若き将校 2018-03-28 22:31:14 |
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…俺も、同じものを。
(外套を脱ぎ相手に促されるがままに席につくと品書きへと視線を移したもののこれといったこだわりがある訳でもなく一瞬悩んだ様子を見せるもそう言って相手と同じものを頼み。個室に入り相手と二人きりになってようやく落ち着いたのかその表情から涼やかな硬さが消え自然と小さく息を吐いては机に頬杖をつき、一度目を伏せてから相手を見上げて)
ーー常連なんだな。
勿論、たまに抜け出しては良い店を探してる。お前よりは…まだ忙しく無いからな。
(賑やかな店内は蚊帳の外のよう、此処は静かでとても落ち着いており下手すれば互いの呼吸音も響く程。彼の様子が軍では見せぬものに変わるのを目の当たりにし密かに連れ出した事への正当化を己の中で形作る。此処ならば本音を明かせるだろうと根掘り葉掘り聞くかそっとしておくべきか、巡り巡った思考は前者で止まり早々に唇を開き)なあ、…どうだ最近は。向こうでは気が抜けないだろ。
…いや、俺はまだ実戦に出ることはほとんど無い。
既に戦いに出ている兵士の方がきついだろうな、敵軍の行動が読めないからこそ休むに休めない。
(相手の声色が少し真剣なものになったということは仕事の話をすることに決めたのだろう、頬杖をついたまま答えると自分も少し声色を下げて。今も尚敵軍の行動が読めないからこそ気を張ったままであろう兵士達のことを思えば深く溜息吐き、伏し目がちな瞳に憂いの色が浮かぶと長い睫毛が影を落とし。)
階級が上がるにつれて、肉体的には楽になる。精神的にはどうか知らんがーーまあ、そういうものだよな。
そうだな、…お前は、…いや、まるで顔色を伺うような戦いだろうよ。不謹慎な話だがそうなった以上日本に勝ち目は無いようにも思える、負ける気は無いが。
(矢張り自身の事よりも兵士の事を考えているのかと仲間思いの良い指揮官だと感心もするが呆れもする。少しは気楽にしろと言ってやりたいが性格上簡単に出来る男では無いと知っているが故受け流すに違い無いと想定すれば一旦はその口を噤み。シャツの胸元から煙草を一つ取り出せば指に挟み軽く振り許可を得る為のジェスチャーを、テーブルの端に置かれた灰皿を引きずり寄せては今一度首を傾け確認を)そういや許嫁とは会ってるのか?今の顔を見たらきっと悶絶するな
全くだ、上層部も対して動きもしないくせに話し合いばかり重ねやがって。何としてでも勝たない事には、俺らに全てを預けてる国民に示しがつかない。
(上からの指令がないことには部隊に指示を出すことも出来ない、にも関わらず全く動きがなく暇を持て余すばかりだと。僅かに眉間に皺を寄せると苛ついたように指先を動かし、相手のジェスチャーに頷きつつ様々なことが頭の中を巡れば自然と眉間の皺は深くなり、自分も懐から煙草を取り出そうとしたものの部屋に忘れてきた事に気づけば視線を上げて相手を見て)
…悪い、一つ貰えるか。ーーいや、もう随分と会ってない、あいつもよりによって俺の許嫁だなんてな。もっと見合った良い男がわんさかいるだろうに。
今度上層部に喝を入れに行くか?“早く仕事しろ!”ってな、はは…お前は兎も角、俺は直ぐにでも罰を受けそうだが。
(動き出した指先に彼の苛立ちを感じ取りつつ対して呑気な口調で和やかな笑みを浮かべ。軍の柱とも言える彼の受ける仕打ちよりもよっぽど残酷な仕打ちが己に待ち構えているだろうと苦笑交じりに肩を落として。許可が得られれば続けてゼンマイ仕掛けのライターを手にもう一本の煙草を取り出して彼の腕へ、自らも口に咥えつつ先に火を付けてやろうとヤスリを擦りつつ彼の口元へ)
何言ってんだ色音が。お前以外の良い男はお前か…俺ぐらいだな!…会ってやれよ、きっと会いたがっている。
今の上層部には誰も口を挟めねえよ、頭の堅いだけの偉そうな連中ばかりだ。…悪いな、
(やれやれといった風に肩を竦めつつまだ幼い頃に相手と話していた時のような口調にやや戻っている事にも気付かず相手がライターを差し出すと有り難く頂戴しようと口に咥えた煙草の先を近づけ。相手の冗談めいた言葉に笑いながら煙を深く吸い込み宙に吐き出しながら否定し、しかし瞳に浮かぶ憂いを帯びた色は消えることなく。やがて運ばれてきた酒の猪口を相手に渡し酒を注いでやりながら)
馬鹿言え。…今の俺が逢いに行ったところで気を遣わせるだけだ、それに敵が静かな今くらい、軍隊なんぞとは無縁の生活を送らせてやりたい。
なら、いっその事時代を変えてしまおう!俺達の手で勝利を掴み取り白旗を拝んでやるんだ。そうしたら、戦場を駆け巡らない世界も味わってみたい。
(大分気の緩みを許し始めた様子に慢心しては高らかに宣言を。勿論現実離れし過ぎた思考ではあるものの幾分か本音も混じ入れ一度目を瞑り瞼の裏に理想とする世界を思い描き。同じく火を灯した煙草を吹かしつつ酒の注がれた猪口を受け取れば一気に喉の奥へと流し込み。咽頭から食道を通り胃へと落ちる焼けるような熱さに身震いをすれば気持ちの良い息を零してをもう一杯を要求して猪口を相手に差し出しつつ、無駄に謙虚な様子が気に食わずに態とらしく片眉を上げて)その役目はお前なんじゃ無いのか灯夜、愛してるなら会える時に会うべきだ。…じゃなきゃ永遠に俺がお前を慰めてやるぞ。
良いな、物騒なことなんぞ考えずに楽に生きていける。そうして互いに爺さんにでもなったら、また子供の頃みたいにのんびりやろう。毎日酒を飲み交わしたって良い。
(相手の言葉聞き笑いながら猪口を傾けて自分も酒を腹の底まで流し込み、珍しく相手につられるようにしてそんな未来を思い浮かべては煙草の煙を再び深く吸い込んで。相手に説教されればやがて頷いてそう答えると近々逢いに行くと告げ、酒を注ぎ足すと再び猪口を煽って。酒にそれほど強い訳でもなく普段に比べればペースは速く)
お前の慰めなんていらねえよ、勘弁してくれ。…近々時間を縫って逢いに行く。会える時に会う…その通りだな。
ああ、良いな、本当に。ーーそうだ、いつかお前に空の旅に連れてってやるよ、空は良いぞ青くて広くて、暗雲さえなきゃ自由だ。
(世知辛い世の中を生きる身として理想は膨らむばかり、瞑る瞼の裏に描かれた夢はやがて広大な大空へと移り変わり己は鷹のよう。掌を飛行機に見立てて波を描けば彼の胸元へと小突いてやり。意見を変えた彼へ満足と羨望の眼差しを送り二回、三回と酒を流し込んでは胃の中で熱く燃える感覚に酔い痴れて店主についでのつまみを数品頼めば出来上がるまでにそう時間は掛からず)そうか?こんな色男を捨てるのか?俺もその内良い妻を迎え入れたら…いや、空で良いか一人に収まるのは俺らしく無いだろ、な?
嗚呼、楽しみにしてる…墜落や操縦ミスは勘弁してくれよ。
(素直にそう答えつつもチクリと棘を刺すことは忘れずに、にやりと笑みを浮かべて。ようやくその瞳から憂いを帯びた色が消えたのは、何度も猪口を煽り代わりに白い顔が薄らと赤味を帯び始めた頃。正論を語りつつもそこに自分の感情が入って来ては普段なら絶対に言わないであろう心の内を口にして、しかしそれに気付きもせずに酔いでやや気怠げな瞳でじっと相手を見つめて)
いつまでも子供みたいには居られねえよ、見合いの話もわんさか来てるだろうに。…まあ、お前に嫁さんが出来る未来なんて到底想像がつかない。
ーーそれに今みたいに俺がお前の一番じゃいられなくなるのは気に食わねえな。
おい、俺を誰だと思ってるんだ。隼のように早くアネハヅルのように高く……はあ?ははッ……お前酒、弱かったな。
(自尊心も高い故に生き生きと輝く瞳のまま酒を煽ってはアルコールには強い口であり一向に顔には出ずに良い気分で語っている事思い掛けない言葉に瞳を見開いて驚きと呆気に取られ。普段なら死んでもその唇から聞く事の無い言葉に冗談か本気なのか珍しく動揺してしまい、猪口を握る手が止まり。蒼白な肌が丁度花を咲かす薄桃色の桜に染まっているようで何とも色っぽい顔立ちに生唾を飲み込みすかさず酒を流し込み)一番か、…嬉しい事言ってくれるな。安心しろよ、お前にはいつだって俺がいる。ーーお前が俺から離れて行く事は例外として、なあ若き旦那さんよ。
弱かねえよ、少し飲み過ぎただけだ。
(朗々と語る相手の声を聞きながら、その声が不意に止まり驚いたように目を見開く様子に何か変な事でも言ったかと記憶を遡ろうとするもすぐに億劫になってやめ、そうとだけ答えて。口調も表情も、酒の力もあるだろうが相手の前だけでは昔のままで居られるその居心地の良さが気を緩めだいぶ酔いが回ってしまった。常に思案している戦況も今は頭の中から追い出され、束の間完全に肩の荷が降りた状態で何度か瞬きしながらその言葉を聞くと機嫌がよさそうに笑って)
俺だってお前からは離れねえよ、昔も今もそうなんだ。これからも同じだ。約束する、親友だからな。
ぶっ倒れたら部屋まで送ってやろう。それはではほら食え、今日は奢りだ。
(明日には大方忘れ去ってしまっているだろうと好都合でありながら何処か味気なさも感じられるほろ酔い状態の相手。しかし彼が上機嫌の内は争いも忘れられるであろう、更に酒を進めつつ出てきたつまみも添えて我ながら機転の利く男だと悦に入り、心地の良い空間に浸りつつ穏やかに微笑む彼を眺め。彼を愛する者、彼が愛する者が一番の優先度と言うのに同情かはたまた大馬鹿者なのか慈悲に満ちた言葉に胸の辺りがじんわりと疼き隠す様にくしゃっと微笑んでみせ。一合、二合と酒を継ぎ足し気が付けば己も少しばかり身体に熱をこもらせて)ああ、”親友”だな。しかし誰が考えたんだろうなこの言葉、親しい友で親友。まさに俺達の事を言い表している
心配するな、自分の足で帰れる。…お前も酔って来たんじゃないか、熱を持ってる。
(そう言いながらも勧められるままに箸をつまみへと伸ばして酔いは深まっていき。じきに薄赤く染まった頰に涙ぐんだ瞳がゆらりと相手を見つめ、酒には強いはずの相手の顔色が少し変わったことに気づいたのかおもむろに腕を伸ばしてその頰へと手を添え。ゆっくりとした瞬きで相手を見つめながら他の人の前では考えられない笑みを浮かべ)
本当にな…お前が居て良かったよ。親友、っていう響きは俺も好きだ。
お前の心配じゃ無い、街の女の心配さ。送らせろ
(只でさえ整った顔立ちの上に目頭に溜まる涙を浮かべた妖艶な表情の相手が街に出れば、直ぐにでも人を惹き付けるのは一目瞭然であり。無自覚とは恐ろしいもので断られた事によって機嫌を少しばかり損ねていたが頬に触れる熱い掌に瞳を見開き思わず手に持つ酒の入った猪口を服の上へと落として。少量であるため軽く手拭きで拭いつつも久しく見た穏やかな笑みに不覚にも心の臓が跳ね上がり。)そう、か……、…だろう!やっぱり意気投合するな俺達は。
…何が女の心配だ、分かったよ。
(相手の言葉に笑いながらそう答え、反論はしても結局は相手の言う事に折れるのが昔からの常で。相手が酒を溢すのを見て自分の手拭きを相手の方へ放り投げつつ、いつの間にか箸は皿の上に置かれ少しずつ頬杖をついていた腕が前のめりになり瞬きの回数もゆっくりとしたものになっていき。相手の居る空間がこれ程心地良く、自分の気を緩めてしまうのはやはり相手が幼馴染の親友だからだろうか、常に周りの動きに敏感で在れるようにぴんと張った糸も、唯一相手にだけは緩めて預けてしまっても良いと思えてしまい心地の良い酔いに誘われて浅い眠りに落ちてしまいそうで)
…そうじゃなきゃ、こう長く隣にはいられねえよ…
灯夜?…おい、灯夜、もう限界か。
(投げられた手拭きに軽く笑みを零しては見上げた先には既に眠りに入ろうとする親友の姿。前のめりにな?その先には食べかけのつまみの皿があり慌てて彼の身体を支えるべく両肩を抑えれば隣に回り込み壁に凭れ掛からせるように後ろへと身体を引いて。細くともしっかり鍛えられた身体と長く瞳を覆う睫毛はまるで女性なように美しい顔付きにに見入る事数秒、徐に彼から離れ代金を支払えば扉の向こうから見える臙脂色に染まった空に気が付き。疲労困憊なのだろうと彼の肩を支える形で担げば店を後にして)帰るぞ、勝手に部屋に上がったと文句言うなよ?って、また聞こえてないか。
……ん…もう、帰るのか…?
(ふわりと身体が持ち上げられる感覚に一度目を開くも脚に力を入れて自分一人で歩いて行ける程ではなく、相手の肩に体重を預けたまま眠たげな口調で尋ね。気付けば地面に伸びる二人の影は臙脂色の光に包まれ、随分と時間が経っている事を感じつつ戻ったらやらなければならない事がまだ幾つか残っていると考えを巡らせるも、やはり今はそれについて考える事すらも億劫で。意識は浅い眠りと現実との間を行き来して相手の歩調が心地よく再び眠りに落ちてしまいそうで)
帰りたく無いか?
(少し熱い身に吹き抜ける涼しい風はとても気持ちが良く目を細めて見上げる空には平和な一時が流れている。重なり合う体温は互いの熱を主張するようで不思議な感覚を得て素直に身体を預ける相手を見下ろせば意地の悪い笑みを浮かべ。安寧と睡眠を促すように数回彼の頭部を撫でるように叩いて歩みを進める。周囲にはこれから飲み屋へ向かう者もいれば早々と何処かへ向かう者まで、宙を舞う桜はまるで二人を誘うかなように前方へと抜けて行き、やがて軍の敷地内へ辿り着けば相手の部屋へと進んで)
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