若き将校 2018-03-28 22:31:14 |
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(彼の姿を見つけて安堵したのも束の間、銃静音と共に倒れる身体に頭部を強打し小さな唸り声を上げて眼前で声を荒げる様子を湾曲した視界の中薄目で眺め。幸い何処も打たれはせず、続け様に聞こえた銃声にはっと我に帰れば今度は相手の襟元を鷲掴み、後頭部に腕を回して固く抱き寄せ、頭上を飛び交う弾丸から守ろうと。応戦に現れた兵士達が駆け付ける足音と裏切り者が発砲を繰り返しながら逃げて行く音をそのままの体勢で耳を澄ましながら漸く唇を開き)…お前が、お前らが心配だったんだ、身体が勝手に動いた仕方ないだろう…!
(相手に抱き寄せられ、耳元で聞こえた冷静さを僅かに欠いた声に相手が自分の身を案じてくれた事を強く感じ、言い返すことは出来ず。悪い、と少しの間を置いて小さく謝り喧騒が消えると漸く身体を起こして。辺りの様子を見回し自分を落ち着かせるように一息ついてから視線を下げそう小さく述べて)
ーー俺も、お前が心配だった。敵を前にしても、俺を守ろうと無茶をして怪我をするんじゃないかと、
………。
(裏切り者の登場と互いの死を間近にした一連にそう簡単に冷静さを取り戻せる事が出来ず、走り続けた事により荒くなった呼吸で肩を上下に揺らしながら酸素を身体の中へと取り入れて何とか落ち着きを取り戻そうと心掛け。離れた身体だが、彼の謝罪の呟きに今一度身体を抱き締めて腹の底から深い息を吐き出して。すぐさま顔を上げれば裏切り者が駆けていった方角に視線を向け)俺も悪かった。…言い足りないが早く追わなければまた何処かで誰かが殺される。行こう。
ーーお前が無事ならそれで良い。
…まさか、この少人数体制で裏切りに合うとはな。
(相手の言葉に頷き立ち上がると手を取り立ち上がらせ、彼等が駆けて行った方へと後を追い。広間には数人の兵士、裏切り者を見失ったのか男の姿はない。兵士達に司令を出すその表情は相手と居る時のものではなく、将校としての顔で底冷えする程に冷酷なもの。見通しも悪いこの時間、島から出ることは到底不可能で裏切り者を取り逃がす心配はまずないがこれ以上犠牲を出す前に鎮静化しなければならないと)
…激しく抵抗するようであれば、やむを得ない場合射殺しても構わない、可能であれば捕縛して本部に送り戻す。敵軍と繋がっていたのであれば吐いて貰う事はたんまりある。
…生憎俺は奴の顔を見ていないんだ。お前は?ーーもし、誰も奴の顔を見てなければ、…もしかするとだがまた兵に紛れるかもしれないぞ。
(捜索を続けるも裏切り者の姿は一瞬合間に見えた程度、捕まえるとなれば顔を知る者が必要だが奴は日本兵と全く同じ軍服と顔半分が隠れる程帽子を深々と被っていた為特定に至るのに時間が掛かるだろうと考え。最も最悪なのは捜索員を扮して基地へと戻り再び襲撃の機会を伺っているかもしれないという事、就寝時間に狙われでもしたら全滅とまでは行かないものの確実に死亡者が出るであろう。早く駆け付ける事が出来ず取り逃がした事へ深く自省し)悪い、もっと早く駆け付けるべきだった。奴を捕まえた時には徹底的に自供させてやる。
…そうか、誰も顔までは見ていないんだな。
(周りの兵士たちの反応に相手の指摘が正しい事を理解し。この十数人の中で息を潜める裏切り者を炙り出す方法などあるだろうか。背格好がわかったところで皆違いが顕著なわけでもない、裏切り者を誘き寄せるのに最善の策は、と眉を顰め。就寝中を襲われないようにするためには密かに寝室を見張るか、囮を使うか、兵士の中に潜む裏切り者を警戒し内部の警戒強化をすると村自体がおろそかにもなりかねずそれは懸念しており。しかし全滅させられる訳にも行かない、どうするのが一番迅速に危険因子を排除できるだろうか。)
いや、それは俺の台詞だ。足を狙って弾を打ち込んでいればよかった。
お前は悪く無い。……ーーー相手の目的は軍の全滅か?一人で侵入したとなれば重要人物の暗殺にも思えるな。いっその事、願いを聞いてやるのはどうだ?
(勿論暗殺に手を貸す訳では無いが元の軍事基地所有者達と自分らの軍の兵士から探し出すのは正に困難な技、ならば協力的姿勢を見せあわよくば交渉まで運び、隙を見て捕まえるという案が浮かぶ。軍の上層部を狙った犯行であれば大方誰を狙ってきているのかは想像が付き、険しい顔付きの彼を見遣り。勿論彼を差し出し交渉するつもりは毛頭に無くこれ以上話は他に聞かれる事がないよう基地に戻り個室へと招き入れ)
…敵軍と繋がる裏切り者と考えれば、おそらく一番欲しいのは俺を殺ったという肩書きだろうな。
そう仮定するなら、俺が囮になるのが一番手っ取り早い。
(公の場では相手の言葉にやや賛成するような素振りを。相手とともに基地の個室へと戻れば扉を施錠しつつ淡々とそう答えて。だとすれば、囮となり相手にその隙を突いて捕縛してもらうのが、互いにリスクはあれど確実に仕留められるのではないかと一案を。相手の考えを促すように相手を見つめて)
…リスクがでかすぎるけどな。もし、失敗すれば、お前も軍も終わりだ。だが現状ではそれしか無い、ちょっと時間をくれ。
(分かってはいても彼を囮にするのは気が進まず、他の案を絞り出そうとするが矢張り先程提案されたものが最良であり送り出したく無い気持ちと軍全体の命に関わる責任との葛藤が渦巻き顔色を険しいものに変えて行く。背後の視線へ目を合わせれば直ぐにでも実行してしまいそうで振り向く事はできず、決断に至るまで壁まで歩いてみては何度も往復を繰り返し)
軍全体が懸かってる。
此処にいる兵士全員を屍として本部に送り返すよりだいぶましだ。俺も護身用の銃は身に付けておくーーそれ以外に方法はないだろう、
(相手が渋るのは己の身を案じての事だろう。しかし軍隊に所属し将校という立場である以上当然危険は付き物だと理解している。もうそれ以外におそらく道はないと思えば、なんとか別案を捻り出そうとしている険しい表情の相手の背を納得させるように数回叩いて。何より相手には絶大な信頼を置いている、自分が命を落とす確率などほとんど零に近いはずだと)
はあ…お前に言われたら敵わないな。安心しろ、撃たれる前に撃ってやる。
(渋ってはいたものの答えはとうの昔に出されていたようでこの己よりも腹の括りが早い彼の言葉に分かり易く肩を竦めて漸く振り向き視線を合わせる事とし。狙撃の自信はあるが彼を守れるかは別でありのし掛かる責務に実の所未だ腹を決断には揺るぎがあり。だが彼の前で迷いを見せる事も足を引っ張る事になるだろう、幾許か残る不安を胸に隠し頷いて見せて)
心配はしてない、互いに死ななければそれで十分だ。
任務は紛れる敵軍のスパイを捕縛する事だけだ、それ以外の事は何も考えなくて良い。
(相手の言葉にそう言って少し笑みを浮かべると、ようやく合った僅かに迷いの浮かぶ瞳を見て犬を撫でるように相手の髪を撫でてやり。裏切り者をおびき出しやすい状況を暫し考えた後、やはり動きやすい司令室が良いだろうと。)
俺が夜通し一人で司令室にいるのが一番良さそうだ。
お前が隠れるのに適した場所もあるし、身動きも取りやすい。寝てしまうと撃たれるリスクも跳ね上がる。
……分かった。無理は、しないでくれよ。
(人に撫でられるなど情け無いがよっぽど満足のいかない顔をしているのだろうと自覚を持ち、されるがまま今一度大きく頷いて了承の意を示し。今相手を一人にするのは危険と見做し早々に食事を取り待機体制に入った方が良さそうだと考え、一先ず全員集まる筈であろう食堂へと誘い)向こうで点呼を取ろう、一応な。後負傷者からも話を書き出して貰って、出口には頑丈な鍵で袋の鼠としてしまおう。
そうだな、今行方を眩まされるのも危険だ。
今夜の外の警備は致し方ない、点呼後に兵士達は寝室に。
俺は此処に戻って来て朝まで此処に居る、入り口は施錠しない。
(相手の提案に頷くとそう言って食堂の方へと。今も仲間の皮を被った裏切り者がこの中に潜んでいるのだと思うと自然と表情は硬いものに。何故見抜けなかったと自分を僅かに攻めつつ今夜を乗り越えれば危機は一旦過ぎ去るはずだと自分を奮い立たせ)
俺は部屋のどっかに隠れていれば良いんだな。
(人員不足の食糧不足に並べられる食事も粗末なもので、基地内はただならぬ緊張感に未だ襲われているせいか誰一人と口を開かず黙々と食事をしているような有様。同じように神妙な面持ちでいるのも向こうの思うツボだと考えれば静かにしてやるつもりは無く、食事の乗ったトレーを受け取り二人席へと向かえば現状とは全く異なる私情の話へと持ち込み)ーーーで、村にはお前の好みはいたか?
ーーお前な、突然何を言い出すかと思えば…下世話な話をするにしても、相手がもっといるだろう。
自分の心配をしろ、生憎俺は相手には困ってない。
(無言で食事をしていたものの唐突な相手の声に何を言い出すのかと呆れた様子で手を止めて。そういう話は相手が決まっていない独り身同士でやれと、わざと遠回しに嫌味な一言を放つとにやりと笑みを。)
はは、良いだろたまには。余裕そうだな、ならついでに俺にも紹介してくれ、今度見せてくれよ。
(場を和ませる冗談のつもりで放った言葉に意外と面白い反応を見せてくれた相手に満足そうに盛大に笑ってみせ、会話をやめるつもりは無くそのまま継続され。実際の所誰かを迎え入れる程の枯渇は無いが相手の許嫁を一目見たいというのは以前からの興味はあるようで瞳に一抹の懇願の色を浮かべて)
ーーいつかな。会いたいなら町に降りれば良い、昼間は喫茶室で女給として働いてる。
(相手が明るい笑いを見せてくれた事にほっとしている自分がいて、やや表情がほぐれて。相手の懇願には少し首を傾げた後そう答え、何処のとは明言を避けるも曖昧な情報だけを残してそのまま食事を再開し)
どんな娘なんだ、顔は何度か合わせた事はあるんだろう、俺の事は話したか?
(彼の将来を約束した相手に興味が湧き立つのは最早仕方が無い事だと言わんばかりの質問は次から次へと口から溢れて行く。せめて顔色を薄桃色に染めてくれれば揶揄いようもあるだろうに冷静に答える様子は彼らしく、それがまた興味をそそるようで味気ないパンを無駄に引きちぎりつつ椅子ごと距離を縮めてみて)
…気立ての良い奴だよ、店でも常連に気に入られてるらしい。
一応お前の事も知ってる。
(少し考えた後に出てきたのは当たり障りのない言葉。彼女には相手の事ばかり話しているがそれを素直に認めるのも癪で濁しつつ。追求されているこの状況もやや居心地が悪く湯呑みを手に取り茶を煽り)
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