「本気ですか?」
目の前で手を組んでいる男に、彼は静かに尋ねた。
齢40歳を越えたような老いを感じさせる皺が少し見え始めた男は、1度目を伏せてから改めて目の前に立つ者を見る。
「私が冗談を言うような男に見えるかね?」
「いえ……。しかし、気でも触れているのかと心配になるぐらいには突拍子もない話でしたから」
バツの悪そうに視線を逸らして言う彼に、男はおかしげに声を上げて笑う。
「すまない、そう睨むでないよ」
常に笑顔がデフォルトの男を不躾にも不満げに睨んだ彼に、軽く詫びを入れてから改めて話を進めた。
「君ほどの優秀な人間でなくてはならないんだ。これは世辞でもなんでもない、本気で言っている」
「……」
「史上最年少で国立魔法研究機関ゼネクトの博士号を取得をした君を教師として招かないほうがおかしいだろう?」
「僕としては教師よりも研究者として生きたいんですけどね」
30歳ほど離れた相手に対して物怖じせずに彼は言い切る。
「それはしばらく諦めてくれたまえ」
「……で。僕を教師として招くのは口実なのでしょう?」
「本当に君は聡いな。図星だ。君にやってもらいたいことがある。そのためには教師としての肩書きがどうしても必要なんだ」
「やってもらいたいこと、とは?」
彼の問いに、男は笑みをかき消して無表情でこう告げた。
「私の娘を探し出して欲しい」
(/しばらくレス禁)