“嘘つきは希望と出逢う”　

【平和なパラレル：サンプル】


――あぁ、まったく！　これはいったいどういうこと！？　断罪人たるこの私が、罪人どもを見失ってしまうなんて……！

（愛用の鞭をしならせて地面をピシャリと叩きつけ、怒ったように叫んでみるが、生憎とここはビルの外。ボタンひとつで全てが思いのままになる自分のフロアとは違い、いつも通りのことをしても何ひとつ解決できず、道を行き交う人々の不審な視線を買うだけだ。
あぁ、こんな状況に陥るくらいなら、神父様の珍しい御誘いに易々と乗るんじゃなかった――「メディア展開の打ち上げとして、ビルの住人皆で旅行を楽しもう」だなんて！　自分がそれに乗ったのはもちろん、おぞましいことに、神父様の許可のもと住人入りを果たしてしまったあの小娘……レイチェル・ガードナーの断罪の機会を狙うためだったのだ。なんといったってあの売女は、素敵な怪物だったザックを人に堕としてしまったのだから！
そう、あの小娘を断罪すること、それを楽しみに来たはずなのに……少しウィンドウショッピングしてから元の場所へ戻ってみたら、住人たちはだれひとり残っておらず、自分ひとりが見事にはぐれてしまっていたのだ。携帯は持っていないから連絡がつくはずもなく、どこへ向かえばよいのかすらわからない。忌々しく思いながら指の爪を赤い手袋越しに噛み、緑の瞳を憂えるように伏せながら、どうしようかと考える。その時ふと脳裏を過ったのは、優男の皮を被った罪人の男の顔――まさか、と打ち消すように呟くも、不安げな表情はその虚勢を繕えておらず。）

……まさか、ダニー先生はどうせあの売女を性懲りもなく追いかけているだけだわ。あの男ごときに頼るような私でなくってよ、そうでしょう？