みみかき 2018-10-13 23:06:20 |
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「待て待て、そんなに怒るでない」
これが怒らずにいられようか。
「まさか生きて戻るとは儂も予想しておらんでな。お主の体を元の状態に戻しておらなかったのだ」
ん?それはどう言う事?
「つまりだな。異世界仕様のままなのだ」
それはつまり…あれですか。
「お主が今まで培ってきた魔法がこの世界でも使えるという事だな」
………それは大変素晴らしい事です、神様。ポンコツなんて言ってゴメンナサイ。
「今まで通り、【破壊】と【再生】の力が使えるはずなので、その力を使って何とか乗り切って欲しい」
「……分かりました。そこまで仰るのなら何とかやってみます」
「すまないの…」
ふっふっふ。また一文無しからの出発だけど、伊達に千年も異世界で過ごしてないわよ。
お金を稼ぐノウハウなら誰にも負けないわ。
見てなさい。この時代でも逞しく生きてやるんだから。
神様との交信も終わり、それと同時に雨も上がったみたい。
人通りもさっきより多くなったみたいだし、千年前という事は平安時代辺りかしらね。
歴史なんて苦手だったからあんまり良くは覚えていないけど、戦国時代っぽいよね。
取り敢えず先立つ物が無いと困るから…お金でも稼ごうかな。
何時の時代でも、どこの世界でも共通の職があるのよね。
そうよ。大道芸という元手要らずのお仕事があるのよ。
私の強みはハッキリ言って、魔法を使った手品の様な奇天烈な芸が売りなのよ。
今着ている異世界仕様の洋服も逆に考えれば目立って丁度良いと思うのよ。
そして今までに見た事のない魔法を使って芸っぽく見せれば大儲けでウハウハなのは間違いないわ。
そうと決まったら一丁やってみますか。
今晩の宿代のためにね。
今いる神社の入口の前が少し広めの空き地になっているので、そこに陣取ってパフォーマンスをする事にした。
BGMとかが有れば人も呼び込みやすいんだけど、そんなもん有るわけないし。しょうが無いから大声で呼び込むしか無いわよね。
「さーてお立ち会い。どなた様も足を止めて、ちょーっとだけ見ていって下さい」
異世界仕様の服装がかなり珍しかったのか、チラチラと歩きながら見る人、足を止めて見詰める人に別れた。
そのタイミングを逃さずに、私は片手ずつ上下にお手玉をする様に上げる。お手玉の代わりに掌から出るのは火炎爆弾。
勢い良く空に上がって行き、天高く爆音を上げて火花が飛び散る。まるで花火の様に。
規模を最小限にしたからそこまで危険じゃ無いけど、何も無い所から花火の様な物が上がるから驚いてるわ。
五・六回火炎爆弾を上げてから皆の視線を此方に注目っと。
「皆様こんにちは。私は旅の芸人で御座います」
深々と頭を下げ、一礼をする。
「私は南の方からやって参りました奇術師でござーい」
奇術師とはなんぞや?と言う顔をして人々は近くにいる人と顔を見合わせている。
「まずは挨拶代わりにそこのお兄さん、咥えている爪楊枝を頂けませんか?」
「なんだネェーチャン。俺に惚れたか」
ガハハと下品に笑いながら口から爪楊枝を指でつまみ近寄ってきた。
そのまま私に手渡そうとしたけど、私はそれを拒否。
途中で止まったお兄さんの爪楊枝を摘まんだ手を私の身長より少し高い位置で固定して、その真下に私が掌を上にして準備完了。
「お兄さん。そのまま私の合図と共に爪楊枝を放して下さいな」
何々。何が始まるんだと、見物人は興味津々である。
「さてお立ち会い! このお兄さんが持っている爪楊枝、私に触れる事無く消して見せましょう!」
意味が分からないのかザワザワと隣の人と話し始める。
爪楊枝兄さんも「そんな事出来るわけないだろ」と言うような呆れ顔で私を見ている。
「それではどちら様も、よーく見ていて下さいよ。爪楊枝が落下した瞬間に、燃え尽きて消えてしまいますからね。消し炭さえも残っていませんよ」
「そんな分けあるかい」「あの子頭大丈夫かね」そんな声もチラホラと聞こえてきた。
「瞬きしてると見逃しますよ-! では、3・2・1、はい!」
……お兄さん微動だにせず。
そりゃそうだわ。
この時代にカウントダウンなんて概念なんて無かったわ…。
失敗失敗。
「あー、お兄さん。私が「はい!」って言ったら放して下さい」
「あ、ああ、わかった」
「ではもう一度。3・2・1、はい!」
お兄さんが爪楊枝から手を放し、掌上空五センチの位置で、初歩の初歩、炎魔法を発動。
爪楊枝はあっという間に炎に呑まれ瞬時に跡形も無く消え去った。
辺りからは響めきが起こり、一体何が起こったのかとざわめき出す。
「これが奇術で御座います!」
物珍しかったのか大喝采を浴び、他には無いのかと奇術芸をリクエストされ、折り紙で作った鶴を空中浮遊させたり、湯飲みを借りて指先から水を出してみたり、一文銭を二文、三文と増やし、最後に一文に戻して借りた本人に返したりと、思い付く限りの手品をやって見せた。
そのおかげで二百文程貯まり、安い宿屋なら泊まれそうだ。
近くにいる人に一番安い宿屋は何処かと聞いてみると、裏手にある【美鈴屋】という所が安いという。
親切にも案内をしてくれて連れて行って貰ったんだけど、確かに安いだけの事はあるわ。ボロイ。
長屋にちょっと毛の生えた感じで、歩く度に床がギシギシ鳴るんだもん。大丈夫かな、ここ。
二階に登っていく階段の端っこが、人の上り下りで擦れたのだろうか少し削れているし、廊下の床板も木と木の繋ぎ目が擦れて擦り減っているのが目立つ。
狭く薄暗い階段に明かり取りの窓が障子で出来てる小さな窓のような物が転々とある廊下。
部屋の中から人の声が聞こえてきていないとマジで怖いよ、本当に。廃墟かお化け屋敷かって感じだもん。
案内されて入った部屋は、四畳半くらいの広さで、ちゃんと床の間も付いていた。
他に物は何も無し。
押し入れの中に布団が二組あっただけ。
「夕食は酉の刻で良いかい」
「酉の刻? ああ、五時って事ね。 良いですよ」
なんと、時刻が十二支だったことにビックリ。
って言うか、大体予想はしてたけど実際に体験すると少し戸惑うわね。
案内された部屋で少し休む事にしたけど、何だか落ち着かないわ。
現代ではソファーや椅子、ベッドなどに腰掛けて寛いでいたし、異世界でも椅子かベッドが基本寛ぎタイムだったじゃない。
此処に来ていきなり畳の上とか落ち着かないわよ。
「これって…寝転ばって寛げば良いのかな…」
「…………………………………………………」
「………い…痛い…。」
体からギシギシと音がするくらい痛い…。
仕方が無いので部屋にある障子窓を開けて、そこにもたれ掛かるように体を預けて外を眺めていた。
人の流れは意外と多く、桶を天秤の様に担ぐ物売りや大きな箱を背中にしょい、旗を立てて歩く行商人の姿が見える。
桶の天秤担ぎは食べ物が多いみたいで、「とうふ~」とか「魚は要らんかね-」とか言いながら歩いている。
大きな箱を背負ってる人は、薬屋さんとか反物屋さんが多いみたい。
その中の一人、薬屋さんが宿屋に入ってくるのが見えた。
程なくして女中さんがその薬屋を案内しながら隣の部屋へと入ってくる。
壁が薄いので話し声はまる聞こえである。
「夕飯は何時もの時間で良いのかい」
「ああ。今日は儲かったから酒も一本付けてくれ」
「あいよ」
プライベートもへったくれもありゃしないくらいに良く聞こえる。
薬売りって結構儲かる物なんだろうか。
薬の調合なら魔法を使えばあっという間に出来てしまうこの力を使い、万能薬を造って売れば結構な儲けになりそうね。
ん~…、って言うか、私の【再生】の力って、触って念じるだけで病巣が消えたり傷が治ったりする力なのよね。
これってさ。
医者として働けるんじゃない?
この時代って医師免許とかないし、私でも出来そうだわ。
それに、薬だってそこら辺の民間薬より遙かに良く効く薬を造れるからもしかしたらこれは天職かも知れないわ。
そうと決まったら行商に使う道具を買うお金を稼がなくっちゃ。
夕方五時はまだ明るい。
この明るさと気温からいって、事故当日の七月。つまり季節的には夏だと思う。
女中さんがお膳に夕食を載せて置いて行った。
「おおー。これが昔の食事ですかー」
お膳には黄土色っぽい御飯がドンブリ山盛りはいっている。(こんなに食べられないよ…)
それになんか美味しくない。木の根っこのような味だ。
お味噌汁は透明で塩味がし、具は…何の草だコレ…。(山菜かな)
メイン料理は多分コレなんだと思うけど、めざしが一匹、お皿にちんまり載っかっているだけ。(マジですか…)
後は大根の漬け物が二枚有るだけ。(精進料理みたいだ…)
たったこれだけのおかずでどんぶり飯を食べろとか、何の罰ゲームですか。
でも食べたけどね。
流石に御飯を全部は食べられなかったけど、あの味付けならいけるかもしれない。
めざし→塩っぱい
漬け物→超塩っぱい
吸い物→程々に塩味
うん。御飯で調和しないと食べられない程塩が利いていたよ。
昔の人が短命だったのってコレが原因かもしれないね。
日が暮れると娯楽が無く、明かりは蝋燭のみ。
まあ、千年も似た様な生活をしてたから慣れてるけどね。
ほんと、早寝早起きの健康的生活だわ。お肌もツルツルよ。
やる事も無いし寝るわ。
お休みなさい。
おはよう御座います。
日の出と共に起きた凜香です。って、始めて自己紹介したかも。
今日の私の予定は、昨日の場所でマジックショーをやって、あと何カ所か場所を変えてマジックをするでしょ。それを元手に背負子を買って、着物も買って、後は昔取った杵柄で薬を調合してーの行商スタイルで移動。
たまに病気の人の治療をして、気に入った場所があったら定住。
なんて完璧な計画なんでしょう!
ふっ。大雑把すぎるって?
いいのよコレで。
人間完璧な人なんていないんだから…。
そうと決まったら行動力だけは無駄にあるんだから頑張るわよ-!
こちらの世界に来て十日。
順調に稼いでやっと旅費という名の路銀が貯まったわ。
異世界スタイルは大店っぽい商人に売りつけたら見た事の無い生地だって大喜びされてかなりの大金で取引してくれたし、異世界通貨もこっちじゃ無価値だったから、ポケットに入ってた数枚の硬貨を錬金術で簪や櫛にしたら、これまた大金で売れちゃった。
なんたってデザインが現代風の細工だったのが良かったみたいで、南蛮渡来の品物と勘違いしてくれてこれまた大金で…。
笑いが止まりませんわ。
お陰様で、背負子を背負いながらの旅路の予定が馬一頭と荷車付きの豪華版に変身よ。
その荷車も宿場町を離れた所で屋根を魔法で錬金して、幌馬車仕様にしちゃった。
それにしても今どの辺なんだろう。
私が元居た所は東京より少し南に位置する所で、結構大きな街だったんだけど、転移したら田舎の宿場町だったし、あれでも大きな方だったのかも知れないけど。
今は街道を南に向かって歩いているんだけど、人通りというか、行き交う人が結構いるのよ。
皆軽装だけどね。
昔の人って案外荷物が少なかったのね。
薬の行商人というか医術師としての旅人を装い、幌付きの馬車で旅をしていてある事に気がついたのよ。この世界の違和感にね。
初めは何に違和感を感じているのか分からなかったけれど、多分今いるところは京都辺りだと思う。言葉使いのニュアンスからして。
近くで大捕物があったようで、大勢の検非違使のような人達が大立ち回りをしていたんだけど、その中の何人かが魔法のようなものを使っていたのを見逃さなかった。
「止まれ-!逃げても無駄だ!藤守!捕縛しろ!」
「はい!d03kf-3る8@#$*捕縛!」
白く細長い靄のようなものが犯人の足下から体全体に巻き付き、犯人はその場に倒れ身動きが取れなくなっていた。
私はそれが何なのか気になり、隣にいた野次馬のおばさんに聞いた。
「今のって何なんですか?」
「あんたしらへんの?」
「はい」
「あれは捕縛の術言うてな、御貴族様にしかつわえへん術なんよ」
「貴重な術なんですね」
「当たり前や。他にも秘術があるらしいけども、大層神力を使うっちゅうはなしやで」
「神力ですか・・・」
「何せ御貴族様は神様に近い人達やからね」
新事実です。神力とか神様とか・・・もうね、驚き通り越して呆れてしまいましたよ。何がって?
ここ!地球だけど地球じゃないじゃん!!って事二ですよ。
多分だけど、私の予想が正しければ、ここは平行線の世界だと思う。だって、元居た地球に神力とか無かったですから-!!
陰陽師辺りが神力を使うとかなら百歩譲って納得しましょう。でも、検非違使が神力で盗人捕縛とか聞いた事ありませんから-!!
ポンコツ神様・・・やっちまったなぁ・・・。
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