2018-03-03 14:30:37 |
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( 漣が長閑に鼓膜を揺らす。心地好さたるや、──生憎記憶は遡れないが──母胎に類似しているのではないかと白痴に程近い脳味噌が応えを出した。学校帰りに六駅先の海辺へ赴けば、革靴と靴下を脱ぎ捨ててスラックスの裾を捲り上げ、浅瀬をひとり散歩する事どれ程の時間が経過したのかは計り知れず。僅かに潤けかけた足指は甲まで、透明な海水に包容されている。三月上旬の春日の昼間。時期的な問題か、平日だからか。いまだ人入りのないこの場所は、物心着いた時からお気に入りの場所だ。絵に描いたような 〝 真っ青な海 〟 ではないが、今や別離してしまった兄との思い出が詰まった唯一無二の個所。潮風に漆黒色の毛先を弄ばれ乍ら、数少ない思い出に耽るように瞠目して。 )
side:Sister
( 賛美歌が響く聖堂の扉が突如として大きな音を立て開くと、聖歌は鳴り止み、シスター達の騒めきが伝染的に蔓延していく。完成した空間の向こう側、片脚を差し出す姿勢の男性が驚愕を色濃く醸した表情で佇んでいた。 脚を定位置に戻すなり 〝 …ワーオ、壊しちゃった 〟 なんて呟きは、一等彼に近い俺にしか聴こえてはいないだろう。一見しただけで高級な仕立てだと判る黒の上下スーツを身に纏った不審者は、人好きしそうな大変締りのない笑みを浮かべ、酷く通る声でこう言った。 )
side:Mafia
( 出来心で脚を掛ければ脆かったのか、己の脚力が案外強かだったのか。音を立て前方へ倒れた扉の向こうで、シスター達が騒めき忙しなく此方へ視線を遣る。一等距離が近いシスターが逸らす事なく怪訝な眼差しを向けるが、其れすらも軽くあしらって広く小綺麗な聖堂一杯に声を上げた。「 ───この教会、今日から俺のものにすッから、いい子の皆さんは荷物纏めて出て行ってね 」先刻より膨張した騒めきは簡潔に述べれば五月蝿い。鼓膜にヤケに響く女性の声音に一層笑みを濃くしては手慣れた仕草で懐の拳銃を引っ張り出し、頭上へ向けて発砲した。拒否権等事を強調する行為に悲鳴を漏らしたシスター達は、即座に蜘蛛の子を散らすように裏口から出て行き。満足気に木製の長椅子に腰掛けた刹那、数分前と変わらぬ視線を感知して。 )
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