水色の便箋　

　【 注意 】 読んだ直後にこの紙を燃やすこと。跡形も無く、灰になるまでしっかりと。


　これを見てるってことは、紙を開いてくれたってことかしら。流石私が選んだだけあるわね、賢明な判断よ。
　この紙は私が話したことを大魔法使いさんが書き留めたものだから、全文口語になってるわ。わかりやすく説明するつもりだからしっかり読みない。


【　この町について　】

　まずあなたが行こうとしている町について。天国だとか楽園だとか噂されてるようだけど、端的に言うと全て幻覚なの。そんなに自然豊かでもなければ綺麗でもない、本当に粗末な町よ。政府の監視下から外れた​──、というか政府から見捨てられた町だもの。
　そんな町を天国に見せているのは、森中に咲き誇るエンジェル・トランペット。知ってるかしら、エンジェル・トランペットが体内に入れば、吐き気、幻覚幻聴、精神錯乱や悪夢といった症状が出るの。麻薬なんて比にならない程のね。

　一昔前、様々な植物について研究していた優秀な科学者の研究結果を見た政府が、この作用を利用出来ないかと考え始めた。精神操作とかバカみたいだと思ったけど……、科学者が優秀すぎたのね。エンジェル・トランペットの毒性を最小限に抑えて幻覚幻聴、軽度の精神錯乱の症状を出させる『 毒 』が完成してしまった。

　そこからはもう地獄よ。悪用しないで欲しいと願った科学者は殺されて、金に目が眩んだ科学者の手でどんどん毒が作られていった。でも作るだけじゃ意味無いじゃない？そこで実験場にされたのが、この町ってこと。ニュータウンだかなんだか適当な理由に騙されてやって来た人々はみーんなその毒の実験台。
　……数え切れないほど、死んだわ。狂って都市に逃げようものなら例の南の怪力バカが飛んできて首を捻るの。そんな失敗を重ねて重ねて、症状を最低限に抑えられるようになった。


　そして今に至るってわけ。素晴らしい毒のおかげでボロいお家は立派な煉瓦造り、固いパンはふわふわのクロワッサン。……本当に本当に、よく出来た毒だわ。


【　毒について　】

　この町が幻だっていうのは理解してもらえたかしら？これ以上知りたくないのなら今すぐ閉じて燃やして、大人しく帰るか毒を飲むかね。

　次は毒について。前に記した通り、エンジェル・トランペットの毒を使った所謂麻薬。幻覚幻聴、軽度の精神錯乱。古いもの、壊れたもの、安いものが新しいもの、綺麗なもの、高級なものに見えるようになる。例えばさっきみたいにボロボロの家が煉瓦造りに見えたとしても、隙間風が吹いてるのを感じたら違和感があるでしょう。その違和感を無くすための精神錯乱作用よ。目に見えたものが全て、風なんて気のせいね！で何とかなってしまう。だからこうやって、明らかに手触りが違ってもなんの違和感もなく生活出来るようになってるの。

　毒を作っているのは南の森を抜けた先の研究所。その毒を教会まで運ぶのが、私の兄の仕事よ。私も兄も本当は今すぐにでもやめたいんだけど、そうにもいかないの。色々事情があるのよ。

　運ばれた毒は、私が教会まで案内した旅人や移住者へ配られるわ。見た目は......そうね、白ワインに近いかしら。「 伝統的な飲み物だから 」って飲ませるだけで全員の頭を狂わせられる、最高に簡単で儲かる仕事よ。全員もれなく気を失うけれど、そんな飲み物を飲まされた記憶も無く天国にたどり着けるわ。

　町の人々は日常的に毒を摂取しているからそこまで強くなくて良いのだけど、旅人の場合は本当に狂うギリギリのものを飲ませてるみたい。汚れた白いジャケットを着てたはずが、新品の赤いジャケットに見える旅人もいたわ。滞在中に毒が切れるのを防ぐのと、記憶を吹っ飛ばすためね。

　あと町には毒素が充満してるから、毒を摂取しなかった場合でも記憶はちょっと飛んじゃうみたい。


【　その他　】

　ここまでのことを信じるかどうかはあなた次第よ。天国が見たいなら毒を飲みなさい。地獄が見たいなら何とかして回避しなさい。地獄を選ぶなら、教会を通らなくて良い抜け道を教えてあげる。

　これらの事を理解してるのは、私たち双子と大魔法使いさん、それから孤児の女の子ね。大体わかると思うけど、女の子の前世は優秀な科学者よ。ただ本人は断片的にしか覚えていないから、自分の研究結果が毒の開発に繋がったことは知らないみたい。大魔法使いさんは体質的に毒が効かないみたいだけれど、医者である以上みんなと同じ景色を見るために毒と同じ症状を自分にかけてるわ。その気になれば天国も地獄も見られるってわけ。
　あとは喫茶店の店主。すべてを知ってるわけじゃないけど、彼、初めて来た時に半分程毒を吐き出しちゃったから、違和感を持ってるようね。



　これで内緒事はおしまい。この紙は今すぐ燃やしなさい。
　選択に正解も間違いも無いんだから、あなたが見たい方を選べば良いの。もう一度私が現れた時、この紙を読んだかどうかだけ質問するわ。地獄が見たいなら縦に、読んでいたとしても天国が見たいなら横に、首を振りなさい。

　あなたの選択を待ってるわ。

（ ／ >1 を全て読み、地獄 を希望する方はプロフィールの※部分に はい と記してください。また、1を読んだもののほのぼのとした日常がしたい、と天国を希望する方は いいえ と記していただいて構いません。つまり はい→地獄 、 いいえ→天国 となります。

　矛盾点や疑問点あれば遠慮なくどうぞ......！）