匿名さん 2018-06-10 21:12:24 |
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爆豪
(こんな事は一生誰にも明かさず墓の中に持って行きたいと思えるほど小っ恥ずかしくて言う気がしなかった。そこを何とか耐えて腹を括り正直になって。と思えばまた今にも泣きそうな声で、んなこと言うからこっちは色々やりきれねぇんだよ。どうして分かんねえんだこの馬鹿。そのタオルだって持ってたって何になんだ。俺が視界からも世界からも消えてる生活の方が何倍もマシだろ。少しの間何も言わず突っ立ってから、空いていた距離を縮めるように奴の方へと近寄る。どうせ俺もこいつも、今は頭のどっかでネジが一本取れてる。だからきっと今だけなら。今だけなら、誰にも叱られることなく許しを寄越してくれるんじゃないかと、確証も無い可能性に委ねてみる。奴の背に手を回しこっちに引き寄せた。 )
……俺と居たらクソな人生しか送れねえぞ。
( この女は俺がいない日々がどれだけ平穏か想像しないのだろうか。まさか今の事しか見えてないじゃねえだろうな。笑えねえ、んなのは餓鬼のすることだ。自分だって同じことだろうに、頭ん中で貶し己を戒めながら意味も無いほど強く抱き竦める。指にかかる髪の束は絹糸の如く柔らかく、鼻腔を擽るシャンプーの香りは甘ったるくて後で胃もたれするんじゃないかと思うほど苛烈。予想を通り越すような鬱陶しさに身体が圧迫されているような気分になる一方で、異常な愛しさが消えていく気配は微塵もなく、寧ろ募っていくばかりで。 )
耳郎
( あー、びっ、くりした。勘弁してくれ上鳴。ほら今視界に入ったカップルも同じことしてんじゃん、付き合ってないのに付き合ってる感あることするって、それかなーり恥ずかしいことなんだけど、分かってんのかな上鳴。いや分かってくれ。 急に上鳴って小さい子みたいに羞恥心とかそういうの消滅するよね。マジ人間爆弾。今日だけで何回照れたかな、かっこわる。まあでも。ちらりと上鳴の方に視線を向けてみる。大したことなんて言ってないと思うんだけど、とにかく上鳴の機嫌は良さそうだし、まあ別にいいんだけど。これでちゃんと上鳴が理解してなかったら叱ろ。とか思ってた矢先に再び声が掛けられて、 )
…ピアス?
( またさっきみたいなことやるのかと思ったけど、どうやら今は違うようで少し安心。そしてどうやら上鳴が指していたのは、なかなかいい感じのピアスのようで、流石上鳴と言うべきか、適応力が違うって言うか、思わずへえと声が漏れた。決してデザインは悪くないし、好きな方。ただ、「イヤリングならいいんだけどな。…穴開けんの痛そうで怖くて、開けてないんだよね」あと校則は一応守りたいし。へらっと軽く苦笑い。ピアス開けてる人尊敬するってったら大袈裟かな。かなり痛そうだけど、実際どうなんだろう。やり方に問題あるんだろうか。とは言えやっぱりこういうのって憧れるし、付けたいんだけどジレンマ。ぼんやり隣に並んでいた花型のイヤリングを見てみると値段がとんでもなくてびっくりして咄嗟に戻す。値段が全然可愛くなかった。いや世間一般の子はそれでも買うんだよね。もしかしてウチに足りないのはそういうとこ?うわ、寂しくなってくるから指輪でも見よっと。またぼんやり棚の方を眺めながら歩き始めて。 )
( /遂に100レス越えちゃいましたね…! 毎回毎回長文で申し訳ないと思いつつも、いつもご丁寧に返して頂いて本当に嬉しい限りです。
なりの方ではうちの二人が色々拗らせたり、自由にオリ伽羅出しちゃったりして、ご迷惑をお掛けしていましたらすみません…! もしご不満でしたらいつでもご指摘くださいね、すぐ改善しようと思います。
これからも多々ご迷惑おかけするかと思いますが、これからも末永くよろしくお願いいたします! )
成合
( ふと伝わる温もりにびくりと肩が震えた。ひどく優しいあたたかさに身を委ねたくて、でもどうしていいのか分からない。それでもまた後悔したくないからそっと体重を預け、彼の背に手を回した。すうと鼻から息を吸えばタオルより何倍も強い香りが鼻腔を通り抜け、麻薬かのようにも感じて仕方がない。ほとんど詰められた距離を更に詰め、背に回す手に力を入れればぐりぐりと頭を押し付けた。 )
…いいよ。何でも、いいよ、
( 好きだから。もうこのままでいられるなら何でもいい。どこかに行ってしまうなら時が止まればいいとさえ思っていたけれど、願いが叶った今でも止まればいいなんて考えるほどに強欲だ。本当にずるい。悪い。それを口に出せば嫌われてしまうだろうから何も言いやしないけど。抑え込んでいた涙はその勢いをなくし、わずかな鼻の痛みだけを残してすっこんでいった。少しだけ顔を上げ、視界いっぱいに彼の姿を映す。こんな近くで、こんな幸せな気持ちで、いつまでもその顔を見ていることができるのなら、それでもういいのだとまたシャツに顔を押し付けた。 )
上鳴
あー…、まーそりゃ体に穴だもんな。
( まあ何となくわかる気もする。自分にも穴は開いていないから推測の域を出ない話だけど、あれって結構痛いモンなんだろう。でもオシャレのためには俺も1回はあけてみてーなーとかは思うし、轟の個性なんかで耳冷やしちゃえば痛みとかねーんじゃね?とか天才的な案を思いついてしまったこともあるほどには憧れもあるっちゃある。見せたピアスを棚に戻し、次いで耳郎の耳に目をやった。耳郎の個性は一応耳が武器みてーなとこもあるし、まあそこらへん慎重なのかも。とかなんとか予想してその視線の先を気まぐれに追ってみれば指輪の棚だ。ほーん、やっぱ女子ってそんなんにキョーミあんの? )
欲しいの?
( 特に何も考えずそう話題を転換する。指輪と言えばそりゃ結婚の時に渡すのが普通だけど、最近はオシャレでもつけてるのが結構いる。ワンポイントにはちょうどいいし耳郎もそーゆーの気になったりすんだなー。いやーさすが女子。男同士の買い物だったら指輪とか買うやつぜってーいねーから。「そーゆーの好きなん?」と視線の先の指輪を見つめて問えば軽く首を傾げて。 )
(/ 気付けばもう100!とても早く感じております。
返信が来るたびドキドキしながら覗くほどには楽しませて頂いておりますので、こちらの方が感謝を告げたいくらいです!
こちらもいつもリードして頂いて申し訳ないと共にとても楽しいです。季節の変わり目ということで体調を崩しやすくもありますが、お身体に気をつけてこれからもよろしくお願い致します!)
爆豪
…バカが
( 鳥頭なのか脳が煮え切ってんのか、またはその両方か。どちらにせよ自分のことながら呆れずにはいられず、嘆息と笑みが零れた。けれど同時にその一言を聞いて、すっと心の荷が降りていくような感覚がする。恐らくこれは安堵の象徴。奴には俺を振り払う権利があった。寧ろ常人なら其方の方を選ぶに決まっている。だからこそ心の何処かで、もし否定された時に己の慕情も依存心も何処へ行けば良いのか分からずその瞬間を心底恐れていた。コイツが俺から離れて行くことを望むようになる言葉吐いたのは俺自身だって言うのに、最後は結局コイツに頼って情けない。自分の願いがあっても言葉にできず、コイツに委ねなければ引き留めることもできない。馬鹿だ馬鹿だと言いながら本当の大馬鹿なのは俺の方。と、おもむろに己の背中に手を回されてはっとする。頭をぐしぐし押し付けてくるからまるで小動物のように見えた。もう一度髪を撫でておく。声の雰囲気やらを伺えば、今はどうやら泣いていない様子。いや、ただこんな近距離でべそべそいつまでも泣かれてはウゼェだけで、泣いて欲しくないってのはそういう理由ってだけ。…だからまあ、涙が治まったなら、それはそれで良い。 )
…好きだ。
( 今度はあんな寝惚けた声なんかじゃなくて、意思がはっきりしている声で告げる。こういう時ぐらい相手の顔見て言えとか何とか言う輩がいたとしたら即座にぶん殴ってやる。今のとんでも不甲斐ない自分の面なんざ誰かに見せてたまるか。その代わりに声音は一番意識をして、棘のないよう心掛けた。「俺と、付き合え」自分が利用する為にではなく、コイツになら利用されても良いと思えるから付き合う。付き合いたい。らしくないことに、いつの間にか体が強ばっていて。 )
耳郎
…好き、かも。……多分。
( 最近クラスの女子と一緒に見ていた雑誌に今のトレンドは指輪だって載ってたから、何となく気になってて見たかった、ってのは理由になるのかな。気になってしまうっていう曖昧な気持ちで、好きかどうかは断定できないけど、多分嫌いってことじゃないだろうから、そういう返事をするしかない。にしても実際こうして本物を見てみると途端に物欲センサーが働き始めるので困る。いやいや駄目だ、安くても一つ五千円以上するって誰かから聞いた記憶あるし。絶対店内の雰囲気とか照明とかが思考をあらぬ方向に案内してるのは間違いないんだけど、いや分かってるんだけど、やっぱり指輪って綺麗だし。他のアクセよりも凄く可愛すぎるってのも無いし、いや待った、この流れはマズい。「でもまだ持ってないんだよね、なかなか買う機会無くて」頭の中をリセットしようと上鳴のトークに徹することに決める。そもそも雑誌のモデルさんもそうだったけど、指輪って指長い人がとか美人さんが付けるからこそって感じがする。それこそヤオモモとか似合いそう。 )
(/ 楽しんで頂けているようで此方としては何よりです…!
あら、そうなんですね、背後様の方が断然大人ぽくて、いつも引っ張って頂いているように感じておりましたので驚きです!
ありがとうございます、もうじきに夏も終わりますし、背後様も何卒ご自愛くださいませ! )
成合
…なんか、らしくない。
( らしくない。私が喜ぶようなことなんてたまにしかしてくれないのに、喜ばせて殺そうとしているのかと思うくらいにたくさんのことをしてくれる。嫌だとか疑問だとか、何故だかそんな感情は1ミリも浮かんでこないのだからやっぱり不思議だ。視界が真っ白なワイシャツのままくぐもった声で言葉を紡ぎ、息を吸い込めば全てが彼に包まれている気がして幸せだ。なんて気持ち悪いことばかり考えているようで、静かに背に回す手に力を込めた。顔を上げる。視界いっぱいに好きな人が映るってことが嬉しくて、それなのに何故だかひどく泣きたくなって、きゅうと鼻が痛くなった。 )
すきだよ、
( 久しぶりに言った気がして仕方がない。合わせた目線がきらびやかでとても眩しい。泣いて、しまいそう。思わず手に持っていた彼のタオルで目元を覆ってみたら、少しずつ雫が溢れてくるのだから困ったもの。下唇を噛んだ。「一緒にいよう、」って、告白としてはちょっとだけ重かっただろうか。だって一緒にいたかったから仕方ないじゃないか。タオルで視界は覆われているから表情は見えないけど、悪い反応じゃないってことだけ少し期待させてほしい。 )
上鳴
ほーん、…。
( 指輪、指輪、ねえ。感覚をほぼほぼ指輪の置いてある棚に向けているから気の抜けた返事をしてしまった感はあるけど、聞けばこういうのが好きらしい。やっぱ女子なんだなーとか思いつつ、値札の値段にウッワと素直な反応が出た。いやいやいくらアクセサリーっつったって、そーゆーのに目覚めがちな学生がやすやすと手を出せる代物じゃねえだろ…。店内も音楽もファンシーな感じで、来ている客も俺らと同じか年下ぐらいの年代なのにまー強気なことだ。いや俺がこーゆーのに疎すぎるだけで割とこんな感じなのかもしんねーけ、ど……。…。 )
…、お、なー見ろよアレ!轟に超似てね!?
( 一瞬思考が止まった。なんで止まったかって、指輪を見る耳郎の視線がまあ女の子のソレだったからだ。いやまあそんな目をされるとそりゃ男として、っつーかリベンジを狙ってる状態の俺からするとプレゼントしたい欲ってモンが湧き出てくるわけで。隙を見つけて指輪をプレゼントしてやる計画を立てながら、となると耳郎に指輪を買われてはいけないことに早速気付いた。棚から180度目線を移動した先のぬいぐるみコーナーに紅白のツートンカラーをしたクマを見つけ、下手くそな話題の転換をしながらも指をさせば「なー耳郎ぬいぐるみは?ちょっとアレ可愛くね?」なんて正直クラスメイト似のぬいぐるみを見つけてテンションが上がっている声色で。 )
(/ というお話をした矢先の地震!背後様はご無事でしょうか?
こちらは道民ではないため被害は皆無だったのですが、もし危ない状況でしたら自身の命を第一に、安全に気を付けてくださいませ…!)
爆豪
( 分かりやすく現在の自分を説明するなら、間違いなく呆然としていたと言える。柄に無いこと言ったってのは自分が一番分かっていて、るせえわと一言言い返してやろうかと口を開きかけた刹那出し抜けに視界を支配されて思考が停止した。硝子のように煌めく瞳には、果てしなく曇りが無く、呼吸を忘れさせるには十分の代物だった。世間一般からするときっとこれを見惚れていたと呼ぶのだろう。言葉を発そうとして半開きの口や、ただ意味も無く不機嫌そうな顔が原因で恐らく相当間の抜けた面だったに違いない。されどその瞳が一番強く瞬いたのを皮切りに現実に意識を引き戻された。そして今。次いで聞こえた言葉も含め全部、どうしてこうもコイツは動じないのか理解ができず、今尚呆けることしか出来ない。色々考えて答えを出さないといけないような気がするのに、垣間見えた奴の潤んだ目が異様に頭に残ってしまって上手くいかない。そして今、タオルの奥でぼろぼろ泣いているのかと思うと言い返すことは勿論、思考なんて一つだって進む訳もなく。思わず溜息をついた後、少し力んでいた腕の力を緩めた。タオルを持つ奴の手をぐいと引っ張り顔から引き剥がす。案の定零れている涙が目に留まったが、手が空いていないので指では拭えない。そこでふと思い立ち、目を伏せてそっと口付けると雫は唇に吸い込まれ、 )
…いつまでべそべそ泣いとんだ、
( 涙で滲む瞳の奥をじっと見詰めながらそうぼやく。コイツの泣き顔は見ている此方の心をも締め付けてくるので質が悪い。相手の心の内なんざ分かりっこないから想像で判断はできない。泣いている理由もはっきりせず、朝のように悲しくて泣いているのかもしれない。嬉し泣きでも何でも、とにかく泣き止んで欲しいと思った。癖であるものの、できるだけ突き放すような言い方をしないようにしながら。 )
耳郎
え、あ…あぁ、ほんとだ、けっこー似てる。
( ぎゅいんと唐突に話題が飛ぶ。急に何処かを指すから多少驚いたけど、どうやらぬいぐるみのことを言っているようで納得。ぬいぐるみが置かれているカウンターの方に近寄って上鳴が言っていたクマをよく見てみる。にしても轟って改めてよく考えてみると、何ともめでたい頭してるよね。クマは別に動物だから普通だけど、あ、ふわふわしてる。興味本位でお腹を指で押してみるとかなり柔らかくてなごむ。顔を押してみるとぐにぐに歪むのがいじらしくて、ちょっと笑ってしまった。世間一般のぬいぐるみが好きな人の気持ちも分かる気がする。 )
……そういえば上鳴はぬいぐるみ好きなの?
( 特に深い意味がある訳じゃないけど。そういえば最初お店に来るまでにもぬいぐるみの話はしてたし、今もそう。ぬいぐるみが好きな男子も世の中意外といるらしいし、上鳴がそうでも不思議じゃない。紅白クマを持ち上げ、重力に促されぶらーんとしてる丸っこい足や腕を観察しながらそう尋ねて。 )
(/ わざわざご心配してくださってありがとうございます…!! 幸い中部地方に在住しておりまして地震は来ず、普段の生活に特別支障は無い状態です。背後様は確か関東の方にお住いでしたよね、大丈夫でしたか…?
今日のような北海道での大規模地震って珍しい気がしますし、土砂崩れで大変な地域もあるそうですね…自然災害って本当に予告無しに来るので怖いですよね、 )
成合
( この涙だって彼にとってはうざったいもので、煩わしいと思われていたのやもしれない。でも仕方ないじゃないか。自分でも理由が分からない涙だった。彼の言葉がものすごく嬉しくって、疑念も不安も1ミリだってなかったのにボロボロ涙が溢れてくる。嫌なはずがない。何を失ってでも拒絶は絶対しないと誓えるような、そんな自分でも異常だと分かる想いは知らぬうちに膨れ上がっていたのだ。日常の何気ない1ページも、こうして少しだけ変わった恋人の生活を送っていた間も少しずつ。だというのに、タオルが退けられ彼の姿が見えた今でも涙は収まる気配を知らない。『ごめん、』と謝罪の言葉を口にしようとした時、目元に生暖かい感覚をふと感じて声帯が仕事をしなくなった。震えない喉元の代わり、目線はしっかりと驚いたように彼を見つめていて。 )
…、……。
( 口を開いて閉じる動作を数度繰り返したのは、何を言えばいいか最後まで分からなかったからだ。下唇を噛んで視線を俯かせる。吸い込まれた雫を最後に涙は出る気配を見せない。また視界いっぱいに彼の姿を映したらまだ鼻の頭は痛くなったけれど、水滴はあふれてこなかった。「好き」「本当に好き、」「好きなの、」いくら並べ立てても足りないほど言葉を紡いでみて、やっと涙の理由が分かったような気がした。嬉しくて、愛しくて、一緒にいようと言ってみても心の中の想いは消化不良で、それが水として形作ったのだ。囁いて言葉にして想いを晴らして、それでやっとスッキリしたような気がする。でもまだ足りないと想ってしまうのはやっぱりわがままなのだろう。 )
上鳴
( 轟がいじられているような絵面に思わず笑いがこみ上げる。よくよく見るとこの真顔とも言えるクマの顔は轟とよく似ている…気もしなくもない。うわーヤベーちょっとほしくなってきたかもしんねー。共有スペースなんかに置いてマスコットとかにできねーかな。特に轟とか轟とか轟とかの反応がめっちゃ気になる。あと女子が喜びそうで夢が膨らむ。…いやそれはそれでちょっと羨ましいな…。クマに嫉妬すんのも見苦しい気はすっげど、ふにふにいじられていくクマを見ると不機嫌そうな轟が浮かんでくるから多分もう末期。くそ、ちょっと可愛いじゃねーか…。 )
ん?んー…、別にそーでもねーけど。でもこれはちょっと可愛くね?轟よりかわいーし、女の子に人気出そうじゃん。
( 耳郎の手の中にあるぬいぐるみをひょいと奪い取り、クマの両手を動かしてみる。自然と両手を動かすシュールな轟に変換されんのはどうにかしてほしいモンだけど、それはそれで楽しいからいいんじゃね?とは言っても俺は別に特別ぬいぐるみ類が好きなわけでもねーし、そーゆーのはどっちかっつーと女子が好む方なんじゃないのだろうか。麗日とか芦戸とか葉隠なんかは特にそうだし、ヤオモモも割と好きそう。耳郎…ぬいぐるみと戯れる耳郎はちょっと想像つかねーかな。散々いじった轟ぬいぐるみを棚に戻してまじまじと他のぬいぐるみたちを観察してみる。その中で目に付いた黒いうさぎのぬいぐるみを手に取ると、耳郎の顔の横に並べ「耳郎はこれ」と何となく雰囲気が似たぬいぐるみと耳郎を見比べて。 )
(/ 特に被害もないようで安心致しました、と共にご心配ありがとうございます…!仰る通り関東在住ですのでこちらも日常生活に支障等ございません!
位置上仕方のないことだとは理解していても地震なんかは怖いですよね…。季節の変わり目で大変な被災地にエールを送ることしかできないのですが。
何か災害以外にも変わったことなどありましたら自身の安全を第一にお考えください。ということで背後は失礼させて頂くのですが、これから冷え込む時期ですので、風邪などにもお気をつけて…!)
爆豪
( 何を言えば、どう受け答えすればこの状況が解決するのか分からない、そういう表情をしていたと思う。普通の野郎なら此処でどのようにきり切り返すのだろうだとか、他人と比べてしまう程度にはしばらく悩んで、それでも逸らさない淀みのない瞳による視線が頭の混乱を加速させられていた。奴に何を言えばいいのか分からないものの、言葉に対し、確かに感じることはあった。ただそれが至極当たり前の事過ぎるのと、無性にそれを述べるのが酷く億劫で、声が詰まる。言ってしまえばいいものをいざとなれば声が出ない現状のやりきれなさに、軽く舌打ちして視線を逸らし、 )
…、わあっとるわ
( 相手の額を指で小突いて、隣を通り過ぎる。いつまでもこんな所で話し込んでいると校門が閉められる。「……帰んぞ !」そうやって短く告げて足は鞄を残している教室の方へと向かわせる。淀みのない瞳に捉えられ、果てには愚直なまでに素直なそのような本音を告げられて、感情が、慕情が、湧き立たない訳がなかった。それなのに一言自分もそうだと、それぐらいのことも言えなかったのは、シンプルに言えば照れていたから。…あんな馬鹿の一つ覚えみてえに連呼されたら小っ恥ずかしくなんのも当然だろ。ただそれだけだ。断固として正直で必死な奴の姿に心が跳ねたとかんなのは無いし有り得ない。…自分でも分からないほど誤魔化し続けながら教室には着いた。既に消灯された室内を進み、机上に放置されていた鞄を引っ掴んだ所で風が頬を切って行った。どうやら窓のほとんどが開きっぱなしのようで、非常に面倒だが放置しては教師から叱られるのは目に見えているので閉めに行く。しかしダリィ。窓辺に寄ると、再び首元を涼し気な風が過ぎていって心地よかった。夜が迫る空を見やりながら、一つずつ窓を閉めていき。 )
耳郎
んー…まあ、轟には別の可愛さがあるよね、
( 紅白グマが回収されてちょっと名残惜しさを感じてた時、代わりに耳郎はこれって言われて顔の真横に並べられたぬいぐるみを受け取る。見てみると黒うさぎで、どうしてこれが差し出されたのか若干不思議だけど相変わらずこの子も愛らしい顔をしているので何も言わず黙っておく。そして棚に戻されてしまったクマをもう一度凝視しながらふと感じたことをぽつりと零す。可愛さ、ってよりも愛嬌?「あんなクールな顔してド天然だし」ほんとギャップの鬼だ母性を煽るな母性をどうのって女子が騒いでた気がする。実際話してるとぽやぽやしてるの伝わってくるし、ああそうかもなって思うこともある。ただこのクマとは可愛さの次元が違うかな、っていやなんで轟語りしてんの。気が付いたらうさぎの腕ふにふにしながら思考がとんでもないベクトルに飛んでた…。ぬいぐるみの力かな。いや無いか。そういえばと思って今度は棚全体をじっと見回してみる。今度は上鳴ぽいのは無いかなと思ったけど、どうだろ。ひよこ…は黄色だけど幼すぎて違う。キリンもなんか賢い雰囲気でズレてる。…悪口言ってるみたいになったな。「…あ、じゃあ上鳴はこの子ね」ピンと来た子がいたから、よいしょと少し奥手に置かれているぬいぐるみを手に取って、上鳴の肩に乗せる。ちなみに置いたのは狐のぬいぐるみ。意外と合ってると思ったんだけど、どうだろう。 )
(/ そうですね、今年は残暑が短いそうなので案外すぐ涼しくなりそうですし、体調管理には気をつけようかと思います。背後様もどうかお体はお大事にしてくださいね!
では此方もそろそろ失礼いたします…! )
成合
( 小突かれた額にきゅうと胸が締まる。こんな些細なことで感情が揺れるなんてことは今までにないことで、それだけ今昂りが押し寄せているんだってことはなんとなく理解できた。痛みが幸福に変わるってあまり喜ばしくないことなんだろうか。でも好きなんだから仕方ないでしょうって、誰に向けたかも分からない言い訳をしていつもより軽い足取りで彼の後を着いていく。背中に飛び付きたい衝動を抑え込む。今そんなことしたら変態扱いされてもおかしくないから、慎重に行動しなくちゃだ。深呼吸をした。 )
…なんか、既視感あるかも。
( 彼が窓をいじる動作にどこか見覚えがあった、と思う。どこだろうと言葉にしてみて、ああと手を叩いた。「爆豪が日直してた日だ」満足げに頷いて言う。彼が日直だった日の朝、そういえば窓を開けていたように感じる。思えばあの日の状態からよく進歩したものだ。だって舌打ちばっかりされてたし。…いや、そう考えると進歩とか特にしていないのかな。考えないようにしよう。このタオルだって返せていないけれど、散々涙を拭いてしまったし少なくともこのまま返せるものじゃない。もう少しだけこのままでいいのかなって、そんな期待を押し込めてぎゅうとタオルを握ってみた。 )
上鳴
( 安易に耳の長さとか逆三角形の目で耳郎っぽいと選んでみたけど、そーやって本人が腕をいじっているところを見るとあんま似てねーなーって思った。そりゃウサギのぬいぐるみは可愛いけど、耳郎はまた別って感じ。いや別に可愛くねーっつってるわけじゃなくてね?なんかあるじゃん?感覚ってやつだよ、ほら。棚の方に目を向けると青の犬やら赤のライオンやら色味がだいぶ本物と違うぬいぐるみもちょくちょく並べられていて、ウサギもいくつかあったけどどれも耳郎とは違う。紅白クマが轟に似すぎているせいもあるんだろうけど。マジで連れて帰ってやろうかな轟ベア。中々この攻めた色合いしてるぬいぐるみ他にねーだろ。 )
俺そんな目細くねーって。ちょっと可愛いけど。
( 肩に置かれたぬいぐるみは狐だ。そいつを両手に持っていじってみる。…くそ、可愛い顔してやがんなこいつ。でも俺こんな目してねーし!…と、そんな狐に向けられた意識が耳郎に戻ったのは耳郎自身の発言を聞いたからで。本当に驚いたような、そんな間の抜けた声が出る。何にって、轟を褒める言葉だ。いやだってそりゃ驚くじゃん。耳郎が男褒めてるところって中々見なくね?てか俺は褒められたこととか──、いや俺と比べるのは違うか。「え、好きなん?」褒めていたからってそんな思考に直行するのはいけないことって分かってはいる。けど、何となく聞かずにはいられなかったから言葉が飛び出てくる。そんなそぶりなかったし、言えば絡んでるとこすら見たことねーけど、なんか気になった。 )
爆豪
( 彼女の声に促されて頭ん中で記憶が蘇る。思い起こせば確かにそんな日もあった。ウザすぎて貶しまくっていたような記憶がある。酷な事をした、かもしれない。そう考えると一体自分はいつからコイツに惚れていたのか疑問になった。もしもその日既に惚れていたのならあんな風に突き放したりしたのだろうか。いや、恐らく惚れていると自覚していなかった。だからこそあんな恋人のフリの話を持ち上げた。そうやって記憶の断片が頭をよぎって行ったのを皮切りに、自分が仕出かした事が思い返されていく。窓に鍵を掛けようとしていた手からは力が抜けていて、気が付いたらそのまま何もせず下ろしていた。 )
……聞かねぇのかよ。俺が付き合えっつった理由。
( 何を、言ってんだと。自分でもそう思う。薄々感じていた事柄。これを思う度に悩みは募り、最早この問いには禍々しさを感じていた。単純でいて純粋に、ただ真意を追求しようと試みる短い言葉を告げる。奴にはこの問いかけがどのように届いたのだろう。「テメェも大概勘付いてんだろ。急に交際持ち込まれて、何かしらの裏あることぐらい」いつかは必ず明らかにする必要があるだろうと自分自身を奮い立たせながら付け加える。俺は想いを告げて、それに奴は確かに応じた。けれどそれで過去が帳消しになる道理は無い。紛れもない自分自身でコイツに問い質す必要がある。そう思いながらも顔は強ばっていくのが自分でも分かっているのでとても相手の方に向き直ることは出来ず、背を向けたままで。 )
耳郎
………、んっ!?
いっ、いやいや、違うって!可愛いってだけで別にそういうことじゃ、
( 狐のぬいぐるみのことをなんだかんだ言いつつも満更でもなさそうなので良かった。やはりウチの感性は間違っていなかったらしい。けれどほっとしたのは本当に束の間、出し抜けに聞こえたのは軽く大爆弾並みの威力を持った単語で、決して大袈裟ではなく数秒その場で固まってしまった。我に返るが否や顔の前でぴゅんぴゅん手を振り、否定のサインを出しながら慌てて返事する。これじゃ動揺してんのがバレバレだと思いつつも、そんなんじゃないと伝えるのに必死でなりふり構ってはいられなかった。「強いて言うなら轟は…アイドル?」この手の話は最近、芦戸達としたばかりでもある。眉目秀麗、頭脳明晰、果てには凄い個性を持ってる轟が女子との話題に登るのは容易いことで、その点についてはウチでも理解できる。けれどウチにとっての轟は、時々人並外れたド天然をかますイメージがどうしても印象強い。まあその他の点も含め、結局ウチの中で轟の認識は『アイドル』で落ち着いたことを思い出して、そう付け足して。 )
成合
( なるべく、本当になるべく他人の前ではあの日のことは思い出さないようにしていた。されたことを振り返るとどうにも恥ずかしいと思ってしまうし、1人で悶えているおかしな子にはなりたくなかったからだ。沸々と脳内にフラッシュバックする雑念を追い払うように暫し作業を進める彼の背中を見ていると、何となく満足したような気分になるから不思議なもの。追い出されることだってないのだから、そんな小さなことひとつひとつがひどく嬉しかった。 )
え、
( 作業が中断したかと思えば、問いかけられたそれに小さく目を見張る。それは前の自分が考えていたことに他ならなくて、考えすぎたせいで少しだけ拗れてしまったって、そんな可能性さえある。だから少しだけ驚いた。疑問だったけど自己完結してしまったものに答えがもらえると考えた時、それが聞きたいと思ってしまうのは我儘に値するのだろうか。そうじゃないことを祈って短く息を吸う。これを、どう伝えよう。 )
…聞かれたく、ないかなって。思って。
( わだかまりを吐き出すようにそう伝える。聞きたいし気になるしもどかしいけど、聞かれたくないだろうから遠慮して引っ込めていたもの。だから答えが貰えるとなれば飛び付きたいくらいなのだけど、尋ねるのが憚られた理由はそれだ。指が忙しなくスカートを握ったり離したりを繰り返す。落ち着きがない。 )
上鳴
( 返事を予想もしないままそんなことを尋ねたのだから返答によっては大ダメージを受ける質問を投げかけ、返ってきたのはひどく動揺したような耳郎の姿だった。返事的な返事だとそれはノーにあたる答えなのだけど、ボーッとそれを眺めつつ頭の中は疑問のオンパレードだ。図星でめちゃめちゃびっくりしてんのか、マジで予想外の質問がぶち込まれたことにビビってんのかマジで分からない。はいかいいえの質問にここまで悩むとは思わなかったし、勢いで尋ねたことを後悔すらしかけた。してねえけど。 )
アイドル?
( 付け足された言葉をそのまま復唱する。一瞬フリフリした衣装で踊る轟がパッと浮かんだけれども多分これはちげえ。いや違っていてほしい。ごめんな轟…。まあでも轟がフリフリ衣装を着るかは別として、何となくアイドルという表現は分からなくもない。イケメンらしいイケメンだし、あの紅白頭は特徴的で強えし頭良いし、あとあいつの何が残念なんだっつったら絶望的な天然くらい。それさえも轟クンかわい〜で済まされ、むしろプラスの方向に捉えられるのだからイケメンはマジでヤバい。こないだ峰田が呪詛唱えてたもん。「あー…、まあ理解できなくもねえわ」一通り考えた後そう同意。「ちょっと羨ましーもんな。あいつどんだけ恵まれてんだよ」次いで出てきた言葉は羨む言葉で、まあ決して!決して嫉妬とかではねえけど!ちょっとした世間話みてえなもんだ。 )
爆豪
……んなこと言った覚えはねえ。
( そうやって何度でも浮かんだ疑問を今まで放ってきたのだろう。その甘さが俺が惚れた要素の一部になったのかもしれないが、今はただの不必要な存在だ。答えよう。随分と遅くなったけれど、もう決めたことだ。後戻りはできない。けれどもまず何を話せばいいのか。…謝罪は出来ない。それだけは許されない。んなのは逃げだ。第一に免罪を望む権利は俺にはない。卑屈な道を選んで来た自分でも、気持ちに気付いた以上、もう背を向ける訳には行かない。好きだからだ。逃げない理由はそれだけで事足りる。 )
テメェと付き合ったのは女振る為の理由が欲しかったからだ。
…そういう胡散臭い考えがあんだって、テメェにバレんのは時間の問題だとは思った。
( 過去の感情を脳内で回想を繰り返しながら言葉を紡いでいく。伝わるように、言葉を選んで。それで少しだけいつもより話す速度が遅いことに自分でも気が付いた。「…それでも。その時を、できることなら少しでも後に先延ばしにしたくなった」くどい話、それが愚行だと分かっていても願わずにはいられなくなった。手前はそういう野郎に惚れたんだと、流石にそんな口振りでは言えないがそういう声音はしていたかもしれない。奴に何一つ非はない。今の今まで騙されたと分かって激昂する可能性も十分ある。そう分かっているから、余計に相手の方に向き直ることができないでいて。 )
耳郎
( 色々もろもろごちゃごちゃ言っちゃったけれど、どうやら誤解は解けて、同意までしてもらえたのでほっと息をつく。やっぱり同性でも轟みたいな人はそういう存在として映るのかな。男子のことはよく分からないけど、やっぱり好きか好きじゃないかに関わらずイケメンは誰から見てもイケメンだし_とか呑気に考えていたら、ふとやらかしたんじゃないかって、そう思って。もしかして、いやもしかしなくても、仮にも好きな人の目の前でほかの男の人の話するのって普通にタブーだった?…ほんと何気無く口に出しちゃったけど、全然アウトにじゃないこれ?だってなんか羨んで妬いてるっぽいし、っていうかあんなハイスペック男子の名前出されたら比較の対象にされてるとか思われてもおかしくないというか、ウチならそう思ってしまいそうだしと気がついて、さあーっと顔から血の気が引いていく。 )
…あッ、そのでも、上鳴も轟にはないとこあるし!
( そもそも好きな人の前で男の人の話したくない〜とか言ってたの自分じゃん!言っちゃってんじゃん!このままではマズいと思って思わずそんなことを口走ってしまう。その時は考え過ぎとかそういう可能性は一切頭から吹っ飛んでいた。「バカみたいに明るいから話しやすいし、でも意外と機転は利くし、えーと、」上鳴にはあって轟にはないもの。やっぱりアホなとこかな。褒めてるよ。沢山ある、あるのに言ってしまうと大分重いから的確且つそれなりに気持ちが伝わりそうなことを選んでいくけれど、これがなかなかに大変。手に持っていたぬいぐるみを無意識にぎゅむぎゅむしながら悩み込んで、 )
成合
( 遠慮する理由を彼自身の言葉で失くした今、そっか、ごめんね。でもあんまり無理しなくていいよ。案外ポンと浮かんだ返事は音にされることなく終わる。多分きっと、いいえ絶対私はその理由を聞くのが怖かったのだ。心の中では何か裏があるんだろうなあなんて予想を付けて、いざそれが当たろうともなれば聞きたくないと耳を塞ぎたくなる。自己防衛だけはしっかりしてしまって、それが嫌で、でもやっぱり聞きたくなくて、けど彼の温もりを信じて踏ん張った。好きだから、だ。 )
…。えっと、そっか。うん、話してくれてありがとう。
…その、フリでも付き合おうとしてくれたことすごい嬉しいし、あんまり爆豪のこと知れてなかったから知れたっていうか、うん。
( 何を言うか考える暇もなく、下手くそな文章の羅列が口から出てくる。別に多少衝撃を受けなかったわけじゃない。ショックじゃなかったわけじゃない。ただ自分より先に彼をどうにかしないといけないってそんなことを思って、少しでも先延ばしにしたいって考えてくれたことがどうしようもなく嬉しくって、相変わらず口をもごもごさせたまま彼の背中にその赤い瞳を浮かべると「だから、私は大丈夫。うん、」数度頷いて自身の両手を握る。きたない感情を押し付けてまで迷惑をかけようとは思わない。そんなの後でいいし、なんなら隠したっていい。ほらやっぱり好きだから。 )
上鳴
( ノット羨ましい、ノット嫉妬。何かのスローガンかのような言葉を頭の中に埋め込ませ、何とか思い込む。例えば、まあ言葉を借りるならアイドルにどれだけ嫌味を言おうと嫉妬しようと自分のプラスにはならないわけで、それと同じだ。別に俺が轟になれるわけでもなし、流石に嫌味を言うとか僻むとかそんなことはしねえけども、少なくともそんなことをするのは時間の無駄だってだいぶ前から何となく分かっていたはずで。いいでーす別に轟の顔面になれなくても何とも思いませーん。耳郎曰く俺らしいキツネの耳をいじりながらそんなことを考える。だって俺には俺の良さってモンがあるしー、だなんて冷静になればガキのような発想をしたところで、何だか焦ったような、そんな耳郎の声が聞こえてきたのだから思わず顔を上げた。 )
──ちょ、っと耳郎サン、ストップ。
( 別にわざわざ気とか使わなくていいのに、耳郎の口から飛び出てくるのは小っ恥ずかしいフォローの文章。これが開いた口が塞がらないっていうことなんだなって、そんな呑気なことを思ってしまうくらいにはマジで口をポカンと開けたままボーッと聞いていれば、何だか不穏な方向に進んでいっているのが嫌でも分かった。ポンポンと出てくる褒めの数々に数々。やばいまずいと思う間にどんどん顔が熱くなり始めるのを感じて、弱々しく止めに入る。ムリムリマジでムリ、このままだとCDショップの悪夢が再来するしカッコつけてらんなくなるからマジでヤバい。「分かった!分かったから、ウン。マジで、ちょっと…」サイズが圧倒的に足りないけれど、キツネで顔を隠してみる。顔をブンと振って熱を取り払った。 )
(/ 見逃しておりました…!!上げてくださり本当にありがとうございます、と共に申し訳ございません。
今後は無いように通知を入れておきます。上げありがとうございました!)
爆豪
( 彼女がもっと言いたいことが他にあるような声をしていると気が付くのは容易なことだった。にも関わらず此方を優先させようとするその姿勢は崩れないまま。思えば以前からそれは続いているような気がする。間違いなく今までの俺自身が選択してきた行動の結果がこれなのだろう。奴が俺に振り回されてきたという象徴だ。言いたいことがあるなら言えばいい。けれどそうやって俺が促すのは、少し違うように思えた。彼女に自分の主張が無いわけでも、それが言えない奴ではないと知っているから。決して優しい野郎なら選ぶようなことではないと分かっている。だからこそ、どうかその代替に成り得るように最後まで思いを伝えようと思う。 )
…だから、今度は返していく。今までテメェから奪ってた物は戻らなくても、代わりになる物探してぜってェに返す。
( そんな言葉が口をついて出た。奴から無造作に奪った信用も、時間も、全部一度きりの存在だ。けれど、それらに代わって、もっと奴を幸せとか喜びとか、そういう物で満たしてやれるように。意志を固めて後ろに振り返って「……それでいいか」そう、小さく付け加える。少し眉が下がっていることに気が付いた。自分が言ってることは殆ど感情論に近い。形の見えない物の事を話しているのだから奴が正しく理解できるか分からない。そして強いて言うなら自分を肯定して貰えるのか不安だった。多分これが上手く声が出ずに気持ち小さくなった理由。ただそれでも目だけは逸らさずに、と思うけれど、つい先程抱き竦めた際、目に飛び込んだ奴の星が如く煌めく瞳が頭を過ぎるものだから、決意が揺らぎそうになりながらも凝視を続けて。 )
耳郎
う、ん…?
( 気づいていないかもしれないけど、時々可愛くなるとことかほんと、って言いかけてそれはウチが単に惚れ込んでるからってだけなのかもと思いながら指折り数え始めた所で唐突にストップという声が飛んできた。顔を上げると上鳴が何やら顔を振っている。どうやらもう何も言わなくても良いらしい。まだ全然言ってないのに、こんなので良いんだろうか。轟の話を出されて、上鳴のことだからてっきりアンニュイになってると思い込んでいた分、少し拍子抜け。…にしてもそんな顔に狐近付けてる理由がちょっと謎だけど。変なのと思いながら手元のぬいぐるみを棚に戻そうと体の向きを変えた時、ふいに狐で隠された彼の顔が見えた。確かに見えた。…何故か、頬が赤くて。凄く凄く鮮やかで、例えるならそれは茜色。一度瞬きをしたけれどその間も少しも色は変わらないままだった。上鳴が此方をあまり見えていないのをいいことに、すすすと体勢を元に戻す。正直超超超かわいい。上鳴が不機嫌になりそうで困るから、口が裂けてもそんなの言えないけど。褒め慣れてないのかも。あまりのきゅーとさに心臓が射抜かれながら考える。この後どう切り返したら正解なんだろう。相手が上鳴だから照れてるのいじっても多分大丈夫だけど、ちょっと罪悪感が。何も返さないと空気がもたない気がするし、悩む。 )……あ〜、やっぱりその子気に入った?欲しい?買ってあげるよ?
( とか何とか考えていたけれど、意外とすぐに閃いた。取り敢えず今は無理やりにでも話題を変えてしまう方が得策のはず。話はぬいぐるみの方に移るし、ウチは何も見ていないことになるし、多分これで色々諸々がカモフラージュできるはず。それにこんな風にぬいぐるみと戯れ続けていると何だか秒単位で離れ難くなってくるので思いきって買ってしまっていいかもしれない。上鳴の狐も、そのついでに。意外と価格もお買い得のようだし、 )
( /いえいえ、此方のことはお気になさらず!
うっかりやっちゃうことですしね…!! )
成合
( 心臓が、胸が締まる気がした。嫌なことの数十億倍は心を有頂天にするような言葉を聞かせてくれるものだから、本当に不意に死んでしまいそうな、そんな気がする。今までのことを振り返って考えてみると隣にいてくれるだけで本当に嬉しくて、それだけで生きてて良かったとか少々重いことを考えてしまうくらいには貴重なこと。なのに返してくれるだとか、私は君から何かを貰ってばかりだというのに。少しでも自分のことを考えてくれているのかなだとか、そんな自惚れ。口も緩めば胸はこそばゆいしきっと間の抜けた顔をしているのだ。振り返った彼を瞳に映し、大げさに胸が跳ねた。意思が強そうで何事も曲げないような彼の瞳がやっぱり好きで、きっと今もそれに変わりはないのだろう。小さく息を吸って、 )
十分だよ。…十分、十分。もったいないくらい。
…私ほら爆豪からもらってばっかだし、何かお返ししないといけないかなとか思うんだけど。でもうん、ありがとう。
( そうやって自分の気持ちを伝えた。語彙力とか国語力とかそこらへんのものが圧倒的に不足しているから言葉足らずだったかもしれないけれど、なるべく伝わるように単語を選んだつもりだ。爆豪はなんでも持ってるから私からあげられるものなんてないのかもしれない。でも好きだし役に立ちたいとかは思うじゃん。ね。そういうものでしょ。私はそうだよ。だからひとまずはこうやって隣にいてみて、隙あらば何かあげようかなって思ってみたりね。お気楽だけどそれでいいはず。来年再来年までしか一緒にいれないってわけじゃないじゃん、…いやそれは爆豪の気持ち次第だけど。「帰ろ」その第一歩目として、許してくれるなら今日寮までの道を一緒に歩きたいなあとか思ってみる。目を細めて笑みを浮かべ、赤色と目を合わせる。それだけで満足だから。 )
上鳴
( 褒められるだけなら嬉しいし、実際過去に褒められてこれ脈アリなんじゃねーのって思ったこともある。女の子を褒めれば喜んでくれるのと同じで俺も褒められたらそりゃ喜ぶけど、でもなんかそういうのとは違うっつーか、なんか変な感じ。多分あれだ、耳郎はこれまでデートして来た女の子達より比較的仲がいいから、仲良くしてきたやつに急に褒められるとくすぐったい感じがするあれ。ほらいつもバカみたいなこと言い合ってるから余計そうじゃん。しかも割とガチっぽい褒め方だったから不意打ちっつーか、なんかとにかく変な感じがすんだって!いたいけな男子高校生なんだぞこっちは! )
…なら、轟も連れて帰るか。
( よし、うまい具合に話が変わった。多分言葉的にこちらの様子にも気付いていないようだし、理想的な形で話題が流れたのはナイスだ。ぬいぐるみの棚の方に顔を向け、顔を隠す。キツネが俺に似ているかは別として、…いや耳郎が言うなら本当に俺に似てるのか。さっきも思ったけどやっぱり共有スペースに置いておいたら可愛くなんじゃねーのかこれ。紙で名札とか作ってさ、上鳴って書いて置いとこうぜ。隣に轟ベアも置いとこ。…つか買ってあげるって母親かよ。女子に出させらんねーんだよこっちは。だってデートだし。…俺が不甲斐なさすぎるけどデートだし。「でも女子に払わせるわけにもいかねーし、どっか他のとこ見といていーぜ」右手にキツネ、左手に轟ベアを抱え、改めて見比べる。こうみると案外似てんのか、これ。ぬいぐるみのスペースに長居しすぎたせいか他のところも見れてないし、元々来たいと言ったのは耳郎だ。カラフルな店内に目をやりながら小さく頷いて。 )
(/ ありがとうございます。では引き続きよろしくお願い致します!)
爆豪
( コイツ矢張り理解できてないんじゃないか。お返ししないとだとかもったいないとか、正直なんの事だか全く心当たりが無い。けれどそれも奴の極めて能天気な笑顔を見ている内に、何だって良いような気になってくる。もう戻れなくともそれはそれで良いのだと、そんな風に笑うものだから、奴の気持ちは十分に分かるような気がした。そう思うのに至って返すべき言葉が見つからない。何も言えないままもう一度振り返り、今度はきちんと窓を閉めて鍵を掛ける。そして踵を回し体だけをくるりと戻す。なにか変だってのはすぐ気が付いた。多分それは心の中のことで、音を立てる事なく極めて静寂に暴れていた。それは普段なら感じることはないような違和感で、変だと思った決定的な証拠。何がおかしいんかぐるぐる考えながら伏せていた顔を上げると、当然ながら目の前にはあいつが立っている。平然と揺らぐことなく。_多分それがきっかけで、途端に心が照れと若干のもどかしさ、それから全てを上回るほどの安心感に満ちた。 )
……_あ、
( あ、これ今、駄目な奴、じゃねえの。ぼっと顔が急激に火照る。自分でも何が起こってんのか分からなかった。鼓動が早い。恐らく今まで奴に言葉を掛けて来る間に感じていた羞恥心が、ようやく安心して一息つけた今になって一度に来ていた。赤面が生理現象だとは言え、普通ある程度の制御は出来る。だがそれが不可能なレベルになっているなんてのは、それだけ俺が奴に一喜一憂させられているんだということで。…そんだけ、この女に惚れてんだと、とっくに分かりきっていた事だと言うのに改めて思い知らされた気がする。今時ドラマでもセリフにならねえだろこんな重過ぎる言葉。それが今の自分にはまさに当てはまりそうだからとんでもねえ。そこでようやく思い出したように体が動いて、掌で口元を覆うことが出来た。「…ち、ょっと待て」あまりのことでイントネーションさえも狂う。最早今は恥ずかしいというよりも顔の熱さが勝っていた。こんな面を見て奴はなんて思うのかなんて考える余裕は無く、いつの間にか自分の視線は奴から逸れていて、 )
耳郎
( 少々強引だったけど、上鳴が話に乗ってくれて良かった。やっぱり上鳴は察しがいいんだよなあ、こういうとこは。こういうとこだけ、だけど。どうしてこうも察せる範囲が片寄ってんだろ、もうちょっと、ウチの気持ちとか、そういうことにも気が付いたっていいのに。またそうやって時間を見つけては愚痴なんか零すから本当に性格が悪い。良くないことだとは思うけど、でも逆にこれを止められる方法も分からない。もう生まれ直して何万倍も性格良くしてもらえるように願うしかないのかもしれない。じゃあやっぱり今世で自分と上鳴は結ばれない運命……。…、想像だと分かっていても考えたら切なくなってきた。)
え、でもそれは上鳴に悪いって、流石に…。
それにウチこの子も買いたいから、ぱぱっとまとめて買ってくる。
( とか異次元にトリップしていたらいつの間にやら上鳴が買う気満々で慌てる。そんな風に買ってもらうのは申し訳無さ過ぎる。何だかんだ言い出したのはこっちなんだから、そこまで上鳴にしてもらうのは、ちょっとだよね。…こんなの言いたくなんかないけど、だけど、ウチらはただの友達で、デートだからって上鳴にそこまでしてもらう役目なんか無いんだから。大丈夫と笑って、「あ、それかそのクマは割り勘にするとか? それでさ、轟にプレゼントすんの」とは言いつつも何気に彼は頑固なので予備案を挙げておく。こういう理由があれば全部上鳴の出費に落ち着くようなことは無くなるはず。我ながら良い手を選んだと若干の自負を込めながら。 )
成合
( 一挙手一投足一言、全てに胸が高鳴るしじんわりと温かみが増すのは己が相手の沼にずぶりと嵌ってしまった証。さていつからこんなに想いだけが先行してしまったのだろうなと考えてみても分からないのは当たり前で、自分でも気付かないくらいにどんどん気持ちっていうのは膨れ上がって、だとすれば今の自分が気付いていない想いっていうのもきっとあるのだと思う。気を抜くと気持ちが垂れ流しになってしまいそうで頬を引き締めた。1分に60回好きだと言われたってただ重いだけだろうし、それで嫌われてしまうのだけは本当に避けたい。嫌だ。だから閉じ込めておくのが1番波風の立たない案っていうのだと思う。そう決めて視線を少し上げ──てみて、きゅうと喉が鳴った。いつも仏頂面か怒るかの彼に、表情が浮かんでいた。それだけならまだいいのに、絵の具を乗せたかのような赤色がその肌を染めているのだからダメだった。「ッかわ、」とそこまで口にしたところでハッと口を噤む。可愛いだなんて率直な言葉を口にしたらきっと怒られるに決まってる。でも可愛い!すごい可愛い!これ以上ないくらい可愛いし照れてるとこ初めて見た可愛いとお祭り騒ぎの脳内の指令なのか彼から目が離せなくって。 )
…もしかして、照れてる?
( 心臓は爆発寸前だし、なんなら腎臓は1つ爆発したかもしれない。それくらいの破壊力を持つ目の前の想い人に掛けられる言葉はそれくらいで、それが神経を逆撫でしてしまうかもとかそんなことは一切考える暇がない。ガス欠しそうな脳内では可愛い可愛い以外の言葉も浮かばず、嬉しさからかなんなのか、彼と比べれば平常にも見えるくらい頬へ少し赤みがさして。 )
上鳴
( 俺ことキツネくんの顔を見つめる。何だかんだ愛着が湧いてきたなコイツ。こう見ればなんか顔が可愛く見えないことも──いやこれが俺ならなんか素直に褒めづれえよ。くそでも可愛いなコイツ!くそ!キツネの尻尾のあたりをぎゅうと握りながら耳郎の言葉を噛み砕き、いやここは俺がと口を出しかけた。出しかけただけだけどな。デートであれば男が出すのは当たり前、かっこつけ上等ってのが俺の持論。世の女性の中にはデート代払わない男とかありえない〜って意見もあるらしいから多分それが正解だ。ってことはデート代出されっぱなしなのはなんか〜って意見もあるんだろうけど、別にマイナスな方向には捉えられないだろって単純な思考でここまで来た。耳郎はどうやらそのなんか〜って意見の方のやつらしい。…まあなんかそれっぽく見えるよな、こいつ。 )
んー…、じゃーそーすっか。…ぜってーあの和室とは合わねえと思うけど。
( とはいえそれがいいと言っているのならば尊重してやるのも男。何秒か躊躇いはしたけど、耳郎の案に乗ることにした。…あのザ・日本の部屋みてーな場所にちょこんと座る轟ベアを想像すると遂に乱心かくらいまでは思うけど、まああいつの部屋に彩を加えてやるってことにしとくか。八百万に轟ベア用の着物とか作ってもらえねえか頼んでみよーとか考えるくらいには轟ベアへ愛着も湧いているらしい。 )
んじゃ、会計頼んだわ。俺もーちょいここら辺見てーからさ。
( 轟ベアの値札を確認し、そのザッと半分くらいの額を耳郎に手渡す。ついでに俺キツネも耳郎の手に乗せといて、空いた片手をひらひらと振った。ちょっと強引だっただろうか、でも今耳郎には俺の隣を離れてほしいのだ。何故かと言えば先ほどの指輪。このまま一緒にいれば買うタイミングもなくすしサプライズ決行前に大失敗なのは目に見えていて、それだけはどうしても回避しなくてはいけない。だからこのタイミングがチャンスだと瞳に強い意志を込めて。 )
爆豪
……__ッ、
( 極めて冷静に思考が危機を迎えるなか、奴に自分の状況を確実且つ明確且つ正確に指摘され跳ね上がるように頬の温度が増す。耳まで赤で染まっていることが自分でも分かるほどに今は体が熱かった。つーか感情湧くのが遅すぎんだろカスか。こんな醜態晒した以上この世で生きていけない。今まで人生色々あったがこんな恥辱を味わったのは今日が初めてだと思える程に今は、とにかくヤバかった。窓から飛び降り、いや爆破で脳天ぶっ飛ばした方が安上がりかと着々と自害計画が進行する一方でその思考を奴の視線が妨げる。 )
……だったらなんだってんだ、クソ
( 大体コイツは何なんだ。俺を覗き込むその瞳や、ほんのりと桃色を帯びている頬が相俟ってなんつーか随分とガキっぽい。それが気分的にくすぐったくてつい奴の声を振り払ってしまう。相手の視線に対し此方も睨み返すが、羞恥のあまり若干瞳が潤む上に何しろ顔面が赤いから大した迫力も無いだろう。それが大した理由も無いけれど心底悔しい、というか、多分この感情を恥ずかしいと呼ぶのだろう。「…テメェが全部悪いんだろが」視線を背けぽつりとぼやく。散々騙してきた奴を許してしまう優しさも俺を優先させようとするその気遣いも全てが俺を甘やかすから。喜ばせるから、それ故に恥ずかしくもなる。そう言い捨てて、奴より先に歩き始め教室を出る。あの状況でそのまま留まってなんて居られなかった。今尚頬は馬鹿みてえに火照ったままで、 )
耳郎
ん、すぐ戻る!
( そういえば轟の部屋は和室だったっけ。確かにこの配色はあの部屋だと異質かも。…でも轟だし、そんなのきっと気にせず受け取ってくれるはず。うん、大丈夫。そう信じよう。うん。そうと決まればさっさと買うことにする。ぬいぐるみたちを腕に抱えて、手を振る上鳴にそう声を掛けレジ探しの旅に出る。上鳴には折角の好意を振ったみたいでちょっと悪かったかもなあ。でもやっぱ、柄じゃないんだよね、そういうのって。女子としてはこういうのっておかしいのかな。もしかして、いやもしかしなくてもあの場合は上鳴を立てた方が良かった?もしそうだったとしても今更どうにもならないのに、何だか心に積もるのは葛藤ばかり。好きな人の優しさを素直に受け取れないのはやっぱりその人のことが好きだからなんだけど、そんなの本人には伝わる訳がない。こういう時に本当はどうしたら良かったのかなんて誰も教えてくれない。なんか、難しいな。辿り着いたレジで自分のお金と上鳴が律儀に渡してくれたお金とを一緒に払いながらも、そんな事をぼんやり考えているから思考は上の空で。 )
成合
かッわいい……!!
( 肯定の言葉が投げ掛けられた途端、背を向けて歩き出す彼にそう呟かざるをえなかった。だってこのままかわいいなんて感情を溜め込んでおいたら爆発して頬とか擦り付けてしまいそうだ。昂る感情と感情と感情に後押しされるように駆け出し、もう小さくなりかけている背中を追いかけた。多分今はそっとしておいた方が機嫌を損ねずに済むのだろうけど、一方的な高揚のまま大人しく寮に帰るわけにもいけなくて。「なんか今日の爆豪かわいいね。小動物みたいで飼いたくなっちゃう」自分より幾分か身長は上なのに本当に小動物に見える。かわいい。色素の薄い髪を撫でてしまいそうな衝動をなんとか抑え、彼の隣に並ぶ。名も知らぬ興奮というか何かはまだ鎮まらないままで。 )
今ね、すっごく満ち足りた気分って感じでさ、爆豪から返してもらうものとかないくらいだよ。初めて人の可愛さで死にそう。
( 胸に手を当てて鼓動チェック。動いてる。でもそれくらい幸せで、満足で、このままでいいって思う。時間を止めたいとまでじゃなくてもただこのままで。鼻歌でも歌い出しそうなくらいご機嫌に廊下を歩き、時々相手の表情をちらりと覗き見てみる。かわいいなあ本当に。かわいいかわいきなんてバレないようにそんなことを何回か続け、心も十分滴り落ちるくらいに潤ったところでひとつ考えが浮かんだ。私だけが得をしてしまうような、そんなわがままな考えがひとつだけ。口にしてしまうのは烏滸がましいと知っていても自分はこのままでいたいからだとか、かわいい彼を愛でたいだとかいう不純な気持ちがあるからこそ「…爆豪爆豪、私明日も一緒に帰りたい」そんな風に口にしてしまうのであって。 )
上鳴
…行ったな。
( 耳郎が見えなくなったところで素早く移動を開始する。別に耳郎以外の人目とか気にする必要は全くないんだけどもとりあえず人目を避けて棚を離れ、指輪の棚に辿り着いた。いや数メートルの移動なんだけどさ。なんか雰囲気が大事じゃん?こういうの。ひとまず棚に並ぶラインナップをザッと見て、どれが耳郎に似合うかどうか吟味することにした。あいつが戻ってくるまでに終わらせなきゃいけねーのは承知だけども適当に選んでいいってわけじゃない。例えばこの…なんだこれ、多分プロヒーローのデフォルメキャラがついてるヤツなんかはぜってー耳郎には似合わないだろうし。と簡単に言っても難しいのがアクセサリー選びってもんで、というか俺にはそういうのの知識がほぼゼロに等しい。女物に関してはむしろマイナスだ。そんな中耳郎に合うものを贈れって言われてもなあ…いや贈るって決めたのは俺だけどさ!さっきのネックレスみたいにパッと目を引くものがあればそれが正解な気もすんだけど、特にこれと言ってそういうのもねーしなー。正直、耳郎って大体のモンは似合うと思う。だから何をどうしても及第点まではいけるけど、すげえいい!って感じにはならないっつーか。で、今回俺はそのすげえいい!ってやつを探し求めてるわけで。うーんうーんと悩みながら棚を見つめ、1つ1つを目に留めていく。違う違うとバツ印を頭の中で入れる作業が止まったのは、端の方に置いてあった指輪を見たからで。 )
…これだわ、ぜってーそうだ。
( ただただ『ビビッと来た』ってだけなんだけど、なぜか銀色のリングに青い小さな花を乗せたヤツに即決した。一目見て惚れた。俺が好きだから買うってのもあれだけど、耳郎にも似合うはずだろ!根拠のない謎の自信と共にレジへ向かう。入れ違うようゆっくりと来たつもりだったけど、耳郎はもうぬいぐるみ売り場へ戻っただろうか。 )
爆豪
…次、んなことほざいたらテメェとは1ヶ月口利かねえかんな
( …いや、マジコイツの頭ん中どんなミラクル化学反応が起きてそんな思考に至ってんだ?小動物なんて単語が聞こえた時には耳を疑ったし、冷静になって頬の赤みも引いたし、あまりに理解不能で胃が凭れそうにもなった。あくまでも生理現象でんなこと言われたくて赤くなってんじゃないこっちの身を考えろやこのアホ女が。アホが。大体男に何言ってんだよく考えて物言え。奴が先程とは見違えるぐらいにすらすら話している現実とその原因にイラついてしまって普段より何トーン低い声しか出ない。つかホントになんでそんな喜んでんだ。こっちは羞恥で死にかけとるわ。大体こんなんで今までのを返せたら俺の面目ぐしゃぐしゃなんだよカス。決して声には出せないが、頭の中では暴言が秒単位で浮かんでは消え続けそれだけでストレスが溜まっているような気がしながら、到着した下駄箱で靴を履き替える。「…じゃあ勝手に付いてこい。テメェがそうしてぇならいつまでもそうしとけ」そういえば下校はここ数日毎日共にしている訳だけども、毎度奴は一緒に帰ろうと誘ってくる。此方としてはわざわざそんな声をかけなくても好きなようにすれば良いと思っている訳で、彼女の方にちらと視線だけを寄越して。 )
耳郎
……いない?
( ぬいぐるみも全て買えて満足。部屋の何処に置こう。机の上、いや枕元でも良いな。今からそんな計画を立てながら気持ちるんるん気分でさっきのぬいぐるみ売り場に戻ってみて、ぱたりと足が止まる。いるとばかり思っていたから気が付くとそんな声が出た。上鳴が消えてる。そういえば見たいところあるからって言ってたから、きっと店内にはいるだろうし適当に店の中を見て回ることにする。ふらふら行先も決めずさまよっていると、まだ見ていなかったネイルが並ぶ棚を見付けた。ぼんやり眺めているだけでも楽しいけれど、きっと上鳴は何が何だか分からなかったかもしれない。最近は男の人もネイルする傾向にあるけど確実に上鳴はやらなさそうだし、やっぱりネイルは女子の友達と一緒か一人で見よう。分かんない人に付き合わせてもつまらないだろうし、酷な話だよね。あ、かわいい。色々考えているとオレンジと言うよりも杏色カラーのネイルがあって、ふとそんなことを思う。杏は夏の果実だけど色自体は秋っぽい、気がする。でも自分が使うってよりは、何ていうか麗日みたいな子に似合いそうな感じだ。たまにはこんなの使うのもいいかもしれないけど、まだ使い切ってないネイルあるから買わなくても良いし。そんな風に気が付くと凄く真剣にネイルを見詰める自分がいて、 )
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