罪 2019-01-12 17:26:13 |
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>>垂くん
へぇ…、今のお店の子はヘルプでも客からのお酒を断れるんだね
(彼の妖艶な仕草は女性そのもの、素性を知らなければ騙されていたかもしれない。男と知っていても綺麗だと思ってしまうのだから、隣の連れが彼にデレデレなのも仕方ないだろう。しかしまあやはり彼が居ては連れとの話しも進まないわけで、少しその腹いせに軽い意地悪を言ってみて。でも以前の会食で彼が多少は酒が飲めるのは知っているためただの茶番。互いが居ることで互いの思惑が進行できないだろうこの時間の持て余しを埋めるくらいにはなるだろうかと。連れが調子にのって彼の身体に触ろうとするのを自然な動作で嗜めつつ、どうこの場をさっさとお暇しようか考えていて。)
>>梔
梔、君ね……、
(跪かれ手を握られれば自然と視線は下へ行き、可愛く言えば無邪気だがその秀麗な瞳に捉えられては甘言だったとしても心を燻られ飲んでもいない酒に酔った感覚になる。これが彼の悪戯なら大成功だろう。ここ最近似たようなことを彼にされてきたがなぜか今回は上手く躱せずに、恥じらいを苦笑に代えるが上手い言葉は紡げずに。侮れないな…なんて、彼の持つ才を考えれば今更なことを思えば、普段たおやかに言葉を紡ぐ口許が晒され、酒を受け取り答えを示す所作にまた心が揺れ目を奪われて。彼が酒を口にするのを見守りつつ空になったお猪口を彼の手を掬うようにして受け取ると端に置いてあった徳利から新たに酒を注ぎ、ゆっくり口元へ持っていったかと思えば一気に流し込み、ふぅと一息吐いて。「また明日から忙しくなるね。」と軽快ながらゆったりとした微笑みを。そして手元のお猪口に目を落とし手で弄びながら、ほんの気まぐれか、遠く聞こえる部下たちの笑い声が余程心地よかったのか、それとも目の前の彼の雰囲気に魅せられたのか、ふと口を開いて「…君の話を聞かせてよ。先代との思い出話とか、その刀のこととか…何でも。」と普段人の深みに迫るのを避ける自分には考えられない問いかけを唐突にする。強いて理由付けするなら今後控える戦いに期して互いを知るためか、しかししっくり来ないのは単に彼を知りたくなったからで。ちらりと相手を見て真面目な彼が畏まらないように優しく笑んで。)
>榊さん
…ごめんなさい…これでも仕事に真剣なんです。
お詫びとして私が一杯奢りますわ…。
(彼の言葉にほんとこの人は意地悪だと考えながらも彼が連れてきた男を見る情報屋ではないがなにか彼が親しくなる理由があるのかと思いながら男に近づこうと席を移動して隣に座ろうかと考えながらクスクス微笑み彼にごめんなさいとわざとしょんぼりしながら謝り仕事と単語を強調しこちらも仕事があるのでと心のなかで呟きお詫びとして酔いが回りやすいお酒もちろん内緒で奢ると話しボーイを呼び)
>>垂
(相手が男を連れ出すと、想定外のことではあれど標的をわざわざ逃すわけにもいかず、後を付ける。いつもは着ないスーツの首元を緩め、ネクタイを両手に構えて息を殺しつつ相手達の様子を見ると、男が丁度薬のことについて話し始めたところで。幸い人目につかないところであった為、そのまま音もなく男の背後に回り、構えていたネクタイとそこら辺にあった適当な鉄製の棒を使い、効率的に首を締め上げる。濁点混じりの悲鳴は小さく、抵抗こそあれどものの数分でことは片付き。ふ、とため息を着けば相手に向き直り「…どうも。」と小さく挨拶を。ここにこの男を放置すれば相手に迷惑が掛かる、と予測すると酔っ払いを担ぐようにそれを担ぎ。男の懐から封筒に入った札束を抜き取ると相手の足元へ投げて寄越し「呑みの代金はこれで…助かりましたよ。水仙さん。」と皮肉げに笑い)
>>榊
(ふと、彼の返した言葉が滞っているように聞こえると、彼の顔色を見る。ぎっしりと詰まった語彙録から、スラスラといつも流れる川のせせらぎのように心地よい言葉を紡ぐ彼が自分との会話で言葉途切れになるとは、それだけ珍しいという事なのだ。彼のそんな意外な一面、人らしい一面、少し残酷な面…様々な彼を知るたび、それが嬉しくあり、優越感を覚える物だと知ったのは最近のことである。“頭”に忠誠を誓うこととはまた別の、自分の抱く彼への執着。徐々に募るそのような感情が決して褒められるようなものでないことは承知しているが…「…お可愛らしい。もっとよく見えてくれませんか…?」するりと言葉が漏れ出る。なんとなく、これまでの経験から微笑みに隠された表情が照れているよう感じる。彼の微笑みは好きだが、その微笑みは彼を包む仮面でもあり、悲しみも怒りも、丁寧に包んで隠してしまう。それを暴いてみたい、そう強く願うようになったのは好奇心か、嗜虐心か。そんな欲を言葉に隠しながら彼の頬に手を添え、その微笑みを覗きこみ。自分の手元から離れたお猪口を辿っていた視線は、緩やかな腕の繊細な動きを辿り、喉へと移動して、酒を嚥下し上下に動くその皮膚から目を離せず。まじまじと見るのが失礼だとは、と我に帰れば、振られた自分への話題に「…俺、ですか?」と驚いた様子で。彼が個人の過去を聞くことがほとんど無いと思っていた為、つい一人称が乱れてしまう。しかし同時に、自分へ興味を持ってくれたのか、と嬉しく思ってしまう気持ちと、彼の笑顔に口元が少し緩み。「承知しました。…お耳汚しではございますが、少しばかりお付き合い願います。」と簡単に前置きをすると、言葉を選びながら、枯れ葉の落ちるようなポツリ、ポツリと先代の話から始めて。先代から短刀の内が一振り、自称「酔鯨」をいただいた話で一つ区切りをつけると「…よろしければ、榊さんのお話を伺っても?」と空いた彼のお猪口に酒を注ぎつつ、あくまでも彼の意見を尊重できるように、だからだけ静かな声を装い)
>>垂くん
そんな、別にいいよ。気にしないで。
(仕事ね…、と心の中で彼の言葉の意味をしっかり受け止めつつ、此方も笑顔で返すも運ばれてきた酒にとりあえず手をつける。自分は所謂ザルで、飲めと言われれば樽一つ開けられるくらいには酒に強い。しかしグラスを持って口を付ける前にすぐに匂いで飲み慣れない酒の類だと分かり、これは飲んだら自分でも酔うかもしれないと。ただこれを利用しない手はない。そのグラスを今日は飲む気がしないからとか適当に理由をつけて連れに受け渡すと忽ち酔い始めた男の体を支えてやり、「あーもう、こんな酔っちゃって。」と白々しく言えば「帰るよ。」と強制的男を立たせて精算を済ませるとさっさと店を出てお暇しようと。なにせここは居心地が悪い上に、自分だけではなく相手も上手く動けないはずだから。変な探り合いはもうやめて、話すなら外でという意図で決して相手から逃走を測る意味合いではない。そもそもこれだけで‘仕事に真剣な’相手をまけるとは思わない。ちらっと相手を見て緩く笑って見せれば一足先に店を出て。)
>>梔
…可愛いってね、この歳の男に使うもんじゃないでしょ。
(一瞬、ドキリとする。彼の少しひんやりした滑らかな手に頬を触れられたのはこれが初めてではないが、顔を覗き込まれたとき、その深い紫眼に絡め取られたように目が離さなくなり動揺で瞳が揺れてしまう。いつもなら瞳に映る月が綺麗だなとか浮ついたことを考える余裕もあったがそれも出来ず…。彼に対してのこれまでの言動に決して偽りはない。ただ、無意識に、いや意図的に壁を隔てていたのは確かで、今その壁の隙間を彼は掻い潜り、自分は侵入を許した。その瞬間、戦慄のような、しかしマイナスではない感情が鼓動を速くさせる。下手をしたら胸を押さえていたかもしれない。それほどまでの心動が襲うが、寸でのところで‘これはただの揶揄いだ’と我に返りいつもの微笑みを貼り付けると頬に触れる手をやんわり掴んで離させ、その手で少し強めに額を小突いてやって。まだざわめく胸の衝動も、彼の落ち着いた声色で紡がれる先代との話しを聞くうちに落ち着きを取り戻し始める。まるで静かに星が煌めく夜空を思わせる語りは清く、彼の想いが心に伝わってくるようで自然と口許小さく綻ばせ。そして酒が注がれ自分に話が振られれば「そうだなぁ…、」と話すことを、というより何から話すかを迷うように酒に視線を落とし。それからは極自然にスラムで過ごした日々のことや先代との出会いを懐かしむように語っていた。実は始め先代のことを疑っていて衝突もあったなど誰にも話していないようなことも。「───、でも初めて君の剣舞を見たときはこんなに綺麗に剣を振るえる子がいるんだって驚いたよ。綺麗な子はやっぱり怖いんだなって。」と冗談を混じえれば小さく肩を揺らして笑い。)
榊>>
(今、自分は確かに彼の微笑みの下を見た。いや、これは多分彼が“見せてくれた”。いつもの余裕のある涼やかな目元や落ち着いた鋭さを放つ瞳が朧げに揺れる様を、微かにたじろぐ動揺を、己が目にした時の劣情たるや!しかし、それも一刻。再び浮かべられた微笑みに少し残念そうな、そして、どこか少し安心したようなあやふやな笑みを自分も返し「…お嫌いですか?」と小突かれた額に触れつつ口の端を上げて。はらりと彼の口から紐解かれた過去は、春が近づく夜風に沿って舞うかの如く。自分に対して話してくれたことが嬉しくてたまらず、自惚れてしまいそうになる。彼の声に彩られた言葉はすとんと胸に落ちてきて、寝る前に物語をねだる子供とはこんな気持ちなのだろうな、なんて考えると図らずも口元を柔らかく緩め。先代との話を聞いて、クスクスと小さく笑ってみたり、仕事に関係のない会話を存分に楽しんでいるようで。「ふ、ふ…貴方に褒めてもらえるとは…過去の自分に妬けますね」彼の微笑みではない笑いをその目にすると、自分も自然と楽しい気分になり、歯を見せて笑う。自分もそんな冗談を返すと、「…自分は、貴方を初めて見た時、正直怪しいと思ってました。素性がわからなかったから。…ただ、貴方もそれは同じなのに、その時から優しかった。それと同時にこんなに優しい人が、冷静に人を殺すための刀を振るうのかと驚きました。」ふと自分が相手に持った初対面時の印象は、と会話に気が緩んだのか、目元を和らげながら言葉にそう表し。)
…要するに、憧れるようになったんです。あの時から、今も。
>>梔
(彼の幼い純真な悪戯っ子のような、それでいて大人の色めきを含んだ瞳と笑みに、この子はどれほど此方の心を揺るがせば気が済むのか…とまたそこはかとない淡い情が沸き起こるも今回はすぐに微笑む余裕があり「嫌じゃないよ。君のこの顔が見られるならこういう戯れもたまにはいいかな。…でも可愛いっていうならやっぱり俺より君だよ。」と目を細め彼の髪をくしゃりと撫でる。本当は‘戯れ’なんて言葉でこの時間を形容したくはなかったが、それ以外の例えで口にするのは憚られ、この心地よくも心を燻る一時を楽しみ。自分の詰まらない話でも笑って聞いてくれる彼。思えばこんな風にお互い、全てとまではいかなくとも晒して語らうのは初めてのこと。彼とは歳が2つしか違わないしほんの少し、一方的に感じたことだろうが一瞬でも‘頭と右腕’の関係を忘れられた気がした。この穏やかな時間に身を置いては危険な気がしたが、大事にしたくもあり背徳感を煽る。そんな想いの中、彼から掛けられる極上の賛美。万が一彼の甘言だったとしても、彼の花のように淑やかな表情で、声で言われては抑えていた燻りも高まるわけで、「あんまり俺を喜ばせたら後悔するよ?」と少しだけ声色に色情を混じえさせ、そっと彼の口元を指でなぞり瞳を捉えたまま顔を近づける。───その時「あー、頭と梔さんこんなところに居たんですかぁ。みんなもう飲み疲れてお開きしちゃいましたよー。」と泥酔した部下が顔出す。咄嗟に部下が彼の素顔を見る前に自分の背に隠し「ごめんごめん、片付けはちゃんとするから。」と緩く返して。隠したのは、彼が普段安易にその素顔を晒さないから、だが、そこに我欲が混じったのは否めない。彼の素顔を知っている、見ることができる特権をそう安々と他に与えたくはなかった。そう自覚した瞬間、参ったな…と苦笑が漏れる。部下が再び部屋に戻っていくのを確認すると振り返り「そろそろ戻らないといけないみたいだね。」とつい先程のことが無かったように微笑み室内へと足を向けて。)
>>榊
(この緩やかに流れる時間が続けば良いのに、なんて柄にもないことを考えてしまう。自惚れや気の緩みは判断を鈍らせる…まして、愛しい人ができるということは、自分にとっても相手にとっても危険なことは身に染みてわかっている、つもりであった。しかし、今はどうだろうか?自分の欲深さを甘く見ていた。平静を装った外面の中で色欲、独占欲、承認欲…ドロドロとした気持ちが欲望の形を纏って相手にいつ襲いかかろうかと舌舐めずりをしている自分がいるのだ。彼はどう思うのだろうか、どう思っているのだろうか、きっと、友好的には思ってくれているのだろう。彼のそんな優しさにつけ込む自分を知ると、どう思うのだろう。そう悶々と自分の気持ちを持て余していた時に唇に感じた人の温もり。考え込んでいた為に下げていた視線を上げると、かち合った視線と近づく距離。と、次に聞こえてきたのは予想外の部下の声。続いて視界に入るであろう部下に見せまい、と慌てて口元を隠すも、眼前に広がるのは相手の背中。我が組の全てを背負い、守る背中。自分は、この人にどれだけ守ってもらったのだろうか。有難い、と素直に感じると共に、守ってもらえるという安心を実感する。マスクを付け直し、先に歩きはじめた相手に追いつくと浮かべられた微笑みに、この掛け替えのない時間は終わり、生死をかける場が再び始まるのだと感じ取ると、急に不安が押し寄せる。明日自分はいないかもしれない。それならば、今、後悔のないようにしたい。「御許し下さい」そう小さく呟いて追い抜きざまに彼の後頭部に手を沿わせマスク越しに唇を合わせる。一瞬の後に相手から離れ、欲を滲ませた目で彼の双眼を見やり「…榊さん、俺だって男です。」と。その後、踵を返すと部屋に戻って片付けに参加し。)
>>梔
(相手が去ってからも暫く唖然とその場に立ち尽くす。今、彼は何をしたのか…頭では理解していても感情が追いつかない。揶揄いにしては行き過ぎていて、彼はこんな悪ふざけをするような人間ではないはずで。あの瞬間、布越しではあるが彼の唇が触れる寸前、何をされるか咄嗟に理解して、止めるなり突き放すなりできたはずだった。しかしあの瞬間迷いが生じ、その迷いは動作を鈍らせて結果彼を受け入れる形になった。──ああ、きっと間抜けな顔をしていただろうなぁと冷静になり始めた思考で、至近距離にあった相手の端正な顔立ちを思い出しては苦笑が漏れる。あんなスマートな振る舞いをされたら世の女性は腰砕けになるに違いないなんて考える余裕も出てくるものの、胸の鼓動は速くズシリと重たい。彼の薄く柔らかい形の良い唇に直接触れたら、さぞ甘美なことだろう…が、その時は来ないだろうし、それを知ることは許されないだろう。「…ずるい子。」と自分に対しても返ってくる言葉を一人夜闇に零しては、彼が掛けてくれた羽織りを脱いで腕にかけると部屋の中へ足を進め、何食わぬ顔で片付けに加わって。
翌朝、アジトの幹部室にてコーヒーを飲みつつ敵アジトへの潜入の戦略を考えており。昨夜の事が何度か頭をちらつくが今は切り替える時、なにせこの戦いは組の尊厳に関わる重大なもので、敵も計り知れぬ力を持っていることから一切の油断は許されないのだ。潜入するなら夜か、はたまた一人を変装させ内部に送り込みその間にもう一方が裏で動くか、アジトへ行くまでの道のりも気になる所だが、とにかく相手の意見も聞いてみるかと資料に目を通していて。)
>>榊
失礼します。(コンコン、と木製のドアをノックの音で響かせると、少し間をおいてから上記を述べつつ一礼をした後入室し。ぱ、と顔を上げると視界に映る相手に昨夜のことが蘇る。あの後、部屋に入ってきた彼は羽織を脱いでいたが、あれは拒絶の意なのか、あの身の程知らずな自分の行動で追い出されてしまうのではないか、もう口を聞いてくれないのではないか、と片付けが終わり、部屋へ戻った後も悶々と布団の中でそればかり考えてしまっていた。しかし、行動自体に対しての後悔はない。彼を守りたい、彼を恋愛対象として好いている。この気持ちは偽りでない、もともと玉砕覚悟だった、等と鬱々とマイナス思考気味な考えをやや強引にそう纏めると、眠れない時間を部下からの資料や過去の資料を読み漁ることに使い。その片鱗が目元に薄らとクマを作っていたものの、本人は全く気にせず朝から普段通りに振舞っており。「榊さん、休憩がてら甘味でも如何ですか」昨夜は色々あったが、仕事は仕事。相手だって凛としていつも通り振舞っているのだ、とその揺るぎない光を湛える瞳を見やると何故か少しだけ胸が痛むような気がして。ただ、それは決して顔には出さず、自分の持ち込んだ資料と共に簡単な甘味の皿を彼の机の空いたスペースに置く。何せ彼は働きづめの状態である。少しでも気分転換に、と甘過ぎないものを選んだつもりだが…とそこまで考えて我に帰り彼に向き直ると、真正面からその聡明な瞳を見つめ「敵のアジトについてのことでお話に参りました。少々お時間をいただいてもよろしいでしょうか」と切り出して。)
>>梔
おはよう、梔
(ドア越しに彼の凛と澄んだ声が聞こえ身構えてしまうも、あくまで平静を装い律儀に頭を下げる相手をちらりと見て一言挨拶を。つい隠された口許に視線がいくがそれよりも気になったのが彼の目元。白い肌には薄っすらとでも映えてしまう青紫。昨夜まではなかったから疲労と言うより寝不足か。原因なんて1つしか思い浮かばないが、それが原因なら余裕そうに見えた彼は心労を抱えていることになる。自惚れるならその心労を拭えるのは恐らく自分なのだろうが、一度は何事も無いよう振る舞ったし、今の彼だってクマ以外は自然な振る舞い、それを貫き通さねばならない…たとえ本心が彼を射止めたいと思っていてもだ。だが、やはり疲弊した彼を見て決心が揺らいでいるのも確かで。コトン、と机に置かれる彼の気遣い。むしろこの甘味が必要なのは相手ではないのかと目を合わせて「ありがとう。丁度小腹が空いてたんだ。」と微笑み早速甘味を一口。その程よい甘さはすぅと疲れを緩和してくれ、こんな些細なことからも彼の想いを期待してしまう自分がいて駄目だ駄目だと内心首を横に振る。一度立ち上がって部屋の隅にある珈琲メーカーでカップにコーヒーとミルク、少しの蜂蜜を入れるとスプーンで軽く混ぜたあと相手に差し出し「君にはこれね…。」と目元のクマに触れようと手を伸ばしかけてやめれば、彼の真剣な瞳に答えるべくブレブレの精神に活を入れて頭である自分に戻り、彼の申し出に頷いて。)
勿論、俺も丁度君とその事について話したいと思っていたんだ。ぜひ、君の考えを聞かせて?
>>榊
あ、ありがとうございます……良いんですか?(悶々と散々頭を抱えてああでもないこうでもない、と理屈をこねくり回していたものの、やはり彼の微笑みを見ると自分の作っていた理屈は音を立てて崩れる。そんな微笑みと共に差し出された珈琲に少し気後れしてそう問う。拒絶はされていないようだ、少し安心してカップを受け取り、いただきますと一口つけると、すぐに暖かさが身に染み入る。相手の優しさが溶け出したかのようなほのかな甘みと、柔らかくも強い香り。自分は彼の優しさと暖かさに餌付けをされているようだ、なんて惚けた頭に一瞬思い浮かぶもすぐにそれを追い払い「…とても美味しいです。榊さんの手料理は人を幸せにする料理ですね。」と本心からポロリとそんな言葉を。相手の冷静な眼差しにハッ、と慌てて仕事モードに切り替えると持参した資料に視線を落とし「御意に。…まず、調べたところあの山は霧が立ちやすい条件下にあり、この季節、朝は特にです。近くの道や…」と説明を始め「…です。相手は警戒を強めると思いますので、計画の強い夜を避け、敢えて警戒心の緩む朝方…霧に紛れて情報収集…そして短期内部破壊、扉の解錠も視野に入れた潜入工作は如何でしょう。」長々とした土地の説明の後簡単な作戦の説明をして相手の顔を伺い。)
>>梔
ふっ、はは…、それは大袈裟すぎ。…笑わさないでよ…ふふ、
(悶々と相手との距離感を探り悩んでいたときに言われた言葉、お世辞と取ればそうなのだが相手があまりにも柔らかく真面目にそれを言うので一瞬固まってしまう。そして遅れてきた笑いを止める術はなく手の甲で口許を抑えて肩を震わせれば、少しの間でも自分の中の朧気が晴れ、それと共に自分の気持ちを誤魔化し続けるのも限界があるなと気付き。それでも今は考えるべきは別にある。相手の繊密で的確な策略に真剣に耳を傾け、その非の打ち所のない内容に心の中で拍手を送れば問題ないと小さく頷いて「流石だね。…だとすると此処を出るのは真夜中か。山は天候が変わりやすいから注意しないといけないけど、今のところ概ねは問題なさそうだし早ければ今夜には出られるね。」と資料の山岳ルートを確認し、持参する最小限の物を脳内でリスト化したところですっと視線を相手へと向けて。「それで君はこれを夜な夜な調べてそんな目をしてるの?」と相手との距離を縮め先程は触れるのを躊躇った目元に手を滑らせるとクマをなぞり少し意地悪い笑みを浮かべ。「仕事熱心なのは有難いことだけど、今の君は連れていけないよ。ある程度の準備は済ませてあるし、夜までには時間があるから少しでも体を休めて。」とあくまで頭としての優しさを向けて微笑み。が、一息置き静かに一度瞬きするとまだ迷いと躊躇いを携えた口元をゆっくり開いて「それとも…おやすみのキスが必要かな?」と。以前は冗談で軽く言えていた戯言。それがこんなにも重たい。彼との今後を考えれば適切な距離感を保つことが最善なのに彼と少し話しただけでその判断も簡単に鈍る。優柔な自分が腹ただしいが身に染み込んだ本心を覆い隠す微笑みはこんな時にまで漏れて、相手を見つめたまま頬をそっと撫でて。)
>>榊
も、申し訳ありません…(思いの外朗らかに笑う相手に少し驚き、頓珍漢なことを言ってしまったかと慌てて上記のように謝罪を。しかし、内心は嬉しかった。それが自分の失態であったとしても、また笑ってくれるのだと思えば自然と表情は綻ぶもので。想い人の笑顔を見るだけで心踊る自分が単純なのか、それとも花が咲くように笑う彼の笑顔が特別なのか。多分両方であろう。そんな彼がこちらへ視線と共に寄越した小さな頷き。とても小さい動作ながらもそれは確実な肯定の意であると認識させ、気分も高揚させる。「ありがとうございます。潜入班はある程度の準備をさせておりますが、よろしければ一度お手隙の際に確認していただきたく…?」する、と伸ばされたしなやかな手は、どう詰めたら良いのか分からない2人の間を簡単に横切り、己が目の下に続く。優しさを含む微笑みと、迷いの混ざる複雑な微笑み。それが何を伝えたいのか、何となくわかってしまう、故に、期待してしまう。もっと強請っても良いのかと。「…この戦いの勝利が、貴方の手中に収められた時。その時に、いただきに参ります。」これはある種の宣誓。それが、相手に向けてなのか、はたまた自分への言い聞かせなのかそんなに難しい事はわからないが、確かに彼の慈愛を湛える双眸をしっかりと見据えた。彼は冗談だと笑うだろうか?それでも構わない。もう、迷い躊躇うのは嫌になってしまったから。「…ありがとうございます、お言葉に甘えて少し…仮眠を取ってきます。何かございましたらすぐにお申し付けください。」少しだけ、先ほどまでより静かになった空間を誤魔化すように目を細めてそう述べると、退室の為にドアノブに手をかけ)
>>梔
(バタン──と静かに扉が閉まる音から数秒後、胸のつかえと共に深く息を吐き相手が残していった資料に目をやるも視界に入れているだけで文字の羅列は頭に入ってこない。頭を支配するのは先刻までの相手の表情、声、そして宣誓。まるでお預けを食らった気分だが昨夜から蟠っていた物は随分軽くなった気がした。ただ、一枚も二枚も相手に上を行かれた気がして自分はこんなにも恋愛に臆病で不器用だったかと嘲りたくなる。昨日から格好悪いところしか見せてないな…と思いながら残った甘味を口にしてはまた先程のほろ甘い余韻が内側から広がっていき、彼の存在をどうしようもなく感じて。そんな時「ボス…お話が、」とノックと共に部下から声が掛かれば、冷めたコーヒーを一口飲み「入っていいよ。」といつもの自分に戻って迫る闘諍へと気持ちを高めていって。
夜、最小限の部隊と荷物を準じ、森が茂る山の麓へ訪れる。念の為救護班を待機させるが、アジトのある頂上付近で重症を負えば、此処まで持つかが危ういため大半は上へ向かう者たちで補わねばならない。ただでさえ立ち打つ敵は大きいのだ。現場の空気は張り詰め重たく、それに比例するように森は陰鬱とし心に不穏の影を落とす。どんなに暗くても潜入を悟られるのを避けるには明かりも極僅かしか使えないため、その暗さが余計に不安を煽るのだろう、表情を強張らせる部下に気付けば「ほら、今からそんな肩に力が入ってたら身が持たないよ。」と緊張を解すように肩を叩き、笑みを浮かべたのを確認した後、相手の元へ行き「よく眠れた?」と目元を覗き込むように微笑み問いかけて。)
榊>>
はい。準備万端です。(夜の獣も姿を潜めるような暗闇の中、話し声ですら凍りつきそうな状況であれど不思議と暖かく、安心する光のような双眸が自分の目を射抜いていると気付けば、自然と緊張も解ける。昼の休憩のアドバイスや、この声がけだってきっと彼の優しい心遣いなのだろう。人を思い、見ているからできる小さくもありがたい配慮。現にそのおかげで目元のクマもずいぶんと薄くなり、目元には血の朱が通う程には回復して。しかし、一方で心臓には悪い。彼の眩い光は、自分には少し眩しすぎる。特にこんな暗い夜には今までの仕事の記憶が蘇り、彼の人間らしいその笑みに気後れしてしまう。勿論後悔や悲観に暮れる訳ではないが、やはりこんな気持ちになるのは決戦が近いからなのだろう。「…榊さん、」貴方に勝利を、と続けたいところで先程の彼と部下との会話を思い出し、言葉を詰まらせてしまう。自分は甘えさせてもらっているが、本当は自分も彼のように部下を安心させる側であるべきなのだ。それならば、今は、と部下と話す相手から少し離れ、自分も部下に声を掛け。最後に部下と武器の確認を終えると「それでは只今より潜入作戦を開始する。」小声でそう全体に伝え、山頂へ続く獣道に足をかける。木々が邪魔する視界の中、淡い光の中で相手の姿を目に捉えると日中に口にした宣誓を思い出す。これに籠める先代への弔意は勿論だが、この決戦には負けられない理由が増えたのだ。そう決意新たに登り始めた山道は、聡明な相手が編成したメンバーなだけあって道中何事もなく敵アジトの付近まで登り詰め、後は今立ち始めた霧が濃くなることを待つばかり、と息を潜め。)
>>梔
(相手の顔色が幾分良くなったことに安堵しつつ山道へと進めば、彼の行き届いた配慮もあり足場の悪い山道も難なく登りきり、ついに決戦の舞台へと辿り着く。流石の自分もここに来て緊張の糸が張り詰め、失敗出来ない重圧がずしりと襲い、霧が濃くなるごとにそれは重さを増していき、毅然とした表情の中に僅かな強張りが混じる。それでもふとつねに支えてくれる彼の存在を思い出せば、自然と荷が軽くなって微かに口元を緩め。隣に身を潜める彼の背中に確かな意志を含め軽くトンと触れて、それを潜入開始の合図とすると他の部下達にも合図を送り。相手の予想通り、早朝の警戒は緩く濃い霧に溶け込むことで中への潜入は上手くいった。それからは2人一組となってそれぞれ散らばって密やかに作戦の遂行に移る。することは簡単、敵が集団で眠る部屋に毒ガスを散布するだけ。シンプルだが少人数で大人数と対峙する場合には真っ向勝負になる前に出来るだけ敵の戦力を削ぐ必要がある。此方の動きを悟られる前に出来るだけ静かに内側から攻め込んでいき、見張りも背後から羽交い締め声を上げさせることなく地に沈めて。そうして漸く相手を連れ立ち幹部の部屋の前に辿り着いた時、背後から忘れもしない声が響く。「鼠がうろちょろしてると思ったら憐れに死んだ老いぼれんとこのゴミ連中じゃねぇか。」地を這うような嘲笑と誹謗、声の主は先代を討った男、この組織の主格。ほぼ反射的に刀を抜いて振り返り男に刃先を向けるが、状況を見てグッと奥歯を噛みしめる。男の腕の中には別行動していた部下の一人が人質に取られ銃口を頭に当てられていた。もう一人は…、と最悪な想定をして刀を持つ手に力が入るが表情は崩さずに「おかしいな。君は俺が胸を刺して殺したと思ったんだけど。」と憎悪を押し殺し笑顔を貼り付ける。しかし男は全く意に介さず「さっさと武器を捨てて大人しくしてもらおうか。優しい日本のボス様は部下を見殺しになんて出来ねぇだろ?後ろの可愛いぼくちゃんもだ。」と相手に卑しい目を向けニッと笑う。複数の足音が近づいてくるあたり男の応援もすぐにかけつけてくるだろう。悔しいが男の言う通り自分には仲間を見捨てる選択肢がない。だが此処で大人しく従い朽ちるつもりもない。男が相手に向ける視線を遮り、じわりと額に冷や汗を滲ませながらこの後の突破口への糸口を探って。)
>>榊
(今までの仕事とは違う感覚。不思議と地に足がついたような感覚が今日はあった。それはきっと、いや、確実に彼が隣にいてくれたからだ。彼の背を見るだけで高鳴る心臓は落ち着くし、彼の隣に立つだけで自分は強くなれた気になる。不安に駆られることも、胸騒ぎもなくスムーズに進む状況に少し甘くなりすぎていたのだと危険に晒された部下を見て唇を噛む。恨んでも恨み足りない敵がすぐそこにいるのに何もできない歯痒さ…きっとそれは部下を大切に思う彼は自分の数倍感じているのだろうと何処か冷静にそう思う。相手と同じく咄嗟に出した双剣の柄はギリギリと拳の中で唸りを上げていたが、敵の視線が彼の背中で遮られた瞬間、あの月夜の背中と重なり、ふと頭に登った血が冷めていくのを感じる。自分が今やるべきは何か、彼を守るにはどうすべきか。恥も見栄も捨てろ、使えるものは使え、どうすればこの場面を切り抜けられるか、脳味噌を回せ。「分かった。」カラン、と短刀を地面に置き、次いで隠した暗器を床へ放り投げながら彼の脇をすり抜ける。その時に小声で「榊さん、近くに仲間もいるはずです。行ってください」と囁き敵と彼の間に立つ。恨めしい宿敵を前に、さらに部下を危険に晒した状況で、彼はきっと嫌がるだろう…しかし、ここで彼を失うわけにはいかない、そしてこれは自分の思いだが、彼に傷一つついて欲しくない。敵は今の所一人、片手しか使えない状況であるから脅威は銃弾のみ。この位置からだと後ろの彼に銃弾は当たらないし、捕まっている部下も今の所無傷で、戦闘スキルとしてはそこそこ場慣れしている者。このまま自分が近付き、此方に撃ってきた場合被弾するのは自分、すぐさま連射は出来ないので後は部下が対応してくれるはず。そして部下を打った場合は続射の前に自分が間合いを詰め、締め落とす算段だが、こちらは最悪の場合。最後に残っている最善の策は、今手元に残った最後の苦無が敵の銃を持つ腕を使えなくすること。それを実行するには銃口をこちらに向けさせようと態とらしく「…しっかしまぁ、カラーギャングやら人質やら…挙げ句の果てに武器を捨てろ?ゴミ連中相手に随分と臆病な事で。」等と挑発して)
>>梔
(自分が答えを出すよりも早く動いたのは相手だった。凛とした声、カランと彼の武器や暗器が地面に置かれる音がやけに大きく耳に響く。そしてすれ違い際に言われた言葉、彼の決意と確固たる覚悟、その中に込められた意味と想い、それが瞬時のうちに伝わる。相手を置いていけるわけがないだろう、と真っ先に浮かんだ答え。だがそんな自分の性格を彼は理解しているはず。傷つけたくない想いはお互い同じでそれを見越した上での行動。彼の凛然とした双眸は決して感情のまま動いているわけではなく、考えがあってのものだ。本来は頭の自分がすべき行動だった。それ彼に担わせてしまったのだ。そうして湧いた感情、それは嫉妬。彼の賢明な判断と揺るぎない精神への。まるで立場が逆転したようで気概ない己を責めるよりも前にこんな状況下で彼を羨んだ。それにだ、以前の戦いで‘我慢はさせない’と約束までしてしまっている。そうなれば自分は折れるしかなくて──、「…あとでね。」とたった一言、相手との再会を当然のように告げ、人質となる部下へも視線を向けその場を断腸の思いで去り。男は自分を深追いすることなく余裕の笑みで相手へと視線を向け、挑発にはピクリと眉を動かすも鼻で笑い「お綺麗な顔をして口は随分下衆だな。でもよ、お前のことは前に見た時から気に入ってたんだ。どうせ今のボスじゃ生ぬるくて辟易してんだろ?俺につくってんなら可愛がってやるよ。」と厭な笑みで相手を見て依然と銃を部下へ向けるが、相手が丸腰だと思い込んでいるのか隙は大きくなっていて。
一方で自分は残りの部下と合流し、内一人を消息不明の部下の捜索に当てて、相手の元へ応援が一人として行かぬよう残党を切り捨てる。中にはあのカラーギャングの主格も居たが用済みの男を生かす理由はなく迷いなく刃で喉元を切り裂き。数分もしないうちに動ける衆敵は居なくなる。となれば向かう場所は一つしかない。全てを背負わせてしまった彼の元。湧き上がる焦燥を抑え足を急がせて。)
>>榊
(少しだけホッとする。これで彼を失うことは無いだろうという安堵はきっと彼に聞かれたら怒られてしまうだろうな、と少しだけ余裕のできた頭で思う。彼から返ってきた4文字。たったそれだけの言葉だが、その言葉の中には信頼や再会の意がぎっしり詰まっている。こんなピンチではあるが、そう感じ取るとふっと口元が緩む。彼から与えられるものは聡慧や麗華に彩られずとも十分に心を満たす。「戯言を。お前がした先代への行い、忘れたわけではあるまいな…!」しかし、やはり彼がいないと自分はダメならしい。冷えたはずの頭が相手を馬鹿にするような言葉を理解した途端フツフツと怒りが湧き上がってくる。生温い?違う、彼は温かい優しさを持った上で、冷たく時に残忍な決断もする事ができる人なのだ。たとえそれが自分の心に背く事であっても、部下のために、組織のために動ける人なのだ。それを侮蔑するとは…。そんな激昂した頭に冷静さを差したのは、人質に取られている部下からのアイコンタクト。部下は男の隙が大きくなった事が分かったのだ、ならばもう一押しで…。男は冷静であるものの、やはり先の言葉の直後には反応を示した。ならば「…頭は生温いんじゃない、優しさを知っているんだ。冷徹と卑怯を履き違えたお前なんかとは違う!」最後の方は半ば叫ぶように口にする。と、共に隠し持った苦無を男の肩、出来るだけ部下からは一番遠い角度に向けて全力で投擲する。頭は再会の言葉を口にしたが、それは自分だけでなく、部下も合わせてのことなのだろう。勿論自分も部下を見捨てる考えはない。投げた苦無は当たれば御の字、当たらなかった場合を考えて直後に駆け出す。先ず部下を男の腕から解放を、と部下に手を伸ばし男の腹に蹴りを入れようと構えて)
>>梔
(自尊心の塊のような男は相手の口車にまんまと乗せられ苛立ちで表情を歪ませる。銃口は変わらず部下に向けられていたが相手の鮮やかな苦無捌きに気付くのが遅れたのだろう、苦無は狙い通り部下に一切掠ることなく男の肩に命中した。グッと呻き声を上げ男の手から銃がこぼれ落ち、怯んだ隙に部下は相手に腕を引かれる形で危機を脱する。相手が繰り出した蹴りも男の腹に鮮烈に入り、その勢いで男は大きく後ろによろめく。が、そこは先代を殺った男、倒れることはなく苦無が刺さっているにも関わらずケタケタ笑い始め、負傷していない方の手で胸元からもう一挺銃を取り出し相手の顔スレスレに銃弾を打ち込んで「今のはわざとだ。折角可愛がってやろうと思ったのになぁ、残念だ。」とニタリと笑む。部下からは既に武器は取り上げてある。相手も今度こそ丸腰だろうと男は勝利を確信し銃の引き金に指をかけ───バンッと銃声が響く、血飛沫が飛び、そしてゴトリと銃が落ちる重厚音。どうやら間に合ったようだ。少々的は外してしまったが…、「ごめんごめん、銃に当てるつもりだったんだけど手に当たっちゃったね。」と悪気なくへらりと笑い慣れないピストルを片手にようやく相手の元へと駆けつける。状況は上々、先の悪条件からこの状態に持ち込めたのは流石。両手が使えなくなり呻く男の元へ相手を横切り近づくとその腹を蹴り飛ばし仰向けに倒して顳かみに銃口をあて「分かってないみたいだから言っておくけど俺が来なくても君はあの子に殺されてたから。…それとあの子を可愛がっていいのは俺だけ。」と冷笑を零し。彼の実力であれば男を瞬時殺すことも出来たはず、もしかしたら彼は始めから自分にこの男を殺させるつもりでいたのかもしれないと自惚れたことを思う。ともあれ、今は組織の彼の、己の仇を果たす時、男はここに来て命乞いをするがそれに靡くほど融和な心は持ち合わせていない。男が最期に「俺には妻子が───、」と口走るが冷たい表情のまま引き金を引いて。)
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