アルヴィオン 2019-03-26 02:55:08 |
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(冴え冴えとした月光が降り注ぐ古城は、普段では到底考えられないほど多くの命の気配で溢れていた。しかし在りし日の優しい記憶を彷彿とさせたそれは、騎士の長たる人物がその掲げる正義を詳らかにするまでの、泡沫の幻想。鈍色の刃と何十もの殺気を一度に向けられれば、魔女の世界は一瞬にして色を失くした。何で、どうして。そんな益体も無い言葉だけが、頭の中でぐるぐると渦巻く。確かに人里を襲う行為は褒められたものでは無い。けれども、先に手を上げたのは、いらないと言ったのは、彼らの方ではないか。確かに色々なものを壊してきた。けれども、ヒトの命を奪った事は一度だってなかった。だって、どんなに歪だったとしても、確かに彼らを愛していたのだから。――しかしそれももう、今日でおしまい。騎士に紛れた術士によって、ほんの小さな火すら起こせない程に魔力を奪われてしまった。魔力の無い魔女など、屈強な騎士たちの敵ではないだろう。ともすればふらつきそうになるのを石壁に背を預ける事でやり過ごし、何もかもを諦めた表情でその刃が届くのを待つ。切られた程度で**るのだろうかと、そんな事を思ってゆっくりと目を閉じた。――が、覚悟した痛みはいつまでもやって来ず、代わりに聞こえたのは何よりも鮮烈に響く、闇夜を切り裂くような声だった。「なん、で……」告げられたのは、誰にも言った事は無いはずの望み。衝撃が大きすぎて逃げ惑う騎士たちの様子など全く頭に入って来ない。真紅の瞳を零れ落ちんばかりに見開いて声の主を凝視していると、マントを翻した金色の瞳の青年が恭しく目の前に跪き、都合の良い夢でも見ているのかと思う程の台詞を口にした。真っ直ぐな瞳に射抜かれ、その存在に魅せられたように一歩たりとも動く事ができない。そうしているうちに腕の中へと閉じ込めるように抱き込まれ、何かを口にする前に唇を奪われて「……っ、ん――」一度だけでなく、二度、三度と重ねられる唇に、ようやくこれが夢ではないのだと思い知らされる。耳元で囁かれた言葉にどくんと大きく心臓が跳ね、たったそれだけにも関わらず、世界が再び色づき出すのを感じ「――アルヴィオン」目を伏せてなぞるように繰り返した名は、自身でも不思議なほど口に馴染んだ。広がった翼に誘われるようにそっと手を伸ばして、弱々しいながらも彼のコートを縋るように掴む。そして金の瞳へ真っ直ぐに視線を向ければ、人形じみた白磁の肌をほんのりと染め、ふわりと綻ぶように、それでいて艶やかに微笑んで「永遠に、あなたの傍に。――どうか、息もできないくらいに溺れさせて欲しいわ」例え何か他の意図があったとしても構わない。彼の瞳を信じ、この恋のためだけに生きてみようと、そう思った)
(/募集版の24887にてお声掛けさせていただいた者です。選定式との事で、遅ればせながらロルを綴らせていただきました。お納めくださいませ。ロルテストという位置づけではありますが、素敵な世界観を想像しながら楽しく紡がせていただきました。趣味と好みをこれでもかと盛り込んでしまいましたので、合わないと感じられた場合は、そのままお伝えいただければと思います。それでは、ご検討のほど、よろしくお願いいたします。)
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