りつ 2018-10-23 08:51:40 |
通報 |
「可愛い。その一言に尽きる」
「貴方はそのエンドレスループはやめてください」
「敦士ったら酷いなあ。なんでも聞いてやるから飲もうって言ったのはそっちでしょ」
「惚気は四六時中聞いてますよ」
「だって、本当に好きなんだよ。彼女を好きになってよかったなってほんとに思うんだ。前に進む勇気をくれたのも、彼女だから」
「……仕事は疎かにしないようにしてくださいよ。私に回ってくるんですから」
「わかってるよ。やっと、夢の為に進み始めたんだからね。あっちゃん、来月はお店を任せたよ」
「……はい。任せていってらっしゃい」
「華和ちゃん」
「あっ、美里兄。この間、なんで帰ったの?お母さんが寂しがってたよー」
「用があったからね」
懐かしい会話。今はもう、彼女を見ても胸は痛まない。彼女も弟も前に進んでいる。好きでも、お互いの夢のために別れたのだ。夢も恋も、なんて欲張りかもしれない。でも、やっと動き出したのだから、手放すことなどできない。……なんて、いつの間に俺は欲張りになってしまった。
「ね、華和ちゃん。お願いあるんだ」
「えー、なに?美里兄が珍しいね。変なお願いじゃないならいいけど」
きょとん、とした彼女にお願いをした。
「あの子と仲良くなってほしい。……俺がいない間、きっと寂しい思いするだろうから」
……なんて、自意識過剰かもしれない。でも、無理をさせたくはないから。そんな彼女の隣にいてほしい。目を丸くした幼なじみは、ぷっと吹き出した。
「当たり前だよ。美里兄に言われなくても友達になるから」
その言葉を聞いて、意外だと相手を見つめた。少しだけ、何かが彼女の中で変わったのだろうか。
自分から見た彼女は、真面目で肩の力を抜くのが苦手な子だったのに。……まったく、女の子はすぐに大人になってしまう。男より女の方が大人になるのが早いのは、何故なんだろう。
「ありがとう。……頼むね」
大切な幼なじみの彼女は笑って頷いた。いつまでも皆、俯いてるわけじゃないのだ。自分があの人に出会った時のように。それぞれが前に進んでいる。
人間ってそういうものなんだろう。人との繋がりはやっぱりかけがえのないものだから。
──俺は、皆に支えられて生きているんだ。そして、きっと。皆に何か少しでも返せたらいいな。知らない人に、すれ違う人に。
そう思うと、胸が温かくなって今まで諦めないでよかったなと笑みが零れた。
夢はまだまだ途中。いつか、笑顔が溢れるようなお店を出してみせる。決意はまだ、この胸の中にある。
もらった優しさはまた見知らぬ誰かに返して、そして、その見知らぬ誰かがまた見知らぬ人に優しさを返せたら。そうして優しさが巡り巡ったらいいなって。私の勝手な気持ち。
相手の気持ちなんてわからなくても、わかろうとする努力はできるから。想像してみれば。
綺麗事だって笑われちゃうかもしれないけど、人の痛みをわかろうとする人でいたい。私だってそれなりに傷付いて、苦しんできたと思うんだ。傷付けたことだってあるかもしれないし。
大人になった今でも、忘れたくない気持ち。
トピック検索 |