御鏡 2019-03-23 18:45:40 |
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>>9
皆様の読むのも書くのも楽しいです~
セシル様の小説はとても好きです!
一人一人多分欠点はあります。私なんか沢山ありますし。
書いていくうちに色々気がつかされるものですよね。……私だけですかね。
お、考えておきます!
>>10
王道です……( ? )
楽しみに待ッてます!
新しい小説を思い付いたので、設定を載せます!
双子の裁判官・兄 ジャッジ
・黒の軍服軍帽、黒のマントを纏っている
・望遠鏡を持っている
・青髪青目、儚げな美貌の男の子
双子の裁判官・弟 カイン
・青の軍服軍帽、青のマントを纏っている
・鞭を持っている
・赤髪赤目、整った美丈夫な男の子
主人公 ???(皆様の本名などを)
・自分が何なのか分からない。
・「何か」を探していることだけ覚えている。
(【監獄のアリス】という別のカテゴリに
開いているトピックの登場人物たちです)
ヤバいイケメン囚人 アリス・ベルベッティ
・気まぐれ、感情のままに動く
・監獄から出してもらう代わりに
主人公の手助けを約束する。
・誰にも心を開かない
謎の看守 【チェシャ猫】
・助言をくれたり、馬鹿にしたりと謎の人物。
・ピンクの髪にピンクの瞳
・?5の腕章を着けている
途中までながら出来たので投稿~!
「…?」
不意に視線を感じ、ファウストは聴診器を動かす手を止める。
彼の前に座る患者が怪訝そうな顔をして、スケッチブックを
差し出した。
【どうした?】
「あ、いえ。お気になさらず…筆談をする辺り、声が出ない程、
咽喉が痛いンですネ?しかし、まだ風邪とは断定出来ませンから…
聴診は終えたので、次は視診と行きまショ!ささ、お口を
開けてくださいネ♪」
彼の言葉に従って、患者は捲り上げていた服を下ろし、マスクを
外して口を開ける。ペンライトの光を当てれば、そこは赤く
腫れていた。
「うわ、すっごい…扁桃腺が滅茶苦茶腫れてますヨ…
一体何したらこうなるンですか?嗚呼、多分コレ
ただの風邪なンで、安心してくださいネ」
【仕事 忙しい 診療所 来る暇 ない。先生 言う 安心】
接続詞のない文章。多少読み辛くはあるが、書く時間の
省略のためだろう。この患者に如何様な薬を出そうかと
ファウストが考えていると、また視線を感じた。
「……取り敢えず、お薬出しときますネ。普段なら一日分で
良いと思うンですけど、アナタの場合結構重症っぽいので三日分
出しときます。元気になったら、また来てくださいネ♪
じゃ、お大事に~!!」
【あざした】
薬とスケッチブックとを持ち、怠そうにしながら診察室を
後にする男の背に向けて手を振る。男の姿が見えなくなった刹那、
ファウストは窓に小振りなメスを投げた。
「……ホント、誰なンでショ…ネ。私を見てるのは……」
この数日、何度も視線を感じた。買い物をしている時、料理を
作っている時、診察をしている時…ふとした瞬間に感じた視線。
「ああああああもう駄目。癒しが欲しい…!!えぇと、
今日は患者サマも…もう居ませンネェ。良かった良かった…」
自室の部屋の扉を開き、ベッドに倒れ込む。柔らかな羽毛が、
彼の身体を受け止めた…筈だった。
「んむ…先生、重いですぅ…」
「あいや、エマさん!?来てたンですか!」
そこには、付近に住む大学生のエマが居た。彼女は良く
診療所に来ては、医学に精通するファウストの話を
聞きたがるのだ。何でも、将来は医者になりたいらしい。
「えへへ…だって、先生の話が聞きたくなっちゃったんですもの」
「全く…まあ良いですけどネ。で、今日は何の話を
聞きたいンですか?」
「先生の日常生活でのお話を聞きたいんです!」
「……ハイ?えぇと…正気ですか?」
「私は何時だって正気です!
それに…先生の事、もっと知りたいんです」
その瞬間、あの視線と良く似た何かをファウストは感じ取った。
愛用する巨大なメスを咄嗟に掴み、目の前に立つ誰かに
突き立てる。すると、それはぐにゃと歪み、姿を変え始めた。
エマの代わりに、全身に包帯を巻いた女が、そこに現れる。
「痛ぁい……先生ったら酷いじゃない……アタシだって事、
解ってるでしょ…?手加減くらいしてよぉ……」
「…これはこれは、アリスさんでしたか。失礼しましたネ」
「…相変わらず、いけずなヒト…」
金属の軋むような音と共に、アリスの首が時計回りに
360°回転する。それを見てファウストは、紙袋の下で
溜息を吐いた。
「…で、何の用ですか?」
「あのね…アタシ、素敵な物見つけたの…だから、キミの力で
何とかして欲しいな……って思って……」
「失礼ながら、全く話の筋が読めないのですが…」
「アタシ、とっても素敵な魔剣を見つけたの…でも、
強~い呪術式が掛かってて……キミなら、解けるでしょ…?」
一瞬の間の後、盛大な音と共に窓が割れ、硝子片が辺りに
飛び散る。静かに殺気を放つ異形がそこに居た。
「あのね…それならそうと、ハッキリ言いなさい。アナタは些か、
物事を遠回しに言う事が多すぎる。もっと簡潔な言い回しを
見付けなさい。生憎、私だって毎日暇な訳ではないのだから…」
「ごめんなさい……で、先生…呪術式、解いてくれるの?」
「……嗚呼、一つの質問に答えて戴ければ、今すぐにでも
その魔剣の所に行って、呪術式を解いて差し上げますよ」
殺気を収め、紙袋をそっと被り直して、彼は何時もの
"善良な医師"に戻る。彼はきっと紙袋の下で、怒りと憂いと
哀愁を混ぜたような表情をしている事だろう。
「……質問、どうぞ……」
「ええ、では問います。アナタの得意とする術式と、その性質を
理解した上で、問わせて貰います……何故あの子を選んだ?」
「…先生の、大切なヒトだって知った、から……じゃ駄目…?」
その言葉に、思わずアリスが女である事を忘れて、ファウストは
彼女の胸倉を掴んだ。あまりの身長差に、アリスの身体が
宙に浮く。
「…そんな理由で、あの子を傷付けたんですか」
「……違う。アタシはただ、その子の……エマ、だっけ…?
頼みを聞いただけ……"もし自分が先生のために血を流したら、
どんな反応をするのか知りたい"……と、ここに来る道中に
出会って、話し込んで、頼まれた…おしまい」
「………信用出来るとでも?」
まさに一触即発の空気が流れたその時、部屋の扉が開いた。
ここまでで~す…新キャラちゃんのpf↓
アリス
【本名】アリス・ヴェネッサ・カッセル
【性別】女
【種族】吸血鬼
【年齢】27歳(人間換算)
【身長】159cm
【体重】45.9kg
【誕生日】10月6日
【趣味】アンティーク品の収集
【好きな物】血 呪術式の掛かっていたもの
魔○と呼ばれる武器(魔剣・魔槍・魔斧etc…)
【嫌いな物】銀製品 呪術式 呪術式の使用者
【異性のタイプ】「…ファウスト先生みたいに、優しいヒト…
…でも、先生は恋愛対象として見れない……」
【詳細】全身に包帯を巻いている陰気な女で、小さな箱を常時持っている。
その箱は何とも奇妙な紋様が描かれており、彼女曰く
「大事なヒトに貰った……パンドラの箱…」らしい。
彼女は陰気な性格のため、良く「呪術式を好んでいる」と
誤解されがちであるが、それは的外れだ。
寧ろ彼女は呪術式を毛嫌いしている。
【口調】一人称はアタシ。二人称はキミ。何か一言でも喋ろうとする度に、
良く間を置くのが特徴。誰に対しても上から目線で話すが、
良く世話になっているためかファウストとメフィストに
接する時のみ、敬意を感じ取る事が出来る。
そんな彼女の口からは、時折何処か怯えたような言葉が
紡がれる事がある。その際は、ただ黙って抱き締めるのが
最善の選択だろう。
アリスの得意な術式(ファウストで言う転移術式)については続きで…
スケッチブックの人は本当にモブです。
ジャッジくんたちの小説、出来ました!
「今から…被告人×××(皆様の本名などを)の
判決を開始します」
青髪を靡かせた、軍服の裁判官はそう言った。
【ま、待ってください!裁判が先でしょう!】
「僕(私)」は裁判官に訴えた。
「判決が先、裁判での善悪の判断は後です」
しかし、その裁判官は当たり前のように返した。
【それって…それって…おかしくないですか!?】
「この世界はこれが【普通】です。貴方が
狂っているんですよ?」
裁判官から放たれた「狂っている」という
言葉に、「僕(私)」は、頭が真っ白になった。
『被告人に、懲役1000年を処す』
もう一人の赤髪の裁判官がそう言ったのも、
ろくに聞こえなかった。
【……う】
「僕(私)」が目を覚ますと、そこは先程までの
絨毯が敷かれたふかふかの床ではなく、冷たく
硬い鉄の床の上だった。
《よぉ、新入り。お前、何しでかした?》
隣から、青年のものと思われる声が聞こえる。
「僕(私)」はズキズキと痛む頭を押さえつつ、
状況を把握しようとした。
まず、一つ。
ここは牢獄らしい。足が何やら重い。
重りの類いでも付けられているのだろうか。
そして、二つ。
ここから出る手段は、今のところ無いらしい。
最後に、三つ。
「僕(私)」はどうやら、自分が何なのか
思い出せないようだ。
【…何も…してません】
「僕(私)」は戸惑いつつも、隣の声に答える。
《へぇ?そりゃ重罪だ》
彼はこう返してきた。
そして、こう続けた。
《この世界じゃあ、【何かした】ことよりも、
【何もしなかった】ことこそ最大の罪なのさ。
あんた、投獄くらいで済んで良かったな》
【…貴方は】
《うん?》
【貴方は、何をしたんですか。それとも、
「僕(私)」と一緒で、何もしなかったんですか】
《俺か?俺は…【何かをして】ここにいるのさ。
その何かってのは…ま、【人殺し】さね》
彼が肩を竦めたのが見えた。
その時、カツカツと足音が近付いてきて…
それは、「僕(私)」の牢獄の前でぴたりと
停止した。
〔やあ、新入り君〕
そんな、妙にチャーミングな声を伴って。
【…貴方は】
〔僕かい?僕は【チェシャ猫】さ〕
彼はずいっと「僕(私)」に顔を近付けてくる。
紫髪を目元まで垂らし、口元は妙に
にやついている。
腕には?5の腕章がついている。
【……【チェシャ猫】さん。「僕(私)」は
これから、どうなるんですか?】
「僕(私)」が聞くと、【チェシャ猫】は
困ったように返した。
〔さあ…裁判待ちさね。だが、先に【アリス】が
来るだろうから…もう少し待つかね〕
【…【アリス】?】
〔君の隣の監獄に居るじゃないか〕
「僕(私)」は、改めて隣を見やる。
金髪を束ね、整った顔立ちの青年だ。
彼が…【アリス】?
《そ。俺はアリス・ベルベッティっての。
よろしくな》
どうやら「僕(私)」は、この奇妙な世界を
抜け出さなくてはいけないらしい。
お久しぶりです。
短編小説
ホルマリン漬けの「カミサマ」
第一章 「カミサマ」って…信じる?
僕らの町に【ソレ】がやって来たのは、
本当に突然だった。
「私、神様なの」
そう嘯く彼女は、神を名乗るには随分と幼く、
かと言って神の使いと名乗るには、
幾分大人びていた。
『本当に?』
僕が問うと、彼女はにっこり笑ってこう言った。
「ううん、私は神様じゃない。
私は使いに過ぎないの」
そして、こうも言った。
「ねぇ、キミ。連れてってあげよっか。
私の「カミサマ」の所」
僕はその誘いに乗り、手を引かれるまま
奥へ奥へと導かれた。
研究所のような、全体的に青白い施設。
その最深部で僕が見たものは…。
ホルマリン漬けにされた、ワンピースを
まとった真っ白い少女の姿であった。
「これが、私の「カミサマ」」
僕は、その容器に手を伸ばす。
強化ガラスに指が触れる。
「彼女」は、僅かに瞳を開いた。
〔……あ…なた…誰?〕
「「カミサマ」、この子は私が連れてきたの」
僕と「彼女達」の奇妙な夏は、始まりを告げた。
中1が書いたので、変だったらすみません。
ーその日、俺は変なやつに会った。ー
いつもどうりに”仕事”を終え、いつもどうりに帰った。
「ねぇ、そこの君」
後ろをばっ、と振り向く……誰もいない
「…は?」
そんな声を上げ前を見た………………………いた。確信はない、だが…目の前にいるのが声の主だと、断言できた。カラン、と下駄をならし此方に近づく、近づく、近づく……【あれっ?体が………勝手に…】逃げた。体にある野性の本能?が今、全力で警報をならした。カラン、カラン、カラン…
「どこに行くの?」
下駄の音は変わらない、何故?普通なら小さくなる音が”変わらない”走りには自信がある、だが"変わらない"
カラン、カラン、カラン、カラン
一定のリズム、一定の音、何故?
「捕まえた」
頭が真っ白になった。耳元で声がしたら、自分の体はその場に崩れ落ちた。
[一応続く]
お久し振りです~…
最近小説を投稿しようにも、マトモなのは書けないし~…
マトモでも書きかけだしで散々なんですよねぇ~…
マトモなの書けたら投稿しますね~…
第二章
「カミサマ」は憂鬱。
「カミサマ」は、相変わらず容器の中に居た。
使いの彼女は、僕によく話をしてくれた。
「カミサマ」との出会い、
「カミサマ」を奪おうとする人間のこと。
「…その人たちは、私の「カミサマ」を
奪おうとしたの。
【研究対象だ】【研究しなきゃ】って」
彼女は、顔を苦々しく歪めて言い放つ。
僕は彼女の話に頷き、聞き流していた。
しかし、彼女は聞き捨てならない
言葉を発した。
「私たちね、夏でここを出ていくの。
もっとちゃんと、「カミサマ」を
受け入れてくれる街を探すの」
『…そうなんだ』
〔……ね…ぇ〕
「カミサマ」が、僕に手を伸ばす。
僕は、容器越しに彼女に触れた。
〔……あ…なたは………………なの…?〕
途中が、酷く掠れていて聞き取れなかった。
『ごめん…何て?』
〔…………………なの…?〕
やはり、その部分だけ
ノイズが掛かったように聞き取れない。
いや…まるで、脳がその部分だけ聞くのを
拒絶しているようだ。
〔………わ…たしは……憂鬱、なの…〕
彼女がそう呟いたのも、
ろくに聞こえなかった。
【私達、夏で出ていくの】そんな言葉が、
酷く耳に引っ掛かって。
御鏡さんはご覧になったことがあるかと
思います。
絵や小説を載せ合うトピに
上げていたものです。
(データが飛んだので、途中からです…
申し訳ありません。
キャラクターのプロフィールを
載せておきます。
主人公 彼方
〔狭間堂〕
店主兼総元締め 出雲
従業員 猫目ジロー
従業員 ハナ
〔???〕
新聞記者 百代円(ひゃくだいまどか)
〈少年〉
この街にも少しずつ慣れ始めた頃、
偶然円さんと出会ってしまった。
「…あ…円さん」
僕がそう言うと、円さんは相変わらず
お手本のような笑顔で笑ってみせる。
〈覚えていてくれたとは嬉しいね〉
円さんは僕にずいっと顔を近付ける。
整った顔立ちと大勢に見られているような
ゾクリとした寒気が僕を包む。
僕が何も言えないでいると、円さんは急に
顔を遠ざけて笑い始めた。
〈ははは!君の視線嫌いも筋金入りって事か〉
「…は…視線…?ま、まあ…人は苦手ですけど…」
円さんは僕の背中を遠慮なくバシバシと
叩いて笑い続ける。
痛いを通り越して何が何だか分からない。
しばらくすると、ベストのポケットから普段
付けている物より濃い色付き眼鏡を
取り出して掛けてみせる。
〈どうだい?これなら怖くないだろ〉
円さんは笑みを浮かべてみせる。本当は
爽やかな笑みを浮かべたのかもしれないが、
今掛けた色付き眼鏡のせいで胡散臭さ爆発だ。
「あ、ありがとうございます…僕は」
〈彼方くんだろう?知ってるさ。
君が出雲の飼い猫と喧嘩して此処に来たと
いう事もね〉
「えっ」
僕はおもわず後ずさった。
「何で、知ってるんですか…?」
〈それは単純だ。見たからさ、この目で〉
円さんは自らの掛けている眼鏡の蔓に触れた。
「…ずっと、後をつけて来たとか」
〈そうとも云えるし、そうでないとも云える〉
円さんはそう嘯いた。本心の読めない人だ…。
「もしかして、ストーカー…」
〈お望みとあらば、おはようから
おやすみまで観察させて貰うけど〉
「完全にストーカーだ…!」
あっけらかんと言う円さんに僕は戦慄した。
〈まあ、家の中にまで入るのはポリシーに
反するし、トイレやお風呂の時までは
観察しないけどね〉
「…紳士的なストーカーだ…!」
意外と僕のプライバシーを尊重してくれていた。
いや、しかし…家の近くにまで来られても困る。
円さんは見た目上レトロな男性だが、
その正体はアヤカシかもしれないのに。
じりじりと後退する僕に、円さんは肩を竦めた。
〈そう警戒しないでくれ給えよ。別に
取って食おうという訳じゃないんだから〉
円さんは僕の肩をしっかりと抱く。
これでは、逃げられない…。
「もしかして…彼方くん。君は自分に自信が
ないから、視線が嫌いなんじゃないかい?」
「…うっ…」
図星を突かれ、僕は呻く。
〈図星かぁ。では、そのルーツを
聞かせてくれないかな。何が切っ掛けで、
自分に自信を持てなくなったか…〉
「そ、それは…貴方に、話すこと
じゃないですから」
迫る円さんの整った顔立ちを押し返す。
すると、円さんは思ったよりも
あっさり引き下がった。
〈そうか、残念だ…また、機会を見つけたら
会いに来るよ〉
円さんはひらひらと手を振って帰っていく。
〈ああ、そうそう〉
円さんはふと足を止める。
〈彼方くん。『うつし世はゆめ、
よるの夢こそまこと』…だからね〉
円さんは意味深な台詞を吐いて、立ち去った。
【…あれ?彼方さんじゃないですかィ】
《あら、彼方さんではないですか!》
後ろから出雲さんのお店で働く従業員、
ハナさんとジローさんの声がする。
「…あ、ハナさんとジローさん」
【…あいつ…円。彼方さん、あいつと
関わってるんですかィ?】
ジローさんは去っていく円さんの背中を
睨みながら僕に言う。
「…え、あ…向こうの方から…」
【…そうですかィ。あんま、あいつと
関わらない方が良いですぜィ?
決して、悪い奴じゃないんだろうがねィ】
《円さん…あの方も色々なお悩みを抱えて
いらっしゃいますからね》
ハナさんは悲しそうに、ジローさんは悪態を
吐くように吐き捨てた。
『おや、彼方くんじゃないか』
ジローさんとハナさんが帰った後、後ろから
凛々しくも澄んだ少年…否、出雲さんの
声がする。
「あ…出雲さん」
『円と何か話していたのかい?』
「…え、ま、まあ…。…あの、円さんって
妖怪なんですか…?」
『…見たいならこの手鏡を使うと良いが…
決して【アレ】と目を合わせないでくれ給えよ』
僕は出雲さんの【アレ】と言う発言に首を
傾げながらも、帰っていく円さんの後ろ姿に
手鏡を翳す。
「……ひっ!」
そこに映っていたのは男性の背中…ではなく
闇で繋がれた無数の髑髏だった。
僕の悲鳴が聞こえたらしく、円さんであろう
【ソレ】が振り向く。
…目が、合ってしまった。
頂点の髑髏の空洞から覗く赤い光が、
僕を見つめる。
すぐに出雲さんが僕の手から鏡を叩き落とす。
手鏡が地面に落ち、粉々に割れた。
『…円は、目競なのさ』
「…目競…?」
『平清盛と睨めっこをした話が有名だね。
残留思念の集合体のアヤカシさ。その視線には強い力があるから、跳ね返すのはよっほどの
霊力の持ち主でないと無理さね』
出雲さんはそう言い、『帰ろうか』と言った。
- 出雲の店「雑貨屋狭間堂」-
「…帰りました」
《あら、彼方さん!今お茶が入りましたよ、
どうぞ!》
ハナさんが笑う。
うら若き大正乙女ハナさんの本当の姿は、
電車だ。廃線になった都電6500番。
電車であるからか、見た目にそぐわず怪力の
持ち主である。
そして、奥で寝ているジローさんの本当の姿は、
今は猫背のイケメンさんになっているが猫だ。
《元気がありませんね?何かあったんですか》
ハナさんが心配そうに声を掛けてくれる。
「……今日、泊まっていっても良いですか。
何だか、怖いんです」
『ああ、構わないさ』
新キャラ君…否、新キャラさんが出来ました。お久し振りです。
人気、出るかな…くらいの気持ちで作った新キャラさんです。
「…所長殿、些か…暇ではありませぬか」
「うん?君もそう思うかい…?嗚呼、僕もそう思うよ…」
ここは黒屋敷の二階右端に位置する、他の部屋より微弱ながら
広い部屋。三の人格を有する、人格者アラクネアの部屋。
探偵が事務所として使う部屋。付いた渾名は、"蜘蛛之巣"。
一度承諾した依頼は、例えどんな依頼であっても、完遂する。
従業員は、所長とその助手と、たったの二人だが。もっとも、
所長は三重の人格、エン・ダル・スピルを有し、それぞれの職業は
小説家・探偵・探究者。小説家は時にミステリー小説を書く。
探偵は頭脳明晰。探究者は一度獲物の尾を掴めば、その正体を
見抜くまで離さない。助手は、博識洽聞な黒屋敷の執事。まさに
完璧と言う言葉が似合う、非の打ち所がない男……多少、正確に
難があるようだが。
「……やれ、一つ茶でも淹れて参りましょうぞ」
「…少々待ちたまえ。足音がする……革靴、そして仄かに響く
金属の音……彼が来る。紅茶と檸檬を用意すべきだ」
「嗚呼…彼でございますか。承知仕った」
助手が給湯室へ向かったその時、部屋の扉が開き、2mを
優に超えるだろう長身の、巨大なメスを背負った男が現れた。
「やあ、ファウスト君…久方振りだね。暫く見ない内に、雰囲気が
変わったかな?」
「ダルさんも元気そうで何よりですヨ!ところで、ユリウスは
いらっしゃいますか?」
「嗚呼、居るよ。しかし珍しいね。君が彼に用事とは…」
「ええ…私だって不服ですけどネ!大切な彼女のためなので、
我慢してるンですヨ!!」
事務所から聞こえる声に、ユリウスは給湯室から顔のみを覗かせ
ファウストに向けて静かに言い放つ。
「あいや、ファウスト殿。暫くぶりでありますなァ…今飲み物を
お持ちします故、少々お待ち下され」
「っ…本当に、久し振り…ですネ…!」
ファウストが唯一苦手な男こそ、ユリウス・ロ・ヴェッセント。
長い前髪を全て右に流す事で右眼を隠し、左眼の片眼鏡の奥に潜む
紅い眼は、全てを見透かすように鋭く、そして光が無い。
(やはり彼は…相も変わらず、ですネェ……)
「ファウスト殿、砂糖は二つで宜しかったかな?」
「え、あ…ハイ…」
「所長殿、砂糖多めの珈琲にござい」
言いながらユリウスは机上に二人分のカップを置き、自分は
ダルの隣に腰掛けると、少量のミルクを加えた紅茶を優雅に啜る。
「うむ、君の働きぶりは実に見事で、流石の僕でも舌を巻く程だ…
で、ファウスト君。彼に何の用なんだい?」
「あのですネ。今朝、ポストにこンな手紙が入ってまして…
ユリウス、どうぞ」
ファウストから手紙を受け取り、一通り目を通したユリウスは、
次の瞬間ファウストの胸倉に掴み掛っていた。
「キ、貴様…っ…貴様が付いていながら、何たる不始末!俺の……
我のエマ殿に、何かあったらどうしてくれるので!?」
「…もう何かあったからこうなってるのでは?何々…
『ちょっと誘拐されて来ます』…?はあ、何だいこれは。
新手の悪戯かね?」
「グ…ッ、まだソッチの方がマシ、ですヨ…でもですネ、
その手紙を良く見てください…特にユリウス!」
荒々しくユリウスに背負い投げを掛け、ファウストは
彼から解放される。ゆっくりと立ち上がった彼がもう一度手紙を
見直すと、下の方にもう一つ、「八脚を持つ人物と霧の都に
向かえば、そこに新たなる道が見える」と、意味不明な文章が
添えられていて。
「…まさか、ファウスト殿…これは彼女の自作自演で?」
「さァ?でも…アナタに対する挑戦状なのでは?」
「所長殿へではなく、我に…?」
「ええ、では私の仕事は終わりましたので、これにて失礼…」
紅茶を咽喉に流し込み、ファウストは事務所を後にする。扉に
巨大メスが引っ掛かったのは見なかった事にしよう。ダルもまた、
「君への謎だ。僕が協力してはならない」と言って、ファウストの
後を追うように出て行った。残されたユリウスは、一人悶々と
考える。
(八脚の人物…我の思いつく限りでは、人格者殿とヴィオラ嬢しか
居りませぬが…否、死神様は如何か、かのローブに遮られ見た事は
ありませぬが、あの中は蛸足とも蜘蛛足とも、はたまた、ヒトの
手足が無数にあるとも聞く。はて…誰から当たって進ぜようか)
あれこれと思考を巡らせながら、ユリウスはカップの中の
ミルクティーを飲み干し、八脚を持つ人物を探して部屋を出た。
To Be Continue…
新キャラさんpf
【通称】ユーリィ
【本名】ユリウス・ロ・ヴェッセント
【性別】男
【種族】不明(本人曰く人間らしいが、言動を見る限りそうは思えない)
【年齢】34歳(本人談)
【身長】175cm
【体重】55.1kg
【誕生日】9月1日
【趣味】ガーデニング
【好きな物】紅茶 水仙 虎百合 薔薇
【嫌いな物】不明
【異性のタイプ】「な、何をお聞きになられるか!?…あいやしかし…我とて男。
己への問いはしかとお答え致そう……内気な女性が好みですな」
【詳細】育った環境の所為で、愛を知らない男。長い前髪と仮面で右眼を隠し、
左眼に片眼鏡を掛けている。また、着用している燕尾服は
鎖など装飾類が多く付いていて、彼が少しでも動く度に
ジャラジャラと音を立てる。まるで、自分の存在を
周囲に思い知らせるように。
(ファウストの従兄であると言う噂も存在するが、真相は定かではない)
【口調】一人称は我。二人称は貴殿、貴方等相手に敬意を示すもの。
名前や職業名に殿を付ける、諺や故事成語、四字熟語を
多々交えて話す等、やや古風且つ独特な喋りで数多の人々に
歓楽を振り撒く男であるが、常日頃からその笑顔の裏には
翳りが見える。無理をしているような、そんな笑みだ。
しかし、彼を極限まで追い詰めた時、全てが一変する。
一人称は俺へ、二人称は貴様へ。自暴自棄になった
哀れな男が、欺瞞の仮面を脱ぎ棄てた時、彼の素顔が、
素性が暴かれる。
「ある時は天才詐欺師。またある時は名探偵。
またまたある時は有名たる小説家。そんな我が正体は、
とある屋敷の執事、ユリウスにござい!困った時は
何時でも我をお呼びくだされ!!」
では、自分も新キャラを一人…。
【通称】クイーン
【本名】ゼロ・K・エイデシュテット
(ゼロ・クイーン・エイデシュテット)
【性別】男(!?)
【年齢】25歳(本人曰く)
【種族】???(本人はしがない人間とのこと)
【身長】200㎝
【体重】95,5㎏
【血液型】AB型
【性格】几帳面だが、適当な一面も。
【誕生日】2月7日
【誕生石】アメジスト
【趣味】読書、昼寝
【嫌いなもの】海、炎
【好きなもの】ロイヤルミルクティー
【ストレス発散方法】
聖歌を口ずさみながら人を切り刻むこと
【憧れの人】姉
【容姿】
目が醒めるように深く、濃い蒼色の髪。
片方の瞳は血塗られた鮮血の赤、
もう片方の瞳は雪のような白銀。
整ってはいるのだが、不思議と印象に
残らず、何とも言えない顔立ち。
お久しぶりです!
作成途中のものを少し…
「紅い眼の化け物!」
どうして…?
「こっちに来るんじゃないよ!」
どう、して…?
「お前なんか、産むんじゃなかった!」
どうしてみんな、ぼくをきらうの?
ただ、いきていたいだけなのに。
ただ、うまれてきただけなのに。
ぼくは、「いらないこども」なの?
彼は他人と違う、薔薇のように深紅の瞳を
持って産まれた「だけ」の少年。
彼に、何ら罪はありません。
なのに何故他人は、彼を化け物と
呼ぶのでしょうか。
彼には、分かりません。
何故他人が自分を化け物と呼ぶのかが。
彼は、ただ生きていたいだけなのです。
またまた途中のものを…
童話系です。
【それ】は、酷くつまらなく。
【それ】は、あまりに美しく。
【それ】は、時に残酷で。
【それ】は、吐き気を催すほど下らなく。
【それ】は、あまりに脆いもので。
【それ】は、大衆の望むもので。
黒いクレヨンを片手に、
白いスケッチブックをもう片方の手に。
【常識】から外れた小さな少女は呟く。
「【ハッピーエンド】なんて、
つまらないの。」
彼女は、手にしたクレヨンで空に浮かぶ字に
真っ黒い線を引く。
【ふたりはしあわせにくらしました】
この一文を、彼女は消した。
大変お久しぶりです、久しぶりに投稿させていただきます。
「……本当に、良かったの」
袖で隠れている手で己の口を覆い、ぼそりと呟いた君。
きっと思わず零した言葉なのだろう、僕の方は見ずにぼうっと呟いた気がしたから。
「ん? なんのこと?」
だけど此処で終わらせるのは面白くない。久しく聞いた、強気な君の弱々しい声。
それが顔に出てたのか、僕はにっこり笑っていたらしい。口角が上がる感覚と、君の露骨に嫌そうな表情をしたことで分かった。いつもそうするもんね、そんなに僕の笑顔が嫌い?
それはさておき。
「とぼけないで、あの子のことよ。あんた今なら会えるでしょう? どうして会わないのよ」
納得がいかない、とその態度と顔が語っている。腕を組みながら僕を睨んでいた。
どうして、って言われてもなあ。
「だって……今会っても面白くないじゃん。だからいつか、ね」
あの子に会ったらきっと驚いた顔をすると思う。何故ならあの子は分かりやすいから、そんな顔を想像しただけでもクスクス笑ってしまう。
……やだなあ君、そんな目で見ないでよ。
「出たよ、嘘……そんなに言いたくないの? 本当はあの子のこと」
「君に言って、何か利益がある?」
余計なことを言いそうだったからわざと被せた。ついでに口も覆って。
びくり、と君の肩が動いて退いた。
……本当はあの子のこと。
その声が頭から離れなかった。何かムカついたから頬を弄りまくってたら頬を叩かれた。解せない。
「……そう。じゃあとられても知らないからね。」
頬弄りもやめ、暫く続いた沈黙を破ったのは僕じゃなく君。
その言葉の意味はどういうことか。なんて聞かなくても分かる。きっとあの人の企みのことだろう。
「……わーってるって」
思わずにやりと口角が上がる。そんな僕の顔を見て君は目を細め、何か呆れたようにしてぼそぼそ言ってる。
あんなやつらに奪わせるもんか、あの子を。
大事な子を守ってやるよ、そうだろう。
初投稿失礼します。
「僕」は一人だ。でも、「僕」は一人じゃない。「僕」の中には知らない「僕」がいる。
昔、母さんに言われたんだ。「何で貴方なの」って。言われたときはまったく意味がわからなかった。何で、なんて、此方が何で、と問い返したい。僕の何が悪いんだ、とも。
しかし、謎はすぐに解けた。兄ちゃんに教えてもらったんだ。僕にとっては、衝撃の事実を。端的に言ってしまえば簡単で、だからこそわざわざちゃんと言おうか。
「僕」は元々二人だった。察しの良い人なら、もうわかっているかと思う。でも、あえて言わせてもらおう。「僕」は双子だったのだ。本当なら生まれてくるはずの「彼」を、「僕」は潰してしまった。「僕」がいなければ、「彼」は今頃生きていたのだろう。そう思うと罪悪感がひどかった。
だって、僕は何もできない。テストをすればいつだって平均よりも少し下だし、ボールを投げられれば落としてしまう。顔だって良い方じゃない。だから僕は嫌われる。何もできない僕じゃなくて、それが「彼」だったら、期待に答えられたのかもしれない。
「何で、何で……」
涙が静かに零れた。どうしようもない。今更僕が期待に答えられるような凄い人間になれるわけじゃない。
そんな僕なら、きっとこの世界にはいらない。募集がいなくたって、世界は動いていく。
「……さようなら」
手に持った凶器を首に当てて真横に引く。これなら確実に、自分を消せる。これで皆を困らせることもない。そうだろう?
朦朧とする意識の中で、知らない「彼」が笑った気がした。
皆々様、誠にお久し振りで御座います。オリキャラが三名程出来ましたので、
紹介がてらの小説です。恋愛要素はかなり少なく、エマちゃんの出番も序盤だけです。
(ファウスト先生は一切出ません)オリキャラズの紹介は、各話の最後に。
「はぁ…ヴァランタ君、いい加減諦めたらどうかな。エマちゃんだってボクの事好きみたいだしさ」
「諦めるのはキミじゃない?カノジョはボクを好きなんだよ?…社長だか何だか知らないけどサァ…
ボクはここの局長で、プロデューサーなんだから、サ」
エレクトロ・エレクトロニカと、ヴァランタ・ヴィストリック。双方共に35歳。その立場は、
大企業の社長と大手テレビ局の局長にして、一流のプロデューサー。互いに契約を
結んでおきながら、何時まで経っても仲が悪い二人は、今日もまた収録後に口論をしていた。
「はぁ…また喧嘩してるよ、あの二人…」
「やあれエマ殿。溜息を吐くと幸せが逃げてしまいますぞ?」
一方、渦中の人物のエミリー・ホプキンスは溜息を吐きながら二人の様子を眺めていた。
その隣では、黒屋敷からエマを迎えに来たユリウス・ロ・ヴェッセントが優雅に紅茶を注いでいる。
迎えに来た、と言うのも、エマは今回ヴァランタのプロデュースする番組に出演したのだ。
…エリックも同様の理由でここにいるのだが、相も変わらず繰り広げられる口論には
ほとほと呆れ果てる。
【通称】エリック
【本名】エレクトロ・エレクトロニカ
【性別】男
【種族】人間と魔族のハーフ
【年齢】35歳
【身長】222.2cm
【体重】88.8kg
【誕生日】6月9日
【趣味】術式を用いての調理
【好きな物】ミルクと砂糖を少量入れた珈琲 電気
【嫌いな物】キャラが被っている大手テレビ局の局長
気さくで誰が相手でも気軽に話しかける。サービス精神旺盛で、困っている人を見ると何が何でも
助けようとするが、別に人を疑う事を知らない訳ではなく、実際は貸しを作って、後々自分が
困る事があったら手を借りようとしているだけの腹黒。これは学生時代まで続いた家での暮らしと、
当時の家族や友人からの弟に対する扱いに原因があると言う。
学生時代火事に巻き込まれ、左眼と右腕を失っている。故に、現在は義眼と義手で補っている。
他にも、左眼の辺りの切傷痕、ネクタイの代わりに結ばれたネイビーカラーの大きなリボン、
ワインのように赤いトレンチコート、橙レンズのサングラスが特徴的だが、レンズが重い等の
理由から普段は対人時を除いてサングラスを外している。しかし、軽度の近視性乱視で、
サングラスを外している時は視界がぼやけるためか常に目を細めており、傍から見ると
不機嫌そうに見える。また、電気に関連する魔法を使う事が出来て、その気になれば雷も
自由自在だと言うが、人間の母の血の方が濃く、実際は上手く魔法を扱えない。そのため、
本人が使いたがらず、使っているのを見た者はあまりいない。弟を大切に思っているが、
弟は父の血が濃いため魔法を上手く扱えるので複雑らしい。
(エレクトロ・エレクトロニカは偽名で、真名は"ライトニア・ヴェッセント"だと言う噂が存在する)
一人称はボク。二人称はキミ。時々訳の解らない事(普段聞かない熟語や故事成語)を口走るが、
曰く弟や従弟の真似らしい。普段は人当たりの良い口調だが、弟や従弟の真似をする時は口調も
似せるため、初めて見る相手には驚かれる事が暫しある。
「や、元気してる?困った事があったら、何時でもボクに相談してね♪…さあれ!我はこれにて
失礼致しましょうぞ!…今の、弟の真似なんだけど…ボクは結構似てたと思うんだけど、どう思う?」
「…行こう、ユーリィ。終わるの待ってたら帰りが遅くなる…」
「同意ですな。エレクトロ殿が絡むと碌な事がありませぬ」
そう呟きを残して、エマとユリウスの二人はテレビ局を去った。その際、視界の端にチラリと二人を
捕らえたのか、エリックを睨み付けるヴァランタの眼がより鋭い眼光を放つ。
「はぁ…キミの所為でエマちゃんが帰っちゃったじゃない。…そうだ!今度特番組んであげようか。
"弟を見捨てた兄!大企業社長の実態に迫る!"…って言うタイトルで」
「!!……へぇ…このボクを脅そうっての?やっぱキミ、良い度胸してるよねぇ…!!」
周囲に紫電の閃光が迸り、サングラスを外したエリックは視界の悪さに目を細める。
普段「機嫌が悪そう」と恐れられる彼に、ヴァランタは皮肉るように、
「…純粋な魔術師の血族であるワタシの魔術に、
キサマのような穢れた血の魔術が勝てるとでも思ってるんじゃねぇだろうな?」
と、エマの前で発する声よりも、それ以外の時に発する声よりも、数倍低い声で嘲笑を零した。
「…やっと本性を現してくれたねぇ。その方がやりやすくて良いケドさ。
ホラ、普段のキミときたら。ボクとキャラが被ってるじゃない」
エリックは「やっぱり、キミもボクと同じだね」と呟くと、ヴァランタを煽るように続けて言った。
「キミさ。本当は、エマちゃんを愛してなんかないでショ?だって、欺瞞・虚飾・陋劣…負の遺産に
塗れたあの番組を見れば明らかだよ。裏社会で深夜、密かに放送されるあの番組…キミが
プロデュースしてるのは知ってるんだよ?ヒトを見下し、嘲り、貶めて、陥れて。流石、一流サンは
違うねぇ…ね。ホントの事話した方が身のためだよ。楽になる……ボクはね、あの子の
力になってあげたいの。だからあの子に近付いてる。ケド…オマエは違うだろ?」
「キ、キサマ…言わせて、おけば…随分勝手な物言いだな。エレクトロ・エレクトロニカ…
否。ライトニア・ヴェッセント」
「…その名前で呼ばないでって、言ったよね?」
何時如何なる時も、仄かに笑みを携えていたエリックの表情が、一瞬で崩れた。ヴァランタは、
すかさずハンディカメラを構えて動画の撮影を始める。
「ふ、良い表情だな。その通り、愛を求めている訳ではない。ワタシは与えてやりたい。
今キサマが浮かべている、虚にして無なる表情。絶望を。しかし、キサマもワタシと何ら変わらぬ。
何故ならば、キサマはあの娘を利用しようとしているからだ」
「……気付いてた、か…ま、当然だよねぇ…」
【通称】ヴァランタ
【本名】ヴァランタ・ヴィストリック
【性別】男
【種族】魔族
【年齢】35歳
【身長】207.8cm
【体重】77.7kg
【誕生日】12月25日
【趣味】証券売買
【好きな物】魔術 有能な人物
【嫌いな物】キャラが被っている大企業の社長 異種族と交じった血を持つ魔族(曰く「穢れた血」)
大手テレビ局の局長にして、同時に一流のプロデューサーで通称"ヴァレンタインP"。様々な番組を
プロデュースする傍ら、自らも"純血にして高貴なる魔術師の末裔"を名乗り、ヴァラエティ番組等に
出演している。しかし、振り撒く笑顔の裏。裏社会で深夜に放送しているとされる、ある番組では、
若干他人を見下しているとも取れる発言をしたり、有名人のスキャンダルをサラリと言い放ったりと
やりたい放題と言う噂がある。そして彼は、とある大企業社長の弱みをも握っていると言う。
一人称はボク。二人称はキミ。良く語尾が一文字だけ片仮名だったり、バ行をヴ行で
発音したりする(一人称と人名はバ行のままの模様)。普段は人を気遣い、気遣われ。貫禄を
持ちながらも飄々とした一面を前面に押し出している。しかし、仕事上仕方ないとは言え、
好意や親近感を持たない、苦手とする人物や嫌いな人物とだけで行動しなければならないと知ると、
小さな舌打ちと共に性格が一変する。その際は、一人称はワタシに。二人称はお前やキサマになり、
飄々とした口調も荒々しくなる。
「あ、ボクはヴァランタ・ヴィストリック。通称ヴァレンタインPだよ。シクヨロー★
……ノリが悪いな、そんなんじゃチャンネル変えられちまうぜ?こう言う時は、『シクヨロー』って
返すのが常識ってもんなんだよ、それが例えお世辞でもな」
「キサマ知っているか?深淵に魅せられた女は、災厄を被る。同じ奴が買うんだ。
女が絶望した時のカオを、絶望させるまでの過程を撮ったモノを」
『…絶望の顔…か。キサマ、中々に良い趣味を…しているな…』
「そう言って、何枚も何十枚も買って行く。ワタシも新しい商品を
入荷するのが大変で少々困っているんだがな」
「余計に、彼女を渡すワケにはいかないね」
「我が魔術に敵わぬと知っていても、ワタシに挑むと言うか…
やはり変わらぬ。キサマは何も変わっていないな…」
エリックはサングラスを掛け直すとナイフの先に紫電を纏わせ、ヴァランタは掌に火球を造り出す。
その次の瞬間、
「……"リリス"……」
低い声と共に、二人の魔術は解かれた。二人が、声のした方を見ると
そこには、左眼を隠した一人の男が立っていた。
「どう言うつもりかな、ドロセルちゃん」
男の名は、ドローセル・ブラットウェル…知人は皆、ドロセルと呼んでいる。彼は、エリックと
ヴァランタの争いを止める事が出来る唯一の人物。
「…どうもこうも無い…オマエ達は、周りの迷惑を考える事を知った方が良い…
…キミ達も、そう思うだろう…?」
「…キミ…何で、その子達を連れて来たの…?」
ドロセルが声を掛けると、その背後から二人の少年少女、
そして先程エマと共に帰った筈のユリウスが現れた。
「は、はい…ドロセル様の言う通り、です…
に、兄さんは、もう少しエリック様と……親睦を深めるべき、です…」
気弱な少年、ヴィクター・ヴィストリック。
「その通りなの!エリックさんもヴァレンタインさんと仲良くしなきゃダメなの!」
やや天然な少女、ヴィオレッタ・チョッカー。
「…ドロセル殿、我を呼ぶ必要はあったので……?」
そして、ユリウス・ロ・ヴェッセント。この三人は、
いずれも、エリック・ヴァランタ・ドロセルの三人と、深い関りを持つ人物だった。
「……必要があったからこそ、呼んだのだ……さあ、ユリウス…
ヴィオレッタとヴィクターを、無事に屋敷まで送ってやれ…」
「嗚呼…我を呼んだのはそのため、でしたか…」
予想外の答えに苦笑すると、ユリウスは少年少女達に向かって手を差し伸べ、「帰りましょうぞ」と
笑いかけた。ヴィクターは小さく頷いて、ユリウスの服の袖を掴み、ヴィオラもまた「はーい!」と
元気な返事をしてユリウスの手を握り、三人は去っていった。
【通称】ドロセル
【本名】ドローセル・ブラットウェル
【性別】男
【種族】人間
【年齢】36歳
【身長】192.4cm
【体重】66.6kg
【誕生日】4月16日
【趣味】"物語"を綴る事 読書
【好きな物】本 小説家 ココア
【嫌いな物】本を大切に扱おうとしない人物
深緑のローブを纏い、左眼を隠した男で、常に数冊の本を抱えている。大企業社長のエリック、
大手テレビ局の局長のヴァランタとは同期で、二人を仲裁するのは、決まって大図書館司書にして
出版社の社長である彼だ。しかし、彼等が争う原因を作ったのも、また彼である。そして、彼が
所有している本は毎日別の本だが、一冊だけ変わらない本がある。それは、"物語"が綴られた本…
…綴られた"物語"を、具現化する本。
一人称は私。二人称はキミ、またはオマエ。喋る前、アリス程ではないが少しの沈黙を作る。
しかし、その沈黙は作っているだけだ。本来は、問いに即答するような男だった筈なのだ。
「キミの名は?失礼、私はドロセルだ……ふむ、■■か…クックック…
…キミには、どのような物語を綴ろうかね……」
「…ああしてると、保父さんみたいだね…ユリウス」
「…まるで、全てを忘れてしまったようにも見える…ねー…」
「……しかし、それは決して有り得る事では無い…何故ならば、全て書かれているのだからな……」
エリックとヴァランタの呟きに、ドロセルは手にしていた本をゆっくりと開いた。有名な小説家、
アラクネアが出版した新書。三人の若者が、自分達の弟妹を救えず後悔しながら大人になり、
そしてその罪を償おうと、今からでも弟妹を救おうとする話。
『一人の青年は、非道な虐待に遭い、
愛されるために自ら心を壊し、道化を演じる』
『一人の少年は、その性格によって残酷な虐めに遭い、
己を守るため、その身の内に新たな人格を生成する』
『一人の少女は、頼れる兄が不在の内に残虐な事件に遭い、
消えた両親と兄の代わりになる人物を、盲目的に信頼する』
「人格者アラクネア…本名はエンスピル・ダル、か…謎に満ちた男だ。私が今後を綴るのに対し、
彼は過去を綴っている。全てを、知っている。誰にも話していない事でさえ、知っている」
「…エレクトロ・エレクトロニカ、か。今思えば、変わった偽名を思い付いたもんだね、ボクも…
…結構気に入ってるんだけどさ。ヴァランタ・ヴィストリック…キミはどう思う?あ、偽名の事ね」
「キミがそう思うんなら、良いんじゃない?キミだって、ボクと同じ意見でしょ?
……マリネッタ・ルーク・チョッカー」
「…懐かしい名だな。嗚呼、ライトニア・ヴェッセント。
キミが満足しているのなら、私も異議はないよ」
互いの名を、改めて呼んでみる。すると、捨てた筈であったのに
懐かしく暖かく、捨てるのが躊躇われた。
「否、私はドロセル。そう、ドローセル・ブラットウェルなのだ…立ち止まる事は、許されぬ…
…綴り続けなければならない…」
「エレクトロ・エレクトロニカ。この名を負って、ボクは社長として会社をより良くするんだ…!」
「ボクは本当の自分を捨てなかったけど…そうだな、お前達が固い信念を持ってるんなら、
協力しねぇワケがねぇだろ。何故なら、ワタシはヴァランタ・ヴィストリック……
大手テレビ局の局長にして、一流のプロデューサーだからねー☆」
「有名になったならば」
「権力を持ったならば」
「それを存分に振るおうではないか」
「「「我等が目的のために」」」
脱ぎ捨てられた虚飾の仮面を、再び被る。それは、過去から眼を背けるためではなく、
過去に向き合い、そして現在を変えるため。三人の権力者達は、スタジオを後にした。
今も尚、綴り続けられる物語の最後には、こう書かれている。
〈罪は消えない。それ故に、罰が常に背を狙っている〉
〈その背を狙うは、罪の証〉
〈手に入れた力を以て、権力者達は弟妹を救う〉
これにて完結。何度も連投してすみませんでしたぁッ!
皆様、お久しぶりです!
思い付きのものを一つ…
暗い部屋に、スーツを着た青年と
ラフなシャツの青年が向き合って座っている。
「…ゼロ・シャーウッド。1995年、
リベル塔にて…」
スーツを着た青年が立ち上がって呟くと、
目の前の青年はさらさらとペンを動かし始める。
まるで印刷物のような筆記体で、鉄のペン先が
紙を引っ掻く僅かな音だけが響く。
その流麗な文字と筆記速度の実現は、
生者のそれでは不可能である。
無論それは、【屍者】を以て可能となる。
「………フライデー」
呼び掛けに、フライデーと呼ばれた、
年若さを永遠に固定された青年型の屍者は
一瞬動きを止め、ペンを置いてから
えらくゆったりとした動作で首だけをこちらに
回す。
机に置かれた生首が自らの血に滑るように。
細部としての動きは完璧なのに、どこか
生者とは異なっている。
今指令を待って、こうしている間でさえも。
何故か停止している屍者と、死者の区別は
小さな子供にでもつく。
個体識別名…フライデー。
その虚ろな脳に運動制御用エンジンと
拡張言語エンジンを書き込まれた、二重機関の
屍者だ。
「…不気味の谷」
フライデーはこちらを向いたまま、私の発言を
活字に変えて紙へと走らせる。
連続投稿失礼します。
「さ よ な ら」
君の唇が、そこから発せられるはずである
声は無かったがそう紡いだ。
と同時に、君は屋上の縁へと走り始めた。
「待って!」
僕は必死に走るが、彼女には届かない。
たった数メートルの距離。
それが永遠であるかのように。
「ね え… し ぬ の っ て、 こ わ い ?」
彼女は、柵の外から身を乗り出し、笑う。
「……分からない。でも、死んでほしくない」
僕は彼女にゆっくりと近付く。
僕の答えに満足したのか、彼女はまた笑う。
「そ っ か… あ り が と う」
そのときの笑顔はまるで、女神だった。
その笑顔を顔に張り付けたまま、彼女は縁から
天使のごとく虚空に、飛翔した。
しばらくして、悲鳴が響く。
僕が下を見ると、血溜まりの中心で、
しかし頭が潰れたりはしていない彼女が、
眠るように死んでいた。
最後に彼女は、
「あ い し て」
と呟いていた。
僕の意識は途端に眩み、頭の奥で彼女の笑顔が
フラッシュバックする。
次の日。
僕はまた、彼女を見た。
普通にクラスへやって来て、勉強をしていた。
信じられない。あそこから落ちて、
無事であるはずがない。
…そうか、これは…罰だ。
彼女の代わりに僕が死ぬまで続く、罰。
「…薫…。」
『はいはい、どうしたん?』
恋人である綾子が、やけに悲痛な声で俺を呼ぶ。
「ねえ、私仕事で失敗しちゃったの…」
『あはは、そらしゃあない。綾子やって
頑張ってんやろ?』
俺が答えると、綾子は笑った。
「ふふ、そうよね。もっと頑張らなくちゃ…」
『せやなぁ。でも無理はせんでええねんで?』
綾子は「私、頑張る!」と元気に言って、
俺にハイタッチを求める。
『はいはい、頑張りや』
俺も手を伸ばしたが、綾子は手が触れる前に
立ち去っていってしまった。
『…何や、変な綾子やなぁ』
俺は不思議に思いながらも、近所のお婆さんに
挨拶をする。
『おはようございます』
ところがお婆ちゃんは、耳が遠いのか
返事をしてくれなかった。
『…?』
俺は家に戻るものの、お腹は空かない。
弟たちも気付いてくれない。
何故だ?
その時、外から話し声が聞こえた。
〔…大変よねぇ。ここの息子さん…………〕
〔そうよねぇ。まだ若いのに、
……………じゃうなんて〕
だがざわざわとしていて、よく聞き取れない。
『…嗚呼、そうか。俺は……
もうとっくに、死んでたんやな』
そうだった。俺は綾子を庇って、
車に撥ねられて死んだんだった。
何故こんな大事なことを忘れていたんだ?
綾子が心配で、成仏できなくて…。
『…幸せになりや、綾子。俺はいつでも
見てるから』
明日、6月2日は我が家の料理長の誕生日、なので…料理長のお話を一つ。
■■には、ご自分のお名前を置換してお読みくださいませ。
『狂ってしまう』
ゆっくりと時間を掛けて、男は手にしたそれを丹念に磨く。男…キドルの相棒。
彼が、異形館で料理を手掛けるのだと決まった時、異形の医師が贈呈した巨大な肉切り包丁。
「…これで、仕事、に…取り掛かれる~…」
蝋燭に灯った炎が揺らめく。並みの人間には到底ない怪力を用いて、包丁を持ち上げる。
それはまるで鏡のように磨かれ、彼の象徴とも言える、頭部の蝋燭を映し出していた。
「やあ、Mr.キドル。調子はどうだい?」
「俺、は上々~…G、こそ…どうだ…?」
厨房に向かおうと、部屋を一歩出た瞬間に、天秤頭のジジャと鉢合わせる。秤を動かしながら、
彼は屋敷の玄関の方角を指差し、和やかに言った。
「勿論!僕も上々だよ。ところでMr.キドル。丁度"彼女"がやって来たようだが、どうするんだい?」
「!!…感、謝…後で、好き、な物を…御馳走する~……」
「それは、嬉しい話だね。では!金と愛と友情と、その質量は全て等しく同じ、同じ。
ゆらゆら揺れて、ストンと落ちる。ここらでお別れだね。金と愛と友情と、その質量は
全て等しく同じ、同じ。ゆらゆら揺れて、ストンと落ちる。金と愛と友情と…」
「耳、に…残る歌…」
舞うように去ったジジャを見て、キドルはポツリと呟いた。そして、厨房に向かい、
冷蔵庫を開けて食材を取り出す。
「今日、こそ…作、れる……一世、一代の…自信、作~…」
ブツブツと呟きながら、キドルは千切りにした玉葱を鍋に投入する。もし、彼の表情を
読み取れる人物がいたならば、きっとこう言うのだろう。
非常に嬉しそうだが、何を企んでるんだ?と。
「今日こそ覚悟して貰いましょうかね人間様ァ!?」
「無理無理無理、絶対無理ーーーーーーーーーーーー!!」
「…騒がしい…料理、が…不味くなる~…」
粗方スピーカー頭のラウディスピックが"彼女"を見つけてしまったのだろう。怒号と絶叫、
そして走り回る足音が厨房まで響き、キドルは静かに愚痴を零した。
「あっ、テメ、そこは卑怯だぞ!」
ラウディスピックのその一言を最後に、屋敷中に響き渡っていた音が止む。
「ど、どうなっても知りませんからね。僕は悪くありませんから。
そ、そうですよ。アイツの仕事場に入ったお前が悪いんですよ…」
ラウディスピックは、怯えた様子で呟くと、周りに誰も居ないのを確認してから、
逃げるようにその場を去った。
「…やっと…静か、に…なった~……」
一方厨房では、キドルが仕上げをしようとしていた。彼が再度包丁を振り下ろしたその時、
背に強い衝撃を受けた。
「………」
液体がそこから溢れ出て、足元に水溜まりを作る。ゆっくりと背後を振り向けば、
そこには"彼女"が、■■がいた。
「あ、あの、えと。ご、ごめんなさいキドルさん、お仕事中とは知らなくて…あの、その…
け、怪我、しちゃいましたよね。大丈夫、ですか…?」
未だ混乱しているのか、それとも今だから混乱しているのか。どちらにしても、
今のキドルにとっては変わらなかった。
「…手元、が…狂った~……」
包丁を振り下ろした瞬間に背中に衝撃を受け、位置が若干左に寄った。つまり、具材を押さえる
左手の上に、包丁が振り下ろされた。敏感なキドルは、咄嗟に振り下ろした腕にブレーキを掛け、
食材を押さえていた手を引いた。とある物さえなければ、キドルの指は傷付かずに済んだだろう。
だが、地球上の全てはそれに逆らう事は出来ない。そう、重力だ。重力さえなければ、切れなかった。
「……イタイ……」
今も尚、キドルの指からはドクドクと血が流れ落ち、彼の隣では■■が慌ててポーチを漁っている。
キドルは痛みに耐えながらも調理を続けていたが、不意に動きを止めた。何事かと思い、■■が
彼を見やろうとした刹那、停電が起きた。
「ひゃ!な、な、な…何で、このタイミングで停電が…っ!?そ、そうだ、キドルさんの蝋燭…!!」
暗闇の中、手探りでライターを探していると、微かな明かりが灯る。同時に、強い力で腕を
掴まれた。突如腕を掴まれた事に驚いた■■が、恐る恐る振り返ると…
「責任、は、取って貰う、ぞ~………」
そこには、前髪で目を隠し、コック帽を被った、長身の男が居た。コック帽の上部には、
蝋燭が付いていて、そこでは炎が淡く燃えている。■■が慌てて辺りを見渡すと、
そこにキドルの姿は無かった。
「え、あの、責任って…それに、あなたは、誰ですか?キドルさんをどうしたんですか!?」
「責任、は…責任~…」
早口で捲し立てる■■の口に、男は左手の指を数本捩じ込んだ。同時に、逃げられないよう右手で
彼女の後頭部を押さえ込む。あまりに突然の事に、■■は混乱し、目を瞑って思考を巡らせた。
(何、この臭い…錆臭い…それに、鉄みたいな味もする…ひょっとして、この人………キドル、さん…?)
薄らと眼を開くと、目の前の男は満足そうな、嘲るような笑みを携え、■■が自身の指を舐めるのを
眺めていた。ゾク、と寒気が■■の背筋を駆け抜け、身体中に危険信号を送る。そんな彼女の心中を
知ってか知らずか、男は彼女の口から漸く指を引き抜いた。唾液はまるで蜘蛛の糸のように引かれ、
蝋燭の光に反射して、雨露のように輝いていた。彼方に飛んでいた■■の意識を戻したのは、
背に感じた鈍い痛みだった。
「今日は俺の誕生日~…欲しいのは、一世一代の最高作だけ~…」
「ちょ、何するんですか…!?」
男の後ろに、蜘蛛の巣が張った、くすんだ天井が見える。どうやら、床に押し倒されたらしかった。
男のブロンドの前髪の隙間から覗く紅い瞳が、爛々と輝いている。男は■■の腕を押さえ付け、
あろうことか小さな彼女の身体に馬乗りになって、彼女のシャツの裾を軽く捲り上げる。
「言った筈だ~…俺が欲しいのは、一世一代の最高作…作るには、最高の材料が必要……そうだろう?」
男が邪気を含んだ笑みを浮かべるのと同時に、■■は意識を失った。
「■■…俺はまた、狂ってしまう…な…だが、全部お前の所為…お前、の所為で、
俺も、俺の手元も狂うんだ……」
出来上がった料理を食べながら、男はボソリと呟いた。
ええ、■■がどうなったかは御想像に御任せしますよ。
(彼女の言う《白い監獄》とは何処なのか。
優くんは何故、彼女を抱き締めたのか。
彼女は、監獄を出てからどうなったのか。
考えてみてください!)
篠原海里(しのはら かいり)sideーーーー
ここは、白い監獄だ。
私は監獄のベッドで目を覚ます。
腕に繋がれた鎖も、掛けられた毛布も。
小さな鉄格子の小窓から見える、綺麗な海も。
殺風景な部屋も。
何も、昨日と変わらない。
看守たちの話を盗み聞きしたところによると、
私はもう少しでこの監獄を出られるらしい。
監獄を出られたら、何をしよう。
待たせっぱなしのあの子に会いに行かないと。
美味しいご飯も食べたいな。
綺麗なお洋服だって着たい。
ピンクの服を着た看守が、扉をノックする。
《貴女に面会よ》
看守がドアを開けた。
そこには、あの子がいた。
私がずっと待たせていた、優くんが。
「何で君が?」
私が問い掛けると、彼は私を抱きしめた。
『良かった』とだけ言って。
《面会時間は5分よ》
看守がそう言ったのも、
聞こえていないようだった。
「苦しいよ、放して」
私が笑いながら言うと、彼は
『ご、ごめん!』
と言って、私から離れた。
「ねえ、私、そろそろここを
出られるんだって。出られたらさ、
海を見に行こうよ」
『そうだね』
私が思い描いていた計画を話すと、彼は
笑いながら聞いてくれた。
「あの人たちね、私がそろそろ
《ここから立ち去って、海に行ける》って
言ってたの」
私がこう言うと、彼の顔が真っ青になった。
『海に…って』
「どういう意味だろうね?」
彼は、私をまた抱き締めた。
『…海里…僕を置いていかないで……っ』
ぐすぐすと、泣いているみたいだった。
「大丈夫だよ、私は居なくならないよ」
私は彼の背中をぽんぽんと叩く。
『…本当に?』
「うん、約束するよ」
私は彼と指切りをしてみせる。
《時間は終わりよ、出ていってちょうだい》
看守が彼を呼んで、彼は看守と一緒に
出ていった。
次の日、私は看守に言われた。
《海里ちゃん、貴女は安心して寝ていて
良いのよ》
「本当ですか?」
《ええ、本当よ》
看守は何故か、泣きながら頷く。
私が安心して目を閉じると、何だか周りが
騒がしくなった。
耳には、看守たちの声が聞こえる。
《医務長を呼んできて!》
《体調が急変したわ!》
うるさいなぁ。そう思いながらも、
私は寝ていた。
急に目の前が開けて、私は海に居た。
あの小窓から見るよりも、ずっと大きな海。
…そうだ、優くんはどこにいるんだろう。
私は優くんを探した。
でも、どこにもいなかった。
海面を見ると、優くんがいた。
優くんのお家だろうか、部屋で優くんが
首にロープを掛けようとしているのが見えた。
「……優くん、ダメっ!」
私は懸命に叫ぶけど、優くんには
聞こえていないみたいだった。
優くんは笑顔で、そのまま、
首にロープを掛けて、椅子を蹴った。
ゆうくんのからだが、ものみたいにゆれた。
ぶらぶら、ぶらぶら。ふりこみたいに。
ただゆれていて、わらってた。
私がその場にへたり込むと、後ろから肩を
叩かれた。
優くんだった。
いつもみたいにニコニコ笑ってた。
なあんだ、やっぱりあれは違う人だったんだ。
私は優くんに聞いた。
「優くん、来てくれたの?」
『うん。海里に会いたかったから』
(彼)暁優(あかつき ゆう)sideーーーー
僕は、彼女のいる監獄に来ていた。
看守さんに受付をしてもらって、
彼女の独房へと連れていってもらった。
久々に見た彼女は、頭に包帯を巻いて少し
やつれてこそいたものの、元気そうだった。
『何で君が?』
あの綺麗な声も、何一つ変わっていなかった。
「良かった」
僕はそれだけ言って、彼女の小柄な身体を
抱き締めた。
看守さんが何か言った気がしたけど、
分からなかった。
『苦しいよ、放して』
彼女が笑いながら言ったので、
「ご、ごめん!」
僕は急いで離れた。
彼女はそれがおかしかったのか、また笑った。
『ねぇ、私、そろそろここを
出られるんだって。出られたらさ、
海を見に行こうよ』
「そう、だね」
僕は彼女の計画を笑いながら聞いていた。
彼女は、こんなことを言った。
『あの人たちね、私がそろそろ
《ここを立ち去って、海に行ける》って
言ってたの』
海に行ける。その言葉が、刺さった。
「海に…って」
『どういう意味だろうね?』
僕は思わず、彼女をまた抱き締めた。
「…海里…僕を置いていかないで……っ」
僕はぐすぐすと情けなく泣いていた。
彼女が僕の背中をぽんぽんと叩き、言った。
『大丈夫だよ、私は居なくならないよ』
「…本当に?」
『うん、約束するよ』
彼女はその細い小指を僕の小指に絡め、
指切りをする。
《時間は終わりよ、出ていってちょうだい》
看守さんに言われ、僕は看守さんと一緒に
彼女の独房を後にした。
次の日、僕は…自殺した。
監獄から、《彼女が海へいった》との連絡が
来たのだ。
急いで監獄に行って独房を確かめたけど、
彼女がいた場所はぽっかり空いていた。
僕は家に帰ると、ロープを天井に掛けた。
椅子を用意し、ロープの輪を首に掛けた。
椅子を蹴ろうとしたその時、微かに聞こえた。
《……優くん、ダメっ!》
彼女の声に、ひどく似ていた。
僕は頭に浮かんだ考えを打ち消す。
彼女を守ってやれなかった僕に、彼女が
そんなことを言ってくれるはずはない。
だから、僕は…満面の笑顔で椅子を蹴った。
「………すぐ、そっちにいくよ」
息は少し苦しかったけど、気にならなかった。
彼女の居る場所へと、行くためなら。
僕は視界が開けて、海に居た。
向こうに、座り込んだ彼女が見える。
僕は走り寄って、肩を叩く。
彼女は安心したように笑って、僕に聞いた。
『優くん、来てくれたの?』
「うん。海里に会いたかったから」
僕は、笑顔で答える。
首のロープ痕は、きっちり隠せていたかなぁ?
超絶お久しぶりです。新キャラさん(ヤンデレver)とウチの子夢主さん(デフォルト名エマ)との短編を一つ投下いたします…
「おはようございます、エマさん。今日も素敵ですね」
エマの耳に、やや中性的な声が響いた。ぽろぽろと涙を溢れさせ、エマは必死に何かを伝えようとする。
「?一体どうし…嗚呼、失礼しました…ふふ、これじゃ喋れませんよね。ですが、あなたの声を私以外に聞かせたくありませんから。外に出る時は我慢してくださいね」
エマの口に巻かれていた布が外される。何も見えないから怖い。と零すエマに、彼は嬉しそうに言った。
「くすくす、何を言ってるんですかエマさん。私以外を見る必要なんて、ないじゃありませんか。嗚呼、しかしこれでは私も見えませんよね。すみません」
エマの視界を遮っていた目隠しが外される。目隠しを取って初めて見たのは、エマの自室であり、いつもと違うのは四肢のないマネキンの彼がいる事だけだ。
「ふふ、驚きましたか?贋作ではなく、本当にエマさんのお部屋ですよ…ええ。あなたがずっと使ってきたあのお部屋です」
長い間敵だと認識されていた彼がエマの部屋に入るのは容易な事ではない。しかし、彼の身体を見ても傷付いた様子は見られない。
「どうして?そんなのどうでも良いじゃありませんか。大事なのは、私とあなたが同じ空間にいる、それだけです」
一種の恐怖とも、狂気とも呼べる何かを感じたエマは、部屋の外へ続く扉を開ける。しかし、廊下に出た直後、エマの身体は壁に押し付けられた。
「…何故。何故私の話を聞いてくれないんですか?それどころか、あなたは私の目を見ようともしてくれません……一体何故?」
エマの手首を抑え付け、[削除済み]はエマの目を覗き込む。エマが[削除済み]から逃れようと顔を逸らすと、彼はエマの顎に手を添えてそれを優しく持ち上げた。
「あなたは何も考える必要はない。何をする必要もない。ただ私を見て、私の声を聴いて、私の"演奏"を称賛して……そして、私の愛を感じてくれれば良いんです」
エマの唇に、無名の指揮者のそれが触れる。ヒヤリと冷たいそれは、彼がマネキンである事を何よりも物語っている。
「あなたは聞き分けが良いお人です。私の大好きなお人。ですから、お部屋に戻りましょう?ね、エマさん」
彼の言葉に納得しきった訳ではないが、褒められれば嬉しいものでエマは部屋の中に戻る。
「……きっと、これを見ればあなたは幻滅するでしょう。その前にあなたを私で埋め尽くして、私以外の事は忘れさせてしまえば良い。私色に染めてしまえば良い。私がいないと生きられないようにしてしまえば良い!!嗚呼、エマさん。愛しいお人。早く堕ちて貰いたいものですねぇ…♪」
己には視えない紅に染められた廊下を一瞥すると、指揮者はエマの後を追って部屋へと戻った。
【通称】無名の指揮者
【本名】[削除済み]
【性別】男
【種族】マネキン
【年齢】27歳
【身長】175.6cm
【体重】55.7kg
【趣味】舞台鑑賞
【好きな物】舞台芸術 人間
【嫌いな物】人類を滅ぼさんとする者
白い燕尾服に、白い肌、縛れる程の長さの白い髪と、頭の天辺から足の先まで白いマネキンで、
舞台に携わった無数の人物の魂が宿っている。その所為か、舞台に関する事には非常に強い
興味・関心を示し、その能力も舞台関連のもの。四肢がなく、1本の支柱によって身体を
支えている。また、腕はないが手はあり、普段は燕尾服の中に収納している。
一人称は私。二人称はあなた。どんな相手に対しても敬語で話す物腰の柔らかい性格だが、
とある言葉を聞くと、少し機嫌が悪くなる。
以下ヤンデレver(相違点のみ)
【趣味】エマを愛する事
【好きな物】エマ 舞台関連のもの
【嫌いな物】それ以外全て
お 久 し ぶ り で す !!!
え ー と、は……え?? ええと何かもうその一言で言うと凄いなッて …… ( 語彙 )
小説も設定もいいです …… ヤンデレごちそうさま …… !
[削除済み]さん、外見は白く内面も白いように見えるんですけど …… ちょッとだけ黒さが見えるのは私だけかな …… ?? ( )
取り合えず好きです。好きです。好きでs ( ry ) ( 好きです )
[削除済み]「私は初めまして、ですよね。ふふ、初対面でもそう言って戴けて、私も嬉しいです。お礼と言っては何ですが、黙示録の歌でもお聞きに「待て待て。黙示録はあかんから」………チッ」
そうですね! えッ嬉しいn …… ん ~ ? あれ ~ ? 何か黒い部分が見え隠れした …… ような …… 気が …… ((
あッそうそう、後でうちの子の設定とともに小説を載せる予定です ー 。
楽しみにしてまっす!!あ、[削除済み]さんの容姿がこちらですね。へへへ…
https://i.imgur.com/e0h0Wyv.jpg
以下[削除済み]さんに言わせたい台詞集、台詞の後の()は妄想用シチュ(一応夢小説なので名前は■■スタイル)
「はぁ…はぁ……っ…どうしましょう、■■さん………あなたの事を考えるとっ……無い筈の心臓が、ドキドキしている気がして……わた、私…は、壊れてしまったんでしょうか……?っふ、ぅ、苦し、い……胸が、苦しいです……助けて、ください。■■さん……」(滅茶苦茶切羽詰まった感じで。出来るだけ息荒げて。エッッッッッッな雰囲気にしてやりたいし、そのままそんな展開になれ)
「■■さん。私は常にあなたの事を考え、あなたのためを思い、あなたのためだけに行動してきました。なのに、■■さんは私以外に会いに行くし、私以外に笑顔を見せるし、私以外に愛されている……何故?何故私以外の者と会うのですか?ねぇ、私じゃ駄目なのですか?あなたを満足させる事は不可能なのですか?こんなに…こんなに、愛しているのに…っ」(拳を握り締め、唇を噛み締め、けれど何処か諭すように。ヤンデレ度全開で。「抵抗するなら」と、手錠だろうが何だろうが持ち出してこい)
「……私は、指揮者です。指揮者とは、物事に生命を吹き込む魔術師であり、魂を呼び寄せる祈祷師である存在」-Adagio-「私は……ただの、創られた、もの。どうやったって、本当の生命にはなれない」-Largo-「偽りの生命で出来た私は、本当の生命を生み出す事も出来ない。しかし…」-Andante-「…でも…嗚呼、私は……■■さんの、一番になりたい」-Moderato-「あなたの騎士になりたい」-Presto-「あなたを、■■さんの"騎士"と言う名の特等席で、音楽を奏でたい…!」(無名の指揮者のために、■■のために今、幕が上がる。緩慢な様子で流れていた音楽は、一度更にその速度を遅くすると、段々と確実に速くなって行く。嗚呼、今、終曲-フィナーレ-が鳴り響き、■■の脳内には音楽が溢れ返る事だろう)
容姿ぃ …… !! 好きです!!!
セリフもシチュもいいですね …… いやあほんとおいしいです。さッきのヤンデレとはまた違ッたおいしさですね!
水面と申します。
赤ずきん
昔、昔。これは、そんなありきたりな言葉で始まる、皆がどこかで知っている、でも誰も知らない物語だ。
彼に名前はなかった。誰もがその名前を忘れてしまったからだ。
彼はいつも頭巾をかぶっていた。その下ではとても端整な顔立ちをしているのだが、自分に向けられる好奇の目が心底嫌いで、滅多に他人に顔を見せようとはしなかった。それは彼の透き通るような肌がよく映える、恐ろしく鮮やかな赤色の頭巾だった。
そのため、彼は名前の代わりに『赤ずきん』と呼ばれるようになっていった。
ある日、赤ずきんはおばあさんの家へお見舞いに行くため、パンとワインを放り込んた籠を持って森の中を歩いていた。狭い道をずんずんと進む。日が傾くにつれあたりは段々と暗くなり、夜空にぽっかりと浮かぶ満月だけが、進むべき道を静かに、蒼く照らしていた。
そうしてしばらく歩いていると、突然畦道は途切れ、開けた空間に出た。赤ずきんは足を止めた。夜の薄闇の中に広がるのは、広大な花畑だった。
そこに咲き誇る色とりどりの花々はこの世のものと思えないほどの美しく、赤ずきんは思わず目を奪われ、感嘆の声を上げた。そして、この花を持っていけばおばあさんも喜んでくれるのではないか、と思い立って、笑みを浮かべながら赤い花の前にちょこんと座った。淡い月明かりを夜露が反射する花畑の中心で、赤ずきんは一輪一輪、丁寧に手折っていく。
手元が花でいっぱいになったときだった。
「やあ、赤ずきん。どこへ行くんだい?」
低い声が静けさを破った。
赤ずきんは、静かに、時間が正常に動いているのか不安になるほどゆっくりと、振り返った。
「こんばんは。オオカミ」
ぼさぼさの銀の毛並みに、満月のように金に輝く瞳。裂けたほど大きな口に、大きなお腹。そこらの村人ならば途端に逃げ出してしまうような、巨大で恐ろしいオオカミが、木に背を預けてこちらに微笑みかけていた。
「今日は満月だったから、会えると思ってた。僕は今、おばあちゃんの家へ行くところだよ」
赤ずきんは怯える素振りもなく、にこにこと嬉しそうに答える。
「そうかい。それはいい」
オオカミもそれを真似するように口角を上げたが、とても笑顔と言えるものではない、醜悪な表情をしていた。それすら気にも留めない赤ずきんは、立ち上がってオオカミに問うた。
「君も、一緒に来る?森は一人じゃ危ないし」
「いいのか?」
どうやらオオカミは少なからず喜んでいる様だ。
「もちろん!君と僕の仲じゃないか」
「じゃあ、ご一緒させてもらうよ」
奇妙なことに、赤ずきんはオオカミと一緒におばあさんの家へ向かうことになった。すぐ隣には恐ろしいオオカミがいるというのに、赤ずきんはのんきに鼻歌なんか歌っている。
オオカミは聞いた。
「なあ、赤ずきん。なぜ歌を歌っているんだ?」
赤ずきんは答えた。
「それは、君に会えて嬉しいからさ」
「そうか……」
オオカミは少し照れくさそうだった。
またしばらく、道を歩いた。
オオカミは問いかけた。どうしてかは見当もつかないが、何故か今、オオカミの腹の内は目の前の少年への疑念に満ちていた。
「なあ、赤ずきん。なぜ俺が怖くないんだ?」
赤ずきんは答えた。
「それは、君ともう何度も出会っているからさ」
オオカミはもう一度聞いた。もう既に、オオカミは違和感に気付いていた。
「なあ、赤ずきん。いつ、俺と会ったんだ?」
赤ずきんは歩みを止めた。
「それはね、オオカミ、
いろんな場所で、さ」
「……いろんな、場所……?」
オオカミには言葉の意味がわからなかった。
「そう、僕は憶えているよ」
「何を……だ?」
森の木々が、ざわざわと音をたてる。風が、肌を冷たく撫でる。
「君が、僕を食べたこと」
「どういう、ことだ」
「憶えているよ。君はチョークを飲んで声を変えて、母親のフリをして家に入った。君の歯で骨が砕かれる感触を、今でも憶えているよ」
「何を…言っている」
「君が僕や兄弟の家を吹き飛ばして、僕も僕の兄弟も、皆食べられてしまった。君の喉を通っていく感覚を、鮮明に憶えているよ」
「違う、俺は……!」
「憶えているよ。君が僕をさんざん利用して、結局お腹が空いて、僕を食べたことを。君の胃液で溶ける感覚を、確かに憶えているよ」
赤ずきんの底冷えした冷淡な瞳は、オオカミの目をしっかり捉えていた。
「ね、君も知っているはずだよ」
「違う……」
「本当なら、質問は僕がするんだったよね」
「この話は、本当なんかじゃない……」
赤ずきんは微笑みを浮かべた。それはそれは美しく、それはそれは恐ろしい笑みだった。
「ねえ、オオカミさん?どうして君はそんなに食いしん坊なんだい?」
オオカミの喉が、ひゅっと情けなく鳴った。
「やめろ!」
反響した咆哮に、森は波を打ったように静まり返った。
赤ずきんは相も変わらず不気味で狡猾な笑みを浮かべている。
「それは…お前じゃない……赤狐だ」
オオカミは怯えとも、怒りとも取れる表情を見せていた。
赤ずきんは、より笑みを大きくした。
「違うよ。赤狐達が、僕なんだ」
赤ずきんは、また歩き出した。足音一つ立てずに。
オオカミは、一歩後ろからついていった。
静かな森の中を、ただ歩いていった。もう、二人とも話をしようとはしなかった。
延々と続いているように思えた道も、そろそろ終わるようだった。
「さあ、着いたよ」
そこには小さなレンガ調の家と、井戸が一つあるだけだった。沈みかけの満月がスポットライトになって、この場所だけを薄闇に映し出していた。
「じゃあ、ここまでだな」
「……」
赤ずきんは黙して、ただオオカミを見つめていた。
「家には、入らないのか?」
オオカミは、どこかでわかっていた。
「うん。もう意味ないからね」
赤ずきんは、もうおばあさんに会う気はない。
「なんでだ」
「僕は、知っているよ」
赤ずきんは、知っている。
「君はもう、猟師さんを、食べてしまった。」
もう、自分が助からないことを。
「そうか。……おばあさんは、どうした?」
「……もう死んでると思うよ。一昨日のお菓子に、毒を混ぜたから」
オオカミは、あろうことか、赤ずきんを食べたくないと、そう思っていた。赤ずきんの切ない横顔は、あまりにも美しく、あまりにも哀れだった。
「……赤ずきん……」
オオカミがそっと手を伸ばそうとしたとき、一瞬にしてその横顔は歪み切り、全く逆の表情を映した。
「……フフッ……アハハハハッ!」
オオカミは伸ばしかけた手を戻した。
「な~んてね。全部嘘。全部ホラ話さ。」
嘘…?そんなことあるか。オオカミはどうしてもわからなかった。あの悲しそうな声も、あの切ない横顔も、全て嘘だなんて、ありえない。それなら、人間は、いや、この世界は、あまりにも醜悪だ。
「……お前は……本当は一体誰なんだ?」
オオカミの問いに、赤ずきんは不敵に笑った。
「……さあね?でも、しいて言うなら、僕は……オオカミ少年さ。」
オオカミの中で、全てがつながったような気がした。
「お前は…これからどうする気だ?」
どうなっても、オオカミは受け入れられる気がした。
「そんなの、決まっているじゃないか。」
「朝が来る前に、君を、殺す」
わかっていた。
自分は罪を犯してきた。当然の罰だ。
「……そうか、仕方ないな」
オオカミは、もう、死ぬのを怖いとは思わなかった。
「……君を、殺す前に、言っておきたいことがある」
言われることは恨み節だろう。でもオオカミはそれでもよかった。赤ずきんの声を最後に聞いて**るなら、それで。
「何だ」
赤ずきんの表情は、見えなかった。
「……君は、前回の話で、僕を殺さなかった。まあ、あの話は、君が死なない話だったからだと思うし、町の人は皆死んじゃったけど」
オオカミは、静かに話を聞くだけだった。
「それで、僕は初めて物語の後日談を生きることができた。そして、僕は初めて孤独を知った。たったひとりで生きるつらさを。
……そして、君が毎日あんな苦しみを味わっていることを」
オオカミは、驚いた。
「……それで?」
でも、理解された様な気がして、嬉しかった。
「……もしかしたら、僕は少しだけ、君に同情したかもしれない」
「……それは、ありがたいな」
オオカミは照れくさそうにそう言った。
「それじゃあ、目を閉じてくれ。オオカミ」
言われるがまま目を閉じた。
オオカミの毛むくじゃらの手に、赤ずきんの小さく、冷たい手が触れた。赤ずきんはオオカミをぐいぐいと引っ張っていく。オオカミはその行動を不思議に思ったが、黙って言う通りにしていた。
「目を開けていいよ」
目を開くと同時にオオカミは手を引かれた。どうやら落ちているようだった。
「……じゃあ、落ちようか。君はこの物語で、井戸に落ちて死ぬのだから」
オオカミは、自分が死ぬのはもう怖くなかった。
でも、赤ずきんのことは死なせたくなかった。
「だめだっ!待ってくれ!」
赤ずきんはオオカミの悲痛な願いを聞き入れない。
それに、もう、遅い。
「……でも、独りは寂しいでしょう?だから、
一緒に、落ちよう。」
二人は落ちる。
ずっと落ちる。
でも、それは二人が歩いてきた道に比べればとても短いものだった。
オオカミが最期に見た赤ずきんの表情は、笑顔だった。
この世の何よりも美しい、笑顔だった。
山の端から顔を出した朝日が、井戸の中を一瞬、淡い金色に染めた。
ん"っ……水面様の作品を久々に読みましたが、やはり至高……
[無名の指揮者と難聴ちゃん。盲目さんの騎士は忠告する]
「~♪……おや、■■さん…来ていたんですね」
何時ものように指揮棒を振るい、私は身体の中から音楽を響かせる。
手慣れた作業をするのに、視覚から得る刺激は必要ない。私は、目を閉じた。
しかし、小さな声で「指揮者さん」と私を呼ぶ声が聞こえれば、もう目を閉じる必要はない。
指揮をする必要も、ないのだから。
「指揮者さんの演奏は、きっととても素敵なものなんでしょうね。私も聴きたいなぁ」
彼女の笑顔が、私の変化するはずも無い表情を綻ばせる。しかし、同時に彼女の言葉は私を苦しめる。
「―――すみません、調子が優れなくて……■■さんが折角来てくれたのに申し訳ない。風邪かも知れませんから、今日は帰って戴けますか?」
勿論嘘だ。無機物である私は、体調を崩さない。身体が崩壊する事はあっても、体調を崩す事はない。
しかし、■■さんは何も知らないのだろう、疑う事なくそれを信じた。
少し名残惜しげな、残念そうな顔で「また来ますね」と言うと、手を振って帰って行った。
嗚呼、申し訳ない限りだ。彼女がいるのに、演奏をしてしまうなんて。
かつて聞いた事がある。あれは、■■さんと私が出会って間もない頃。
私がここに住むようになってすぐの頃。住人達に挨拶をして回っていた際に、
ファウスト医師から聞かされた事。
「ファウストさん、あのお人が返事をしてくれないのですが……」
「…■■さんは、殆ど耳が聞こえないンですヨ。無視している訳ではないンですけどネ。私の見解では、あれは過度なストレスから発症した若年性難聴と思われます……って言う訳で!彼女の事、よろしくお願いしますネ!!」
そう言って、逃げるようにその場を去ったファウスト医師。追いかけようにも、
脚の無い私は走る事が出来ない。否、出来なくはないが、その下準備に時間が掛かる。
仕方がないので彼女の隣に立ってみるが、当時の■■さんは私を横目でチラリと見ると、
読んでいた本に視線を落とした。
―――嗚呼、可哀想に。きっと、何年も前からこの状態なのでしょう。
―――あまり良く聞こえなくて、聴きたくて。しかし現実が非情で。
―――全てから目を背け、耳を塞ぎ、誰にも心を開かない。誰も、信用できない。
「……成程。壊れた心の修復ですか。私への挑戦とお受けしますよ、ファウスト医師…」
―――音楽は時に、人を狂わせる。しかし、逆に言えば人を癒す事もある。
―――今回は、癒す力を使って彼女の心を開かせれば良い。
―――ただ、それだけの事。
それだけの事、だったのに……何時からか、私は彼女に会いに行く事を楽しみにしていた。
急用で会いに行けず、申し訳ない事をしたと思っていた矢先、
彼女が私の元を訪れて、私の胸が高鳴った。
嗚呼、異常だ。私はただ、舞台芸術のために全てを注いだ異形の筈なのに……私は…
私は彼女に情を抱いてしまった。
少しは心を開いてくれたのか、■■さんは時々ではあるものの、私の元を訪ねるようになった。
嗚呼そうだ、ここで"呪具"としての本領を発揮しよう。二度とあなたの心が壊れないように、
呪いを掛けよう。あなたを守るための呪いを。
私が指揮棒を大きく振るうと、淡色の光が彼女の耳を包み込む。
そうして、私は■■さんを守る"騎士"となった。
「では気を取り直して……おや?」
私が目を閉じて指揮棒を振り上げるのと同時に、ガチャリと部屋の扉が開く音がした。
「どうしたんですか、■■さん。今日はもう帰ったんじゃ『随分と平和呆けしているようだな、シャーデンフロイデ』……何だ、あなたでしたか」
目を開くと、黒髪でスーツを着た男が立っていた。かつての私の同胞だ。
『何だ、ではないだろう。呪具としての使命も全うしないガラクタ如きが』
「失礼ですが、その言葉はそっくりお返ししますよ。マレディツィオーネさん…私より先に役目を放棄したツルハシ風情が、何を言うんですか」
『……所詮動けもしないマネキンが生意気な…脳髄かち砕いてくれようか………っと、違う違う。今日はそんな事は如何でも良い………シャーデンフロイデ。貴様に忠告だ。"騎士"としての私からの忠告だ。如何なる形であろうと我が主を傷付けた際には、問答無用でその心臓部を破壊する。覚えておけ』
主、と言う事は、あの盲目の女性だろう。一度相対したのを覚えている。
「では、私からも一言……どんな理由があろうと、■■さんを傷付けるようであれば私は放棄していた使命を全うする。その所為で私が壊れようと、全人類が滅びようと、構わない。何故なら私は黙示録のシャーデンフロイデ。呪具としての本来の力は、あなた以上である事をお忘れなく」
指揮棒を振るうと、魂魄の響きに乗ってゆっくりとした歌唱が響く。
途端に顔を顰め、マレディツィオーネさんは踵を返して部屋を出た。
沈黙交響詩第16番、第1楽章演奏開始。
あ ー …… 好きです …… !!
水面様の作品では赤ずきんちゃんが結構怖い。でも好きです。ちょッと別の童話も入ッてるのも色々考え深まッて面白いです。よすぎてにやけましたすみません。( )
御鏡様の作品ではほんとすげェッてなりました ( 語彙 ) 。お話が …… 色々しゅき …… 、難聴ちゃん可愛いなあ ……
それからお待たせしましたぁ …… 深夜テンションで書いたものを多少修正したものです。色々察してください。
・
深夜。
空が真っ黒に染められ、満ちた月と星が輝いている。
昔は月も星も夜も嫌いだった。でも今は違う、最高の夜だ。最高の夜が、始まった。
今日から夜の全てが好きになりそうだ。それほど今日は大切な日……姫も従者も、仲間も揃った。準備も整ったから、後は私が進めるだけ。
皆を、動かすだけ。
「どうしてっ……!」
するとここで、従者の……彼の、消え入りそうな声が響く。他の皆も唖然とした顔で見つめるか、憎悪に満ちた目で睨んでくるか、呆れたような表情を浮かべていた。
ああ、『これ』だ――『これ』を、ずっと、待っていた。
己の瞳は三日月のように形を変え、口角が歪みを持って上がる感覚があった。
なんて楽しいんだろう。
「……あは。私がいつ、鬼様に従うと言った? 大多数の人はそうかもしれないけど、私は違うんだよ。わかってるんでしょ、キハク!」
わざわざ問いかけんな、ということを含めて無邪気な風に言葉を返す。
自国を含めて五つの国は基本鬼に従い敬う。だが『基本』だ、例外もいる。その例外に当てはまるのが私。ましてや私は姫。それに皆の性格。さっきのような反応するのも分かってた。
想定内で何かつまらないものも感じるけど、楽しいならそれでいい。
心の中で楽しさがどんどん募っていく。きっと私の表情は笑顔だけれど歪んでいるのだろう。
「……反逆者。あなたは前から姫らしくないとは思ったけれど、まさかこれまでとはね。失望しましたわ」
わざわざご丁寧に扇子を持って口を隠し、眉を寄せてはつり上がった青い瞳でこちらを睨んでくる青姫サン。あからさまなところがまた面白い。
――反逆者。基本的鬼様信仰なのだが、少数それを拒む人がいる。
そんな人たちが集まり、やがて反逆者と呼ばれるようになった。
反逆者の詳細はほとんど知られていない。まあ現に私が反逆者とばらしているのだけど。
「それはありがとうごさいますぅ。だけどこちらにも色々事情はあるのよ。そもそも『色鬼』なんて馬鹿げてる。あんな鬼に何故従うの?」
にっこりと笑ってみれば顔を真っ赤にしたものが数名。
儀式名『色鬼』、別名『色姫争奪戦』は簡単に言えば一定期間鬼に姫を捧げるということ。目的は魔力補給。……表向き、は。
だけれどこれを知らない姫の方々は裏切ったように聞こえるらしい。鬼も酷いよね、伝えないなんて。
「なっ……! 失礼ですよ、貴女! 鬼様はとても尊く素晴らしい御方で……!」
「へえ、そうなんだ? で?」
肩を震わせ、こちらを鋭く睨んでくる黒姫サン。黒姫サンの隣から舌打ちも聞こえた。
思い通りなのが楽しくて笑ってしまう。
「……あなた、そんな人……なんて……」
「元々こんな性格なの、知らなかった? ふふ、それとも覚えることができなかったのかしらあ」
普段大きな動揺はしない白姫サンすらもこちらを睨んでいる……というか目を細めている。
わざと煽るように言えば彼女は唇を噛み更に目を細めた。白姫を溺愛している彼女の従者もこちらを射貫くようにして睨んでくる。
怖いんじゃなく面白いのだけれど。
「黄姫、これ以上はやめようじゃないか、まだ、まだ戻れるはずだ……!」
……面白いはずなのに、どこか冷めたような感覚が広がる。
折角下準備したのに、やめようだの戻ろうだのはしない。したら全部が水の泡だ。
あれ、おかしいな、赤姫サンはもっと賢かったはずなのに。
「……馬鹿だなあんたら。何にも分かってない。あいつの表面だけしか見てないんだろう?」
自分でも驚くほど低い声が出た。どうやら苛ついているらしい。少し頭も痛くなってきた。
しかし苛立ちと同時に、愚かな人たちを見て笑いが込み上げてくる。
思わずくつくつと喉が鳴った。
従者たちも鬼様を信仰しているようで。こちらを睨んでくる。……キハクを除いて。
手出してくれた方が面白いんだけど、痛いのは嫌だしなあ。
ああ、そうだ。反応が見られる言葉がまだあった。自然と頬が緩む。
「……ねえ、みんな。このことを他人に喋ったら、崩壊すると思ってね?」
にっこりと笑って、仲間以外のこの場にいる人たちに魔法をかけた。なにが、とは言わない。皆承知だろう。
私の魔法の恐ろしさは昔の事件で知っているはずだ。逆らうなんて自害を望むようなもんだ。自分でいうのもあれだけど、それほど強大だ。
その証拠に顔が青くなったり白くなったり。忙しい人たちだ。面白くてたまらない。
この後どうやって動くのやら。予想しながらこの場を去ろうとした。
「じゃあもう用はないよ、さよな……」
「待って姫さん! ……うそ、ですよね? いつもの冗談ですよね……?」
震えたような声で問われた。そんな声でも足は止まる。
普段なら明るくヘラヘラとしたようなキハクが、泣くのを堪えているような……そんな気が、した。
いつもなら、冗談で済ませていた。その冗談で反応を見て楽しんでいた。
だけど今は今。冗談じゃなくても面白いはずなのに。なのに、どうして。
――やめよう、意味が、ない――
「……本気だよ、分かってるんでしょ? 馬鹿だね」
何で、そんな傷ついたような顔をするかな。ぞわぞわして落ち着かない。貼り付けた笑みが崩れてしまいそう。
キハクの表情をなんだか見たくなかったから、さっさと行こうと近くにあった木へ向かって飛んだ。
ミシッと大きな音が鳴ったけれど気にしない。おも……いや、とにかく行こう。気にしない。
誰か一人くらいは追ってくるのかと思ったけれど、誰も追ってこなかった。
何故、とは思うが、まあ逃げれたしいい。どうでもいい。きっと仲間がうまくやったのだろう。
反逆者の集まりに向かおうとした刹那、とても晴れていたのに、雨がぽつぽつと降りはじめた。
やがて強い雨となり、私たちの髪や服を濡らし、地面には水溜まりができはじめた。
それでも空は晴れたまま。
……我が国名の由来とされる天気だ。特に珍しくもないから普段は濡れても構わなかった。
だけど今日は違う。最高な、最高な夜なんだ。だから濡れて少しだけ苛ついてしまった。
まあ天候は変えられまい。取り合えず今は本拠地に行くだけだ。
「……え?」
突然、雨が降る前感じた違和感が、消えた。
……違和感は少しの間だけだったし、気のせいなのかもしれない。
それにあのとき、確かに感じたあの快感。楽しかったんだ。楽しかったはずなのだ。愉快さが最高潮に達したような感覚、だったんだ。
そう、だから。
雨が降る直前、目の前がぼやけて、頬が少し濡れたことなんて気のせいなんだ。
・
▽ 視点主設定
「面白けりゃなんでもいいでしょう? いいじゃない、別に」
「今ここで選んでね。さあ、自分を取るか、仲間を取るか。どうするのォ?」
【 名前 】
キョウカ - 通称『 黄姫 』
【 性別 】
♀
【 年齢 】
15
【 容姿 】
腰まで伸びた黄髪をツ ー サイドアップにしている。瞳はぱッちりとしており、赤から黄色のグラデーション ( 黄色の割合 多 ) 。服は暖色を多く含む ( 主に黄色 ) 、着物をアレンジしたような服。帯から下はスカートみたいにふんわりと広がッている。ミモレ丈。柄は様々な大きさの円。黒タイツに茶ブ ー ツ 。身長163cm。
【 性格 】
『 日雨ノ国 』のちと狂ッたお姫様。矛盾が激しい。色々な意味で無邪気で、時によッて残酷。幼い子どものよう。子どもッぽいかもしれない。気分屋であり、物事は楽しければ基本的よし、という思考の持ち主である。楽しいことや面白いことが大好き。ものや人を好きになることはあるけれど、執着することはほぼない。興味があるものには構うが、興味のないものは最低限しか接しない。はッきりとしている。愉快犯。
【 能力 】
『 崩壊 』 .. そのまま。主に精神についてを得意とする。指定が細かければ細かいほど後に全身が痛くなる。
【 備考 】
隠れ反逆者。『 色姫争奪戦 』もとい『 色鬼 』をよく思っていない。というか過去にあれこれあッたため、鬼自体が嫌い。怪力。一発殴られるとくらッとくるレベル。尚木登りが得意。口調は整ッたり崩れたり。姫としての義務はこなしているつもり。姫です。姫です。 ( 二度目 )
ついでのイメ画。最近描いた絵です。 ( 全身なんて知らない )
https://i.imgur.com/fIopCr1.jpg
https://i.imgur.com/ZVcxPI5.jpg
アナログの方は絵柄を変えてみたかッ …… た …… ( あんまし変わッてない )
キョウカちゃんの表情は描いているといつの間にか似たようになッてしまう …… あッ耳はちゃんと丸いでs 、
わーい、雨露さんの小説だあ!!(半分深夜テンション((既に朝
では、自分も>46に関する、ちょっとした設定を。
【三種の神器ならぬ、三種の呪具】
(呪具は"呪"術師の呪術による呪術のための道"具"だよ!効力を発揮すると、呪いが発動するよ!!)
・"黙示録"のシャーデンフロイデ(46登場/年齢27歳)
常時マネキン型の異形。術式(我が家の世界線における魔法)によって強制的に魂をマネキンに定着させているので厳密には呪具ではないが、呪具と呼ばれるのは体内に呪具が埋め込まれているため。また、術式の行使によって人型になる事も可能。普段から指揮棒を振るう事で、体内に組み込まれた音響装置から音楽を演奏する。通常、その音楽は人を癒すために用いられるが、不協和音を混ぜれば、相手の精神を汚染する事が可能。
リミッターを解除した状態、及び製造者による洗脳を受けた状態で演奏すると、必ず"黙示録"を引き起こす曲を演奏する。しかも小さな声で本人の歌唱付き。歌詞の内容は黄衣の王を崇めるもの。
[削除済み]さん。呪具としての力は三人の中でも真中で普通。他の二人に比べて、感情が豊か。
・"終止刑"のマレディツィオーネ(46登場/年齢29歳)
常時ツルハシ型の異形。"黙示録"同様、術式によって人型になる事は可能。意思を持つ呪具だが、製造者に忘れ置かれて、"盲目少女"に拾われる。感情は乏しいが、あまりに危なっかしい彼女を見ていて保護欲に駆られている模様。ツルハシなので当然のように人の頭蓋をかち割れる。と言うより、人型になって自由に行動している時は大概、"素手で"人の頭蓋を割っている。攻防共に強い。
現所有者である"盲目少女"を傷付けられると、ステータスが暴走し、問答無用で急所に一撃必殺を入れてくる。しかも非武装で、老若男女お構いなしに、無差別に。
呪具としての力は他の二人に比べて弱いが、通常の武器としては耐久力がある。
・"終末樹"のアルルーナ(46未登場/精神年齢26歳・外見年齢15歳or16歳)
常時人型の少女だが、桜の樹と同化している辺りやはり異形。三人の中でも特に製造者の事を快く思っておらず、一度は逃亡するものの、製造者に捕獲されてしまった。主人を見つけた他の二人を羨んでいるが、人間は脆くすぐに死ぬと知っているため正直微妙な気持ち。地中を移動する事が可能で、他にも自生している樹木を眷属として操る事が出来る。但し火にはめっぽう弱い。
呪具としての本来の力を解放すると、終末が訪れる。例え訪れても、終了後には再建の余地がある黙示録と違い、こちらは訪れたら最後、どれだけ巨大な都市があろうともそこに残るのは平らな世界と一本の桜の樹だけ。
三人の中で、呪具としての力が最も強い。仲間意識を殆ど感じない上、負の感情が増幅しやすい。しかも地中を移動して瞬間移動…なんて事も出来るから、敵に回すと非常に面倒。対処する時、男性陣二人はこうする。シャーデンフロイデの演奏で牽制→マレディツィオーネが接近して羽交い絞め→シャーデンフロイデが指揮棒の柄で彼女の頭部を殴打。"終止刑"は何の反応も示さないものの、"黙示録"は女性に手をあげてしまったと落ち込むし、"終末樹"を心配して看病もする。実はこの時、行動こそ起こさないものの、"終止刑"は彼なりに"終末樹"を心配している様子。
【相関性】
・シャーデンフロイデ→マレディツィオーネ
「…不器用なお人ですね。もっと素直になれば良いと思うんですが…言っても無駄でしょうね」
・シャーデンフロイデ→アルルーナ
「彼女は強い。しかし孤独で哀れなお人…素敵な主人が見つかる事を願います」
・マレディツィオーネ→シャーデンフロイデ
「指揮者気取りのガラクタ如きが、感情論で諭して来て……大きなお世話だ」
・マレディツィオーネ→アルルーナ
「面倒な女だ。最強の呪具が聞いて呆れる…さて、アイツの好きな花は何だったか…」
・アルルーナ→シャーデンフロイデ
「相当変わってるわね。人間が好きなんて変だわ。どうせ……どうせすぐ、いなくなるのに」
・アルルーナ→マレディツィオーネ
「不愛想な男、どうして私より先に主を見付ける事が出来たの?妬ましい!憎らしい!……羨ましい」
深夜テンションは続けば続くものですよ …… ( ?? )
ぱぴ …… すげ …… 御鏡さんの設定は細かいし素敵ですし好きです !! キャラ自体もたまらんのに関係さえも吐血レベル …… あふッッッ ( 遺言 )
…… さて。 ( 蘇生 ) まだ執筆途中の小説がありますのでいッてきます。
お久しぶりです(。・ω・。)ゞ
ちょっとバトル系を書いてみましたが…
やはり苦手です。
トウキョウクロスロード
case1,絶望
狭い面積になんと人口の3分の2もの
人間を抱え込む日本の首都、【トウキョウ】。
スクランブル交差点は今日も混雑し、
電車には人がぎゅうぎゅう詰め。
〈昨日のテレビ見たー?〉
《見た見た!出雲くん最高だったよねー!》
座席で他愛の無い会話をする同じクラスの
女子たち。
少し物騒だけれど、平穏な日常。
…それが壊れるのは、あまりに突然だった。
電車が酷く揺れる。
[…ミロク、揺れ酷くない…?地震かな]
友人が、声を掛けてくる。
「地震じゃないと思うけど…」
[そうだよね…もう予測出来るもんね。
今日の地震遭遇率、0%だったし…]
友人はスマホを見やる。
「変だね」
[…………]
返事が、返ってこなかった。
「ユウ?」
[……………]
やはり、返ってこない。
隣を見る。
「…ユウ!?」
ぽっかりと、座席が空いていた。
〈…きゃあぁ!〉
聞こえた悲鳴に、周りを見る。
…目を疑うような光景が、そこにあった。
電車の中は血溜まりのようになっていた。
まるで、血の雨が電車の中にだけ
降ったかのように。
生きているのか、死んでいるのかすら
分からない人たちが床に転がっていたが、
友人はいなかった。ただ、同じクラスの
女子が一人、へたり込んで悲鳴を上げていた。
〈ミロクくん…!〉
艶やかな黒髪を腰まで伸ばして気の強そうな
顔立ちをしたクラスのマドンナ、伊藤さんだ。
「…伊藤さん、何があったか教えてくれる?」
〈私が、うたた寝から覚めた時は…
こうなってて、田中さんと宮本さんが…血を
流しながら床に転がってて…〉
伊藤さんは錯乱しているようだ。
これ以上話を聞くのは無理だろう…。
「…出よう、ともかく。立てる?」
〈う、うん!〉
伊藤さんはすっと立ち上がる。
僕は彼女の手を引き、いつの間にか
着いていたらしい【シブヤ】駅のホームに
降りる。
そこには、人に似ているけれどどこかが
決定的に違う【ナニカ】が暴れていた。
〈何、あれ…!?〉
伊藤さんも、僕も、呆然としていた。
だがそこに、血の匂いを纏った一陣の風が
吹き抜けた。
『ボサッとしてんじゃねーぞ!
そこに立たれると殺すのに邪魔じゃねーか!』
茶髪を風に揺らし、鈍く光る瞳をこちらに
向ける鉄パイプの青年。
高校生ではあるのだろう、僕らの
高校ではないが制服を着ていた。
「キ、キミは…?」
『…あ"?俺かよ。大和。水無月大和。
今関係ねーだろ』
彼はぶっきらぼうに吐き捨てると、
鉄パイプを【ナニカ】に降り下ろす。
重い鈍器が【ナニカ】の頭にめり込み、
血を噴水のように流させる。
もう一話載せます。
トウキョウクロスロード
case2,戦闘狂
大和、と名乗った青年は【ナニカ】を
圧倒していた。
「…凄いね…」
〈…ぅ、う…〉
伊藤さんは今にも吐いてしまいそうだ。
「…大丈夫?伊藤さん…」
〈う、うん……多分…〉
『おい、お前!』
青年の声に顔を上げる。
『名前。何て言うんだ?』
「ミロク…篠宮、ミロクです」
『んじゃミロク。手伝ってくれ。
これやるから』
青年は僕に刀を投げる。
…本物…!?
一瞬受け取るのを躊躇って、地面に
落としてしまう。
カラン、と妙に軽い音から、模造刀だと
分かった。
『…コイツらにはよ、何でか知らねーけど
本物の武器よりレプリカの方が効くんだわ』
僕は伊藤さんを見る。
彼女を一人でここに置いて、
大丈夫だろうか…?
『お嬢さんは退避してろよ。コイツらは
俺が片付けるからよ』
青年は僕と伊藤さんに悪戯っ子のように
笑ったかと思うと、バケモノに突進していく。
…こんな所でじっとしていたら、
僕も伊藤さんも死ぬだけだ。
伊藤さんはこくりと頷いて、
コンビニに走っていく。
【ミロク。とりあえず何事もやらなくちゃ、
何も変わらないんだから】
僕が5歳の時に死んだ姉の言葉が、
脳を駆け巡る。
僕も覚悟を決めて模造刀の柄を握り締め、
闇雲に飛び掛かる。
「…おらぁ!」
小さめなバケモノの腕を掠めた攻撃は、
バケモノの腕を吹き飛ばした。
僕の顔に、黒い血飛沫が散る。
『…へぇ、中々やるじゃん。
素質あるかもな、お前』
「……素質…?」
『戦闘狂の素質』
彼は本気なのか冗談なのか分からない
笑みを浮かべ、敵に向き直る。
僕らは凄まじい惨劇を展開していた。
その原因は主に大和だが。
『ふー、終わったな。お嬢さん
迎えに行くか。どこ行った?』
「……多分、あっちのコンビニ…です」
『サンキュ。後、敬語じゃなくて良いから。
俺、お前と同い年だし』
「…分かった」
彼はボリボリと髪を掻きながら
コンビニへと進む。
『…なあ、ここで合ってんだよな?』
彼はコンビニの中を覗き、僕に問い掛ける。
「え、多分…」
『…やらかしたな。ここがまずかった。
お嬢さん、殺られちまったな』
彼が指差したガラス越しには、タイルの床に
広がる血溜まりの中で濁った目を大きく
見開いた伊藤さんが、まるで玩具のように
転がっていた。
「………伊藤、さん…?」
彼女はもう答えては、くれない。
僕はこみ上げてくる吐き気を抑えながら、
彼女の名前を呼び続ける。
『やめとけ、無駄だよ。
それより…逃げる方が先だ。ずっとここに
居たら俺らもこのお嬢さんみてぇに
なっちまう』
彼に肩を掴まれ、僕は振り向く。
その顔はどこか哀しげで、それでいて…
とても美しかった。
『…ほぉら、おいでなすったぜ。
お嬢さんはどんなヴィランになることやら…』
彼の言葉に前を向き直る。
倒れている伊藤さんの身体がビクリと動き、
操り人形か何かのように立ち上がる。
ガラスを通してこちらに向けられる、
虚ろな瞳に、背中に氷を詰め込まれたような
寒気が走った。
伊藤さんは薄い桜色の唇をぱかりと開き、
何かを呟く。と、同時に。
彼女の着ている女子制服の背中の生地が
ビリビリと裂け、背中から黒くドロドロに
溶けた汚泥のような色をした羽根が生える。
白くほっそりした腕も痙攣したかと思うと、
あっという間に血管が浮き出て黒くなり、
指がナイフのように鋭くなる。
そして長い黒髪が目元までだらりと
垂れ下がり、顔を覆ってしまっている。
『…随分とお綺麗なヴィランになったなぁ。
やっぱり、お嬢さんだからか?』
彼は鉄パイプを構えて笑う。
同時に『彼女』もゆっくりと
コンビニから出てくる。
「…い、とうさん…」
『…コイツはもう、お前の言ってる
『伊藤さん』とやらじゃねーよ。
衝動のまま、欲望のまま動くヴィランだ。
生き残りたきゃ、倒すしかねーんだよ』
彼の声は真剣そのもので、瞳は鋭かった。
《……………ミロク、くん》
『伊藤さん』が口を開く。
その声は何の変わりもない。
…何だ、やっぱり伊藤さんじゃないか…。
「…どうしたの?」
《…どうして、私を見捨てたノ?》
長い黒髪に隠された表情は、
伺い知れなかった。
「見捨ててなんて…」
『…おい、ミロク!ソイツと長いこと
喋るんじゃねーぞ!』
彼の声が、聞こえる。
《……嘘。キミは、私ヲ…見捨テタ、ヨネ?》
彼女の声が、次第に低くなる。
「…見捨ててなんて、ないよ」
《…ウソ、ダ。………ミロク、コロス……》
彼女が一際低い声で言ったかと思うと、
彼女の腕が僕に降り下ろされる。
「……っ……」
死ぬ覚悟を決めて目を閉じた、その時だ。
『…おらァ!』
彼女の腕が、粘る血と共にどこかへ
吹き飛んだ音が聞こえた。
《………ギャァァ!》
耳を劈くような叫び声が響き、
僕は恐る恐る目を開く。
そこには、片腕を無くして叫ぶ『伊藤さん』と
顔を血まみれにした大和が立っていた。
『…ミロク、情に流されんじゃねぇ!
もう、ソイツはお前が知ってる
お嬢さんじゃねぇんだ。ただの
ヴィランなんだよ』
大和の真剣で、酷く美しい声が聞こえた。
「……でも、伊藤さんは…」
『…ごちゃごちゃうるせぇんだよ!
コイツは!ヴィランなんだよ!敵なんだ!
お嬢さんじゃ、ねぇんだよ!』
大和の叫びに、圧倒された。
『………ッ!』
彼が微かに表情を歪め、肩を押さえていた。
その指の隙間からは、止血しきれない血液が
漏れ出て、彼の服を濡らしていた。
…僕を、庇ったから?
だから彼は、怪我をしたのか?
「…大和くん、怪我…!」
『何とも、ねぇよ…倒す方が、大事だろうが…』
彼は少し荒く呼吸をしながら、鉄パイプを
構え直して『伊藤さん』へと飛び掛かる。
彼女は叫びながらもう片方の腕で大和を
振り払い、地面に叩き付ける。
『……っ、ぐぁ…』
呻きを漏らし、彼が地面に沈む。
僕はただ、腰を抜かしながらそれを見ていた。
怖くて、目を逸らしたくて、逃げたくて…
自分に出来ることなんてなくて。
『……ミロク…ッ!…何、ぼーっとしてんだよ…
テメェの手に、あんのは…飾りかよ…!』
大和の声に、はっとした。
『…何もしなきゃ、テメェも…俺も…
死ぬだけなんだよ…!…それ、なら…
何か…して、死んだ方が…マシだ…!』
彼が叫ぶと同時に、大和の首を伊藤さんの手が
締め上げる。
『…………っか、は…ッ…!』
大和が吐血したのを見て、ナニカが
僕の中で切れた。
僕は模造刀を手に、覚悟を決めて立ち上がる。
もう、怖くない。
もう、目を逸らさない。
もう、逃げない。
ユウに会うまで、死ぬわけにはいかないから。
「……伊藤真理子ぉぉ!!」
恐怖や罪悪感なんて振り払うように、
怒りに任せて彼女の名前を絶叫する。
『伊藤真理子の姿をした化け物』は
勿論反応して、こちらに目線をやって
近付いてくる。
意識を無くしかけている大和の首から
手を放し、汚泥のような羽根で飛んできた。
手を放された大和は咳き込み、地面に転がる。
『…ミロク…クン』
『女の形をしたバケモノ』は
『伊藤真理子』の声で僕に呼び掛ける。
まだ、騙せると思っているのだろうか。
「………もう、オマエに容赦なんてしない!
オマエはただの…『敵』だ!」
その愚かさを、自分の弱さを、意気地無さを。
全て込めて、敵に一撃を放つ。
その一撃は、敵の振り上げたもう片方の腕を
吹き飛ばすには充分だった。
模造刀が敵の振り上げた右腕を、断つ。
『…ギャァァ…!』
粘る血が僕の顔に飛び、思わず顔を
背けそうになる。
冷たく、錆びた鉄のような匂いが
僕の鼻を突く。
「……うっ…」
『…上出来、だ。………ミロク…』
大和の声が微かに聞こえて、敵の
汚泥のような翼が片方吹き飛ぶ。
敵はバランスを崩し、地面に膝を突いた。
「…大和くん!怪我は…」
『……痛いに、決まってんだろ…が…
バーカ…でも、よ。…助かった…ありがと、な』
大和が、初めて笑ってくれた。
あの時の狂ったような笑みではなく、
伊藤さんに向けた愛想笑いでもない、
本心からの笑顔に見えた。
緊張の糸が解れたのか、大和はどさりと
倒れる。
急いで駆け寄るが、息はしているようで
安心した。
「…僕は…大和には、なれないよ…」
こんなに強く、気高く、優しい大和になんて…
いつになっても僕は追い付けないだろう。
僕はまだ動こうとする敵に、妙に冷静な頭で
脳天への一撃を撃ち込んだ。
『…ヴァァ…』
ドロドロと溶け出す敵をちらりと見て、
大和を背負ってその場を後にした。
「……大和、重いなぁ」
身体は細身だけど、鉄の塊みたいな重さだ。
空に、やけに綺麗な太陽が見えた。
「…綺麗だな…」
それだけが、この狂った世界で異質に思えた。
ただ、美しい太陽を眺めながら歩き続けた。
渋谷駅前通りの裏路地にあると噂の、
怪しい女医が営む医院へと。
>49から考えて、【三種の呪具】から【呪具四天王】にしてみた。
・"調律詩"のラ・フレア(46未登場/外見年齢・精神年齢共に不明/されど淑女の模様)
常時人型、"終末樹"のように、何かと同化している訳でもないため、異形らしさを感じさせない。
となれば、彼女の顔を隠す黒布は、一体何のためにあるのだろう。そう考えると、やはり異形か。
忘れ置かれるでも、逃亡でもなくただ捨て置かれた呪具。その理由は、彼女が生まれ落ちた
その瞬間から呪具としての力を発揮しないと明言したためだろう。故に、失望した製造者は
彼女を捨てた。しかし、一番人に近しい容姿の彼女は、誰よりも人間社会に馴染んだ。
ピアニストとして、バイオリニストとして、あらゆる楽器の演奏者として。以前街で開かれた
とある演奏会で彼女はフルートを演奏していたが、その際の指揮者は"黙示録"だったと言う。
"調律詩"の着るドレスは、淑やかな彼女の性格を表すように落ち着いた色をしている。
加えてそれは、彼女のしなやかな身体の線を強調する。隠された素肌を暴こうと、一体
どれほどの人間が躍起になっただろう。しかし、彼女を暴けた者はいない。
呪具としての本来の力を解放した彼女は、全てを正そうとする。誰も暴けぬ彼女の素顔が、
月灯の下に晒されて、仄かに鼻を擽るは芳香な果実の香り。誰がためでもなく、彼女のためだけに
戦慄の音階が鳴り響く。彼女に追従すれば、あるいは助かるだろうか。
【相関性】
・シャーデンフロイデ→ラ・フレア
「……あのお人は、少々苦手です。きっと、あのお人が人に頼らないからだと思います」
・マレディツィオーネ→ラ・フレア
「指揮者に続いて演奏家…同じ芸術家でも、諭す時でさえ理論的な辺り…まだこっちの方がマシだな」
・アルルーナ→ラ・フレア
「…上手く言えないけれど、彼女の事は好き。人間で言う所のボセイ?を持ってて…暖かいのよ」
・ラ・フレア→シャーデンフロイデ
「彼は私が人に頼らないと言うけど、彼も大概よ……感情に敏感な私達だからこそ、頼れないの」
・ラ・フレア→マレディツィオーネ
「…少々頭が残念よね。いいえ、賢くはあるのだけど、品位が無いと言うのかしら…」
・ラ・フレア→アルルーナ
「素直じゃない子ね。甘えたいならそう言えば良いのに……仕方のない子だわ」
【小ネタ:名前の元】
・シャーデンフロイデ…ドイツ語で「人の不幸は蜜の味」を指す語、原文(原語?)ママ。
・マレディツィオーネ…イタリア語で「呪い」を指す語、原文(原語?)ママ。
・アルルーナ…花型女性モンスター「アルラウネ(ドイツ語)」の別名。
・ラ・フレア…実は略称。正式名称は「グランドフルーティア」で、壮大なフルートの意。
>>51,52
あう …… バトル系書く時点で凄いです …… お上手です …… !!
ミロクくんのその倒し方的なアレ ( 語彙 ) がすごく好きです。最後の一文が気になッて仕方ない。大和くんとこれからどうなッていくのやら 、想像するだけでも楽しいです ( にッこり )
>>53
おわ …… おわ …… えう …… ((
なんかもう凄いです好き 、設定と文章が超絶好み …… 全員好きすぎて辛い ……
小ネタも凄くいいです効きました ( 主語 )
>54
大変だ、雨露さんの語彙力が…!!雨露さんのごいりょくさん、かえってきてー!
▼ ミカガミ は いのりのまい を おどった!
【小ネタに対して更に小ネタ】
現時点での名前は呪具としての名でしかなく、創造主の元を離れて新たな主を見付けた者("調律詩"は例外)は新たな名を付けられている。
・"黙示録"のシャーデンフロイデ→ルクス(ラテン語で「光」を指す単語【ルークス】より)
・"調律詩"のラ・フレア→ラルフェージュ(「非常にゆっくりとした速度で,表情豊かに」の意を持つ【ラルゴ】と「楽譜を母音又はドレミの音階で歌う声楽訓練」を意味する【ソルフェージュ】の複合語。尚、彼女は主を見付けた訳ではなく、人間と大差なく自立して生活できるため、名前も自分で考えた模様)
・"終止形"のマレディツィオーネ→変更なし(現主である"盲目少女"からは「ツルハシさん」の愛称で呼ばれるため)
因みに昨日は深夜テンションを発揮して、黙調を書いてました。
一応年齢不詳って事になってるけど、四人の中じゃ調律詩さんが一番上。
「私は最年長だから、年下のあなた達に頼っちゃいけないのよ」って言う調律詩さんに、
「だとしても、あなただって一人の女性なんですから……もっと頼ってください」って言う黙示録さん。
紳士淑女コンビであり、音楽組である二人…多分呪具達の中では一番絡みが多いのです。
>>55
いやあ語彙力は身に付けては消えてしまうので …… もう遅いです …… ッッッ ((
ほお …… よきです ……
設定好きですし細かいよお …… 一つ一つに意味があるの凄いです。え ? 私 ? 適当じゃないですよ ? ( 震 )
わあ 、深夜テンション恐るべしですね 。
えッ調律詩さん一番上なんですか …… ? マジで ? ( )
うわそのコンビいいですね ! うひゃ ー 好みだあ ……
小説はもう暫くお待ちください 。 ( )
カジノベースの小説を書いてみようとして
作ったキャラです。
一応設定だけ…(´・ω・`)
【Black Rose】オーナーの個人情報
【姓名】リチャード・アサギ
【性格】母親讓りなのか礼儀正しく、
丁寧な口調で喋るが口はあまりよろしくない。
取り乱すことは滅多に無く、常に笑顔。
【容姿】髪は肩くらいまで伸ばされ、風に
さらさらと揺れるブラウンのショートヘア。
瞳は鋭く切れ長のくっきりとした二重瞼で、
宝石のように美しいライト・グリーン。
肌は色白で手足は細く、手は少し骨張って
こそいるが、皮膚はまだ滑らかで柔らかい。
顔立ちは高い鼻に彫りの深い顔立ちで、
いかにもヨーロッパ風の容貌。
服装は濃いネイビーのブレザーに
グリーンのネクタイ、白いワイシャツ、
茶色いスラックスと学生風なファッション。
【年齢】16歳
【性別】男
【身長】180.3
【能力】能力1 超幸運
カードゲームでもルーレットでも、
ギャンブルの女神は彼に微笑む。
その幸運によって最強の役を揃え、
玉は運良く狙った所に落ちる。
ツキが回って来た時の彼は
【美貌の少年オーナー】の仮面を脱ぎ捨て、
【クレイジー・ギャンブラー】と化す。
彼自身でコントロールすることは不可能だが、
何故か彼が窮地の時によく発動する。
能力2 全能視
相手の隠し持つ能力を視ることが出来る。
だが、彼のチカラでは視るまでに
留まっている。
【備考】カジノ【Black Rose】の
少年オーナー。巧みな話術と天性の
嘘吐きの才能で相手の心理を掌で弄ぶ。
カジノ内では「オーナー」或いは偽名で
「マーシャ」と呼ばれている。
母親は日本人、父親はイギリス人の
日系ハーフ。
カジノ【Black Rose】No.1ディーラーの
個人情報
【姓名】ティーダ・マクレラン
【性格】軽い口調で喋るものの口は固く、
面倒見の良い兄貴肌な性格をしている。
オーナー、リチャード・アサギの
保護者的存在。
【容姿】仕事の時は目が覚めるような濃い
赤のロングヘアウィッグ、普段の髪は
後ろで無造作に束ねられたブロンドの
艶やかなセミロングヘア。
瞳はアイラインとアイシャドウで女性らしく
なっているが、普段は少し吊っていて細く、
奥二重で大きなブルーの瞳をしている。
肌は異常なほど白く、手足は女性のように
細くしなやか。手はがっしりとした掌に
折れそうな程細い指がくっついており、
アンバランスだが美しい。
仕事の時は顔をファンデーション等
メイク道具で徹底的に覆い隠して女性的に
見せてこそいるが、本当の容姿は
どちらかと言えば男寄りの中性的な
顔立ちをしている。
仕事の時の服装はド派手な赤のロングドレスに
ハイヒール、赤のウィッグをカールさせた
目立つ服装だが、普段はグレーの
カーディガンとブラックのジーンズ、
クラッシュ生地のTシャツと地味な
ファッションを好んで着ている。
【年齢】23歳
【性別】男
【身長】184.9
【能力】能力1 レイズ・アンド・リターン
自分が勝負している時、賭けられた金額の
分だけ相手にそのまま負債として戻すチカラ。
至ってシンプルなチカラだが、この世界では
単純な事こそ最も恐ろしいチカラとなるのだ。
この力は自分で制御可能。
賭けられた金額より多く負債を戻す
「レイズ・アンド・ハイリターン」も可能。
【備考】カジノ【Black Rose】の
No.1ディーラー。カードゲームの腕は
超一流で、オーナーである
リチャード・アサギを凌ぐほど。
カジノ内での名前は「ダイアナ」。
カジノ【Black Rose】新米ディーラーの
個人情報
【姓名】ジャック・シェパード
【性格】短気で怒りっぽく、粗暴な口調で
喋る不良少年。だが忠誠心は高く、
一度忠誠を誓えば裏切ることは無い。
【容姿】髪はボサボサであまり艶のない
目が覚めるように鮮やかな青髪。
瞳は吊り上がり、肉食獣のように
鋭い光を放つ二重瞼のグレー。
肌は少し浅黒く、手足はすらりと長細いが
がっしりとした体躯をしている。
顔立ちはそばかす痕があり、
些か幼さが残るが整っている。
服装はチェーンの付いた
ブラックのスキニージーンズ、バンドの
ロゴマークが描かれたグレーのTシャツ。
【年齢】15歳
【性別】男
【身長】176.7
【能力】狂犬の意地《ドッグ・プライド》
自分が窮地に陥った時のみ発動する能力。
身体能力を5倍に跳ね上げ、疾風の如く
地を駆け抜ける。発動時は瞳が赤く、
髪が白くなる。
【備考】元【Black Rose】の客。
生まれついての激運を持っていたが、
リチャード・アサギに敗れた。
しかし、彼に能力を見出だされて
【Black Rose】に雇われることとなる。
自分をカジノの【飼い犬】だと
卑下することも。
お久しぶりです。本日は小説ではなく小ネタなのですが、もしも[削除済み]さんが二重人格だったら。と言うものを、いくつかのケースに分けて紹介したいと思います。流れはルクス→ルクスとシャーデンフロイデ交代→シャーデンフロイデ。安定した夢要素。
【CASE1:ちょっと殺伐とした内容の映画を見せてみた】(内容は殺人鬼もののホラーかデスゲームです)
ルクス「物騒なものは嫌いです。こんなものを見せる■■さんの事も、嫌いになってしまいますよ…?」
ギュウ、とあなたを抱き締め、縋るように囁いて来ます。
シャーデンフロイデ「物騒なものは嫌いじゃなかったのか?そんな訳ないでしょう。私自身物騒ですし…おや、これは使えそうですね……」
興味津々と言った様子で映画を見ていますが、時折あなたを驚かせようとして来ます。
【CASE2:皮肉を言ってみた】
ルクス「ふふ、それは嬉しい言葉で…え?今のは皮肉?そうですか…皮肉、ですか…」
最初は嬉しそうな笑みを浮かべますが、あなたの言葉が皮肉だと知った途端に落ち込みます。
シャーデンフロイデ「…私は馬鹿じゃありませんよ。嗚呼、しかしこう返させてください。あなたは太陽のようですね…と」訳:真面に見たら目が潰れてしまいますね。(※本来は美しすぎて~の意味と思われますが、皮肉屋の彼は別の意味で捉えています。)
あなたの頭を軽く叩き、爽やかな笑みを浮かべながら皮肉を返してきます。
【CASE3:息も絶え絶えに命乞いをしてみた】
ルクス「っ…そ、そんなに必死に助けてくれなんて言われたら……幾ら倒さなければならない相手と言えど、躊躇ってしまいます…」
手を胸の前で握り締め、手にした黒剣と指揮棒を取り落とします。
シャーデンフロイデ「助けて欲しい、なんて良く言えたものですね、先に仕掛けて来たのはそちらで――――――嗚呼、どうしても助けて欲しいなら………解りますよね?」
冷たい眼で黒剣を振り上げますが、あなたの首に当たるギリギリのところで刃を止め、悪魔のような笑みを浮かべてあなたの耳元で囁きます。
【CASE4:術式を披露してもらってみた】(内容は皆様のご想像にお任せします)
ルクス「これで満足ですか?」
快く承諾し、十八番の曲を演奏してくれます。
シャーデンフロイデ「別に構いませんよ。おや、そのような顔をされるとは心外ですね。断われるとでも思っていたんですか?」
演奏中、懐に隠していた第三、第四、第五…ryの手を召喚し、あなたを擽り始めます。
【CASE5:好きな物事を聞いてみた】
ルクス「音楽と舞台鑑賞と、人間さんと、それから…■■さん、です…」
少し照れ臭そうに言いますが、すぐに両手で顔を隠してしまいます。
シャーデンフロイデ「音楽、宵闇、舞台鑑賞……あなたはどうかって?ええ、好きですよ。とても揶揄い甲斐がありますし」
好き、とは言ってくれるものの、純粋な好意ではないと即座に言います。
【結論】
極端に言えば、ルクス→紳士、シャーデンフロイデ→ドSで、例えるなら天使と悪魔。シャーデンフロイデに泣かされたら、ルクスに慰めてもらいましょう!
お久しぶりです。すらんぷとかすらんぷとか色々あって浮上してませんでした。 ( )
大分前にかいたやつをちょこッと修正したやつです 。
白い月がぼんやり浮かんだ夜、俺はとある人物に呼び出された。
とある人物とは、俺が所属している組織の一番トップ、通称リーダーのこと。
正直、リーダーは苦手だ。あの貼り付けた笑顔が妙に気持ち悪い。……主に相棒から笑顔が気持ち悪いと言われる俺が言ったことじゃないけど、まあそれは置いといて。
まあ大体予想はついている。恐らくこの前の仕事のことだ。
重大任務で少々やらかしたことだろう。俺も立場は上のほうだし、上司じゃ俺の性格上対処できない。というわけで少し前から、やらかすと逆らえないリーダーに呼び出されるようになった。ほぼやらかすことはないんだけど。
やらかした言い訳はしない。寧ろあの人の前で言い訳をして無事に帰ってきた人を見てみたい。殆ど精神が折れるのだ。それか、物理的か……
そんなことを思っていればあっという間に指定された部屋の前へと来た。わざわざ防音魔法を異常に重ねた部屋なんて、あの人は何をするつもりなのか。
「失礼します」
ノックをし、少し間をおいて扉を開く。広いとは言えない部屋なので、すぐにリーダーが視界に入ってきた。
頬杖をつきながらにこにこと笑みを浮かべる相手が胡散臭く感じ、少し眉を寄せてしまった。
「やあ、月露くん。あの重大な任務は無事終わったかい?」
わかっている癖に何故問うのだろうか。しかも『無事』を強調して。こういうところも苦手だ。
此方を探るようにして見る瞳は左右違う色で、澄んでいるはずなのに濁ったように見えた。……内側が黒いってことなのか、きっとそうだ。
「もうご存知なのでしょう? 私の相棒をこの手で傷付けてしまいましたよ」
淡々と無表情で述べれば、リーダーはクスクスと笑い出した。何が原因で笑っていられるのか。
「はは、そうだね。君は君の相棒のヨウカちゃんを傷付けた。あの子は重要人物だって言ったんだけど、まあいいや。そんなことで呼び出したわけじゃないんだ」
「申し訳ござ……は?」
一瞬動揺してしまい本音が出てしまった。
いつもの笑顔で相棒のことを雑に終わらされた気がして、驚愕や怒り、疑問が混ざったせいだ。
「あっはは! その顔いいね、珍しい表情だ。月露くんは笑ってることが多いからね? ……さて、今回呼び出した理由はね、任務とか仕事とか関係ない、君自身のことに用があっただよ」
多分口がぽかんとあいているであろう俺の顔をジロジロと見た後、面白そうに手を叩いた。叩き終われば、更に笑みを深めた。同時に目も細くなり、その奥は面白いといっているようだった。
この人の右頬にえくぼができたときは、愛想笑いではないということを、俺は知っている。今右頬にえくぼが出来ている――つまり楽しんでいるらしい。
といわれても身に覚えがない。この人が楽しむようなカードを俺は持っていただろうか。答えは否。
……答えは否と言えるのに、どこか寒気がするのは何故だろうか。
それでもえくぼが出来たのは先程の表情のことかもしれないし、取り敢えず疑問を消したい故に言葉を放った。
「そうですか。それで、私自身に用とは、どういう意味でしょう?」
問えばわざとらしくきょとんとした顔を作った相手。だが直ぐ普段の笑みへと戻し、あざとく首を傾げた。
一つ一つの所作が無駄に綺麗で腹立たしい。ちょっとしたイラつきが顔に出そうになったとき、整った口が開かれた。
「どうって、そのままさ。本来なら月露くんは、ヨウカちゃんを護るはずだったのに、物語のように上手くいかないものだね」
独り言のように零したそれは、さらに疑問が深まるだけだった。
全く、理解が出来なかった。その言い方じゃまるで、元々の話があるみたいじゃないか。
「理解不能って顔をしているね? 物語は、物語さ。何故そんなこともわからないんだい?」
思っていることを読み取られ、軽く肩が跳ねた。困惑に驚愕も含まり、思考が恐怖にへと進む。
こいつは何がしたいんだ。何が言いたいんだ。
「……物語ってなんです? リーダーは何を仰りたいのでしょうか」
困惑ながらも出た言葉は少々震えてしまい、感情も出てしまったと思う。
冷や汗が滲み、リーダーを睨んでいても、気にする様子もなく、くつくつと喉を鳴らしながら愉快気に話したのだ。
「僕の、物語さ。僕の作った物語を現実にするって、前も言ったでしょ?」
こいつ馬鹿なのか、と思った俺は悪くないと思う。
そんなぶっ飛んだ話を聞いていたら絶対思い出す。なのにその記憶がないってことは、『前』なんてないということで。なのにどうしてこうズレているのか。
「そのような、奇妙な話を聞いた覚えはございませんが……どういうことでしょう?」
此方が首を傾ければ、笑みから不思議そうな表情を浮かべた。俺の方が不思議そうに見つめたい。許されるなら一発殴りたい。
暫く見つめ合っていれば――本当は目を逸らしたいけど――先程の笑みとは変わり、にやりとした笑みとなった。
「ふうん、少なからず、興味を持っているのかい? いいよ、特別に教えてあげよう」
気になるところだ。疑問も消えるかもしれない、が。どうしても得体のしれない何かがあった。
その笑みの奥に何があるのか、到底読み取れない。だから断ろうと思っていたんだ。
「いえ、やはりいいで――」
「君に拒否権なんかないよ。僕の質問に、答えて?」
断ろうと思っていたのに、言葉で覆われた挙句、ぞくりとするほど美しく恐ろしい笑みを見てしまった。恐怖感に包まれるのに、赤と金の瞳から目が離せない。
煩いほど激しく鳴る鼓動を落ち着かせるように、此方も表情を笑みへと変化させた。
「……君は、過去に重要人物の少女と出会ったことがあるだろう?」
――重要人物。それはリーダーが守る人達のことらしい。俺はその一人に会ったことがある。
確か、小柄で不思議な子だったと思う。最初は拒絶されて……あれ、歓迎されたんだっけ……?
と、話が逸れた。返事の代わりに首を縦に振って肯定すれば、相手は目を細める。
「じゃあその子は、どんな色の髪と瞳なのかい?」
音もせず立ち上がり、目尻の下がった目を此方の目と合わせたままのリーダー。心情を読まれるようであまり目は合わせたくないんだけど、この人はなぜか中々目を離させてくれない。
「? 何言っているんです、黒髪赤目で……」
黒髪、紅目? 本当に?
頭の奥に痛みを感じた途端、そんな問いがふと思い浮かんだ。
なぜ思い浮かんだかわからないが、いい気分にはならないため誤魔化すことにした。
「その子は、どんな性格だい?」
誤魔化しで首を振ったのがいけなかったんだろうか。少し低くなった声で尋ねられ、探るような瞳で見られた。
「……気さく、で、誰とでも仲良くできるような……」
ちがうでしょ?
俺の声でもリーダーの声でもない、どこかで聞いた少女の声が頭の中で響く。
……何が違うかはわからないが、声の主は、過去の少女ではないということは分かる。
じゃあ、誰だ。
今日は何かがおかしい。今までこんなことはなかったし、リーダーの前でもこんなに感情を出すことはせず、ただ淡々と……
「へえ? 白髪青目の、中々心を開かない、孤立してしまった厄介な少女ではなく?」
リーダーの声で考え込むことが強制的に終了された。
いつの間に近づいたのか分からないが、とん、と人差し指で胸元を軽くつつかれ、急に混乱する。リーダーの言葉は、俺が思っているあの少女とは正反対の子だったからだ。
――本当に分からないの?
その声が聞こえた途端、記憶を支えていた糸がぷつんと切れた、感じがした。
刹那、頭に激しい痛みが走り、どこからか自分の声が一斉に耳に入ってきた。
――違う。
ちがう。
違う違う違うちがうちがう。
何が違う。誰が違う。どこから、違う。
……最初から違っていた? 何が?
あの子だった? この子だった?
違う、あの子じゃない。違う、あの子だ。
どうして忘れている、どうして覚えている。
忘れなきゃ、思い出さなきゃ、崩れてしまう。
違うんだ。やめてくれ……あの子は、あの子は――
様々な感情と記憶がぐるぐる回って、黒でぐちゃぐちゃに塗りつぶされる。
何が本当か何が嘘かわからず、何もかも分からないまま視界がぼやけた。
そのまま頬が濡れ、頭が真っ白になる。真っ白になった刹那、意識も真っ黒に染まった。
意識を失う直前、誰かが優しい笑みを浮かべた気がした。
2年ほど前のトピックのようですので、もう誰もいないかもしれませんがこちらに駄作を吐き出して供養しておきます。
ーーー
夜も更け、しんと静まり返る闇夜の街を、
ふたりの【人間】が歩いている。
「ラドゥちゃ~ん、遊ぼうぜ?」
ひとりは酷く軽薄で薄っぺらな笑みを
浮かべながら、横を歩く片割れに問う。
「…嫌っすよ。まだ仕事残ってるし。
ジェリコさん、遊ぶよりも先にあんたのせいで溜まってる仕事片付けてもらえません?考えてくださいよ。あんたの首の上に付いてるそれは、五キロの重い飾りですか。」
問われた片割れの女は不快そうな表情を
浮かべ、自分よりずっと長身の片割れを
見つめるというより半ば睨み付けて毒舌を返す。
「ははっ、相変わらず辛辣ゥ~♪」
「…相方を殺して良いならあんた、今すぐ殺してますよ。」
片割れは気にする様子もなく
へらへらと笑い、女は更に眉間に
皺を寄せて溜め息を吐く。
「ストレスはお肌に悪いんだぜ~?」
「…俺にストレスがあるなら、それ全部
ジェリコさんのせいですね。ほら、
仕事場ですよ。さっさと切り替えてください。」
「はーいはい、っと…仕事終わったら遊んでくれんのォ?」
男は肩を竦めて答えながらも表情を引き締め、首の骨をぽきぽきと鳴らして拳銃を懐から取り出す。
「………いいっすよ。ま、終わったらの話ですけどね。」
女は片割れの方を見もせずメリケンサックを嵌めた拳を構える。
「マジ?じゃさっさと終わらそっかなァ。」
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