ほのか 2018-02-25 17:46:31 |
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「ああ寝たよ。あんたこそよく寝たわね。」
『私、そんなに寝たのかなぁ・・・。』
「まだ少しお疲れの様ですな。そんなに慌てなくてもよろしい。」
さすが神父だ、カレシの冷静さとは違う、穏やかさで包み込むような判断をしている。
「あなたの願いが叶いました。あなたが回復したら、わたくしとあなたの二人であの男性を介抱しましょう。」
『彼のそばにいられるのね。神様、ありがとう。でも・・・え!点滴?私が?』
”女医”
「看護婦さん、あの子のバイタル(血圧)は?」
看護師
「95の58です。」
”女医”
「ラクテック静注を続けて。」
看護師
「はい。」
”女医”
「あんた、今日は何曜日だと思う?」
『確か今日は日曜日・・・。』
女は時計を見た。驚いて二度見した。
「え?え!月曜日の夜10時半!?」
「あんた、飛び出していってから何も食べてないね。貧血起こしてて24時間以上寝てたわ。」
”女医”は看護師の方を向いて
「バイタルが戻ったら、あの子に何か食べさせて。病院の非常食でいいわ。」
看護師
「はい。」
神父は穏やかに苦笑いを浮かべた。
「看病させてくれと言った女性の看病をするとは・・・先生もとんだ災難ですなぁ。」
「医者なんて、こんなものよ。神父さんも寝てないでしょ。点滴はもう少し時間がかかるからそれまで休んだ方がいいわ。看護婦さん、点滴が終わったら非常食を持ってきて。それから神父さんと交代よ。この子の食事は神父さんと摂らせる。」
「分かりました。でもあの人はどうします?」
あの人?女2だ。
「あんた、ここに銀座のシャンパンはないよ。消毒用のアルコールでも飲む気かい?」
女2はつぶやいた。
「先生。あなたもエイズね?」
私は24時間寝ていたと聞いて硬直した。
そのあとの話は耳に入らなかった
24時間以上…24時間以上…
どう考えても異常な数字だろう
私は迷惑をかけたことを悔いた
申し訳ない…
神父さんのお陰で看病出来たって言うのもあるしね…
「女の方、もっとゆっくり、よく噛んで食べて下さい。」
勢いよく非常食をかきこむ女に、神父は穏やかに諭した。
「食べ物もわたくしも、逃げたりはしませんよ、あの男性の介抱をあなたと一緒にするのですから。」
女の手が止まった。
『・・・そう言えば、彼も何も食べていない。』
女は、ばくばくと食べ物を口に入れることしか考えていない自分に気付き、自分が嫌になった。
「おや自己嫌悪ですね。あなたがまだお若く純粋な証拠です。人はですね、みなそうして他人の痛みを知りながら大人になって行くのです。」
「・・・神父さんも、昔はそうだったんですか?」
女は神父に尋ねた。
「もちろんですよ。わたくしも若い頃はもう誰も手がつけられない程の不良少年でした。当時で言う『ツッパリ』です。」
『ツッパリ・・・』
女は、穏やかに話すこの神父が、若い頃はリーゼントに剃り込み・長ランに土管という出で立ちで街を闊歩していたとは、にわかには想像できなかった。
「何で『神父になろう』て、思ったんですか?」
「それはですね・・・。」
神父は目を閉じて一息つくと昔話を始めた。
「私には同い年の幼なじみの女性がいました。しかし当時の私は、地味で控えめな彼女など気にもかけませんでした。」
『へ~ツッパリ男子に地味子か~。なんとなく分かるな~』
「彼女は私を見ても何も言いませんでしたが、当時私がお付き合いしていた、まあ当時で言う『スケバン』からいじめられていて、金銭もゆすられ、悩み抜いたあげく、自ら命を絶ちました。」
『・・・。』
「キリスト教というと誰もが思い浮かべるのが結婚式なのですが、お葬式もありましてね。彼女のお葬式を執り行った神父様から、事実を知らされました。私とお付き合いしていた女性は、私以外の男性ともお付き合いしていた上、ゆすった金銭で違法な薬物にも手を染めてしまい、女子少年院の獄中で死にました。」
「・・・すみませんでした。」
「いえ、良いのですよ。もう済んだ話です。」
神父は聖書に手を置いた。
「この聖書は、その幼なじみの女性が持っていたものです。」
私は見たいという気持ちもあったがそれ以前に怖いという気持ちの方が強かった
「…神父さん。『貴方の為に』って曲知ってますか?」
そう、私がさっき歌っていた歌だ
今、題名を思い出した
何で、おばあちゃんこのうたがすきだったのだろうか?
なんか、裏って言うか闇がありそうで怖いな
「幼なじみからは聖書をもらい、スケバンからはエイズをもらった、てことね。神父。」
「わたくしにできることは、わたくしより先に天に召された2人の女性に代わって、命の尊さを
告げ知らせることだけです。」
「あ、あの・・・神父さん。『貴方の為に』って曲知ってますか?」
女はもう一度尋ねた。
「さあ・・・。わたくしは存じませんが、どのような歌ですかの?」
「恋人達が苦しい思いをしていて、2人とも相手にこれ以上迷惑をかけないようにと女の人は屋根から、男の人は川に身を投げてしまうんです。」
私はその歌の歌詞を思い浮かべながら神父さんに説明した
「その歌は、あなたのおばあさんがそのまたおばあさんから聞いた歌かも知れませんね。戦争を経験された方々は、他人に迷惑をかけまいと、そのようにおっしゃる方が大勢います。しかしですね、人間というものはお互い迷惑をかけあって生きているのです。あなたにもいずれこのことがお分かりになります。」
朝が来た。みんな起きた。寝ているのは女と神父と交代した看護師と女2の3人だ。
「先生。これからどうします?」
カレシが問うた。しかし”女医”も途方に暮れていた。
「アネキ。この病院から出ないと、非常食もそんなには保たないぜ。」
『ん?「非常食もそんなには保たない」って?』
この病院は医科大学の附属病院だ。”女医”たちだけでなく、入院患者も含めたくさんの患者や医療スタッフがまだ残されている。自分達だけで非常食を独占することはできない。
「あたいにはまだやることがある。」
「なんです?先生。」
「あたいは病院に残っている他の診療科目のドクターやスタッフと連絡をとってみる。それに、男の回復もまだかかりそうだしね。」
銃火器を扱えるのは女と女に腹を撃たれた男の2人だけだ。非武装のまま院外へ出るのは危険すぎる。”女医”は、院外から食料や医薬品を調達するためにも銃火器を扱えるあの2人が必要だと考えた。
「先生~ちょっとかまへん?」
女1が横から話しかけた。
「ウチのおっぱい噛んで死んだゾンビ何やけどぉ~。」
「ゾンビがどうしたの?」
「死んだら人間に戻ってた。」
オトコがさらに横やりを入れる。
「元々人間なんだから当たりめぇじゃねーか!大阪のフーゾクはアタマまでヤられてんのか?」
『元々人間・・・。』
”女医”に1つのアイデアがひらめいた。。
迷惑を…かけあう…?
迷惑をかける事は当たり前なのかな?
それとも、本当はだめな事?
迷惑をかけていいというなら、名前だってつけて欲しいし、あの男の人に告白だってしたい
でも、やはり迷惑をかけすぎると嫌われてしまう
それだけは避けたい事態だった
そして、皆が会話する中に気になる単語を一つ見つけた
“非常食“
非常食なら、来る間にいろんなお店があった。
もしかしたら。そこなら…
なんてかんがえてたけどいつの間にか別の話になってたわ
”女医”は病院の内線番号表をパラパラとめくった。日本国内の医科大学附属病院の中でも、”女医”が勤めているこの病院は特に規模が大きい。内線番号だけで1冊の電話帳ができるくらいだ。”女医”は外来受付の内線番号を押した。
「はい、外来受付です。」
「感染症隔離病棟の常駐勤務医よ。診察が終わった外来患者はどうしてるの?」
「はい、警備員室からの連絡で正面入り口を閉鎖しましたので、混乱状態です。」
「分かった。ありがとう。」
”女医”は警備員室の内線番号を押した。
「はい、警備員室です。」
「感染症隔離病棟の常駐勤務医よ。そちらから病院の外の様子が分かる?」
「はい、監視カメラの映像からは、何体かのゾンビがうろついている様です。」
「ゾンビが院内に侵入した形跡はある?」
「いえ、こちらからの遠隔操作で全ての入り口に施錠していますので、院内には侵入されていません。」
「特定の入り口やドアだけ開けることはできるの?」
「ええ、それは可能ですが、今開けるのは危険です。」
「分かったわ。ありがとう。また連絡する。」
受話器を置いた”女医”は女を見て言った。
「あんた、その拳銃であたい達を守る自信はある?ドジふんだら、今度はあんたがゾンビになるよ。」
息を大きく吸って私は言った
「…行けます。絶対に守って見せます例え、私の命が欠けても」
そういってみたものの正直不安も多かった
でも、その反面どこかから沸き上がる勇気もあった
私は、人を守るためならいけると思う
全てはこの世界を救うため
そして、あの人を救うため
愛する、あの人を
私は手に持った拳銃を握りしめた
そして、もう一度
「行けます」
と呟いた
「先生。どうするつもりなんです?」
カレシが尋ねる。
「病院周辺のゾンビを院内におびき寄せて捕獲し、寿命を調べる。」
”女医”が答える。
「ゾンビを病院に入れるって、アネキ、いくらなんでもそりゃムチャだ。この病院に未感染者が何人いると思ってんだい?」
オトコが呆れる。
「優秀な医者のアネキも、エイズにやられたら、もう無茶苦茶だなぁ・・・。」
「いえ、この病院に1カ所だけ、ゾンビを隔離できる場所があるわ!」
そう答えたのは、看護師だ。
「そう。この病院には1カ所だけゾンビを無傷で隔離できる場所がある。」
「でも先生、その病棟の入院患者はどこへ誘導すれば・・・。彼らはせ・・・。」
”女医”が看護師の言葉をさえぎった。
「彼らは未だ偏見の目で見られるけど、服薬と治療を継続すれば全く無害よ。それにこの病院は、警備員室の操作で全てのドアがコントロールできる。ドアでしきって”仮病棟”を作ってそこへ入院患者を誘導し、『ゾンビのVIPルーム』を作る。看護婦さん、この病院全体の間取りは分かる?」
”女医”と看護師の”会議”は2時間に及び、全ての準備が整った。
”女医”は女に言った。
「あんた。拳銃を持ってあたいについてきな!これからあたいとあんたはゾンビをおびき寄せる”エサ”になる。覚悟はいい!?」
「先生と彼女がゾンビのおとりって・・・先生、それなら俺たちが・・・。」
「おいおい。アネキに任せとけって。俺たちより”女の勘”の方が鋭いからよ!で、アネキ。『ゾンビの棺桶』はどこなんだい?」
この問いには看護師が答えた。
「精神科閉鎖病棟よ。」
”女医”は女の肩に手を置いた。
「間違っても、あたいは撃たないでね。」
男sideです
…俺はいつになったら動けるのか。ずっと寝たきりもマズイと思う。
かなり脳や神経も回復してきているし、腕、足だってある程度動かせる。
…起き上がれるか?
「よい…せっと。お、起き上がれるじゃねえか。」
後は、よし、立とう。そう思いベッドから降りようと向きを変える
「ほっ!…なんだ、立ててる。…っとうわぁ!?」
ガッシャーーーン
バランスが崩れて思い切り前に倒れた。すると、前の棚から何かが落ちてきた。
「何だこれ…アルバム…だな。…っ!?」
ペラペラとページをめくった俺は、その中の一つの写真から目が離せなくなった。
「こいつって、お…俺!?」
だってそこには、ボロボロの車と、車にひかれて真っ赤になった幼い頃の俺が写っていたのだから。
「…ちょっ…どういう事だよ!何だよこれ!はぁ!?」
「わかってま…女医さん。男の人の部屋から声がきこえ…何でもないです。わかりました。」
男の人の声が聞こえた気がした
でもきっと空耳だろう。はぁ…
空耳するほどつかれてんのか…
でも、この拳銃を持ってると、死んだ人なんてどうでも良くなる。
前までは死んだ人を見るなんて見るたびに泣いてたのに…
殺すのも簡単になってくる。
殺すなんて嫌なはずなのに…
神様、私は狂ったのですか?
頬にしょっぱい何かが伝った
看護師と神父は、ガラガラというベッドからの物音にビックリして振り向いた。
「ちょっとあなた、目が覚めたからってムチャしないでよ!」
看護師は男をたしなめた。
「ここはあなただけの病院じゃないのよ、もう!」
「あの子は、あの子はどこに?」
「男の方。あの女性は先生と2人で部屋を出られました。」
神父が男を抱えながら答えた。
「先生はわたくしとあの女性にあなたの介抱をする指示を出されましたが、先生に何かお考えがあるようで、女性を連れて行かれました。わたくしと看護婦さんの2人じゃ不満ですかの?」
「え?あ、いや、その・・・。」
「あの子なら大丈夫よ。じきに戻ってくるわ。」
看護師は医療器具や資料の散らかった部屋を片付けながら答えた。
「好きなんでしょ、彼女が。」
看護師はにこにこと意地悪そうにからかった。
「顔に出てるわよ。」
神父ににこにことほほえんでいる。
「聖バレンタイン祭司もきっとあなた方のように愛し合いながらも離れなければならない若い男女のために、こっそり結婚式を挙げていたんでしょうな。でもあの女性は先生とご一緒ですから、必ず戻ってきますよ。」
「何なんそれ?チョコあげるのとちゃうのん?」
片付けを手伝いに来た女1が問う。
「聖バレンタイン祭司様は、古代のローマ帝国時代、結婚を禁じられた兵士とその恋人のために皇帝アウグストに秘密で結婚式を執り行ったカトリックの祭司であられましてね、バレンタインデーはその祭司様の命日なのです。」
と神父は朗らかに答えた。
「看護婦さん、俺たちも手伝いますよ。」
「力仕事なら俺たちに任せなって。」
看護師は”恋人同士”のオトコとカレシの手伝いの申し出に感謝した。看護師は、”女医”のいない今のこの病棟では中心になるしかなかったが、事実上は全員の自発的な協力に頼るしかなかった。
「おい!銀座のお嬢さんも手伝えよ!」
オトコがぶっきらぼうに協力を要請した。が、女2にはその気はないようだ。
「あたし今忙しいの。」
女2は病院の間取り図をにらんでいた。
>57様(中西 ぴこら様)
あ、これ塩か。(・о・)いや死ぬなー!
「先生、バズーカーとナイフも持っていいですか?少し不安で…」
ゾンビを倒すなんて普通は異常な事なんだろうけど私達、この世界にとっては日常茶飯事。
別に可笑しくもない。
男の人の病室賑やかだな…
私の両親は事故で男の子を引いてしまったらしい。
それを避けようとしたせいで車もぐちゃぐちゃになってしまったのだった。
そして両親は亡くなった。
私はおばあちゃんの家に預かってもらってたから生きていた。
そのあと従姉妹の家に引き取ってもらって一人暮らしを始めた。
珍しいことに私が通う大学は制服。
それなりに楽しく過ごしていた。
「あんた」
女はまたしてもびくっとした。これで3度目だ。”女医”の男声には毎回驚かされ、その度に背骨がピンと伸びる。
「あたいは今何を持っていると思う?」
女は考えた。
『「何を持ってる?」って・・・そりゃあ医者なんだから医師免許は当然持ってるし、30代半ば位だから車の免許も持ってるはず。ベンツとかポルシェとか、高級な外車も持ってるかなぁ。一戸建てとかマンションも持ってるかも?お金はあって当然よね。後は・・・えーっと・・・彼氏!・・・は・・・いるのかなぁ。』
”女医”は女の前で両手を開いた。
「何も持ってないわ。」
『・・・。』
「ま、正確に言うと、白衣の他はこの院内PHSと名札の裏側の医療スタッフ認証用ICカード1枚だけよ。これはロックされたドアを開ける時に必要なの。便利な世の中になったわよねぇ、これ1枚で勤務時間中何もかも管理できるんだから。」
”女医”は続ける。
「お金や名誉はあればあるほど欲しくなるとか虚しいとか、アンタの年頃なら1度くらい聞いたことがあるわよね。武器も同じよ。持てば持つほど不安になってもっと持ちたくなる。」
女はきょとんとなった。
「『護身術』を習っても肝心な時に役に立たないのは、『本当に大事なもの』を忘れているからよ。第一、あんた1人でそんなにたくさん武装できるの?カレシ側の男が言ってたけど、あのバズーカ砲、男の体で担いでも相当重いらしいよ。アメリカ製の最新型だって言ってたわ。何で日本にあるのか知らないけど。」
「・・・でも、先生は私に銃を持たせたじゃないですか!」
「それは『保険』。ここは病院よ。あわてて発砲して他の患者に弾丸が当たったら誰が責任を取るの?あたいの指示なしにはいかなる発砲も絶対に認めないし、そもそもあんたにそれを使わせるつもりもない。分かった?行くわよ。」
”女医”と女の2人は37番職員用出入り口に向かって歩いた。40分ぐらい歩いただろうか。医科大学附属病院といえども、こんなに大規模な病院は日本には滅多にない。看護師の子供がいる産科NICUを避けながら精神科閉鎖病棟へゾンビをおびき寄せるには、この出入り口しかなかった。
女は”女医”の言葉が気になった。しかし今は”女医”を信じて付いていくしかない。
『「本当に大事なもの」って・・・。』
私、この空間から離れたくない。
他に邪魔な人がいない世界。
好きな人しかいない世界。
この世界に依存してしまいそう。
きっとあと7日位経てば私は狂う。
なぜかわからないけど分かる。
でも大丈夫いざとなったら女医さんか男の人が私を殺してくれる。
だから、安心出来た
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