ほのか 2018-02-25 17:46:31 |
通報 |
「ああアネキ。すまねえ。遅くなっちまった。」
オトコは遼子に遅れを詫びた。
「遅かったわねぇ、もう寝ようかと思ってたわ。」
遼子のいた感染症隔離病棟の時計は午前3時を回っていた。神父と主任はこの日戻ってこなかったが、看護師と玲奈とみくるは既に寝ていた、はずだった。
「先生。実は俺たち、ガス棟の下に地下道があるのを見つけたんです。」とカレシ。しかし遼子は
「あ、そう。」と冷淡だ。
「『ハイブ』って知ってる?『バイオハザード』に出てくるアンブレラ社の秘密研究所の名前だけど、地下数百メートルにあるそうよ。ウチの病院くらい大規模なら地下に何があっても不思議じゃないわ。」
「先生の研究室も地下にあったのですか?」と尋ねるカレシ。
「ああ。でも地下通路は1つとは限らないわ。部外者以外には知らされていない地下通路がいくつもある。そうでないと極秘研究が外に漏れてしまうからね。」
「アネキ。俺の足の細胞のサンプルを取るんだろ!?今からやってしまおうぜ。」
「浩二(コウジ)。今は無理だね。」
「先生、何故なんです?サンプルは出来るだけ早く採取した方が・・・。」
「友英(トモヒデ)。今は真夜中の3時過ぎよ。サンプルを採取できる時間じゃないわ。あたいの勘にに間違いなけりゃそんなにすぐには変わらないから明日でも遅くない。あたいももう眠いし、明日にしよう。明日の朝9時半に検査室に予約を入れておくわ。」
遼子はパソコンのキーボードを叩いて検査室の利用予約を入れた。遼子、友英、浩二の3人以外は寝たはずだったが、みくるが起きてきた。
「なあ先生。ウチ、お手洗い行きたいんやけどぉ、夜やし、ゾンビとか怖いから1人でよう行かれへんねん。」
遼子と友英はあきれたが、遼子は
「じゃあ浩二と2人で行ってきな。浩二、案内してあげなよ。腹を撃たれた男を一緒に迎えに行った仲でしょ。あたいと友英は先に寝るからね。」
とみくるに浩二を紹介した。浩二は
「ちっ、いい歳してしょうがねえなあ。まあだけどアネキには逆らえねえや。俺もションベンしてえし、ついでだからついてきな。」
遼子と友英は先に寝た。浩二はみくると2人で夜のトイレに向かい、紳士用と婦人用に別れて2人とも用を足してそれぞれのお手洗いから出てくると、みくるは浩二にこそこそと話しかけた。
「なぁ。先生、様子がおかしいと思わへん?」
「ああ、俺もそう思ってた。アネキの親友の友英にすら何かを隠してる。」
「さっき話してた地下通路って、ホンマに『ハイブ』みたいにゾンビのウィルス作ってたんかなぁ?」
「・・・行って中に入ってみるしかない。」
浩二はみくるを連れてこっそりガス棟まで戻って行った。
夜が明け始め、東の空が赤くなった頃、玲奈は目を覚ました。遼子とカレシ、看護師の3人はまだ寝ているが、オトコとみくるの姿がない。
『カレシさんが寝ているってことは、あのオトコも返ってきたはずよね。みくるちゃんもいないし、どこへ行ったのかしら?』
玲奈はカーテンを少し開けて朝焼け空を眺めた。病院周辺の道路に目をやったが、白のレクサスはない。
『悟と茜さんを連れ戻さないと。でもどうやって・・・?』
玲奈はカーテンを閉めてベッドに座った。遼子の寝顔に目を向けようと振り向くと、目に入ったのは遼子が無造作に放り投げた白衣と名札だ。玲奈は遼子の寝顔に向かってこっそり
「先生、ちょっと拝借するわね。」
と言って白衣を着て名札を首から下げ、自宅から乗ってきたポルシェのキーを持って部屋を出た。車を停めてある駐車場に一番近い出入り口は既に確認済だ。礼子は28番通路から建物の外へ出て、ポルシェに乗り、エンジンをかけて、車両ゲートまで乗り付けた。
『これでゲートが開くかしら?』
と思いながらも、名札の裏の医療スタッフ認証用ICカードを取り出した。カードをゲートのセンサーにかざしたが、案の定開かない。代わりにゲートのスピーカーから警備員の声がした。
「おはようございます。ただいま封鎖中ですのでゲートをお開けすることは出来ません。」
玲奈はNICUの看護師並の芝居を打って出た。
「『この先のコンビニで未感染者が閉じ込められている』という通報があったの。迎えに行かないと、ゾンビに食べられてしまうわ!警備員さんには連絡は行っていないの?」
「少々お待ち下さい。」
警備員は申し送り書を確認したが、そんな通報の記録はない。警備員は勘違いした。
「申し訳ございません。交代前の者が確認を怠ったようです。」
「じゃあ早くゲートを開けて!」
玲奈はホっとした。芝居がうまくいったようだ。しかし、
「分かりました。ただ一応念のため、お車の窓を開けてカメラの方を見て下さい。ICカードの写真と先生のお顔をカメラで拝見いたします。」
『ん・・・しまった!』
玲奈は芝居は失敗したかに思えたが、銀座という日本最高単価の客商売の舞台で得た立ち回りでさらなる芝居を打った。玲奈はICカードを取り出し、窓を開けてカメラを見た。
「・・・失礼ですが、西原遼子先生ですか?」
「ええ、そうよ。」
「大変恐縮ですが、別人かとお見受けしますが・・・。」
「警備員さん。”女は医者であっても若く美しくありたいものよ”。」
「こ、こ、これは大変、大変失礼しました。」
警備員には玲奈が、ICカードの写真に写っている遼子が美容整形をうけたものと勘違いした。玲奈は難なくゲートを抜け、ポルシェは病院の外に出た。
『芸能人って大変よねぇ、こんな芝居を毎日やってんだから。』
玲奈はポルシェで大通りを走り抜けた。
NICUの看護師は早朝、感染症隔離病棟に内線電話をかけた。
「おはようごぜえますだ。NICUのもんじゃが、そつらにウチの病院を寿退職した川崎って女性がおると思うんじゃが電話には出られんかねぇ?」
この電話に出たのは川崎の妻絵里子(えりこ)だった。
「あらぁ、おはようゆかり。ウチの子はどう?」
「ああー絵里子か。サンスのボンベを交換できたさかい、当面は大丈夫じゃ。」
「そう、よかった。でも、ゆかり。あなた寝てないんじゃないの?大丈夫?」
「ちいとも大丈夫やない。警備が門ば閉めてしもたさかい、交代の医師や看護のもんが中に入れんで、当直の医師と2人で深夜のコンビニの店員状態じゃ。」
「じゃあ今から手伝いにそちらへ行くわ!NICUは37番通路の近くなんでしょ?」
「キモツは嬉しいけんど、アンタもエイズやらゾンビやら感染しとるんじゃろ!?ホンマにすまんが、エヌ・アイ・スー・ユーの中には入れられん。」
「そ、そうね。私は行かない方が良いのよね。我が子に申し訳ない・・・。」
絵里子は今にも泣きそうな声で答えた。
「で、ゆかり。こ、こんな朝早くにどうしたの?」
「絵里子が感染しとるエイズやらゾンビやらの件なんやけどな、どうもおらの父ちゃんが1枚かんどるようなんじゃ。」
「どういうこと?あなたのお父様は自衛隊の専属医師でしょ?確か、防衛医科大学校出身の。」
「んだ。その父ちゃんが勧めてくれた看護専門学校がこの大学の附属学校なんじゃ。」
「それがどうかしたの?」
「実はな、父ちゃん、今は実家で小さい開業医をやっとるんじゃが、定年退官の数年前に自主退官してこの病院に勤務しとったんじゃ。」
「それならお父様が勧めるのもなおさらじゃない。この病院は世界有数の大規模病院なんだし。」
「おらも最初はそう思ったんやがな、絵里子、医者も看護婦も大工さんと同じでな、決まったことしかせえへん大手より何でもこなす中小企業みたいな病院の方が腕が上がるんじゃ。その父ちゃんがここを勧めたんで、今になってどうもおかしいと思ったら、父ちゃん、ここで仕事し始めてから2,3ヶ月に1度しか家に帰ってきいひんようになった。母ちゃんはいつのもことみたいに思ってたんじゃが、父ちゃんが帰ってきた時に仕事のこと聞いたことがあってな、父ちゃんは『この病院である研究をしてるが研究の内容は言われへん』って言ってたのを思い出したんじゃ。」
『極秘研究・・・。』
絵里子は西原遼子医師の口から聞いた言葉を思い出した。
「ゆかり。ゆかりのお父様って当然だけど『医師免許を持った自衛官』よね。もしかしてアメリカとの共同軍事演習なんかもやってたんじゃない?当然機密連絡も扱ってたはずよ!」
「『ビンゴ!』じゃ。父ちゃんは明らかに米軍に依頼されて研究してたに違いない。それが何なのかは分からへんけどな。」
「ゆかり。ゆかりの実家の電話番号を教えて!」
絵里子はゆかりの実家に電話をかけた。
茜と悟と重武装を積んだレクサスは新潟空港のフェンスを突き破って空港敷地内に入った。
「悟さん、空港のどこへ行けば良いの?」
「うーん、人間2人と武器が積める民間ヘリがあればの話なんだが・・・。」
悟は、ヘリコプターで病院へ戻るアイデアは出したものの、空港にヘリコプターがあるかどうかまでは確認していなかった。地方空港は国際空港と違って、どんな飛行物体でも受け入れられる訳ではない。もっぱら国内線の中距離飛行機しか離発着しないのだ。ヘリコプターがあるかどうかは目視できなければ格納庫を1つ1つ開けて確かめるしかない。茜が滑走路をエプロンに向かって走ると、人が手を振っているのが見えた。
「悟さん、誰かいるよ。」
「何!そんなはずは・・・。」
と、言うなり前を向くと空港警備員が必死に手を振っていた。
「茜!ハンドルを切って突っ走れ!」
と指示したが茜は直進してブレーキを踏んだ。
「HWは無防備な人間を危険にさらすことは出来ないわ。人間を守る義務がある。」
と言って空港警備員の前で停まった。
「誰だ君達は?空港内は立ち入り禁止区域だぞ!それに・・・君達はゾンビではないな。何者だ?」
「あの・・・ヘリコプターを貸して欲しいんです。」
「はあ?空港は3時間前から封鎖中だ。君達は一体何物だ?どこのヘリ会社の人間だ?」
「おっさん!答えとワルサーの弾丸と、どっちが欲しい?」
悟は茜に向けたワルサーP38の銃口を、今度は警備員に向けた。
「うっ・・・テ、テロリストか。こ、この空港は3時間前の九州からの便を最後に封鎖している。空港の管制機能も麻痺して、ヘリだろうと何だろうとテイクオフできる状態じゃない!」
「とにかくヘリの格納庫を教えろおっさん!」
「これこれお若いの。物騒なものを出さんでもよろしい。ワシが話をつけよう。」
会話に入り込んできたのは1人の老人だった。
「これだけAKウィルスが蔓延しとると今ヘリ会社にチャーターを申し込んでもムリじゃろ。カネなら後でワシが払いますよって、ヘリを出してはもらえませんじゃろか?操縦免許ならワシが持っております。」
茜は、自分達と空港警備員との間に仲裁に入ってきた老人を見て言った。
「・・・おじさん、何なの?」
「ふむ・・・白いクルマに乗った若い男女と大量の武器。聞いた通りじゃな。」
「何なんだこのジジイ!」
悟は銃口を老人に向けた。
「新潟第一医科大学附属病院で看護師をしとる娘のお友達からの連絡で急きょ先程の便で宮崎県から来ました坂下(さかした)と申します。ワシを病院までヘリで行かせてもらえるのでしたら、後のことはワシがなんとかします。」
この老人こそ、NICUの看護師坂下ゆかりの父親で元自衛隊医官総合臨床医師の坂下良一(りょういち)であった。
浩二の左足の生体サンプルを取るために検査室に予約を入れた9時30分を過ぎた。が、遼子も友秀もイライラしている。
「・・・浩二のヤツ、一体どこへ行ったのかしらねぇ・・・。友秀、この病院にアイツの行きそうなところって、あるのかしら?」
「さあ・・・。アイツは先生も知っての通り、メカいじりだけでなく何でも興味を示すヤツですから、アイツの行きそうなところと言えば、大がかりな医療機器ぐらいで・・・。」
「だからあたいは悟の引き取り役としてアイツをCT”治療室”に行かせたのよ。あそこはただのCT検査室じゃない。あそこも部外秘と言えば部外秘だから、委任状にはあたいの直筆の署名と押印がないと入れないところなのよ。」
遼子と友秀の後ろから絵里子が話しかけた。
「先生。主人も神父さんも戻ってきてないし、みくるちゃんも玲奈さんもいないんです・・・で、先生、白衣はどうされたのですか?」
遼子はほおづえをついてぼやいた。
「それも分からないのよ。目が覚めたら脱いでここにおいたはずの白衣も名札もない。ったく、どうなってるのかしら。」
3人とも30分ほど考えたが妙案はない。絵里子は2人にある提案をした。
「あの・・・、お2人ともおなかすいてません?非常食しかありませんけど、こうしていても始まりませんし、今のうちに腹ごしらえをしておいた方が・・・。」
「そうだな。先生、そうしましょう。」
「・・・分かったわ。インスタントでいいからコーヒーもお願い。」
絵里子は非常食を3人分持ってきてコーヒーを淹れた。3人はそれぞれ自分の分の非常食を開封して黙ったまま食べていたが、絵里子が友秀に話しかけた。
「カレシさん、お名前は?」
「あ、ああ、今さら申し遅れました。佐藤(さとう)友秀です。斉原先生とは高校時代の同期で、その時からの友人です。で、今いない方のアイツは真島(まじま)浩二。高校の後輩です。ま、韓国のこと以外はアイツにこき使われっぱなしですけどね。」
「3人とも同じ高校だったんですか?だから仲がいいんですね。」
「ま、腐れ縁ってところね。」
「ところで、CT”治療室”って何ですか?私はこの病院の外来しか知らないもので・・・。」
「外来や通常入院で主治医が検査指示を出すCTスキャンが放出する放射線の数倍から数百倍の放射線を出してしつこい水虫やアトピー性皮膚炎のような広範囲な皮膚病を治療する医療機器ですよ。部外秘の扱いになっているのは、装置本体がアメリカ製で、厚生労働省からの認可をまだもらってないからです。一般的に見ても、チェルノブイリ原発や福島第一原発の事故の影響もあって強力な放射線は毛嫌いされていますからね。」
「水虫やアトピーなら最近はいい薬が出回っているのに・・・ですか?そもそも、そんなに強い放射線を浴びたら皮膚ガンや白血病の可能性が・・・。」
「放射線を出す直前に皮膚の炎症の深さをレーザーセンサーでピンポイントで測定して放射線の照射量と照射時間を量子コンピュータで瞬時に計算して水虫菌やアトピーの細胞を焼いてしまうんです。1カ所の照射時間は長くても通常のCTスキャンの大体10分の1です。」
「つまり、ガンの放射線治療みたいなもので、患者が浴びる放射線の総被ばく量は普通のCTスキャンと大して変わらない、と言うことですか?」
「1回の治療でどんな皮膚病でも完全に治すけど、レーザーセンサーの微妙な誤差で健康な皮膚も焼けてしまうから治療前に比べて皮膚が少し黒ずんでしまう。腹を撃たれた男が日焼けしたように見えたのはそのため。厚労省はこれが気に入らないのよ。でもウチの病院は患者や保護者の同意が得られれば保険適用外でこれを使う。だから部外秘扱いなの。なぜこんな明るみに出せないことをやるのかは、あなたには話したわよね。」
「『米軍の軍事研究の1つ』、ですか?」
「政府の偉いさんもひどいものよねぇ。広島と長崎に原爆を落とされ原発事故も起こしているのに陰ではアメリカ言いなりに兵器や原子力を使う未認可の医療機器を買うなんてさ。」
浩二とみくるはガス棟に入って「オクナ!」と書かれたフタのそばに来た。
「このフタの下が地下通路になっている。フタを開けるんで危ねーから少し離れてくれねーか?」
「なんか出てきそうやん!?ウチ怖い。」
「大丈夫だよ!俺と友秀が実際に開けたんだから。何も出てこねーよ!」
浩二はトラックに置いてあったハンマーレンチでフタのナットをゆるめ、天井走行クレーンでフタを吊り上げて横に置いた。フタを開けたのは2度目なので、浩二1人でも手慣れたものだ。フタを開けると階段があった。右側の壁には階段と地下通路を照らす照明のスイッチもある。
「この地下階段を降りた先の通路は病院の外になるらしい。その先は俺もわかんねーけどな。行くぞ!ついてきな。」
「ちょっ、ちょっと!めちゃ怖いから手ぇつないで!離さんといてや!」
「しょうがねーなぁ、はい!」
浩二はみくるの手をつないで階段を降り、地下通路を進んだ。階段は最初の1つだけではなく、通路を50m程進むごとにさらに下の階段へとつながっていた。1時間程通路を進み階段を降りまた通路を進むことを繰り返した後、最下階の長い通路にたどり着いた。かなり遠くにドアが小さく見える。
「おい!なんか変なにおいしねーか?タバコの煙みたいな。でもタバコとは違う。」
しかしみくるはこのにおいを数年前の懐かしい思い出として覚えていた。
「これな、大麻草の煙のにおいや。」
「大麻!?何でそんなこと知ってんだ?」
「高校生ん時な、お酒飲んでふざけてミナミのバイニンから大麻買って吸うてラリってたことあるねん。で、後になって警察にバレて高校停学になってそのまま中退したからよう覚えてるねん。」
「やっぱりアタマもヤラれてたのか・・・。」
「んなこと言わんかてええやんかぁ。大麻はそん時だけやし、今はタバコも吸わへんし、お酒は元々飲めへんし・・・。」
「何度も酒飲んでゲロ吐いてつぶれたことがあるから自分は飲めねーって分かったんだろ!?大体オエーはなんでもかんでも単純すぎるんだよ!何でこんな地下深くに大麻が生えてんだ!?温室栽培でもしねー限りこんなところに草なんか生えねーぞ!」
「うーん、ほな栽培してるんとちゃう?」
「あのな、病院の地下研究室で大麻を栽培してどうするんだよ?大麻の研究でもしてるって言うのかよ!」
「うーん、してるんとちゃう?」
「お前な・・・。」
浩二はみくるの単純さにあきれ果てたがそうこうしているうちに2人は小さく見えていたドアまで来た。
「おい、開けるぞ!ここから先はマジで俺も分からねえ。」
みくるは浩二の後ろに隠れた。浩二がドアのノブに手をかけてドアを開けるとみくるは目を見張った。
「・・・めっちゃ栽培してるやん!」
しかしあてのないまま走り続けていたせいでポルシェのガソリンメーターがE(empty:空)を指しつつあった。
『どこかのスタンドでガソリン入れなくちゃ・・・』
と思いながら走っていると、待っていたかのようにガソリンスタンドが見えてきた。玲奈はポルシェをガソリンスタンドに滑らせ、エンジンを止めた。しかし店員は出てこない。
『・・・セルフスタンドにゾンビ店員が出て来るはずはないわね。拝借じゃなくて完全に泥棒だけど、ハイオクガソリン満タンいただき!』
と、ガソリンノズルを手にとってポルシェの給油口にハイオクガソリンを注いだ。給油が終わってエンジンをかけ、先へ進もうとアクセルを踏んだとたん、ガソリンスタンドのコンクリートがポンっとはじけた。
『何!?』
とブレーキを踏むとさらに3度コンクリートがはじけた。しかも全てが1列にきれいに並んでいる。
『ね、ね、狙われている!』
玲奈の背筋にぞくぞくと戦慄が走った。コンクリートが4回はじけて狙撃が止まったので恐る恐る頭を上げると、1km程先の正面左側のビルの屋上からキラキラと光が差している。鏡のようなもので太陽の光をこちらに向けて当てているようだ。
「ちょっと~~~~もうこんなの、アクション映画だけにしてよ~~~~。ん?」
玲奈は思い直した。
『アクション映画?もしかして、悟にインストールされてたやつ?』
反射光は、一筆書きでハートのマークを描いている。
「もう!悟のバカったら!」
玲奈はポルシェのアクセルを踏んで10分ほど進み、ビルの前で停めた。しかしそこで待っていたのは、大きなサイトスコープを付けた長銃身のアサルトライフルを担いだ、悟より20cmは背の高い男だった。
「オネーサン、ガソリンドロボウ、ヨク、アリマセーン。な~んて!」
「あなた誰?さっきのもあなたなの?」
「Certainly yes!でも、普通に日本語分かるよ!」
「で、あなたは一体何なの?ここで何してるの?」
「ワタシモ、ワカリマセーン!でも・・・。」
「でも?何?」
「識別用に、デイヴィッドとだけイッテオキマース。」
『識別用?』
玲奈は、白のレクサスの中での会話を思い出した。
『このデカい外人もHWなの?そうとしか言いようがない。』
トピック検索 |