みづき 2018-11-04 21:30:36 |
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「いやあ、本当に召喚されちゃったね」
そう呟いたのは魁斗(カイト)だった。
魁斗と俺は同じ大学の同級生で、偶然故郷も同じだったため、夏休みの帰省の際に飛行機で一緒に帰る事にした。
その機内には、偶々合宿に行く高校生の部活グループも一緒に乗っていて、とても賑やかだった。
預けてた手荷物を見る限りでは剣道部だと思う。防具袋らしき物と竹刀を入れた袋らしき物を預けていたからだ。
だが、飛行中にエンジントラブルが発生して、俺達の乗っていた飛行機が墜落した。
どこかの山の尾根が目の前に迫り、俺は死を覚悟して瞼を固く瞑る。
それまで聞こえていた機内の人達の絶叫が消え、辺りは静まりかえった。
これから来るであろう衝撃も、幾らたっても感じない。おかしい。
で、恐る恐る目を開けてみたら、そこは神の間だったというね。
後は在り来たりな展開で、神様は「君達三人は勇者に選ばれた」と言う。
もしもし?
三人?
いやいやいや。どう見ても四人でしょ!
そう、ここには紛れもなく四人いる。
四人いるのに三人だという。
ああ、そう言う事か。
「君達三人は勇者に選ばれた」。これの意味は…残り一人は巻き添えか?
だが巻き添えだったとしても、これはある意味ラッキーだったかもしれない。だってそうだろう。死ぬはずだったのが生きてるんだから。
それにあれだ。この展開なら異世界転移とかでチートな力を貰ってさ、ハーレムとか有りなんじゃないの?
巻き添え食らったやつマジ可哀相。
俺が思うに、勇者関連のタイプって三タイプだよな。
まずは剣を自由に扱う剣士。
次に魔法を操る賢者。
勇者と同列に良く召喚される聖女。
って事はだよ。どこかの高校の剣道部員が剣士勇者で、紅一点の女の子が聖女ってとこか。なら、俺か魁斗が賢者勇者って事だよな。
まっ、俺がなる可能性が高いけどな。
裕真は漠然とそんな事を考えていた。
何故なら、異世界系のアニメや小説が好きで良く読んでいたからだ。逆に魁斗は真面目でそういう俗物的な物は一切興味が無さそうだった事から、そう思い込んでいたのだ。
異世界知識のない者に神様が勇者に選ぶわけがないと。
が、結果は、賢者勇者に選ばれたのは魁斗の方だった。
どう言う基準で選ばれたのかは不明だが、俺は外れくじでも引いた気分だ。
と言うか、俺自体が外れくじだったんだけどな。滅茶苦茶落ち込んでいたのが自分でも分かる程凹んだ。
勇者に選ばれなかった裕真はガックリと肩を落とし、その姿を哀れに思った神様は特別に裕真にも力を与えてくれた。
「巻き添えにしてしまってすまなかったな」
「いいえ…あのままならどうせ死んでたし」
「まあ、そう気を落とすでない」
「……………………」
「うむ。お主には勇者の資質はないが、異世界に関しての色々な知識はあるようじゃな」
確かに異世界オタクで色んな小説やアニメを見てたけどさ、その程度の知識で良いわけ?
「お主には無属性魔法の力を授けよう」
えっ?マジですか?
無属性魔法ってこの場合「光」と「闇」魔法の事だよな。
これってマジチートじゃん。
いいのか?ある意味賢者と聖女を足したようなチートだぞ。
俺がこんな風に思ったのには訳がある。
つい先程の神様との会話で、神様が俺達に言った言葉がこれだった。
「【剣士賢者】春野和也。お主は刃の付いている武器なら何でも扱う事が出来る。その力で【魔王】を討伐して欲しい」
「はい!神様。ご期待に添えるよう頑張ります!」
「【賢者勇者】夏木魁斗。持ち前の知識欲を生かし、臨機応変に【火】【水】【土】【風】の魔法を組み合わせ、剣士勇者を援護して欲しい」
「はい。新しい知識を学び、力になれるように頑張ります」
「【聖女勇者】坂井冬華。お主の力は【治癒】の力。どんな病気や怪我も一瞬で治せる力じゃ。仲間の治療や民の治療に貢献して欲しい」
「はい。一生懸命頑張ります」
三人の勇者に本当にチート能力を授けたのだ。
高いHPを持ち、殆ど疲れ知らずで戦いに特化した剣士。
賢者はMPが高く、尚且つMPも節約でき、通常の魔法使いより十倍は高いMPを持っている。
聖女に至っては、あらゆる怪我や病気を治し、尚且つ状態異常も治す事ができ、防御魔法に特化していた。
「小嵐裕真。勇者達のような力は授けてやれんが、無力で地上に送るのもはばかれるゆえ、無属性の力を授けよう」
「えっと…無属性とは何ですか?」
四属性が攻撃魔法だって言うのは分かる。じゃ、無属性って何だ?
俺の予想が正しければ、補助魔法って事か?
いや、毒消しとか麻痺消しとかなら聖魔法だろ。それなら他に何がある?
「うむ。無属性とは【光】と【闇】の魔法の事じゃな。聖魔法程ではないがある程度の癒し魔法が使え、毒や麻痺など単体での治療が可能なのが光魔法じゃ。闇魔法は罠を仕掛けたり見破る事に長けておるぞ」
やっぱりな。
要は聖魔法の劣化盤じゃないか。
闇魔法の罠とか勇者様に必要か?必要ないだろ。危険感知能力なんてばっちりだもんな。
俺なんか必要なさそうだよな…。
「うむ。地上の民が召喚の義に入ったようじゃ。それでは勇者達よ、頼んだぞ」
視界が歪み、正常になったかと思ったら、そこは床に魔方陣が描かれた窓のない部屋だった。
周りには剣や槍を持った兵士と、ローブを着た魔法使いの様な格好をした人達がざっと見て二十人程いる。こんな異様な光景は今まで見た事がない。
暗闇の中に浮かぶ妖しげな光の玉が辺りを照らしている。あれもきっと魔法なんだろうな。
そんな光景を見て平静でいられるはずもなく、冬華は剣を持った兵士達を見て腰を抜かした。咄嗟に冬華が倒れないように支えてる剣道部員和也。役得だなありゃ。
俺はと言うと、「異世界キタアアアアアアア!」と心の中で叫んでテンションMAX状態。
この中で唯一冷静だったのが魁斗だった。
「いやあ、本当に召喚されちゃったね」
落ち着き払った声で小さく呟いた。
一章 終り
俺達が魔方陣から現れると、周りがざわめきだした。
何を話しているのか俺にも分かる。多分異世界補正の言語補正が付いているんだろう。
「な、なんと。勇者様が四人ですと!?」
「今までこの様な事例はありません。大賢者様」
魔法使いらしき二人が驚き合っている。
「ふむ。古い文献にも四人も現れたとは書かれていなかったな」
「左様で御座います。勇者様は現れて二人で御座います」
「ふむ。剣の勇者と聖女であったな」
高そうな衣装纏った男とヒョロッとして見た目ひ弱そうな男が話す。
会話と口調からして「王様と相宰」または「王様と学者」という感じだ。
暫くザワザワとざわめいていたが、何やら話し合いが有り、俺達は別の部屋に連れて行かれる事になった。
「この者達の適性検査をしろ。適正検査官を呼べ」
「はっ!」
あの後一人ずつ別室に連れて行かれて、険しい顔つきの文官らしき人物に合い、両手をギュッと握られた。
無言で俺の顔をジッと見詰め、小さく溜息を吐かれたのは解せぬ。一体何だというのだ。こっちは一瞬身の危険を感じたぞ。
適性検査が終わると全員が謁見の間という所に呼ばれた。そこで王様から有り難い話し等があるらしい。
「良く来てくれた勇者殿達よ。まずは礼を言おう」
今の会話の何処に「礼」があったのか今一分からん。所詮王族とかはそんなもんか。
「まずは適正結果から言わせて貰う。カズヤ・ハルノ」
「はい」
「貴殿は剣の勇者であると結果が出た。その類い希な剣技で我が国を救って欲しい」
「はい。ご期待に添えるよう頑張ります」
カズヤはやる気満々のようである。リアルゲームみたいな出来事にいち早く順応したのもカズヤだ。
身体の軽さを敏感に感じ取ったせいもあるだろう。
「カイト・ナツキ」
「はい」
カイトは王様に名前を呼ばれて一歩前に出る。
「貴殿は賢者の勇者と言う結果が出た。その知恵と力を我が国の為に使って欲しい」
「はい。お望みであらば存分に発揮いたしましょう」
おー。流石は首席入学と噂されてただけはあるな。堂々としてるが、それが嫌味に見えない所がこいつの付き合いやすい所なんだろうな。
「フユカ・サカイ」
「は、はい」
この子はまだ少し緊張してるっぽいな。若干オドオドしてるし。
「貴殿には聖女として役割を果たして貰う。勇者殿達を守るのだ」
「え、えっと…は、はい」
意味が良く分からないよね。俺も良く分からんし。
この王様はチート聖女の力を知らないのだろうか。多分彼女は、息さえしてればどんな怪我だって治せるし、欠損部部位だって元に戻す事が出来るんだぜ。
「最後に…ユウマ・コガラシ」
「はい」
大体の予想は付いていたので、落ち着き払って答える。
「貴殿には魔力がないようだな」
「はい?!」
何を言ってるんだこのおっさんは。
俺に魔力が無いだと!?
俺だって神様から無属性の力を貰ったんだぞ。それなのに魔力が無いだと!?
なら一体どうやってこの力を使えというんだよ…。
「稀におるのだ。勇者でない者が召喚される事もな」
「はあ…」
何とも間の抜けた返事だが、俺にこれ以上どう返答しろと?
「勇者でない者をこの城に置いておくわけにもいかん。よって、お前には二つの選択肢を与える」
おいおい。「貴殿」から「お前」に変わっちゃったよ。
用無しの扱いって酷いね。この分だと二択の選択も碌な選択じゃないだろ。
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