常連さん 2018-10-20 22:37:19 |
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「月がきれいだね」
満月がまるでスポットライトのように光を放ちキミを照らす
そして、その一言だけを遺してキミは居なくなった
夏の匂いが残る池の近くに、まるで独りぼっちのようにある橋の上で
キミは寂しくも何故だか、楽しそうだった
その笑顔がなくなった後、涙は流れなかった。悲しいと言う感情に間違いはない。
光が、萎むように居なくなったキミが立っていた場所を見つめている
キミは居なくなったけど、何だか傍にはキミがいる気がしたんだ
その場所にしゃがみ、掌を当てて確かめた。キミがいた事を
それから数年後----------------------
ぼくは毎日あの場所に足を運んでいる
どんなに忙しくても、体調を崩しても、必ず
そして今日。あの日、あの時のように満月がまるでスポットライトのように誰かを照らしている
まさか、とぼくは考え、橋へ向かった
しかし、そこに居たのは全くの別人だった。走ってきた為に息を切らすぼくは変な人に見えたのだろうか、その人はそさくさと何処かへ消えていった
そうだ、いるわけがない
小さく、悲しみをこらえながら微笑んだ
大丈夫、分かってるよ。さぁ、帰ろう。
そう、考え踵を返して背中を向け、歩き出そうとした瞬間
「あ、満月」
聞き覚えのある声が聞こえた。
独り言のように、誰かに話しかけるように。楽しそうに放ったその言葉は、声は、籠められた感情を、ぼくは知っている
ぼくは振り返った。数年ぶりに涙を流しながら
潤瞳に映るのは、あの日と変わらぬ容姿で此方を見つめる彼女の姿
照らしている
彼女を、月が祝福するように照らしている。
ぼくには眩しすぎる光景だ
互いに小さく微笑んだ後、二人の声はこう言った
「「月がきれいだね」」
私は皆に祝福をされながら生まれたの。
それはもう盛大に。
私が生まれるまでは、農家に嫁いだお母さんはかなり苦労をしたみたい。
妊娠しても畑仕事や田んぼ仕事をやらされて、朝の早くから家族の世話までしてたんだって。
日の出と共に起きて家族の御飯支度。それが終わったら掃除に洗濯をして畑仕事。
つわりで苦しんでいても
「それくらい皆やってるんだ、甘えるな」と怒られ仕事続行。
妊娠後期になると疲れや眠気も溜まってきて、夕方ウトウトすると
「このなまくら嫁が!」と怒鳴られる。
挙げ句の果てに、生まれてくるのは男の子だと思い込んで、「女なんか生まれたら川に捨ててやる」とまで言われたそうよ。
農家だから跡取り息子が欲しかったのは分かるけど、そこまで言う事は無いよね?
でも実際に生まれたのは女の子の私だったんだけど、捨てられなくってラッキーだったよね。
そんなこんなで臨月を迎えて、生まれてくる日を楽しみにしていたらしいのよ。
でも、予定日を過ぎても中々生まれてこなくって、これは働きが悪いから何時までも腹の中に入ってるんだと扱き使われたらしいの。
朝ご飯の支度から始まって家中の大掃除。重い買い物袋を持たされ片道15分のスーパーまでの買い物。
そのかいあってか、その日の夕方に産気づいて入院。超安産のスピード出産。
「おんぎゃ~」
生まれた瞬間「ゴーン」と言う最後の鐘が鳴って、皆がこう言うの
「おめでとう~」って。
そう、私が生まれた日。
それは1月1日(元旦)だったのよ。
日本中の皆が私の誕生を祝ってくれる。
それが私の誕生日。
海っていうのは不思議な世界
上から見る景色は青一色だったり
斜め上から見る景色はテトラポットや波に削られて出来た小さな足場が織りなす
一つの街のようだったり
潜って見ればそこは果てし無く先へと続き、魚や貝、クラゲや海藻がまるで人間のように暮らす
王国だったり
ダイビングという初めての事に私は胸のドキドキが止まらなかった
ウェットスーツやフィン、手袋から伝わる冷たさとほんの少しの温かさ
レギュレーターを使った呼吸
背中に背負ったBCD
顔につけたマスク
普段は使わない物を使って王国を旅するのは不思議な感覚だった
魚は私に興味があるのか近づいて来ては離れ、近づいて来ては離れを繰り返したり
足が下がりバタつかせてしまった時に舞う砂が視界を遮ったり
海の中で聞こえるパチパチと拍手のような音があったり
今、私は皆と同じ地球にいるのに、全く別の世界にいるように感じた
海って不思議だ
海って素敵だ
海って魅力的だ
海って広い
海って綺麗
また、見たい
また、あの景色を見たい
私は帰るまでその事が頭に残ったまま帰りの車で気づかぬうちに眠りについた
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