罪 2019-01-12 17:26:13 |
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>>榊
(しまった、やはり苦無だけでは駄目だったか。肩に苦無が刺さったまま男は不気味に笑うと、もう一挺取り出した銃を構えた瞬間そう脳裏に浮かぶ。せめて部下だけでも、と自分よりも体の小さな部下を背中に回すと同時に?を銃弾が掠める。こんな状況にも関わらず、脳内に浮かぶのは彼もこうやって庇ってくれた、あの宣誓はどうしようか…等、彼のことばかりで。あぁ、怒られてしまうな、と瞼を閉じるが、響いた銃声の後に痛みが続かない。代わりに続く待ち望んだ優しくも強い声に喜び勇んで瞼を開ける。やはり来てくれた。淡々と追い詰める彼は何か言う男…多分命乞いだろうが、それに構わず引き金をひくガウン、という音が響く。男は音が消え入るとともに只の肉塊へと変化し赤黒い血だまりが広がる。あぁ、やった。赤黒いそれと彼は何とも言えぬ怪しい魅力に包まれている…その血が憎き仇のものであれば尚更に。心が徐々に落ち着いていくのが分かるが、ここは冷静にならねば、と未だ体の力が抜けない部下を応援に来てくれた部下に任せ、男の脈を確認する。「…流石榊さん、お見事です。」脈は無く、呼吸もない、男は死んでいた。これでやっと終わったのだ。紆余曲折あったものの思い描いた通りの最後に思わずほくそ笑み。)
お手数おかけしました。…この者達の始末は自分達にお任せください。榊さんは体を休めてください。
>>梔
(仇の男を殺った、というのに達成感はまるで訪れず心は冷たいまま、どちらかと言うと虚無感に近い感情がずるずると腹中を這いずる。また、確かに射止めたはずなのだが、何とも言えない違和感、喉に骨が支えたような不快感があった。簡単過ぎたからか、男が最期に残した言葉が引っかかっているからか。混沌とした胸騒ぎが拭えずにいると、己を現実に引き戻す凛とした声に我に返り僅かに震える指先を悟られぬよう胸元に銃を戻し「…いや、君が追い込んでくれたおかげだよ。…此奴が死んだのが知れて、配下に隠れてついている他のカラーギャングが仇討ちに来るかも知れないから暫くは警戒を強めておこう。…俺は大丈夫、それより君は?」と絶命する男に目をやりながら淡々と喋るも、相手のいつも通りの気遣いには小さく微笑み、僅かに傷のついた相手の頬に指を滑らせて。軽傷とはいえあの男がつけた傷だと思うと気に入らない。男が相手を見る目を思い出しては男の脈を確かめるために死体に触れた相手の滑らかな手を取ると穢れと拭うように指先に自らの指を沿わせて。)
>>榊
自分は掠っただけです。…自分より、部下が心配です…(ほくそ笑んだのも束の間、彼の指が微かに震えているのと、解放されている部下の真っ青な顔を見て、はた、と表情を硬くする。急に自分の行動に後ろめたさを感じたのだ。自分の願望の為に彼や部下を危機に晒し、挙句部下のうち一人の安否確認が取れていない。なんて事をしてしまったのだろう、とざっ、と顔から血が引いていく。すみません、と上の空で口にしようとするが眩いばかりの彼の微笑みの前に言葉が出てこず、酸欠の金魚のように口を開閉するばかり。グルグルと答えの出ない悩みを脳味噌の中で回していると、彼の優しい指先が頬に、指先に触れる感覚が自分の意識をハッキリとさせる。緊張からか、いつもより少し冷たいその指先を己が両手で温めるように包んで「…お許しください…」と今回の失態に対する言葉を。一言それを零せば、体は滑り落ちるようにその場に膝まづき祈るようにもう一度「お許しください…」と。少しの間下を向いていたものの、顔を上げると「貴方にも嫌な思いをさせてしまったことでしょう…。」と続けながら労わるようにその手の甲を緩く撫でる。今回彼を守るつもりが、彼と仕事を共にできるからと調子に乗ってしまっていた。その美しい剣舞や戦う様を間近で見られる優越感に浸りすぎた結果、彼に心労をかけてしまった。申し訳なさからもう一度下を向くが、いつまでもこの場に残るわけにもいかない。自分と数人の片付け班を簡単に組むと、残りの部下を相手と人質になっていた部下を介抱しつつ先に降りるよう指示し、相手にも「先にお戻りになってください。アジトを長期間開けるのも気掛かりですし…すぐに戻ります故に」と、ゆるりと手を解こうとして)
>>梔
(彼は何も悪くない、それなのに跪き許しを請われれば、その儚く放って置くと消えてしまいそうな姿に胸がキシリと痛み、小さく首を横に振る。今彼にこんな顔をさせてしまっているのは自分の煮え切らない心情が表に出てしまったからだろう。彼の手から伝わるぬくもりは己の中に蔓延る焦燥も緊張も不思議と解きほぐす、と同時に彼の痛みも伝わってくるようで。必要のない心労を負わせてしまったことに深く反省しつつ、殊勝に振る舞い部下達に指示を出して此方の手を解こうとする手をさっと掴むと相手の目線に合うように屈んでその頬に手を添え此方を向かせて「待って。…君は何も悪くないよ。期待以上の動きをしてくれたし、君が居たから人質の子も無傷で居られた。」今彼を責めているのは彼自身。彼の淑やかに細められる目元が見たいのに自分の口から零れるのは陳腐な言葉ばかり。もどかしさを感じながら周りに部下が居ないのを確認し彼の頬をするりと撫でて少し困ったように笑み「まあ確かにすっきりはしなかったよ。でも嫌なわけじゃない。組の遺恨を晴らせたわけだし…、」と少し視線を横に流しながら話すも、ゆっくり相手へと視線を戻しまだ憂いが残っているように見える紫眼を見つる。そして徐に相手の両頬を包んで額をコツンと合わせて「アジトには戻るよ。でもそんな顔してる君を残してはいけないな。…君は君自身を許して上げて?じゃないと君との‘約束’が果たせないよ。」となるべく優しい声色に乗せて小さく微笑む。また暫くすれば部下が戻ってくる、名残惜しいが額を離して少し首を傾けて相手の顔を覗き「ね、梔?」と目元をするりと撫でまた微笑んでみせて。)
>>榊
(あぁ、また自分は彼を頭にしてしまった。彼の言葉求めてしまう。彼の温もりある言葉、優しく染み渡るそれが無ければもう自分は駄目ならしい。彼の温もりが、彼の言葉が、何よりも甘美な薬。全てを許し、慈愛を与える彼の黒く、深く、強い眼差し、その奥にある許しが欲しくてたまらない。「…ありがとうございます…」彼の青空にも似た寛大な佇まいに上の空でそう答え、零れ落ちる蜜よりも甘い言葉を拾う。「…!っ、はい!」こつん、と控えめな衝撃が額に走ると共に目の前いっぱいに彼の長い睫毛に縁取られた優美な瞳が映し出され、『約束』の2文字が鼓膜を震わせる。一瞬理解に時間がかかるが、すぐに返事をする。覚えていてくれた。彼のこの行動は期待してもいいのだろうか?彼の行動は純粋な子供のように軽やかであり、同時に夜の街に降りた霧の様に、姿を掴ませない妖艶さを彷彿とさせる。自分の名を呼ばれて我に帰ると、今まで落ち込み、相手に甘えてしまった分を取り返すように笑むと「…はい。ご迷惑をお掛けしました。成る可く早く片付けて帰りますので、その…お待ちいただけますか?」少し距離を詰めようとするが、戻ってきた部下の気配にそれは叶わず、最後にそう伝える。にっ、と一旦去り際に笑むと帰る班員の部下には相手をちゃんと送り届けることを再三確認し、自分のお抱えには最低限の処理を指示して。時間は少しかかるだろうが、少しでも早くアジトへ帰れるように。との企みは成功し、日が暮れる前には数人の部下を引き連れて返り血で真っ赤になった服や道具を引きずりつつアジトへ戻ってきて)
>>梔
(まだ後ろ髪が引かれる思いがあったが相手の言葉に‘待ってる’と返し、先にアジトへ戻って戦いに出ていた部下達を休ませ残りの部下に念のため仇討ちに備えアジトの警戒を強めるように指示する。その間も気になるのは相手のこと。勿論、安否がまだ知れていない部下も気懸かり。だが相手を特別視してしまっているのは否めなく。相手が去り際に見せた悪戯な、それでいて艷やかに細められた目元を思い出し胸がとくりと鼓動する。こんな事があった後なのに己の胸中は随分身勝手らしい。一度首を軽く横に降ると、相手や敵地に残った部下達に汚れ仕事を押し付けたまま自分が何もしないわけにはいかないと、今回の組織に繋がりがありそうなカラーギャングなどを調べる。その際に、男が最期に残した言葉の妻子は既に他界していることを知り不行にも安堵してしまう。自分のような存在が無実の力を持たない存在を苦しめているのは身を持って知っている。いつだって一番被害を被るのは汚い世界とは無縁の存在。それを気にしだしたらこの界隈では息をしていけない。それはこの組織に入るときに覚悟したことだ。だから傷心することもない。はぁ…と誰もいないのを良いことに深く溜息を吐くも、それも二度はしない。気を張り直し資料に目を通して暫く、相手部隊の帰着を聞けば出迎えに行き部下から安否不明だった部下も重症ではあるが無事で既に治療中だと聞き安堵して。それから各々に労いの言葉をかけ体を休めるよう言うと漸く相手の元へ。血に塗れても尚美しい佇まい、そっと彼に歩み寄ると頬についた汚れを指で拭ってやり「お疲れさま、嫌な仕事を押し付けてごめんね。…疲れたでしょ?個室にお風呂温めてあるからゆっくりしてきて。…それとも俺が身体洗ってあげようか?」なんて冗談を言う余裕を見せゆるりと笑いつつ、しっかり相手の顔色を伺い先の浮かない心情を心配していて。)
>>榊
ただいま帰還しました…いえ、この仕事は割と楽なので。(部下を発見できたのは重症とはいえ良かった、と胸中で思う。これで少しでも彼の心労が晴れるなら、と彼の目元を伺うが、頬へ伸びた優しく繊細な手とかち合ったその深黒の瞳から相手も同じなのだと悟る。心配をかけさせてしまって申し訳ない、が、上記の言葉に間違いはない。こんな風に喋らない肉は処分しやすい。そもそも、最近では組織の為に、ではなく彼の為に、という心境で仕事をすることが多く、それに救われている感が否めない。自身を正当化する訳ではないが、お疲れ様、と溢れる微笑みを此方へ、風に揺れる花のようにただ一瞬だけでも向けてくれるだけで罪の意識が軽くなる気がする。「ありがとうございます……えっ?」彼の美しい指の腹が敵の血で汚れるのを横目で見て、羨ましい、等と下らないことを考えていたからか、彼の頭の冗談も咄嗟に本気にしてしまう。少しの間、そして下心とも取れる反応をしてしまったことに慌てて視線を逸らすも「あっ、いや、その……すみません、ちょっとだけ…期待しました。」と一応弁明はしてみる。しかし、しどろもどろなそれは弁明になっているのかどうか…。「…取り敢えず、お風呂はいただきます。その後、急ぎではありませんが、今回の報告を」と気まずい雰囲気を払うように苦し紛れにそう言うと目的の風呂場へ向かって歩を進めるが、すぐに立ち止まって「…それと、約束のものをいただきに。」といささか小っ恥ずかしいセリフを残して)
>>梔
(此方の冗談、一切の下心が無かったと言えば嘘になるが…、それにまるで幼い少年の初恋のような、初な反応を見せる相手にまた鼓動がとくりと波打つ。「あんまり可愛いこと言うと本気にするよ?」と逸らされる視線を追うように顔を覗き込み目元を撫でて少し悪戯に笑み。彼の今迄の色恋がどうであったかは知らないが、ほの字も知らないということはないはずで、それは彼が残した甘美な言葉が物語り己の心をじわりと燻りその一言で欲を掻き立ててしまう。つい引き止めたくなる衝動に負け風呂場へ向かう彼の腕を取っては此方に振り向かせ。やっぱり自分も一緒に…と言いたいところ──、だがそれはこの先あるか分からない楽しみに取っておくことにし、小さくほくそ笑むとポケットから予め相手に渡すつもりでいたものを取り出し相手の手を取って掌の上に優しく乗せて「これ、お風呂に入れる香り袋。疲れが取れるから良かったら使って。」と微笑んで。それは自分も良く使うもの。労い以外に他意は無かったが渡してからなんだかマーキングみたいだなぁとぼんやり思うもそれはそれでいいかと。「ゆっくりしてきてね。待ってるから。」と手を伸ばし相手の口元に触れるかに思わせ肩に手を置くとくるっと身体を反転させてその背中を押して風呂場に行くよう促して。)
>>榊
(心臓がもたない。彼の悪戯っ子のような、少し幼さの残る笑みに釘付けになる。彼は微笑みばかりだ、などと考えていた時があったが、今は微笑みの中に様々な感情が潜んでいる事を知ってしまった。見るたびにキラキラと輝きを増して変わるそれは万華鏡のようで、一瞬しか目にすることのできない儚い美しさに息を飲むことしか出来ない。「…香り袋、ですか?」自分の掌にすっぽりと収まるそれは、とても可愛らしく、同時にどこか落ち着かせてくれるような包み。いつだったかこの包みと同じものを見たような気がするが、思い出せず少し思考を巡らす際に、ふと、包みの香りと相手の香りが酷似していることに気付きぱっ、と顔を上げる。まさか。「…ありがとうございます。不思議であって、落ち着く…そんな優しい香りがします。」ゴシゴシと極力汚れていない服の布で手を拭い、少しだけマシになった掌と、その上の香り袋を顔に寄せ、その香りを確認するとニコリと笑みを。「お言葉に甘えて…」と促されるままに風呂に入ると、手早く体を洗い、湯に浸かりながら彼の香りの分身を緩く弄ぶ。彼の心意気である暖かい湯や、いい香りは体をリラックスさせてくれるが同時に『自分を特別に扱ってくれている』とどうしても思ってしまい、心臓だけは忙しなく。それは風呂を上がり、私服に袖を通し、相手の部屋の前に立ち、その扉をノックするまでずっとドクドクと継続し、これではまるで中学生や高校生のようではないか、と香り袋を握り締めて気持ちを落ち着かせる。彼からのご褒美を受け取るまであと少し…そう思えば少しだけ目元に朱が混ざり)
>>梔
(自室、風呂上がりに訪れるであろう彼の事を考え空調を湯冷めしない程度に少しだけ低く設定しておき、“報告”に来る相手に備えて資料に目を通し直す。しかし一度自我を解放してしまった己は存外欲深く、頭として受ける報告よりも、彼と交わした約束を、宣誓を期待してしまっていて。己としての気持ちを優先してしまうのはいつぶりだろかなんて考えていると控えめにされたノック音に不覚にもドキリと小さく鼓動を跳ねさせる。入室の許可を告げる前に立ち上がると自らドアの前に行きゆっくり彼と自分とを隔てる扉を開けば、其処に佇む待ち望んでいた姿。湯上がりの彼を近くで見るのはこれで二度目で、以前もその秀麗な姿に見惚れたがそこに思慕が加わるだけでより彼の姿を魅惑的にみせる。艷やかに水気を含んだ黒髪、露出の少ない私服の隙間から見える白い肌につい目を惹かれてしまいながら「入って…」と一言声をかけ彼を部屋に招き入れるとドアを閉めて彼に向き直る。そうすることでより強く香る彼の匂いは自分も使う物で嗅ぎ慣れているはずなのに、彼からするというだけで特別で芳醇な物に思え。「いい香りだね。…気に入ってくれた?」とまだ少し湿った彼の髪を掬いながら小さく笑むとその手で彼の目元をすぅとなぞり「顔…少し赤いね。のぼせちゃった?」と微かな色を含んだ笑みを零す。それも一瞬ですぐにいつもの微笑みに変えて「水、用意するね。」と彼から一度離れ部屋の隅に置かれる小ぶりの冷蔵庫から水を取りに行こうとして。)
榊>>
(扉を開こうと手を出した瞬間開かれたそれに驚くも、さらにその奥から現れた彼の姿の近さに目を丸くする。仕事という荷物を肩から下ろし、自分の気持ちに気付いた今、この距離で彼を見ると良からぬ思いがムクムクと鎌首をもたげる。彼を包むえもしれぬ雰囲気が鼻腔を擽り、脳漿を満たす感覚にクラリと眩暈を覚えるが、いつもより低く感じた、入って、の言葉に素直に足が動く。自分の予想通り、彼の体からほの漂う香りと自分、そして自分の掌に握り込んだ香り袋から香り立つ芳香が混ざり合い、同じであるということを強調し、眩暈を強くさせる。そんなクラクラとした視界の中でも、一瞬だけ浮かんだ艶やかな色を纏った笑みに魅せられ、彼の腕を緩く掴んでしまう。「…水、よりも」カラカラに乾涸びたかの様な喉からはつっかえつっかえにしか言葉が出ず、我慢していた欲が堰から今にも漏れ出してしまいそうな状態の己にはそれが抑えられそうにない。きっと自分は今、獣の様にギラついた目をしているのだろう、などとどこか冷静になりつつ、柔らかくも暖かい言葉をいつも作り出す彼の唇を親指の腹でなぞり「…いただけませんか?」とだけ告げて)
>>梔
(掴まれる腕から感じる体温、それほど差はないはずなのに彼が触れる部分からじわりと熱を帯び落ち着かせていた鼓動をあっさり加速させる。そしてじとりと交わり合う視線、いつも凛と澄んでいる彼の瞳の中に野心的な熱情を垣間見るもそれでも艶やかに慎ましやかに見えてしまうのは彼の持つ魅力なのかとぼんやり思う。己の口許をなぞる手をやんわり取って離させるとやや下から覗き込むように表情を窺い「…そんなに待ち遠しかった?」と意地悪く微笑んで見せ。待ち望んでいたのは自分も同じ、今すぐにでも約束を成したいところ。だがすぐには目的の場所には触れずに熟した果実を更に甘く成熟させるように彼の耳裏から頬にかけて指を這わせマスクに触れながらも下げることはしない。そうして一頻り焦らすと漸く彼の口許を隠す布に指を引っ掛け、紫眼から目を逸らすことなくゆっくり、ゆっくり下へずらしていく。顕になった薄く整った紅を前にとくりとくりと胸を波打たせながら彼の秀麗な顔つきを堪能。こんな時に彼との微妙な身長差を少しもどかしく感じながら、相手の頬に手を添えて顔を下向かせると少しずつ顔を近づけ瞼を降ろし軽く触れる、啄むような口付けを少しだけ長く───。時間にすれば数秒も無かったかもしれない。しっとり余韻を残すようにして離れるとこれで約束は果たせただろうかとゆらりと彼を視界に映して。)
榊>>
(時間にすればほんの少しのことだろう。しかし、自分の中では永遠にも近い感覚がまだ頭の芯に残っている。随分と我儘な申し出だったということを理解するほどの理性は残っておらず、ゆっくりと、しかし確実に落とされた口付けにただただ、魅力される。この世こどの果実よりも甘い唇と、どんな嘘や脅しをもってしても揺らがない聡明な瞳。それを覆う健康的な色のふくらとした瞼と縁取り、瞳を飾り立てる長く、健気に揺れる睫毛…彼を象る全てが美しく、彼を彼たらしめる心を淑やかに飾る。「…ありがとうございます。」彼の瞼が開かれ、中に隠されていた端麗な瞳が己が姿を写すと同時にそう告げ、恭しく頭を下げる。一瞬なれど、彼を覆う神秘のベールを払い、彼を手に入れた様な気になれた。未分不相応であると身に染みて分かっているが、この僅かな時間のためなら、自分は何人だって手にかけるし、何だってこなせる気になれる。「…嗚呼…何たる光栄でしょう。この梔、再び貴方に仕える幸せを噛み締めました。」その言葉通り、この上ない幸せを噛み締めるも、自然と表情は緩み、慈しむ様な笑みを少しだけ浮かべると慌てて普段通りの表情に戻り「…とりあえず先ずは報告を」と背筋を伸ばして)
>>梔
(彼の艶やかな口許から零れる礼と恭しい言の葉、少々仰々しくもとれる言葉ではあるが彼の心から、声から花咲いたものと思えばその蜜は甘く鼓膜を溶かし胸を焦がす。これだけ己の胸中を惹きつけておいて、すぐに仕事に切り替えてしまう相手に微かに眉を寄せて不機嫌さを顕にするもそれもすぐ微笑みの下に隠し、彼の美しく伸びる背筋にそっと指先を添わせて「…そういう真面目なところも良いんだけどね。俺はまだ直接は君からしてもらってないんだけどな。」と態と声色に熱を持たせて相手を見つめる。が、すぐにふっと笑いを零し「冗談だよ。あまり一気に欲張りすぎると良くないって言うしね。今日はここまで。」と触れていた相手の背筋から薄い腰を指を浮かすように撫で上げ、してやったり顔でゆるりと笑んでみせ「それで報告は?」と完全に仕事の空気に切り替え相手から離れて机の上の資料に目を押しながら再び彼の方を見てにこりと微笑み。)
>>榊
(相手の微笑みに隠れる前の素の表情に触れられる時がたまにある。今回もそうだが、不機嫌そうな表情を見るのは珍しくついぐ、と見入ってしまう。形のいい眉が寄せられ、拗ねたような表情に一瞬、嫌悪される恐ろしさを感じ身を強張らせるが、その後に続いた微笑みに少しだけ安心して資料へ視線を落とす。「…えっ」バサバサッ、と音を立てて書類を落としたのは背筋に感じた感覚より、その後の彼の言葉に対しての驚きである。彼は今何と言っただろう、自分がしても良いのだろうか?彼の唇に?まさか、先ほど彼が不機嫌そうな顔をしたのは…?自分の都合の良いようにグルグルと欲が脳味噌の中を駆け巡ってゆく。更に視界に映るのはこちらを見つめる彼。下賤な役の熱に浮かされた頭では否が応でも先ほどまで熱を共有した唇に視線が落ちる。その柔らかな皮膚からこぼれ落ちる熱のこもった言葉を視認できるならば、とろりと垂れる蜂蜜の様だと頭の片隅で思う。砂糖とはまた違う甘美で、すり抜けていってしまう澄んだそれ。ごくりと唾を飲み込んだ時に想像したのはその甘さか、熱か。「…いいんですね?」ぐっ、と距離を詰め、逃さぬ様に素早く相手の後頭部と腰に手を回す。キスというよりも噛み付くかのように口を薄く開くと彼のしっとりと熟れた唇を喰らう直前に一言だけそう問う。我慢するのはこんなに難しいものだったか?否、彼だからこそ、彼の行動や言葉が角度を変えるごとに柔らかくも鮮烈な煌めきを放ち、徐々に自分の理性の糸を解いていくのだろうと自問自答を終える頃には、するりと彼は腕の外。したり顔で笑む彼にしまった、と思う。どこかの歌手が歌っていた美しいものは遠くにあるから綺麗、それが分かったかもしれない。彼の新たな面を目にする度、その面に魅力され、更にもっと、と欲深く強請ってしまう。「…では、資料一頁の第一項目から報告します。今回…」そんな欲を冷静な面に無理矢理押し込んで報告を始める。しばらくして全ての報告を終えると一息吐いて資料から彼へ視線を移し、ゆっくりとその体の前へ足を運ぶ。「…此処からは不真面目でもいいですか?」自分の身体と相手の身体が触れそうなほど近くまで距離を詰めると許可を伺うというよりもお願いに近い声色でそう言う。互いの衣服が衣擦れの微かな音を立てた途端、相手の答えを聞くより先に彼のふわりとした下唇に甘く噛み付き。)
>>梔
(後頭部に手を添えられ近づく彼の端正な顔立ち、微かに掛かる吐息にまた胸が騒ぐも流されることはなく仕事へと切り替える。正直惜しいことをしたかもしれないと思うも、彼のやや悔みの滲んだ唖然とした可愛らしい表情が見られただけでも良しとして。そう自分の中で区切りがつき油断していたせいか、いつもより早口に感じる彼の報告に真剣に耳を傾け彼が一息吐いて熱の籠もった視線を向けられるまでその欲に気付けずに。目が合った瞬間、何かに絡め取られたように身体が動かなくなり問いかけから何かしら反応を示す時間は充分にあったはずなのに、溢れる期待と欲情が己から動く機能を奪う。そうして触れた甘く柔らかい感触。触れ合う部分からぞくぞくと熱に浮かされ、微かに瞼を震わせながら相手の肩と腰に手を添えて離れていく口元を名残惜しげに目を伏せ見つめてはゆると顔を上げふっと笑い「一気に欲張るのは良くないって言わなかったっけ?……でも不真面目な君は悪くないね。もっと不真面目でもいいくらいだけど。」と緩く笑みながらも手はするりと彼の首筋を撫で上げ再び二人の距離を縮めると彼の耳元に顔を寄せて「ただし俺の前だけね。」と息を吹き込むように囁いてすぐ離れるとまたいつもの微笑みを。「さて、今日はもう休んで。疲れたでしょ。今日隊務に出た子たちには明日休みを取らせてあるから君もゆっくりするんだよ。」と相手の頭を優しくぽんぽん撫でる。その瞳の奥には以前は無かった恋慕が揺れていて。)
>>榊
…逆ですよ。(耳元に感じる彼の僅かな吐息と?を掠める柔らかな髪に意識を持っていかれるも、彼との距離が空いた事により少しだけ甘い酔いから醒める。存外自分も欲張りなのだな、と自戒しつつ顎に引っかかったままだった薄い紙のマスクに指を引っ掛け、そのまま引き上げようとするも、ふと意地の悪い笑みを浮かべると上記を。不真面目なのだから、もう少しだけ欲張っても構わないだろうか?なんて自分に言い訳しつつ、距離を詰めずに腕だけ伸ばして彼の鳩尾より少し上、胸骨の真ん中に指を軽く当て「貴方の前ですから真面目にしてるんです。真面目な犬の方が使い勝手が良いでしょう?」と編んだ口元を隠す様に空いた片手でマスクを引き上げ。「…榊さんは、明日はどうされるのですか?」此処の所様々なことがあったからか、相手の休んでいる姿を見た覚えがない。勿論、皆の上に立ち、凛々しくも優しい笑みを湛える仕事ぶりは何度見ても筆舌に尽くしがたいものではあるが、先の言葉に少しひっかかりを感じる。「過ぎた言葉ではありますが、榊さんは最近疲労が溜まっていると見えます。大きな仕事はひと段落つきましたし、少しばかり御自愛されても…。」ついつい出過ぎた真似だとは思いつつ、そんな言葉を口にする中で、頭を撫でる優しい掌に目を細める。しかし、細めた瞳も、彼の瞳に宿った朧げな揺れを捉えると、それをよく見ようとその洗練された黒を見つめて)
>>梔
(彼の巧みな言葉遣いに暫しきょとんとしてしまうもマスクが引き上げられたところでその意味が頭にすぅと入ってきて、やられたなぁなんて軽く笑って「それじゃあ、今度からはもっと色んな君を見せて。…それに犬も良いけど手の掛かる花も好きだよ。」と胸の真ん中に当てられた指をやんわり掴み自分の口元へ引き寄せるとその指先に軽く口付ける。どんな彼も魅力的であるが、ありのままの彼、花の名を持つ彼自身をもっと奥深く、深淵まで知りたいと心を燻らせながら淡い笑みを浮かべて。続く問いかけには、んーと唸り視線をやや横に流し考える素振りをして「…まあ、残ってる細かい案件を片付けるくらいかな?そんなに心配しなくても大丈夫だよ。大変なのはみんな同じなんだし普段何もないときは君に任せっぱなしだからこんな時くらいはね。」と肩を竦め、明日は療養中の部下の様子を見に行きがてら今回の件と繋がりがありそうなカラーギャングの下見程度の探りを軽くしておこうと思っていて。「それに本当に駄目になったときは君が奉仕してくれるんでしょ?」と冗談っぽくゆるく笑んで相手の背中を押すとドアの前まで来て「ゆっくりおやすみ。」と軽く相手の髪に口付けて。)
>>榊
…では、お言葉に甘えてひとつだけお教えしましょう。自分の名の由来は花からきていますが…(彼の浮かべる多彩な笑みについ興が乗り、「今度から」という部分は聞かなかったことにしよう。口付けられた指先をヒラリと返して彼の指の間に自分の指を通し、自分は彼の掌に…いつも、頭を撫でてくれる大きく、太陽のような暖かさを持つそれにひざまづいてマスク越しに口付ける。顔を上げて彼を見上げると、彼の肩越しに光る蛍光灯が彼を神々しく照らす中「実はもう一つ、『この忠誠が朽ちる事なし』という意味も込めているんです。…榊さん、俺が朽ち枯れ落ちる時はその前に、手折って捨ててくれますか?」とほんの少しだけいつもの目を細めるだけの笑みに子供っぽさを混ぜる。まだ彼がどんな顔を、どんな言葉を返してもらえるのか、ただの表情、言動が彼という人物を通してどれほど可憐に、どれほど優美にこの世に写し落とされるかを見たい、知りたい、と気持ちは早れど、彼の言うとおり、一気に知りすぎるのも駄目であろう。少しだけ残念だが、また明日、明後日がある、と気持ちを切り替えると返ってきた相手からの明日の予定の話に耳を傾け。確かに自分の大切に思うこと以外の予定や、少しややこしい相手との会談、面倒な書類整理にはあまり積極的でない…むしろ忘れたふりや遅れるふりをする普段の彼を思い出せばある意味これは好機なのか?と内心首を傾げる。自分の抱える直属の部下の中にも今日は休みを取らせたものや、動けそうなものもいる為、安心していないわけではないが、妙に腹の底がムズムズと落ち着かず顔を上げたところ、冗談っぽい笑みを浮かべた彼と、台詞、そして髪へのキスに思わず「はい…、おやすみなさいませ…?」と、肯定的な返事を返してしまう。おそるべし日本人体質、と自宅へ帰りながら悶々と明日の予定を立てる頭の片隅でそんな事を考えているうちにたどり着いた自室の布団の中で眠りにつき。翌朝、適当にその辺りにあったトーストを齧りながら休みの予定を立てるものの、頭の中ではどうしても相手のことを考えてしまう。お会いしたい、お忙しいようなら見るだけでも構わない。そんな中、部下を見に行くと言う名目…もとい業務を思い付くと途中相手の好きそうな果物を露店で買ってからアジトへ向かい)
>>梔
…君が朽ちて枯れる時は来ないよ。──来させない。
(互いの絡まる指から感じる体温と脈動、彼の悪戯な笑みに胸をざわめかせながら発した声は幾分か低く彼を捉える目は温かさを秘めながらも冷たさも同伴しており真剣味を帯びていて。彼の言う朽ちることが自分への忠誠を失うことを意味するなら、それは自分に従えるだけの価値が無くたった時か。また万が一、彼が裏切り仲間を危険に晒した場合、自分は彼を手折る選択を強いられることになる。そんな事は考えただけでもぞっとする。が、どちらにせよ彼の目を、心を自分から逸らさせなければいいこと。己に自惚れはない。だが、彼を朽ち枯れさせることは他の誰にも自分さえも許さない。その為なら自分はいくらでも強くなれるし彼の忠誠を惹きつける。惹きつけて内側からじわじわ侵蝕し自分色に染め上げる…、そんな束縛心と、彼は己への忠誠を失うことは絶対に無いという信頼を秘め跪く彼の細い首筋に手を添えて顎に指を滑らせ顔を上げさせると“来させない”と。その後は緩やかに彼を送り出した。それが昨夜の彼に対する答え。そして今は日が変わり太陽が高く昇り始める頃。昨夜はアジトで夜を明かし朝の内に書類整理は済ませた。その後は療養中の部下の元へ行き喋るのも辛そうなため励ましの言葉をかけ治療に専念するよう告げると今度はカラーギャングの動きを探るために街へと。賑わう街の中、特に素性を隠すことなく足を進めていると何やら嫌な視線を感じた。───監視されている、とすぐに察し最近多いな…と内心嘆息しつつ街の賑わいから遠ざかるように路地裏に足を進めて。
一方アジトでは訪れた相手を部下達が出迎えて「ボスならさっき出かけましたよ。…あ、美味しそうな物持ってるじゃないっすか。」と相手の持つ果物をたかっていて。)
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