桜 2018-04-27 07:32:15 |
通報 |
『式神使いの怪奇譚』(ファンタジー、ホラー)
一、
術を使うと魔法使いとか、錬金術だとか言われるけど____式神使いなんだ。
紙に文字を書き、それを発動する。
地獄の学び舎で学んだ事。
現世の父に習った事。
強力な式神が父から受け継ぎ一人。
狂暴な式神が悪霊に取り憑かれ一人。
闇と光のオオカミが二匹。
術者はこの俺、式神使い。
人形(ヒトガタ)は全て友人に渡した____彼もまた有名な式神使いだ。
しかし今回は俺の事を綴ろう。
奇々怪々の怪奇譚を……。
(続く)
(>1続き)
《地獄の学び舎》
「いいですね……。式神が使えて____私は使えないようです……。」
ふぅ、とひと息吐いた同じ学び舎の小鬼は、俺の隣で羨ましそうにそして嬉しそうに俺の式神を見る。
「何度やっても出てきてくれません……。式神を扱う才能がないようです。」
眉を下げてしょんぼりとする小鬼。けれど小鬼は頭が回る。力も強い。
「私は別の事を出来るようになりましょう。そしてこの地獄を一緒に良いものにしていきましょうね。」
ふわりと微笑む。
のちに[微笑みくん]と渾名される小鬼は、やはり優しい微笑みを俺に向けるのだ。
「帰りましょうか、エンマ。」
そう言って俺の手を引き家路へと。
小さな義兄はいつも俺の手を引き前を歩く____。
(続く)
(>2続き)
地獄は面白いところだ。
三途の河はいつも血が浮いていて、亡者も浮いていて、たまに鬼も浮いている。友達が亡者のフリ、と言って浮いている事もあった。その河は入るのには汚いよ、なんて言われていた。義兄は呆れ、けれど笑い、俺も笑った。
イザナミさまは優しい人だ。俺はお母さん、と呼ぶ事もあった。その度、ならばわらわが母になろうぞ、と言ってくれた。すると他の子達も、自分も、自分も、とせがみイザナミさまは、みんなの母じゃ、と言ってみんなを両腕に抱きしめて笑った。
連れられて通う学び舎の同じ子供の子達はみんな愉快な子達だった。
亡者に地獄の蟲をけしかけては遊んだり、先生にいたずらをしては怒られたり、行ってはいけない場所に行き危ない事を仕出かしたり、____みんなドキドキしながらそんな事をして笑い、次は何をしよう、と思い付くことを出し合って、片っ端からやってみるのだ。
(続く)
【雨糸】
~ ジャンル 詩 ~
降り頻る雨粒を一つ
この機織りの糸としようか
さすれば哀しげに募る想いをも
形となって心を離れてはくれまいか
欠けゆく満月を
御簾越しに見ゆる貴方は
どんな表情(かお)をしているのだろうか…
この雨雫が
どうか美しいものであって欲しい
さすれば貴方が
この心に美しくあり続けるから…
降り止まぬ雨粒を二つ
この機織りの糸としようか
さすれば恋しさに募る想いをも
形となって心を離れてはくれまいか
満ちゆくこの月を
御簾越しに見ゆる貴方が
どうか憂いに涙せぬように…
この雨雫が
どうか貴方のものであらぬように
さすれば貴方を
ただ想い慕う我が心を隠せるから…
~・終・~
『歌を紡いで』(詩)
遠くになる それは実体を掴めずに
僕の胸 軋みを上げて震えれば
手を伸ばした先に また掴めないもの
溢れ落ちた 日常とあの日々が
涙も 声も 流し続けた
止まらない想い 留まる
僕はまた 思い出をなぞるだけ
形になる それは目に映り煌めき
君の声 優しくメロディーに乗った
心繋がる先に 触れられないもの
掬い上げた いつかの日が瞬く
歌も 音も 流れ続ける
終わらない想い 留めて
君はまた 次の世界描いて
涙も 声も 流し続けた
止まらない想い 留まる
そしてまた 思い出を綴っていく
紡いでいく____
(>3 続き)
亡者達が鬼の子供達を狙い襲う様になって幾日、幾年、閻魔庁が亡者達を管理し、導き、それがきちんと整理され襲われる事もなくなった頃。
「私達はエンマの下につくわけですか……。」
「嫌なの?」
顔を顰める義兄に聞けば、
「嬉しいです_____ですが格好がつきませんね」
____と微笑んだ。
弟が上につくのはたしかにそうなのだろう……。
自分自身、血筋というだけ、継ぐというだけで閻魔庁をまとめるような役職につくのは不安があった。
「隣にいてほしいです。」
「行きますよ。エンマの隣に。」
俺を見つめる真摯な義兄の瞳は優しげだった。
それを聞き安堵した俺も、また笑みを浮かべ、笑い合った。
(続く)
「 」(詩)
おまえが明日を望むのならば
わたしは今日を謡おう
おまえが幼き日を想うのならば
わたしは遠き声を呼ぼう
おまえが手が届かぬと哭くならば
わたしは指を切ろう
おまえが眠りに就くのならば
わたしはおまえを待とう
おまえが別れを告げるのならば
わたしは今、目覚めよう
(>7 続き)
____閻魔庁の職務に着き、亡者を裁くうちに、その内情は様々で複雑であると知った。
そして数十、数百年と年が過ぎ、その刑種・罰種が現代に合わなくなった頃、現世に行き現世の様子を見る事にした。
「エンマが行くのであれば、私も……。」
「きみが来たらここが回らなくならない?」
「私などいなくてもどうにでもなりますよ、」
溜め息でも吐くかのように吐き捨てるその後ろで、別の職員がわなわなと震え青褪めた顔をしていた。
「お二人とも行かれるのですか!?お一人ずつになさっては?私達だけでは____!!」
「このエンマの暴走を止められるのは私だけですからね。では、後の事はよろしくお願いします。」
有無を言わさずに頭を下げると、義兄は思い立ったが吉日、と、その日のうちに義兄と現世へ赴いた____。
(続く)
(>7 続き)
「コスプレイヤーだ」
「本当だ!いい歳して恥ずかしくないのかなぁ____?」
俺と義兄を目にした子供達が物珍しそうに、けれど驚いた様子もなく言った。
そういえばここ幾年、着物など着ている者を目にしなくなった。たまにちらほらとはいるが____。それでもコスプレに見えるのは普段目にしない様な種類や色のものだからだろう……。
「コスプレイヤーと思われていますねぇ……。まぁ、都合が良いです。」
「ね。コスプレじゃないけどたしかにこれコスプレしてると思うよね。きみの角とか。」
「昔は鬼を見れば子など怖がって親に泣きついたものですが____時代が違いますね。」
むしろ俺達が物珍しがりながら子供達を眺めていると、その一人がこちらへやって来た。
「コスプレじゃないって聞こえたけど____本物?」
「えぇ。____いえ、コスプレです。私のほうは。ほら、角があるでしょう?鬼になっているんですよ。」
「____あ、俺はコスプレじゃなくて、これ私服。ちょっと外国から来たんだ。」
「外国人?日本語うまいのに?」
近寄って来た子供は感心した様子だったが、寄って来ないほうが訝しがり、そう言った。
「日本語が上手い外国人などいくらでもいますよ。上手いかたにあったのは初めてですか?」
「____ううん。いる。知ってる。日本語うまい外国人、いた。」
義兄の質問に近づいては来ないもう一人の子供のほうが答えた。
その二人の子供達としばらく話し、またこの場で会う事を約束した。
(続く)
「 」(詩)
しゃらり しゃらり
銀の鈴音鳴らす黄昏時
綺麗な晴れ着
翻す鬼の子だあれ
お手をつないでおいといで
帰れぬとこまでおいといで
しゃらり しゃらり
銀の鈴音鳴るは丑三つ
綺麗なお手を
此方へおいでと叩く鬼
お手をつないで参りましょ
帰れぬとこまで参りましょ
「 」(詩)
朝の波 微かな寝息 春の目覚め
日の色 確かな心音 夏の芽吹き
夕の聲 落ちる足跡 秋の微睡み
夜の夢 閉じる目蓋 冬の息ずき
「 」(詩)
ゆらゆらと その瞼に移ろうは
浮かぶ焔か、落つる影か
どちらであれど宿るもの也て
ぱたぱたと その眼を塗らすのは、
滲む涙か、滴る血か
どちらであれど直に乾くとて
繋いでおくれと 其の夢を追い駆けるは
汝であるか、我であるか
どちらであれど別れが無きゃいいと
「 」(詩)
願わくは あなたの 言葉を
朽ちゆく わたしの 息吹に
さざめく いのりの 賛美へ
やがては 消えゆく 微弱な
星の世に 生れゆく 生命を
躯なる星 死にゆく 珠の子
トピック検索 |