて目元を緩く細めて)
>>榊
(嗚呼、しまった。やはり怪我なんてするもんじゃないな。逃した魚は大きいと心の中で後悔するも怪我が早く治るわけではなく、ただ頭を撫でられる心地良さを甘受するに留まる。しかし、自分も男であれば自分の好意を寄せる相手が白百合のように微笑む様を目の当たりにしたら欲が芽生えるというもの。彼の頬に手を伸ばし、その滑らかな肌を親指の腹で存分に堪能した後にやや癖のあるふわりとしたサイドの髪に指先を移してその形良い耳にちょい、とかける。常の自分が見たら卒倒しそうなほどの浮ついたそんな事を霞みがかった脳みそは存外すんなりとやってみせて。緩く弧を描く瞳から迸る慈愛の柔らかさは朝日のように軽やかで暖かく、それを存分に貪ると、自然に目蓋が落ちてくる。ぼんやりとしてきた視界に映るのが彼の微笑みだなんて贅沢だな、などと心の底で思いつつなんとか「…すみません、榊さん…、先に…就寝を…」と会話とも言えないような単語を呟きながらぷっつりと意識を手放して。
一方その頃ヤマトでは、大蛇についての情報収集をしていた茉莉花がふと気になったメールの内容を吟味している最中。「…闇カジノね…。」ポツリと呟いた単語はもちろんメールの内容の一部。そのメールにはある大きな闇カジノに大蛇が一枚噛んでいるかもしれない、というような嘘か本当かも曖昧なことが書かれていて。)
>>梔
…ッ、
(今のは何だ…と彼の指先の感触が残る自分の頬に触れては、微かに熱を持っているのが分かり、今彼が眠っていてくれて良かったと心から思い。中途半端に高められた熱の行き場はなくて歯がゆさを感じながらも、安らかに眠る彼の寝顔を見れば自然とそれもおさまっていく。スゥと微かに聞こえる寝息、胸元の布団が規則正しく小さく上下するのを見れば彼が今ここにいるのを教えてくれる。彼は寝顔も秀麗だが、少し幼くも見える表情が愛おしくて「……次は、俺に守らせてね。…おやすみ、梔。」とまだ少し隈の残る目元をそっと指で撫でた後に額に口付けて暫く見守ってから物音を立てないようにして部屋を後にして。その後、自分も湯浴みを済ませて着流しに袖を通すと自室へ向かい布団を敷いては知らずのうちに疲れが溜まっていたのかすぐに眠りに落ちて。
翌朝、彼より先に起きて朝餉を作ったり色々と支度したりしようと考えていたのだが、未だ布団の中で眠りについており。かと言って体調が悪いわけでも疲れが取れていないわけでもなく、彼がいる安心感から。避けたのは自分であるが、その分、彼の言葉や存在は自分に安息を与えてくれたらしく緊張感が解けた気の緩みから惰眠を貪り、ヤマトで茉莉花がヤマトの情報の一端を握ったことなど露知らずごろりと寝返りを打っていて)
>>榊
(朝、携帯が着信を受けて震える音で意識が浮上する。ぼうっ、とする頭で布団を抜け出そうとするも、怪我と痛み止めの副作用で頭への鈍痛と体への鋭痛が走り、唸りながら電話を取ると掛け手の茉莉花から『ある闇カジノに大蛇が一枚噛んでいるかもしれない』と簡単に説明される。動揺とともに常の服に着替え、着流しを畳み、きちんと布団を戻した後で少し思案する。彼にはどう伝えるべきか。一瞬真偽疑わしい問題であるため確実な裏が取れるまでこちらで調べるべきかとも思ったが、先日の彼を思い出すと、この情報を彼に現段階で伝えるべきだと思い直す。常ならば冷静なその双眸で自信を見失わず、自分が傷つくのも構わず他人のために優しくなれる彼があれほどに復讐を願う相手。彼の身に起こったことは、自分のちっぽけな想像力では補い足りないほどの暗い影をその暖かな心に鋭く差し込んだのだろう。復讐を遂げた時の甘美な喜びは自分もよく知っている、彼がそれを望むのなら、自分はその為に尽力したい。真偽疑わしい問題であることが唯一ひっかかりはするが、それよりも彼に隠し事をしたくないという心情が強かったこともある。そうと決まれば軋む関節、揺れる視界達に鞭打ち、彼の部屋の前まで進むと襖の前に正座し「おはようございます、榊さん。朝から申し訳ありませんが、少々お話ししたいことがありまして。」とすっかり昨晩の自分が彼に対して行ったやや過度なスキンシップのことも忘れて声をかけ)
>>梔
ん……、
(温かな布団の中、呑気に眠っていると微睡みの中に春風のような優しい声が耳に届き、そのあまりの心地よさに再び夢の中へ落ちそうになるも寸でのところでハッと目を覚まして。いくら気が緩んでいたとはいえ手負いの彼より後に目覚めるなんて…己の失態を恥じつつ、のそりと布団から起き上がり「…待って、すぐ出るから。」と寝起きの声で一言声掛け欠伸を1つ零して。それから特に身なりを整えることなく立ち上がっては襖へと足を向けてゆっくりと戸を引き、視線を下へ。身体が痛むはずなのに律儀に正座する彼に何とも言えない気持ちになると共に、思い出すのは昨晩のこと。今はすっかり常の凛々しく明媚な彼であるが、脳裏にちらつくのは彼の艶やかな表情や、その長く細い指先の感触。朝から不届きな邪心が芽生え、それを払うようにぼさつく頭を軽く掻いて「おはよう。…ごめんね。寝過ごしたみたいで。…それよりその格好。君まさか何処かへ行くつもりなの?」眉尻を下げてゆるく微笑み謝ったあと、彼の話を聞く前にその格好について指摘する。本来であれば絶対安静。細く引き締まった身体にきっちりと着込まれた装束の下には数しれぬ暗器が既に忍ばせてあるに違いない。穏やかな声色ながらどこか責めるような視線を向けては彼の視線に合わせてしゃがむとゆるく首を傾けて顔を覗き)
>>榊
(襖の奥から聞こえてきた声は、ふんわりとした夢を含んだような柔らかなもので、つい自分の?が緩んでしまうのを感じる。可愛らしいお方だ、そう思ったと同時に襖が開かれ待ち望んだ彼の姿が現れる。いつものきちんとした端麗な姿も勿論素敵だが、常とはまた違うあどけなさと艶やかさを併せ持つ着流し姿に息を飲む。裾から覗くすらりとした足は細く美しいものの、鍛えられた筋肉がその足でどれほどの戦場を潜り抜けたのかを物語っている。寝起きだろうか?やや癖がついたふわりと柔らかな彼の頭髪は普段よりもふわふわと可愛らしく揺れている。人に弱味を見せない彼は今も十分疲れていたのだろうに顔を見せてくれた。そんな彼の姿に嬉しさと申し訳なさが同時に胸に湧く。「すみません、お休みでしたか。」しまった。彼の言葉でやはりお休み中であった、と確信が持てると焦ってしまった自分のミスに心の中で自己批判しながら頭を下げる。「…ヤマトへ現状確認だけしようかと…。」しまった。2回目の自己叱咤をする前に感じる彼の視線と声は優しいものの、その奥に隠されたモノは自分の声を小さくさせる。彼の可愛らしい笑顔が自分に向けられているというのに、それを直視出来ないのは辛く、気まずさを感じながら恐る恐るその笑顔を見る。嗚呼、やはり花咲くように可愛らしい。「……すみません。」口をついたのは謝罪。彼に心配をさせてしまった事もあるが、これ以上この視線に耐えられないという事もあり冷や汗をかきながら小声で謝って。)
>>梔
謝らないで、いつもはこの時間には起きてるし本当は君より先に起きるつもりだったから…叩き起こしてくれても良かったくらいだよ。
(どちらとも言わず惰眠を貪っていた此方に非があると言うのに頭を下げる律儀な相手に小さく首を横に振ってその右肩に手を添えながら緩く笑んでは本気と冗談半々の言葉を添える。そう…自分としては彼が声も掛けずに襖を開けて叱ってくれるほど打ち解けてくれる日がくればという我欲もあるのだが…彼の性格もあるためその望みもまだ薄いかと…そんな思考を巡らせていると彼から零れる二度目の謝罪。少し顔を上げた彼と視線が交われば、彼は悪くないのがなぜだか悪戯をした子供を白状させているような気持ちになって思わずクスと小さな笑いが漏れて。ただ一度目の謝罪に関しては見逃せたが二度目のそれは…「…駄目。残念だけど今日君をこの家から出させるつもりはないよ。はい、立って。本当はこの姿勢も辛いんじゃないの?」ゆると微笑み彼の申し出を一蹴しては右肩に添えていた手を滑らかな頬に添えさせやや顔を上向かせると視線を合わせ。そして返事を聞く前に彼の身体を気遣いつつ立ち上がらせては、その背中を押して廊下を進み客間へと押し込もうとして。)
>>榊
(彼の笑顔は小さくてもキラリと眩いほどの光を帯び、幽かな微笑みも目を惹きつけて離さない。彼の移ろい行く表情を側で見ることができたら、そんな甘い妄想と?に感じた彼の細い指の魅力が頭を一瞬支配するも彼の返事に予想していたとはいえ少しだけ視線を下げる。しかし、それもすぐに彼の微笑みとその言葉に隠された優しさによって瞬きの間に霧散する。嗚呼、背中に心臓があるみたいに彼の手が触れたところがじわじわと熱く、血が沸騰でもしてるようだ、と他所へ行った意識を慌てて回収する頃には客間の襖が見えてきた。彼に情報を伝えるのは急いだ方が良さそうだ。「ま、待ってください、先にお話だけ…明確には言い切れませんが、大蛇に関係のある話です。」口をあんぐりと開けて待っている客間を背にするようにやや遅めの反転をすると上記を口に出して彼の反応を見る。彼の復讐を手伝いたくはあるものの、彼を止めるのも自分の役目である。彼をもう失いたくはないから、強い意志を持って彼の目を見て。)
>>梔
───、
(客間の目の前に来た所、空いた襖を背に彼が振り返ったかと思えばその口から発せられた言葉にスッと口元から笑顔が消える。“大蛇”…最愛の存在を奪った憎き仇。己の心を蝕む影。その影が、弱さが今回、彼や大事な仲間たちを傷付けた。彼から目を逸らすと背中を押す形のまま宙に浮いていた手を降ろしては僅かに視線を下へ。──大丈夫、次は決して自分を見失わない。大蛇などに我等が花が屈するはずがない。一呼吸置いた後、強く真っ直ぐに向けられる紫銀の瞳と目を合わせては言葉を発することなく緩みない表情のまま話の先を促して。)
>>榊
…実は、昨日茉莉花に頼んで男たちの所持していた電子機器その他を押収し、めぼしいものをチェックするよう頼んでおきました。結果、大蛇に関しての情報がいくつか入手出来ました。(いつもの笑みが消えた彼の緩みない眼差しはまっすぐで、ぞくりと背筋を何かが這い上がるような感覚に陥る。しかし、それは恐怖でも、嫌悪でもない何か。そう、美しい芸術に心動かされた時や、自分が先代に初めて会い、そのカリスマ性に圧倒された時のような震え。彼が悩みながら、悔やみながらも選んだ純粋な答えが、復讐の霞が立ち込める眼差しの中でも強く輝くのを捉えるとその美しさに飲み込まれ、言葉を飲み込むも、なんとか喉から経緯を簡単に伝えて彼を客間に招く。先程まで戻されることを嫌がっていたものの、廊下で立ちながら話す内容でもなし、また、もしかすれば誰かが聞いているということも考えられる。襖に手をかけながら「…勿論、どれも全て確実なものとは言い難いのですが、榊さんのお耳に挟む価値はある情報です。」一応彼が客間に入る前に一言添えて少しだけ頭を下げ。)
>>梔
…そう。
(彼から告げられた報告にやや視線を落とし短く相槌を打つ。自分が情けなくも道を惑っていたときどうやら優秀な兄弟は水面下で動いていてくれたようだ。客間へと招く彼の配慮と気遣いに視線を上げれば軽く着流しを正してから室内へと入り、彼の体の負担を考え先に胡座をかいて座ると彼にも向かいに座るよう視線で促して。「…確実でなくても情報は少しでも把握しておいて損はないから、とりあえずは聞くよ。…ヤマトに害はありそうなの?」重要なのはそこだ。ヤマトに、彼や仲間に害があるかどうか。大蛇の存在事態が害悪なので何とも言い難いが、これまでに大蛇がヤマトに直接的な接触をしてくることはなかった。自分の性格上、売られた喧嘩も極力買わない故にたとえ大蛇が己の復讐の対象であったとしても此方から敵陣に攻め入ることはしてこなかったし今もそれは変わらない。ただ、今回の一件。赤髪の男達が大蛇に関与しているとなればその牙がすぐ其処まで迫っているのは危惧できる。敵に先手を打たれる前にある程度の備えは必要かと思考を巡らせ、念の為周囲の気配を探り盗聴をされていないかを確認すると彼に視線を戻して話し出すのを待って。)
>>榊
失礼します。(彼はどこまでも人を思いやるこものできる美しい心を持つ人だ。今の向かいに座るよう促された視線にも柔らかな優しさと気遣いが滲んでいる…それを感じ、心の端が温かくなるのをのんびりと楽しみたいがそうもいかない。一言だけ上記を告げると向かいに腰を据え、話の続きを口に。「今のところ、ヤマトに対して大蛇からの大々的な敵意、そのような動きは確認できません。しかし、今回の件で間違いなくマークがつくでしょう。幹部や席のある、世間的に顔の割れた者達には2人以上で行動させた方が良いかと。」先ずは相手から問われた通りヤマトの組織に対しての大蛇の動き。自分が口を出さずとも彼が的確な判断をしてくれると信じているが、今回はまだ無茶をして欲しくないという気持ちの方が強く。「また、大蛇の最近の目立った動きの中で気になることが資金源についてです。最近矢鱈と羽振りが良い闇カジノが大蛇と直接繋がっているらしく、薬や人身売買にも手を出し始めているようです。」次いで大蛇の動きについての情報、そして最後に「最後に…これは、一番情報として審議の問われる代物ですが、自分としてはこれを一番あなたに伝えるべきかと。」と一言クッションを挟む。この情報を伝えて彼がどんな反応をするのか、実を言うと自分には分からない…ただ、決していい結果にはならないだろう。だけど自分は伝えなければならない。「…大蛇は恐らく、貴方のことを知っており、さらに知りたいとサーチしているのだと思います。赤髪の男をけしかけたのもそうでしょう。理由は分かりませんが、奴らは貴方という個人を調べつくそうとしているのだと危惧されます。」茉莉花の集めた断片的な情報を掻き集め、足りない空欄を兄弟の街ある情報で補えば虫食いだらけのシルエットが導いたのは、彼を、榊誠をヤマトの棟梁としてではなく、一個人としてのターゲットとして扱われているのではないか、という疑問。「…詳しくはヤマトにある情報を確認していただくのが一番かと。」一方的にではあるが、このようにして現在自分の持ち得る情報を全て彼に渡すとじっ、と彼の反応を伺い。)
>>梔
……俺?
(頭の切れる彼からの要点を纏めた報告は分かりやすく大蛇の現時点の動きがスッと頭に入ってくる。大蛇、悪い噂ばかりとは聞いていたが薬や人身売買までに手を染めるとは…無意識のうちの表情が微かに強ばるも、最後の報告を聞いては訝しげに眉を寄せて。確かに赤髪の男から向けられる視線に他意を感じるものはあったような気もするが、自分の価値と言えば“棟梁”という肩書きくらいなもので一個人としての価値はないに等しい。元々の生まれも貧しい村であり血筋が良いわけでもなければ個人的財産も持ち合わせていなく。狙われるとすれば正当なマフィアの生まれで容姿端麗かつ智勇兼備な彼なら納得がいくものを。「…まあ君たちの情報は有力だから俺自身注意はするし、俺個人が狙われるにしてもヤマトを脅迫材料に使われる可能性は充分にある。…君の言うように顔の知れている子たちは一人では出歩かないほうがいいかもね。……勿論、君もだよ。梔。」まだ自分が狙われていることが俄には信じがたいものの一番信頼のおける彼からの情報。用心深いくらいが丁度いいかも知れないと頷けば、彼をまっすぐに見据えて彼自身の身を案じて。彼一人のほうが動きやすい場合があるのも重々承知しているが、彼は何かと彼自身を後回しする傾向が見られる気がして。暫く彼をじっと見たあと常のゆるとした微笑みを浮かべ「…よし。じゃあ俺はアジトに顔を出してくるよ。色々迷惑も掛けたし皆にも謝らないとね。…家にあるものは勝手に使ってくれて構わないけどちゃんと安静にすること。…夜にはまたこっちに顔を出すから此処にいてね。…あと念の為、部下の一人をこっちに寄越しておくから。」ぽんと片膝を打って立ち上がると向かいに座る彼に近づきその頭を軽く撫でてやれば子供を言い聞かすような優しい眼差しを向け。遅かれ早かれ、この先大蛇とは関わることになる。彼の情報網からすれば闇カジノへの潜入も目処に入れておく必要があり、ともなればその辺りの知識が疎い自分は彼やその手に強い部下を頼ることになるため彼には少しでも療養して欲しく。ただこの家も安全とは限らないため先の彼の話もあるし警戒の意味も踏まえて部下を一人寄越すと言って。)
>>榊
…承知。(彼の鋭い読みと、適切な判断を積み重ねてきた経験から導き出された返答に頷きと上記の言葉をもって自分の返答とする。彼の導く答えは、厳しい世界を生き抜き、鍛えられた状況判断や理知的な角度の意見を踏まえ確実なものになると分かっているから不安等、特に心揺さぶられるようなことはないのだが最後の自分へ配慮の言葉に少しだけ嬉しくなり目元を緩める。それは、彼に戻ってきた常の緩やかな笑みと頭を撫でられるその繊細な手により深くなるが、すぐに固まる。「…榊さんおひとりでヤマトへ向かわれるのですか…?それならせめて行くまでの同行だけでも…!」彼が強く、美しく、まさに今組へと帰ってきてくれる嬉しさがあるのは間違いないが、それでもやはり心配になってしまう。はっきりとした情報ではないにしろ、彼が狙われている可能性があり、昨日の今日で彼の疲労も残っている事だろうと思えば立ち上がろうと足に力を込めるが、彼の視線に目が釘付けになる。諭すような視線。厳しくも柔らかいそれが自分は向けられていると分かれば自然と座っていた元の姿勢に戻り「…十分お気をつけください。」と承諾した意を口にして。彼は彼自身の魅力を知っているのだろうか?否、全てを把握しきれていないのだと思う。優れた人格と人心把握、清潔かつ凛とした佇まいと柔らかく整った容姿、どこまでも広がる頭脳とこの界隈でトップを争える剣術の持ち主…大蛇でなくても彼を見ると喉から手が出るほど欲しくなる輩の気持ちも十分に理解できるため、尚更心配に思い「…何かあった時にはこれを」と強い彼には必要ないかもしれないが、懐から数本苦無を取り出して渡し)
>>梔
…ありがとう。これがあれば負ける気がしないよ。
(此方が多くを言わなくても気持ちを汲み取って現状をしっかりと把握し考慮した上で応えをくれる彼。そんな彼から良く手入れされた苦無を差し出されれば、小さく目を見開くと同時に彼の如何なる時も自分の傍に居て守ってくれようとする強い気持ちが伝わってきて胸が熱くなり。彼にとっては大事な暗器の一部。それが2本無くなったところで彼の強さが変わるわけではないが、彼の分身を受け取るような気持ちで苦無を手に取ると緩く微笑みを浮かべて。その後、着替えなどの身支度を済ませ彼の2本の苦無もしっかりとコートの内側に収めると彼に見送られアジトへと。しかし自分が家を出た時、すぐ近くの木の上からフッと人影が消えたのは気付かずにいて。)
(ヤマトのアジト、特に何の問題なく到着し中へ入れば部下たちから温かく迎え入れられる。中には自分の犯した所業を許せなかったり不安を抱いたりしている者たちも居るだろう。それでも以前と変わらずに接してくれる部下たちに自分がどれほど恵まれた環境に居るのか実感して。『坊、よう来たな。…来てそうそう悪いけんど話、いいか?』部下たち間の縫っていつの間にか近くに来ていた茉莉花の声の真剣さに小さく頷くと部下たちに声を掛けてから別室へと移り。
『…ほんで大方は弟から聞いてんと思うけんど、闇カジノについてもう1つ分かったことがあるんよ。人身売買…その売買に使われてる人間ちゅうのが坊と関わりあるスラムの子らの可能性が高いってことや。』「……罠、だね。」茉莉花から聞いた情報にポツリと短く返す。スラムの人間が人身売買に使われるのは良くあること。身寄りのない人間は跡がつきにくく消えても誰も気付かないし咎めない。実際自分がスラムで暮らしていたときも何人もの人間が無理矢理闇市場に連れていかれ、時には自ら身を差し出すところを幾度も見てきた。だが今回の場合は別の意図がある。今まで大蛇の人身売買の情報が漏れることなど無かったのにこのタイミングで、しかもヤマトへその情報が流れるなど話がうますぎるのだ。見てみぬふりなどいくらでも出来る。だがそれを知ってしまった以上己が無視のできない人間なのだと大蛇は理解しているのだろう。自分をおびき寄せるために“人身売買”をしているのなら尚更放おっておけない。醜い欲望のせいで罪のない人間が苦しむ。自分が一番嫌なやり口。そして自分をおびき寄せるには最高の手段。『行くんやろ?』「…そりゃね。狙いがヤマトだったとしても俺だったとしても…俺のせいで苦しんでいる子たちがいるなら黙殺は出来ないよ。……これだけ大蛇の狙いが明確になってきているのなら梔へ向かわせる子たちは2人にしたほうがいいかもね…。」茉莉花に向かって当然のように微笑みを向けたあと、今家にいる彼のことが心配になれば顎に手をあて小さく呟きすぐに部下2人を彼の元へ向かわせるよう手配して。
その頃、自宅。彼の元へ大蛇の下っ端の影が。先の自分たちの会話は屋根裏に仕掛けられた盗聴器で聞かれていて、この下っ端が今の梔が手負いで一人ならば自分でも倒せるのではと独自の判断をして襲撃しようとしており。ただ真正面から向かって倒せる相手ではないと流石に分かっていて、不意打ちを狙おうと考えヤマトの部下を装っては玄関の前まで来てトントンとノックして『梔さーん、ボスに呼ばれて来ました。開けてください。』どうせ部下の声など全員把握しているわけないと安易な考えで地声で声を掛けては後ろ手に銃を隠し持ち彼が出てきたところを撃ち抜こうとニヤリと口角上げて。)
>>榊
(流石。茉莉花は自分が発した一言が、彼の中に潜む情報を纏め上げ、十の答えとなって瞬時に返答する彼の鋭さ、磨かれた知性のなせるその早業に舌を巻く。そして続く彼の明確な答えと、そう答える彼の澄み切った強い瞳を目の当たりにして美しいと感じる。やはり彼は他人のために優しくなれる人で、そこに一点の曇りも迷いもないのだろう。『…坊、俺にもそんな顔してくれはるんやね。』一瞬自分の目を疑った。彼が自分に向けた淡い微笑み、当然といったように自然に向けられたソレは目から脳へ、雷に打たれたかのように直ぐに伝達されて、自分の内に巣食う彼への煮詰まった感情を経て微笑み返す。ただ、それはここに居ない弟への心配が吐き出されたと同時に消えてしまい、心から残念に思う。『…ま、大丈夫やろ!そんに心配しとる顔、坊がしとったら皆も心配になってまうで?俺も心配なるしな?』しかしすぐにいつものおちゃらけた雰囲気を纏うと彼を安心させるように頭を軽く撫でようと手を伸ばし。
一方で、彼の自宅。出過ぎた真似だっただろうか、と少し不安だったが、彼が苦無を受け取ってくれたあの時の丁寧な手と、彼からの言葉が与えてくれたのは純粋な嬉しさ。そんなことを思い出して一人上機嫌に送られた情報を纏めていたが、訪れたノックの音と聞こえてきた声に案外早かったなとぼんやりと思い腰を上げて。のそのそと玄関の戸に手をかけたところで、ふと相手が誰だろうかと疑問に思う。先程の声は聞き覚えがあるような気もするが、念には念を入れても損はないだろう「あぁ、すまない…。イチか?」と自分が聞き間違えないであろう声の持ち主の名前を出してカマをかけ、戸にかけた手とは逆の手には苦無を構えて。)
>>梔
…それもそうだね。あの子は強い。…それに貴方の前で俺が“そんな顔”をしていたのならそれもあの子のおかげかな。…赤髪の男の一件で俺は組の仲間や貴方…梔に救われた。俺の中で何かが変わった気がするんだ。
(茉莉花から伸びてきた手を避けることなく撫で受ければ、自分の頭を撫でる人は今はきっとこの人くらいだろうなと思いつつそのおちゃらけた雰囲気に緩く笑みを返して頷いて。そして“そんな顔”は全くの無意識だった。人と話しているとき無意識な表情が溢れたのなら確かに自分は変わったのだろう。“何か”という具体的な表現はないが、例えば人と隔てる壁の厚さだとか仲間への思い、そして彼への想いも…強く。昨日の夕焼け、廃墟の中に美しく佇む彼の姿を思い浮かべては一度静かに目を伏せてほんの微かに口元を緩ませ。「と、動くならもう少し様子を見てと思ってるんだけど…貴方の意見を聞かせて欲しい。俺としては梔も含め他の子たちの回復をもう少し待ちたいけど、機が遅すぎても人身売買の被害が大きくなる可能性がるからそれは避けたいんだよね。あとは闇カジノに潜入して今捕らえられている子たちだけでも逃して上げられたらいんだけど…。」とは言っても闇カジノ内の構造は未知数。闇雲には動けない。何をするにしても結果自分が身を差し出して片付くことならと一瞬過ぎった考えを薙ぎ払い、茉莉花に視線を向けて。
一方、自宅。大蛇の下っ端は彼が近づいてくる気配を感じると笑みを深める。彼の咄嗟の機転。決してどんな時も油断をせず隙をみせない鋭い洞察力にこの下っ端は気づきもしない。故にカマかけにまんまとハマり『はい、そうです。此方に来るまでのあいだ特に異常はなく危険も無さそうでしたよ。』と自身の愚かさにも気付かないで口角を上げながら言えば銃の安全装置を外して。)
>>榊
『…ほか、せならあいつも喜びよるわ。』(彼の癖毛は持ち主の性格に似たのか柔らかく、優しい手触りで加護欲をくすぐられる。柔らかな日の光を彷彿とさせる笑みを浮かべる彼の変化は確かに存在した。優しさと親しさは似ているようで違うように、彼もまた違いが現れてきたのだ…それが、とても嬉しく感じる、きっとこの組みの大半の者はそうだろう。勿論我が弟も。彼の呼んだ弟の名前は他の者の名前と違う響きがあったことに気付くと嫉妬というより、少しの安堵を感じる。彼が再び微笑めたことへの。『ん、せやなぁ…今この状況なら下手に動かんほうがええやろ。こっちの手持ちの札が少なすぎる。それに人身売買もリスクがあるからそうポイポイとはせんはず…これは憶測やけど、坊を釣ろうと狙ってんねやったらもっと機を熟すまで待つんやなかろうか?例えばもっとデカイ競り場…そんなら自分の部下も配置しやすいやろし、坊も派手に暴れられへん…勿論、それまでに小出しに品出しはするやろうけど。』大蛇は抗争となると殆どの場合皆殺.しにしていて、情報が極端に少なく、部下や相手の動きも把握しきれていない。それ故にぶつかる時はこちらの武力が揃うのが望ましい。かといえこのまま放っておくのも危険。奴らの傘下組織が手がける盗品や臓器を扱う裏レートの競り場が何度か不定期に開かれていたが、最近パッタリと止んでおり、次あたりには大勢の客が集まることだろう。そんな関係のない他人が多くいる競り場のような会場ではきっと彼は…他人を傷つけることを許さず、他を守るために身を投げ出すことのできる勇気を持つ彼は、暴れられない…また、彼の志に従うこの組織も。『…いっそハッタリかましてみるか?』彼の微笑みを眺めながら考えていたものの、少しの沈黙ののちにふと思いつきの言葉を出してみて。
かかった、こいつはヤマトの者じゃない。まだ薬でぼやける意識を必死に引き上げ、コールしようとした彼の電話番号の映る携帯を仕舞う。心配をかけさせたくない。こいつを生け捕りにして更に情報を取れれば彼の役に立てる。そう思いつけば一つ深呼吸をした後に、苦無を相手の首筋へ当てがい脅しをかけるため、勢いよく玄関戸を引き対空姿勢から苦無を持った右手を振りかぶって。)
>>梔
(流石、この兄弟は揃って優秀。兄の茉莉花は一度はヤマトを抜けて一線を退いた身であるがその洞察力と構想力は一切衰えをみせていない。大蛇の目的だけでなくヤマトや自分の特性を理解した上で答えを導き出す。まだ自分が10代でヤマトにマフィア入りしたばかりのとき、組織のあり方を身を以て教えてくれたのもこの男。立場こそ今は己が上にあるものの、茉莉花の客観的であらゆる立場から状況を冷静に分析する力は未だ己には遠く及ばぬ力。勿論その力は弟である梔も兼ね備えており、この2人の兄弟なしに自分は此処にいないのだと改めて強く感じて。茉莉花の返答に小さく頷きそんなことを思っていれば、ふとその口から漏れた“ハッタリ”という言葉。果たしてどんなハッタリを仕掛けようというのか、予測できずに小さく目を瞬かせて茉莉花に視線を遣り「…ハッタリ?大蛇を騙すってこと?」と既に茉莉花への疑いは一切ないため何の躊躇もなく問えばほんの微かに小さく首を傾けて返答を待ち。
予想よりも勢いよく開かれる扉、相手が油断して出てくると思っていた下っ端は当然意表をつかれて華麗に宙を舞い苦無を振るう相手の動きに身体がついていかない。捕らえられる恐怖から咄嗟に銃を構えて打ち放つも弾丸は彼に掠めることもなく家の軒下に当たって。『ヒィ…ッ』と情けない悲鳴を上げるうちに首筋にはピトリと梔の苦無があてがわれ身動きを封じられればタラリと冷や汗を額から流して。『…は…気付かれてたとはな。だが、手負いなのは分かってる。無理してまたボスに心配かけさせないほうがいいんじゃないか?』圧倒的な不利な状況。彼に歯向かおうなど無謀なことにも関わらず下っ端は強がって嘲笑を浮かべれば尚も反撃の隙を狙い片手に持つ銃を離さずにいて。)
>>榊
『…ふ、は!なんや坊、えらい可愛らしい顔しとるやんけ!嗚呼ー…こんな可愛らしい顔見せられたら自分、気張らなあかんわぁ。』(ぽふぽふ、と彼から止められないのをいいことにその柔らかな髪を触っていたものの、その頭髪の下に眠る彼の脳の柔軟さに感嘆し、小さく口笛を吹く。彼の中で輝く天性の才の中でも、自分はずば抜けて素直さという才能を評価している。多くを吸収し、学び、身につける上で必要不可欠であり、その才は人の心も惹きつける。現に自分は赤髪の男達と繋がりを持ち、彼の右腕である弟の武器を奪っていた為、追い出されることも危惧していたのだが…無邪気な子供のように自分へ向けられる曇りのない瞳、可愛らしい仕草に思わず笑みが出てしまう。『せや。でもそんな大掛かりなもんでもない。ここでヤマトが舐められんように『まだ余裕でっせ』ゆうて宣戦布告するくらいがせいぜいやろなぁ。騙すってのより揺さぶりかけるくらいか?…ただ、その揺さぶりがどっちに転ぶかは運任せや。そこだけ頭によう入れといてや、坊。』まだ十代であった彼にやったように、ぐりぐり、と軽く額を指でつくとやや真剣な顔付きに戻り簡単にそう説明する。本当は賭けなど不確定なことはしたくないのだが、何もせずここでヤマトが弱体化していると思われるとそれに感化された他のチームがこれを機にとヤマトに攻め入ることもあるだろう。無駄な消耗は避けたい…優しい彼にとって酷な選択を強いているのは分かっているものの、心を鬼にしてそう前置きし。
まずいことになった。こいつの口ぶりからすると最低でも、彼の住所とここに自分がいるという事実、傷の具合がバレていることになる。傷の具合がバレている事と先ほどこいつが訪ねてきた口上を合わせて考えると彼と自分の会話が抜き取られていた…盗聴か何かをされていたのだろう、気付かなかった自分に腹が立ち鋭く一つ舌打ちをする。「…お前のお相手なんざ朝飯前だから心配はいらないよ。」彼のように美しい剣技も、鍛え上げられた理知が織りなす戦略も見当たらぬ相手の皮膚の薄皮に苦無の鋒を潜り込ませ、ぷつ、と赤い血の小さな玉を2、3作りながら「武器を離して両手を出せ。…今回ここにきたのはお前一人か?」と声を低くすると、相手の力が緩んだ隙に銃を蹴飛ばし、両手の親指を結束バンドで固定する。一通り相手が武器を他に持っていないかチェックした後に彼へ…榊さんへ携帯電話でコールして。)
>>梔
ン…はは、ありがとう。
(“可愛い”などと到底自分には似合わぬ言葉だと内心思いつつも互いの立場関係なく頭を撫でてくれる手が心地よく小さく笑いを零して礼を言う。弟である梔にもこれくらい素直に接してやればいいのにと思うが彼らが兄弟は今の関係が丁度いい…と思うことにして口には出さずに続く茉莉花の言葉に耳を傾けて。その表情や声色がやや真剣になるのに反して、此方の緊張を解すように額をグリグリされればまた少し擽ったい気持ちになりつつ額を押さえるも、10代の頃のようにただ甘えてヘラヘラと返すわけにはいかない。額を押さえる手を顎下へと持っていきやや眉を寄せて「──…宣戦布告、か。あまり吹っ掛けるようなことはしたくないけど…そうだね、貴方の言う通り何もしないでいれば其処に付け込まれて被害が出る可能性はある。…とはいえ大蛇の本塁を直接揺さぶるのはリスクが高いし…手を加えるのなら大蛇の傘下にある組織…そのうちの1つでも此方の味方につけるか、そう見えるように出来ればある程度大蛇の情報も得られるし揺さぶりを掛けられると思うんだけど…どうかな?」傘下の組織…簡単には言うが大蛇の支配下に置かれているとなればその口を割るのは難しいかもしれない。正直自信が持てない。茉莉花の前であるからか堂々とは言えずに意見を求めるように視線を上げて確認を取る。それに茉莉花にも何か他に考えがあるかもしれない。それを踏まえ返答を待っているときだった。ブウウとポケットの中の携帯が振動すれば、茉莉花に断りを入れてからその発信者を確認する。「……梔?」それは今自宅にいるはずの我が右腕から。何かあったのか…嫌な胸騒ぎに眉を潜めては通話を繋げて「…梔…?何かあったの?」と受話器の向こうの音を探りながら心配げな声色で尋ねて。
一方で完全に身動きを封じられた上に武器まで取り上げられた下っ端は地に床をついて為す術もなく奥歯を噛み締め『はっ、そんなの知るか!何か聞き出そうたって無駄だからな!』と一人で来た故に助けがまず来ない…そもそも自分のような下っ端を大蛇は簡単に切り捨てるのを知っているため、その恐怖から微かに声を震わせ吠えていて。)
>>榊
(小さな頃から半ば強制的にこちらの世界に引きずり込まれた少年は、その時と変わらぬ柔らかな笑顔のまま大人になってしまったのだろう。愛情をうけるべき親もなく、汚い世界を見せつけられ、早すぎる幼少期の終わりを告げられた彼の境遇に大人として悔しく思う。今も小さく笑みをこぼしていたが、すぐに切り替える彼をもっと甘やかせたらよかったのになぁ、と内心呟きつつ彼の高い読解力、理解力…情報力とそれらを見事に組み上げる知識、知恵に『流石やな、坊。よう勉強してはるわ…偉いなぁ。』と再び彼の頭を軽く撫でる。彼の頭を撫でるのが癖になってしまっている…それは彼の表情や仕草が可愛らしいからか、弟にはない自分の特権を存分に楽しみたいという独占欲からか。『大筋は俺も同じ考えや。ちゃう点は、狙うんなら坊の知り合いを囲ってるとこを狙おうかってとこかね。…大蛇が一番簡単に手を出せるのは人質にされとるスラムん人らや。とはいえ切札は大切にしとるはずやから…一番警戒が弱わいとこの人質解放を狙うちゅうのはどないやろか?何かしら知っとったら聞き出しも楽そうやさかいに。』そのように告げ彼の成長を喜んで満面の笑みを浮かべていたものの、彼の携帯に着信が入ると少し顔が曇り、その発信した相手が弟と分かると更に渋い顔をして2人の会話に聞き耳を立てて。
「…そがにほたえなや。舌無いなるで。」彼との電話で何を話そうか、と痛む頭を更に締め付けるのは転がした男の吠える声で、上記を言い終えるか終えないかの内に相手の口の中に苦無を入れて睨みつける。そもそも情報が取らなければこの男はすぐにでも処分した方がいいのだ。彼の住処が知られるのはまずい、それ以前に自分がここにいなければ罠なりなんなりを仕掛けて彼の身に危険が迫ることもあったと考えると少しイラついた表情が溢れる。しかし、携帯から彼の優しい声が聞こえるとすぐにそれも消え失せ「榊さん、お忙しいところ申し訳ありません。大蛇の下っ端を捉えました。」と足元に転がる下っ端と節々が悲鳴をあげる体を無視していつも通りの声で振る舞い「如何しましょう。」と彼の指示を仰ぎ。)
>>梔
大蛇の?…君に怪我は無かった?──今、雛菊と竜胆がそっちに向かってるからとりあえず俺の家で待機。あともしかしたら家の何処かに盗聴器が仕掛けられてるかもしれないから2人に探させておいて。
(電話口の向こう、梔から告げられた話の内容に小さく目を見開く。既に大蛇の手が自宅にまで回っている。しかも恐らくであるが、大蛇は自分たちの行動をある程度把握し、手負いの彼が一人になったところを狙われた。秀才で腕利きの彼が下っ端ふぜいにやられることはまずないと信じているが万が一だってあり得たのだ。ひやりと肝が冷えると共に己の愚鈍さにやや奥歯を噛みしめるも平常心を保ち、今しがた部下2名がそちらに向かっていることを告げ念の為にその名も告げて待機を命じ。一度、電話を繋いだまま茉莉花へと視線を向けて。「大蛇の下っ端くんが君の弟を狙って俺の家に来たみたい。梔は無事だよ。……人質解放の実行は早くて明日、今日は情報収集をして体勢を整えることをまず考えようと思う。……茉莉花、人質の解放を優先的に考えてくれてありがとね。」茉莉花が大蛇を揺するために人質の解放を企てたことに深い意図はなかったのかもしれないが、自分にとっては一番に優先したかったこと。ゆると目を細めて礼を言うことで茉莉花の提案した“警戒の弱い人質の解放”の承諾を示唆しては、今一度携帯を耳元にあてて「梔、その子はなにか知ってそうかな。少しでも大蛇の情報を聞き出せそうなら俺も部下を連れてそっちに向かおうと思うんだけど…」と。今は“警戒の弱い人質”の場所を明確に知るためにも少しでも情報が欲しい。手負いの彼に結局は負担を掛けてしまうことを申し訳なく思いつつ下っ端の状態を問い。
彼の元へ向かう部下2人が自宅のほど近くに来るころ、苦無を口の中に入れられた下っ端は少しでも口が切れないようにと大口を開けて口端から血や唾液を垂らして惨めな姿を晒しており、悔しそうに表情を歪めながら電話をする彼を睨みつけていて。)
>>榊
はい。互いに怪我はありません…承知。(電話越しに話す彼はやはり俊敏な判断と冷静な対応で、その声は体に伝わり気持ちが高ぶっていたのが嘘のように静まり、心が落ち着く。何をすべきかを彼が導いてくれる、それだけで頭がすっきりと体は軽くなったかのよう、なんて再び彼が命令をくれる事に心の端で喜んでいたものの、電話向こうで兄の名前が呼ばれると無意識のうちにむっとした表情が現れて。
『お礼なんてええよ。俺は坊のその顔見たいだけやねんから。』自分の意見が承諾されたことに少し驚いた顔をするも、すぐにそう返し以前と同じように前髪の下の額にキスをしてそのまま頭を撫でる。本当は彼のこの優しい彼の笑顔を眺めていたいが、そうもいかない。『…ほな、お邪魔虫は退散して何かしら調べてくるわ。弟によろしゅう。』と一言残して立ち去り。
「何かしら知っているようではありますが…この様子では重要な情報は望めません。今この屋敷に榊さんが戻られるのは危険かと思いますので自分達が一度そちらへ向かいます…この者へのプレッシャーにもなるでしょう。」彼の冷静な声で心臓を落ち着かせると、ちらりと下っ端を観察して上記を説明する。この屋敷内に盗聴器が仕掛けられたということは屋敷内部の構造もバレてしまっているだろう。今回は時間が足りなかったのか、やってきたのがこの下っ端のみで助かったが、今後はそうなるとも限らない。今は…彼を失いかけた経験をしてしまった後では、僅かな危険の可能性も彼に近づけたくない。「…どうやらこちらに雛菊と竜胆が着いたようです。後程ご連絡を。」彼との電話に集中していたものの、現れたヤマトの部下2人に目配せをすると1人は屋敷内の盗聴器を探しに、もう1人は下っ端を立たせ、尋問する作業にテキパキと取り掛かった為上記を言って電話を切ると2人に任せて少し休むため屋敷の玄関に座り込んで。)
>>梔
そう…分かった。くれぐれも気をつけて。医務室を開けておくからこっちに来たらすぐに休むんだよ。…また後で。
(茉莉花が部屋から去っていくのを見送りつつ口付けられた額を押さえて電話の向こうの彼に相槌を打つ。彼はただただ何でも此方の言うことに頷くだけの首振り人形ではない。こうしてちゃんと意見をくれて今互いが向くべき最善の方向へと導いてくれる。手負いの彼の負担を考えればなるべく動かずに安静にしていて欲しいが、敵の手が回ってしまった自宅よりもアジトの方が確かに安全。それに下っ端が口を割りそうにないのなら彼の言う通り此方に連れて来るほうが正解だろう。彼の機転に助けられつつも此方に来たら休むよう命じて電話を切り、一度部屋を後にすると医務室にいるイチに声を掛けて梔が来たら休ませるよう頼み。そして数人の部下に下っ端を拘禁する手はずを整えるよう命じては自分は現状を整理するため資料室に向かって。
『梔さん、失礼します。客間とボスの部屋の屋根裏に盗聴器がありました。念の為此方の動きを悟られぬよう極力物音を立てずに捜索して今はそのままにしてありますが…破壊しておきますか?』
(自宅にて盗聴器を探していた雛菊が玄関に座り込む相手の顔を心配そうに覗きつつ、隣に片膝をついて現状報告を耳打ちする。玄関のすぐ外で尋問をしていた竜胆もそちらを向いて首を横に振ることで口を割りそうにないと伝え。『ご指示を頂ければ盗聴器は俺が処理しておきます。すぐ近くに車が停めてあるので梔さんは先に竜胆と車で休んでいてください。』雛菊は何も吐露せずに喚くだけの下っ端を軽く睨み竜胆に気絶させるよう目配せしたあと彼に上記を伝えて体調を気遣うよう肩に手を添えて。)
>>榊
嗚呼、ありがとう雛菊。…いや、壊さずにいた方が良いかもしれん。一度様子を見てみるのはどうだろうか。(彼との通話が終わってしまうと、心の安寧が薄らいでしまう。少し残念ではあるが、自分の事を心配してくれる去り際の彼の優しさを噛み締めて目の前の問題に取り掛かる。彼の使いで来てくれた2人は、彼の美点を引き継ぎ実に優秀に事を運んでくれている。音を立てずに盗聴器を探し当ててくれたのならば、まだしばらくのうちは向こうは『こちらは盗聴器に気付いていない』と捉えられているはず。彼の住まいにこんな物騒な物を置いたままにしておくのはやや気がひけるが、もしかしたらこの下っ端のように釣れるものがあるかもしれない。また、壊さない方が彼の居場所の撹乱にもなるだろうとどんぶり勘定ではあるが考えをまとめるとそう答え。「…あぁ、すまない。言葉に甘えさせてもらおう。助かった。」集中力が途切れてきたのか肩に触れられて驚き肩を揺らすと、相手の申し出をありがたく受け入れ。下っ端を気絶させた竜胆に車への案内を頼み、少し休もうと車内で目を閉じて。
一方でアジトでは明日に備え部下達の間でも準備が進められており、その中でも伝達、連絡を要とするうちの一人が人伝に相手のいる場所を聞いて資料室を訪れ。相手が仕事中という事を承知しており、少しオロオロしながら『榊さん、お休みのところ失礼します。明日の事ですがメンバーの編成と突入方法は如何しますか?…正直、茉莉花さんの事はまだ信用しきれておらず、ボスの口から直接の指示が頂きたいんです。』と申し出て。)
>>梔
いや、大丈夫だよ。
(資料室にて明日押し入ることになるであろう大蛇の傘下である敵地の一つ。人質が幽閉されている場所を確認していると、扉が開かれ部下の1人が訪ねてきて。手に持っていた資料を一度閉じてそちらに目を向ければ部下の言った“失礼”と“茉莉花を信用できない”に対する二重の返事として上記を述べ、ゆると微笑みを浮かべ首を小さく横に振り。そして手元の資料の表紙に視線を落として口を開き「…明日は人質の解放と人命が優先。突入方法は潜入を考えてるよ。なるべく見張りに気付かれずに敵地に忍び込んで人質を解放する。もし戦闘になれば人質である一般人を守りながら戦う此方が圧倒的に不利になるからね。そして潜入部隊の編成は4人、内2人は囮で物売りのフリをして表で敵をひきつけ、その間にもう2人が裏口から潜入。見張りが居れば音無く気絶させて中にいる人質を解放するってところかな。メンバーは隠密行動と変装にも長けてる竜胆と雛菊…あとは俺と、もうひとりは…雛芥子を考えてるよ。」かなり粗はあるが大方の説明を部下に告げる。今回人質が幽閉されている場所はクライム中心街の奥まった場所にある一見すると民家のような場所。物売りも多くいる場所であるため囮として気を引くには良いかと思い。ただ見張りの人数は正確ではないし、勘の鋭い者が敵の中にいれば作戦は失敗に終わる可能性もある。それに今回編成、ヤマトでトップクラスの実力を誇る我が右腕、梔が居ないのも不安要素の1つ。編成から外したのは己自身であるがやはり今の彼には無理をして欲しくない思いが強く。「…君はもしもの時のために周辺で待機する補助部隊として頑張って貰うからよろしくね。」最後に部下に近づいていき任を命ずるとその右肩をポンと叩き微笑みを向けて。
『梔さん、アジトに到着しました。すでに医務室の準備は整っているとのことですが如何なさいますか?』
(彼と部下たちを乗せた車がアジトに到着、竜胆は先に降りてアジトで待機していた部下と共に捕えた下っ端を牢へ連れて行く。車内に残った雛菊は隣で怠そうにする彼にそっと声を掛けて上記を問いかけて。)
(/お久しぶりです。いつもお世話になっております。今回返信が遅くなってしまい申し訳ありません…。そして説明ばかりのロルになってしまい分かりづらい部分などあると思いますのでご質問や、このあともしご希望される大まかな流れなどありましたら教えて頂けると嬉しいです!)
>>榊
(部下は相手の話をじっと聞き、時折頷いていたものの大方の説明を受け終えるとその場で一礼を。作戦も説明も分かりやすく、改めて彼の能力の高さを話の端々で感じる。『分かりました、ありがとうございます。…あ、そういえば竜胆さんと雛菊さん、梔さんが戻られたようですよ。何か伝えておきましょうか?』自分の仕事を改めて任され、肩を叩いてもらった部下は目に見えて浮き足立った様子でお礼を言うと、今回の作戦に組み込まれているメンバー2人がアジトへ帰ったばかりである、と伝え。
大蛇とヤマトの勢力差、これからの展開、戦況、そして何よりボスである榊さんの心身の状況等をもやもやと頭の中でせっついていると自然と怠そうに座り込んでしまい。しかし、途中から思考は悩み事から彼の事へと変わり、無事だろうか、彼は努力家だから無理をしていないだろうか、この一件が落ち着いたら彼をゆっくり休養させなければ…等と考えているうちに車はアジトへと。「あぁ、すまない。」上の空を破った落ち着いた雛菊の声にハッ、と意識を浮上させ、ほんの少しの間を開けて「…竜胆達なら大丈夫だと思うが、奴を調べるときは声をかけてくれると助かる。」と答える。2人の実力は身に染みて分かっているが、百聞は一見にしかず、何より彼の身に関わることは知っておきたかった…大蛇は間違いなく強大で、これから先は一手間違えることも許されない状況が多く見受けられるだろう。彼を守る為なら情報は多いほうがいい、と意を込めて雛菊にそう頼むと自らの足でまずは彼の姿を探して。)
(/お久しぶりです。こちらこそ毎回返信が遅くなってしまい申し訳ありません!いつも素敵なお返事ありがとうございます。今回もとても分かりやすいですし、その中にも榊さんらしさがあってとても素敵です!個人的な希望としましては、ここで人質解放が成功し、ヤマトの戦力が少しでもプラスになれば、という流れを考えていますが、背後様はご希望の流れ等ございますか?
また、最近戦闘が立て続けなのでキャラの回復も兼ねて日常のワンシーンがあってもいいかな、と思っておりますが、如何でしょうか…?)
>>梔
『承知しました。』
(雛菊は彼を真っ直ぐに見返して、本来であれば安静にしてほしいところなのだが彼の瞳からその意を読み取ると何も口出しせずに軽く頭を下げて彼を見送り、竜胆と人質がいる牢へと足を向けて。
…いや大丈夫、ありがとう。君も明日に供えてゆっくり休むんだよ。
(熱心に此方の話に耳を傾けてくれる部下に目を細めつつ、梔たちの帰着を聞けば伝達は必要ないと小さく首を横に振る。資料を元の位置に戻して部下と共に資料室を出て施錠すると鍵は部下に託して其処で別れては、彼の様子を見に行こうととりあえず医務室に向けて足を進め。と、暫く歩いて廊下の角を曲がろうとしたところで丁度正面から彼と鉢合っては危うくぶつかりそうになり一歩後退して「…っと、ごめん。今ちょうど君を探してたところなんだ。休ませるつもりだったのに色々ばたつかせて悪かったね。…えっと医務室に行くところなんだよね?」今もまだ毒気に侵されて辛いはずの身体、マスクから覗く目元はやはり何処か疲れが見える気がして、そんな彼を結局は動き回らせる事態になってしまったことにやや眉を下げつつ、さて今彼は何処に向かおうとしていたのかと。まあすぐに医務室に行くようにとは言ったが強制はしていないし責めるつもりもないのだが、真面目な彼のこと。また仕事でもしようとしているのではないかとやや顔を傾けてその顔を覗いて。)
(/いえいえ、お相手感謝していますしいつも梔さんとのお話とても楽しませて頂いております!分かりやすいと言って頂けて安心しました。もし今後分かりづらい部分など出てきましたら本体分からだけでもいいので遠慮なく聞いてくださいませ!
はい、此方も今回の人質解放は成功する流れを考えておりました。また、解放した人質の証言から大蛇に関する戦力や人物になど何だかの情報が得られればヤマトのプラスになるかなとかなりぼんやりとですが考えています…!そして、今回の編成メンバーから梔さんを外してしまいましたが、このあと変更してメンバーに加えるとしても、お話して頂いたように戦闘シーンが続いているので細かい描写は省き軽く飛ばして、一旦大蛇の様子見も兼ねて小休憩するのもありかなと考えています。
上でも話しましたが日常のワンシーン、実は自分もやってみたいなと思っておりました!二人で飲みに行ったりデートの仕切り直しをしたりでもいいですし、梔さんに女性か男性かが言い寄って榊が複雑な気持ちになるなど恋愛的な関係性も少し進められたらなと考えていますが是非背後さまのご意見やご希望もあれば聞かせてください…!)
>>榊
…っ、すみません。ご無事で何よりです、榊さん。(キョロキョロと彼を探しながら歩いていた為、彼がぶつかりそうになるまで気付けず。危うくぶつかる寸前のところで身を引き、彼の体を受け止めようと手を伸ばすもそれは必要のなかった様子。改めて正対し、相手の様子をまじまじと観察し、大きな外傷がないことを確認するとホッとした表情を浮かべ上記を。彼と別れて1日と経っていないのに取り乱すとは情け無い、しかしこれ程までに心動かされる人物に出会えたのは初めてだ…頭としてだけでなく、彼、榊誠本人を守り、支えたいと思える人物、だからこそ焦りや戸惑い、取り乱すことが増えた。そして心動かされるのはマイナス面だけでない。今、彼が浮かべる少し眉を下げた表情、コロコロと変わるそれは可愛くて仕方ない。彼が悩んでいる時にそんなことを思ってしまうのはよろしくないので、もちろん口には出さないが。「…えっ、と。」しまった、やばい。そんなことを考えていたバチが当たったのもしれない。至近距離から覗き込む彼の仕草と表情に可愛らしい、と緩んだ頬は続く問いに一瞬フリーズする。もちろん彼の言いつけ通りに医務室には行くつもりだった。その前に2.3済ませておきたい用事はあったが。「…もちろんです。今から向かう所でした。」遠まわしに回答する頭の片隅で『ようそんなんで忍者いうてくれますわー!』と兄の嫌味が聞こえてくるようだ。確かに今のは酷かった、と後ろめたさから少しだけ目を逸らせて。)
(/身に余るほどのお言葉ありがとうございます!毎回のことながら遅くなってしまい申し訳ありません…。私自身何を書いているのか分からなくなるような下手な文章ですので、分からない点等ございましたらなんなりと…!
流れについても詳しく教えてくださりありがとうございます!了解しました!また、デートの仕切り直しと恋愛的な進展がとても素敵で、是非ともそのようなロールを回してみたいのですが宜しいでしょうか…!?)
>>梔
そう…。
(此方にも不注意もあって今は彼のほうが身体の負担が大きいというのに此方のことを気遣う彼らしい第一声に内心擽ったさを覚える。もっと彼自身の体調を気遣って欲しい一面はあるが…なんて思いながら彼の反応を窺っていれば、彼にしては珍しくその表情が微かに固まって言い淀む様子が伺えて。まさか自分の仕草の所為とは思いもせずに続く彼の言葉を聞き入れれば、視線を逸らす彼の表情をじっと見つめて一言相槌を打ち。普段から優秀で本心や感情を隠すのに長けている彼。そんな彼が今何やら言葉を濁すような、何かはぐらかすのが分かれば、気の張った彼ではあり得ない反応なので少しでも自分に気を許してくれているのだと自惚れればその反応が可愛らしく思えて微かに頬を緩め。と同時に少し意地悪をしたくなって。「…良かった。君から電話を受けたときから心配してたんだよ。俺も医務室行く所だったから一緒に行こう。…ちなみに医務室は向こうだからね?」ホッとして安堵の微笑みを向けては彼の頭を軽くポンと撫でたあとに逸らされる視線を追うように顔を覗き視線を合わせては今しがた彼が歩いてきた方向を指差してゆると微笑みを向けて。)
(/いえいえ、自分も返信遅れておりますしお気になさらずに!それに背後さまの文章はとても分かりやすいですし読んでいて楽しいので勉強させて頂いております。
素敵と仰って頂けて光栄です!是非とも此方もデートの仕切り直しをさせて頂けたらと思います。このあとてきとうなところで色々終わった体で場面転換する形で宜しいでしょうか…?)
>>榊
…うっかりしておりました…。(嗚呼、彼の黒く、艶やかな瞳に追い掛けられることの優越感たるや。半分上の空で言い訳にもならぬ弁明を零しつつ、その円を描く黒い目の淵の煌めきを目に焼き付けている時に彼の先の言葉を脳内再生してふと「…榊さんも医務室へ…?何処か具合がよろしくないのですか?」と気づいたことを口に出し。再び彼に視線を戻して光が宿ったかのようなその瞳と、夜の帳のような睫毛を見やると立て続けの疲労がそこに薄く散りばめられており、彼が身を粉にして直走る姿と自分の不甲斐なさに心が痛くなる。「…実は榊さんにお会いするまでの間に、人質解放の作戦をお聞きしました。…今回の任務にお供できず、申し訳ありません。」彼と医務室へと歩を進めながらそう切り出す。こんな大事な時にこそ彼の右腕として、前線の戦力にはならずともせめて護衛として同行したかったのだが今の体調ではそれも無理だろう。「自分はアジトでのサポートに徹します。…どうか、ご無事で。」思い浮かんだ泣き言を飲み込み、彼が今回も美しき手腕で難なく人質を解放し、無傷で戻って来られるように、と言葉を選んで。)
(/当方の文章構成滅茶苦茶で榊さんや背後様には遠く及びませんが、そのように言っていただけてありがとうございます…!この後の流れについても了解しました!亀更新ですが、何卒よろしくお願いします…!)
>>梔
ふふ、そっか。…いや俺はこの通り元気だよ。ただ部下から君が竜胆たちと帰ってきたって聞いたから医務室いるかなと思って。君が心配だったから様子を見に行こうとしてたんだよ。
(彼の返答にそれ以上追求することはなく内心彼の“うっかり”を可愛らしく思えば小さく笑って頷く。そして此方の心配をしてくれる彼の言葉、その言葉だけでも自分がいかに救われて心身共に癒やされているか彼は知っているだろうか。首を横に振って医務室へ向かっていた理由を告げれば、彼の体調を考えて歩調を遅めにして医務室へと足を向けながら彼の話に耳を傾ける。そして辿り着いたところで扉を開けて彼を先に中に通しては、医療班がこちらに近寄って来ようとするのをやんわり片手を上げて制すると彼の背に軽く手を添えて医療ベッドまで導き、カーテンを閉ざして彼に視線を向け。「君が謝ることはなにもないよ。俺が決めたことだし、君の怪我はそもそも…。いや、ありがとう。君が此処を守ってくれるなら俺は安心して作戦に専念できるよ。それに俺には此れがあるしね。」先程の聞いた彼の言葉からは彼の強い想いが、優しさがヒシヒシと伝わってきて、いかに彼の研ぎ澄まされた巧手や清廉たる心に今まで支えられてきたか改めて痛感して目を細めては、言い掛けた言葉を飲み込んで礼に替えると懐から彼が託してくれた苦無を2本指に引っ掛けて取り出しゆるりと微笑みを向けて──)
□
(それから数日、優秀な部下の活躍、そして彼の完璧なまでの後ろ盾のおかげで無事に人質解放の任務は遂行されて、人質の解放及び大蛇への揺さぶりは成功を解ける。捕らえている大蛇の下っ端は依然口を割らないが、解放した人質の何人かからは大蛇についての情報を些細なものではあるが入手することができた。大蛇はというと揺さぶりが利いたのか様子を見ているのか今の所目立った動きはなく膠着状態が続いており。嵐の前の静けさか、冷戦であることにはかわりはなく気を抜けない状況ではあるが、だからと言って一日中毎日気を張っていてはいざと言う時に本領を発揮できないため、ヤマト内では交代で休暇を出すようにしていて自分もまた一時の休息を取っていて。ただ、今自宅には盗聴器があり赴くことはあってもどうにも落ち着けないため、今はヤマトの大広間に通じる広いベランダの一角にて、杯片手に柵に腕を乗せて景色を楽しみながら真っ昼間から唯一の自分の趣味であると言っていい酒を嗜んでいて。ただし自分の嗜む量は常人の何十倍。故に既に酒瓶の半分は空いており。「…やっぱりこの時期外は冷え込むね。…梔はどうしてるかな…。」頬を撫でる風の冷たさに小さく身震いしながらも室内に入るのは面倒なので動かずに、同じく休暇中である彼を想えば徐に懐から返しそびれている苦無を一本だけ取り出してくるりくるりと片手で弄び始め。)
(/ 此方こそ身に余るお言葉痛み入ります。早速ですが日にちを進めさせて頂き、人質解放任務完了から数日後とさせて頂きました。前半部分はばっさりと切って頂いて構いません!もしこんなデートがしたいなど大まかな希望があればそれに沿いたいと思いますが、特にないようでしたらこのまま流れに任せて背後は一旦退かせて頂こうかと思います…!質問などは常時受付中です。)
>>榊
榊さん、お身体が冷えてしまいますよ。(彼の流れるような剣舞は見ることが出来なかったが、それでも皆を纏める見事な手腕の司令塔となり、自身が恐れることなく、そして優れた状況判断と的確な対応の先陣ともなりまさに問題なく作戦は遂行された。彼の戦う姿は洗練された美しさをも兼ね備うものだが、誰かを守りたいと強く思い剣を振るう彼は勇ましく、一際美しい。大蛇の動向は未だ無いが、ダメージは与えられた手応えがある。自分の体調も元通りまで回復し、いつでも戦いに参加できる状態にまで戻れば今まで休んだ分を取り返すべく道場で一人鍛えていたが、ふと彼の剣舞を思い出し『確か榊さんは今日は休みであった筈』という考えも浮かぶ。次いで思い出すのは『俺も今日は休みか。』と丁度二人とも休みである事。彼は今何をしているのだろうか。折角の休みの日だが彼の自宅では寛ぐこともできないであろう。部下からの人望も厚い彼なら何か飲みに誘われているかもしれない…ずるい、それなら自分も彼の横でその朱に染まる頬を見たい…とまで考えたところでぷっつりと集中の糸が切れていることに気付き、諦めてシャワーを浴びた後部屋へ戻る途中に彼の背中を見つけると急いで羽織を持って戻ってくるとその逞しくも優しい背中にその羽織を掛ける。良かった、まだ誰も彼の横を占領してはいない。「…差し出がましいようですが、ソレ、よりも自分の方が榊さんを御守りできますよ。」自分が渡したその苦無はあの日彼が見せてくれた信頼の証でもあり、嬉しく思うがその中に少しだけ嫉妬が混ざり、彼の苦無を持つ手に自分の手を重ね。特に自分はこの後何も予定など考えていなかったが、以前彼と出掛ける約束をしていたことを思い出すと「…榊さん、もしよろしければなんですが…本日お手隙であれば少し、出掛けませんか?」なんて口をついて言ってしまい。)
(/御配慮ありがとうございます!デートの計画はほとんど考えていませんが、折角の季節なので最後はイルミネーションを一緒に見られたらと思っております…!流れ的に難しいようであれば流していただいても大丈夫ですので!
背後の私もここらあたりで撤退いたしますが、いつでもお声がけください!)
>>梔
梔…ありがとう。今ちょうど君が何をしてるかなって考えてたとこなんだ。
(ふわりと羽織に包まれる感触に軽く振り返れば、今しがた頭に思い浮かべていた人物の姿が。湯上がりだろうか、衣服から覗く白肌が微かに色づいているようにみえ冷たい風が彼の優しい香りを運んでくれば自ずと鼓動が早まり彼と出会えた喜びを色づかせる。それを表情に出さぬようゆるく微笑みを向けるも、“ソレ”と言われて彼の細く長い指先が自分の手に重ねられると平静を保とうとしていた鼓動が跳ねて、それに合わせて微かに指先がピクリと震えて。──ああ、いけない。彼の前だと感情の制御ができない。年上としてかっこよくありたいのに…と思っていれば彼からの願ってもない出掛けの誘い。小さく目を瞬かせたあと作り笑いではなく自然と頬が緩んでいくのを感じながら視線を合わせて「…勿論、俺も君とはゆっくり二人で過ごしたいと思ってたんだ。それに梔が傍に入れば“コレ”が無くても外でも安心だしね。」と小さく頷いて“二人で”を少し強調して微笑みを向ければ一旦杯を柵の上に。そして苦無を持つ手を上に返して彼に苦無を握らせるようにしては空いている手を彼の手に重ねて両手で彼の手と苦無を一緒に包み込むようにして軽くクッと握って。「…そうと決まればすぐに準備しないとね。ちょっと着替えてきてもいいかな? 流石にこの格好だとちょっと目立つし休みのお出かけくらいはあまり人目を気にしたくないから。」今の自分の格好は仕事着。休日とはいえいつ何時でも戦いに挑めるよう普段から私服はあまり着ない。でも今のいかにもその界隈の人間を思わせる格好では気分的にも乗らないため着替えたいと。勿論、完全に丸腰というわけにはいかないので武器は隠し持つが、大蛇とのことがある状況下でしかも頭として浮つきすぎかなと思い、声色はどこか嬉々としながらも表情は控えめで彼に視線を遣り反応を覗いながら握った手は離さないままでいて)
>>榊
恐縮です。…自分、ですか?(彼の振り返った顔に微笑みが浮かんでいる、その春の陽だまりのような笑みが自分に向くというだけで舞い上がってしまう。だからこそ、この笑みの為なら雑用でも密偵でも何でもやれる、時折そんな考えが頭に浮かぶ。可愛らしい主君。野バラの花弁色のような淡い喜びが彼の表情、仕草を色付けるのは筆舌に尽くしがたい可憐さで目を離せない。そんな中、ふと伝わった指の震えは自分の行動のせいだろう。僅かにでも、彼が自分のことを好意的に感じてくれた結果の震えであればこれ以上ない喜びだ。「お任せください。…榊さんであれば、どんなお姿でも素敵だと思います。」少し強調された、二人という単語、繋いだ手から共有される暖かさ、控えめな視線と声に散りばめられた嬉しさを感じると思わず笑みが溢れる。頭として凛々しく振る舞い、現場で指揮を取るときはまさに戦神のような逞しさが内に秘める彼が、自分からの誘いにこんなにも喜んでくれるのだ、好きな相手からそんな反応が返ってきて喜ばない男がどこにいるのだろうか?そんな風に浮かれていたからだろう、柄にもなく目を微笑みで細めながらそんなことを口走っただけでは飽き足らず「…ですが、それを俺に見せてくださるということが何より嬉しいです。皆の知らない貴方を俺に見せてください。」と繋がったままの手を自分側へ引き寄せ、開いた片手を彼の背中へ回して。「…折角なら、自分も少し着替えてよろしいでしょうか。…誠さんの、隣に立つのなら相応の格好をしたく…。」そこでふと自分の格好について冷静に考えると、乾かしただけのセットもしていない髪、機能性重視のシャツとスラックス、と何ともお粗末。折角の彼との貴重な時間なのだ…そして、何かあった時の武器もこの格好では心許ない数しか仕込めない。そこで距離の近くなった彼に控えめに問うてみて。)
>>梔
…君は本当に褒め上手だね。その言葉そっくりそのまま君にお返しするよ。
(彼の問いに小さく微笑み頷き、続く彼らしい返答に擽ったさを感じつつもやはり自分はそんな大それた人間でも綺麗な人種でもないと思ってしまう。どちららかと言わなくても端麗で可憐で颯然とした風貌持つ彼のほうが“どんな姿でも素敵”という言葉が似合いだ。ただそれでも彼が少しでもそう自分を見てくれているなら嬉しいと浮かれていれば、不意に縮まる彼との距離。咄嗟のことに反応できず彼の胸元に引き寄せられればトクンと心臓が跳ね、悔しいが数cmの身長差を感じてしまうも続けられる言葉の数々は自分の胸を高鳴らせるものばかり。仕事続きで彼との関係は曖昧になっていたが、それが緩やかに動き出すのを感じては少しだけ顔を上げて「…いいよ。梔だけしかしらない俺を見せてあげる。その代わり二人で居る時は今みたいに名前で呼んでね。」服装のこともだがそれ以外のことも、そんな意味合いを込めて微笑んでは緩慢な動きで片手を彼のマスクで隠された口元へ持っていき指先でトントンと軽く叩いて。次ぐ彼からの申し出を聞けば視線を落として改めて彼の格好を見遣り「梔はそのままでも十分格好いいと思うけど。そうだね、じゃあお互い着替えて桜の木の下で待ち合わせでもしようか。」と本心からの言葉を述べつつもどうせなら互いに気分良く外へ出掛けたい。名残惜しいが彼の肩をそっと押して身を離すと苦無を一本だけ返して、置きっぱなしにしていた酒瓶を腕に抱え杯を手に持って。「じゃ、後でね。」と別に一緒の建物にいるのだから一緒に出ればいいのに、アジトのすぐ近くにある枯れた桜の木を待ち合わせ場所に指定しては手をひらつかせて一足先にその場から去ろうと室内へと足を向け。)
>>榊
(彼の温もりを惜しみながらも別れて少し後。アジトに置いているロッカーの中の依頼をひっくり返し、少しでもまともな格好はどれだと頭を悩ませる。まさか服装を決めるだけでも、彼のことを考えながらだと、こんなに悩んだり、楽しくなったりするのか、とひとりでに頬が緩み。結局、暗器の隠しやすい薄手のコートとVネックのニット、チノパン…そしてその下に暗器を着装すると、最後に小さな包みを持って待ち合わせの桜の木まで足取り軽く駆ける。その道中も思い出すのは先程の彼の仕草や言葉。移ろう表情は一つ一つが彼の内なる優しさや強さを通して異なる輝きを白日の元に晒し出し、一瞬たりとも目が離せなくなる。言葉もそうだ。彼の唇からこぼれ出した、自分しか知らない彼という言葉は一瞬の間に自分の心を貫いた。今までずっと憧れ、焦がれていた高嶺の花が自分の手に収まってしまうのか、という欲望にまみれた期待が胸を高鳴らせる。彼の指が触れたマスク越しの唇には火がついたかのような熱さがジワリと宿り、それを思い返すかのように舌舐めずりをひとつする頃には待ち合わせをしていた枯れた桜の木はすぐ目の前。彼を待たせてしまっていたらどうしようか、と木の周りをぐるりと一周しながら彼の姿を探し。)
>>梔
(彼と一旦別れてアジト内にある自室へと訪れては私服へと着替えようとするもそこではたと気がつく。こういう時どんな服を着ていけばいいのかと。交際経験がないわけではないが、体の内側から燻るこの感情は久しぶり過ぎてかなり鈍っている。でも浮かれすぎてもいけないし、そもそもそんな洒落た服は持ち合わせていないため全体的にシンプルな色合いで緩めのモールニットにスキニーパンツ、ロング丈のコートを着込めば内側に短刀やら千本など武器を忍ばせて待ち合わせ場所である桜の木の下に向かい。どこへ行こうか、やはり歳上としてエスコートしないとなんて普段“日常”では考えないことに耽っていれば目的の場所は目の前──そして桜の木の傍を歩く彼を見つけて。私服姿の彼を見るのは初めてではないが、なぜだろう。状況が違うだけで己の鼓動はトクトクと脈打つ。いつもの仕事着や装束に身を包む彼も美しいが、今の彼も凛とした秀麗さを残しつつ年相応の清澄感があり見惚れてしまう。彼の元へ足を進めるうちに昂ぶる感情を落ち着かせては片手をひらりと軽く上げて「…梔、おまたせ。 何だかお互いがこんな格好をしているのは新鮮だね。よく似合ってるよ。」ゆるりとした微笑みを浮かべて声を掛けては彼の足先から視線を辿って目を合わせ「…さ、君が行きたい場所があればそこへ行くけど、まずは食事でもどうかな?」となるべく普段と変わらない声のトーンで微笑みを向けて、飲食店も数多く立ち並ぶクライムの中心街方面を指差し。)
(/明けましておめでとう御座います。そして私情で年末が忙しく連絡出来ずにお返事が遅くなってしまい申し訳ありません…。こんな背後ですが、これからも梔さんと榊とのお話を紡げていけたらと思います…!今年もよろしくお願いいたします。)
>>榊
榊さん…!(そわそわと心臓の裏側を擽られているかのような感覚に落ち着けず、感情のセーブはこんなにも難しいものだったが、と頭を抱える。彼を喜ばせたいし、楽しんでほしい、欲を言うなら一緒に見てほしい景色もある。そんなことを考えていると聞こえた彼の声に思わずぱっ、と振り向きその姿を見て一瞬固まる。常のピシリと背筋の伸びるような私服姿も、厳格な和服も彼の凛とした強さを引き立てる素晴らしいものに間違いないが、今目の前にいる彼の姿も遜色ない美しさだ。ゆるりとしたトップスは穏やかな性格の彼らしく、それでいて誇り高い凜然さも兼ね揃えた姿に見惚れてしまいつつも何とか「…ありがとうございます。榊さんこそ、とてもお似合いで。思わず見惚れてしまいました。」と正直な言葉を。何よりも己の心を突き動かすのは、この彼の姿を知るのは自分だけと言う優越感。勿論そんなことはないのだろうけど、好意を抱く相手とこのように出かけることができるだけで心臓は張り裂けんばかりに脈打っている。「良いですね、腹が減っては何とやらです。榊さんは何か召し上がりたい物はございますか?」いつもの何倍も忙しなく脈打つ心臓の音を誤魔化すかのように、何とかそう声に出す。失敗のないように、と自分に言い聞かせていたものの、ふと彼の指差した繊細で美しい指先がほんのり赤く色付いているように見えると、寒くないように、と自分の手で彼の手ごと包み込み、そのまま自然と手を繋いで。)
(/あけましておめでとうございます!
年始年末はどうしても忙しくなってしまいますよね…!かく言う私も返信が遅れてしまい申し訳ありません!
こんな背後ですが今年も何卒よろしくお願いします。)
>>梔
はは、ありがとう。ちゃんと前を見て歩いてね?
(此方を褒めてくれる彼の言葉に目を瞬かせるもすぐに微笑みを向けては内心では謙遜しつつも少しおどけて笑ってみせる。今の可愛らしい彼が美しく鋭い刃を隠し持っているなど一般の人々は想像もしないのだろうなと思いながら此方の食事の誘いに同意を示してくれる彼へ視線を向けて「んー…そうだね。だったら君を連れて行きたいお店があるんだ。俺が密かに行きつけのお店なんだけど君には特別に教えて上げる……、」目元を緩めて特別と少しだけ甘さを含む声色でゆとりある素振りで微笑むも、実際は彼と一言二言交わしただけで心が弾みこの先自分は大丈夫だろうかと浮かれきっており。そんな時に己の手を包み込んでいく彼の長く綺麗な指先。自然と手が繋がれて触れ合う部分から熱がじわりと広がっていけば一気に保っていた平静が揺らぐ。自分は感情の制御が上手いほうだと思っていたがそれは嘘だ。彼を前にしたら己の平静などこんなにも脆くて弱い。触れ合う手だけでなくほんの微かに顔にも熱が上るのを感じながら視線を合わせ「…君って意外と大胆だよね。…さ、行こっか。」ポツリ呟くとこの際人目を気にせず彼とのデートを楽しもうと思えば彼の指の間に己の指を絡めて繋ぎ直しては少しギュッとしてから微笑み、彼の手を引いて街へと足先を向ける。が、ふと思い出したように彼に振り返り「そう言えば、榊さんじゃなくて、誠ね。」と先に言ったことを思い出し、さん付けかどうかは彼に任せることにしゆるりと笑みを向けて。)
(/言っている傍から返信遅くなりすみません。返信速度はまばらになるかと思いますので、背後さまも気ままに回して頂けたらと思います。ではでは再びこちらは失礼させて頂きますね!蹴り可です!)
>>榊
(彼の柔らかい声の中に特別、という甘い二文字が混ざったことに気付けば、あっという間に鼓動は早くなり。彼の喉から零れ落ちるソレが、自分だけに向けられているのだと分かればそれを逃さず聴きたい欲に駆られるが自分の鼓動が煩く邪魔をする。「…幸甚の至りです。」彼の言葉に溺れそうになりながらもそう返せば、次いで彼の頬に注がれた朱に目を奪われる。彼の言葉、姿、反応…全てがひと瞬きごとに姿を変える万華鏡のように彼自身の美しさを曝け出す。「その…今日は、俺も貴方の特別になりたくて。…お許しいただけますか?誠さん。」ゆるりと向けられた彼の笑みに悔しいかな、そんなに離れていないはずの歳の差の余裕を感じてしまい、ついその可愛らしい笑顔を崩したくなってしまう。自分の汚い欲に負け、彼の強い意志を込めた瞳の中に映る冬の景色に手を伸ばし、それを縁取る下睫毛を掠めて、直下の頬を親指の腹で軽く触れる。彼のほの明るい頬は、まさに血の通った温かい心の人間であることの証明の様に見えて、無意識に自分の目尻も笑みに歪んで。「…それと、遅くなってしまいましたが、こちらを受け取ってはいただけませんか?…大したものではないのですが…。」彼の頬を触れようと繋いだ手とは逆の手を出したことで、その腕にかけていた小さな紙袋が現れてしまうと小さく苦笑いしながらそれを差し出し。これは休みを頂いた時に店で見かけて、彼に似合う色だと買ったもの。今伸ばしている腕にちょうど収まっている、彼からの腕時計へのお返し。もちろん彼からの贈り物ほど値の張るものではない為、不安が少し声にも混ざる。「…お店に着くまでは、開けないでくださいね。」本当はもっと格好良く渡したかったのだが、焦ってしどろもどろになってしまう。それをなんとか押し隠し、自分に出来る精一杯の冷静な顔をして一言告げると中心街の方へ向けてゆっくりと歩き出し。)
>>梔
勿論だよ。…俺に? 君を独り占めして贈り物まで貰うなんて何かバチでも当たってしまいそうだね。
(彼に名前を呼ばれるだけで胸の鼓動が早まる。彼から告げられる言葉は簡単に己を高揚させて断る理由もなく頷けば、彼の指先が己の目元から肌をなぞる仕草に目を奪われて。彼の目に己はどう映っているのか、彼の目元が綿花が綻ぶ如く和らぐのを見て自惚れでなければと期待してしまう。そんな時に渡された彼からの贈り物。全く予測していなかったそれに小さく目を瞬かせては喜びを露わに目元を緩めると、今すぐに中が何のか確認したい気持ちを抑えて空いている手で大事に持っては街へと歩き出して。
中心街へと到着すれば人目も多くなる。手を離すか離さないかそんな些細なことを気にしてしまいその緊張が手から伝わってしまわないか気にしながら、結局手は繋いだまま広場から横へ逸れた路地へ入っていく。そして少し歩いたところで古民家風の創作料理を出すお店にたどり着き。そこで漸く手を離せば暖簾を片手で避けて引き戸を開き彼に先に入るよう促して。それと同時に此処の店主である初老を迎える女性がすぐに出てきて常連である自分の顔を見ると目を細めて『おやおや、今日は随分と綺麗な殿方をお連れじゃないの。…奥の個室が開いているから使ってくださいな。』と彼を見て目尻の皺を深めて微笑み、こちらが何も言わなくても察してくれるのに感謝しながら彼と共に個室へと移り。「ここね。お酒も肴もとても美味しいんだよ。…是非君にも食べて欲しくて。…あ、でも昼間から飲むのは流石にダメかな?」彼の背中を押してさり気なく奥の席へ誘導しようとしつつ、己は彼と今日会うまで飲んでた癖に一応とばかりに少しおどけたふうに確認を取って。)
>>榊
…とても、素敵なお店ですね。(手のひらで分け合った体温が無くなる頃には小綺麗に整えられた個室の座席に着いており、ぽつりと一言。この店の暖かく、優しい雰囲気は彼によく似ている。古く続くものを継承しつつも自分の色を散りばめ、自分の色に染め上げる。温故知新とも言うのだろうか、落ち着いており、決して派手ではないが、絶対的な安心感と安らぎをもたらしてくれる空間。そう考えると、彼のテリトリーに入れてもらえたようで嬉しくて、少しくすぐったい。「ありがとうございます。お料理上手な誠さんが言うのであれば間違いありませんね。…はは、折角誠さんを独り占めできる機会に、それは些か勿体無い。お天道様も本日は大目に見てくれると信じましょう。」なんて、彼の酒を嗜む姿を見たいから、と8割方我欲を隠した返事を。それがいつもより饒舌なのは、彼の戯けた笑顔にのぼせたか、はたまた贈り物への不安の紛らわしか。その箱の中身は、黒と紫の編み込まれた根付紐と黒曜石のあしらわれた彫刻の根付。これを見たときに彼の目の色、髪の色と重なり、一段と輝いて見えた…と同時に彼の刀に収まるお守りを思い出し。頭であれば仕方ないことではあるが、最近立て続けに起きた事件は気高く、優しい彼の心身ともに傷跡を残してしまっているのは火を見るより明らか。彼の側で忍び寄る脅威全てを叩き切ってしまえたら…そんな願いに釣り合うほど自分の実力は高くなく、そんな時に目にしたあのお守りは、とても尊く見えた。彼の大切にしているそのお守りと比べると、気休め程度にもならない、ただの自分のエゴだが、彼の安全を願う意と…あわよくば自分の瞳と同じ色を身につけた榊さんを見たい、という『お返し』とは名ばかりの我欲の塊。我ながら汚いな、とマスクの下で自重気味に笑えば一度その思考に蓋をして「では誠さん、何を頼まれますか?酔い潰れても俺が介抱します…と、言えどもそれは俺の願望に留まりそうですが。」とあまり上手くない冗談まじりにメニューを開き。料理上手で、酒の嗜み方も心得ている彼の注文ならば間違いないだろう、と注文を聞くと、自分もそれに合うような肴を店員に頼んで。)
>>梔
(まだ食事は始まっていないものの彼もこの店の雰囲気を気に入ってくれた様子で目を細めつつ席については先程彼から渡された贈り物を大事に傍らに置く。いつもと同じお店、変わらぬ空間のはずなのに彼が其処に居るだけで別空間の様に明るく感じ、彼の冗談や綻ぶ目元が一層この個室に彩りを与えるのは気のせいではないだろう。ただほんの一瞬、微かにだが彼の表情に刺した陰り。それが贈り物に込められた彼の気持ちからだとは露知らず、その陽炎のような靄は続く彼の冗談によって泡沫の如く消えゆき、己も気に留めぬようすれば緩く微笑みを浮かべ。「君に介抱されるなら酔い潰れてみたいけど、俺が酔い潰れる前に君が泥酔してしまうかもね。…嗚呼、でも茉莉花もお酒には強いみたいだし君の生まれは酒豪が多そうだから案外飲めるのかな?」小さく笑いながら冗談を返しては、そう言えば彼が羽目を外して飲酒している姿は見たことがないなと思い。真面目な彼のことだからいつでも現場に出られるようにセーブしている部分もあるかもしれないが、己としては彼の酔っぱらう姿を見てみたい。そんな我欲から自然な会話の流れで態と兄の名前を織り交ぜつつ、彼に続いて日本酒と肴を注文して。程なくして酒や頼んだ肴が運ばれてくれば、店員に暫くは注文を控え二人きりにするよう頼み、また個室に二人になったところで彼と自分のお猪口に運ばれてきた酒を注ぎ入れ徳利をテーブルに置き。「じゃ、君との初めてのデートに。」お猪口を片手に軽く顔の前に掲げて恥ずかしげもなく穏やかな声色で乾杯の音頭を取っては一足先にグビッと酒を喉に流し込んで小さく息を吐く。酒の香りが鼻腔から抜けていく余韻を楽しみつつトンとお猪口を置いては、彼におかわりのお酌を催促するように指先で軽く徳利の縁を叩いて。因みにお酒は口当たりはまろやかで後味はすっきりとした果実味のある日本酒。飲みやすいが度数はやや度数は高めのもの。彼の選んでくれた肴にはぴったりのもので彼の反応を気にしつつも彼のお手並みを拝見するような気持ちで目元を緩ませて。)
>>榊
…違いありませんね。(注文が終わり、再び空間が2人のものになると彼の浮かべた挑戦的な笑みに思わず背筋がぞくりと震える。いつものふわりと揺れるような彼の可愛らしい笑みとは違う魅力に一瞬言葉を失う。嗚呼、こんな彼の表情が見られるなんて。しかし、そんな浮かれた脳味噌も出された名前が己が兄のものだと分かれば、緩慢な動きに戻る。「酒にはあまり強くありません、が据え膳食わぬは何とやら。誠さんのお酒を頂けるなら、俺も貴方を酔わせられるよう少々張り切らねばなりませんね。…特に兄には負けぬよう。」彼は火の付け方がとても上手だ…それとも自分の理性が低くなったのか?彼の言葉に簡単に乗せられ、燃え上がるとニコリと笑みを深めるが、その眼の奥が隙を狙う大型獣のようにギラついていることには気付かない。もっと知らない彼を見たい、知りたい。今、頭にあるのはそれだけ。「光栄です。」乾杯の音頭の穏やかながら率直なそれを耳にし、彼もデートだと意識してくれていたことに純粋に喜ばしく思う。彼の酒を煽る喉の動き、僅かな吐息、僅かな挙動にも意識を奪われると、不躾な視線を思わず向けてしまい。その視線は彼が此方に向けた視線と交わり、誤魔化すように自分も一気に煽る。酒は飲み慣れないが、すっきりとした果実の味わいに彼の優しさを感じ、味覚に集中をやれば視線を一度宙に浮かせ。その視線は次いで徳利の縁を叩く彼の柔らかな指先に落ちると、「失礼します。」とお望みの日本酒をその徳利に満たして。「これほどの美酒は久しいものですね。肴によく合う…勿論、それも貴方と飲めるからこそ格別なのですが。」と早くも酔ったような言葉を。それは、酒にか、彼にか、どちらにせよ早々にへばってしまうわけにもいかないな、と気を引き締めなおして)
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