林檎の木が泣いてるよ

ノックはちゃんとしたよ。コンコンって、二回叩いた。来なかったからもう一回ね。でもさ、何にも言わない。お願いの声だってかけたのに。つまんない。

時計の針がなくても、朝だって分かるよ。外は霧に包まれて不思議な匂い。どこまで続くか歩いてるけど、きっと先に晴れちゃうね。

ちょうど電車を見つけた。駅じゃなくて、線路の途中だけど乗せてもらえたよ。これなら知らない場所まで簡単に行ける。

泡みたいなガラス玉、なんて思っていたらホントに泡になって消えちゃった。ここは海じゃないのに。

待子、まちこ、マチコ、ってうるさい。そんなに呼ばれなくても聞こえるよ。

風見鶏さんが挨拶してくれた。珍しい。いつもなら鳴くだけ鳴いて、あとはだんまりなのにね。

おいで、おいで。そんなところでジッと見つめなくても平気だよ。…ううん、分かっててそういう風にしているのかな。少しの間でいいの。だから、指の一本でも出してみてちょうだい。

髪の毛を使って編まれた細めのリボン、いつ見ても綺麗な黒色。この髪を翻していた人は誰なんだろう。もういない事は知っているけど、やっぱり気になるかも。

外に何か光ってるような気がして、窓を開けたの。そしたら青くて丸っぽい花が淡い光を放っている。いつこんなの咲いていたんだっけ。

あの青い花をまた見に行ったんだ。全然光っていないし、それにしても昨日までなかったと思う。変なの。

出来た。手の指とスミレの花を入れた砂糖漬けに、子供からお年寄りまで虹彩も贅沢に揃えたマリネ。材料を集める方が大変だったけど、この前からずっと作ってみたかったからこれでよし。あとはしばらく、このままにしておかなくちゃ。ふふ、楽しみ。

公園の隅っこに真っ黒で、なんだかベトベトしている人を見つけたの。具合が悪いのかなって声をかけたんだけどね、身体中に目がいきなり開いたらその場に溶けたんだ。

先生ったら、また部屋に引きこもってるみたい。今夜も一晩中そうなのかな。あんまり無理しちゃいけないよって、前も言ったばかりなのに。

ちょっとした気まぐれ。夢見の扉を開けたの。赤いペンキで塗られたのは相変わらずだけど、昔より色落ちしてるみたい。開けた瞬間に見たのはね、私が小人になってキッチンとか、図書館とか、沢山の部屋で遊びまわったんだ。すごく楽しかったの。

ウサギの絵なのに、肝心のウサギがいない。どこにいっちゃったのかな。怪我をさせる前に探さなくちゃ。

あの絵のウサギに違わないんだけど、白かったのに所々が青くなってる。どうやって綺麗にしようかな。戻るかな。

変に明るいと思ったら、まん丸のお月様が二つも空に浮かんでる。片方は銀色がかった白で、もう片方は蜜柑色。晴れてて良かった。すっかり上まで昇ってる。