ねねこ 2018-02-01 14:56:31 |
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(こつり、こつり。螺旋を描く階段は長く長く代わり映えしない。下り始めた頃には轟々と照らしていた灯りも小さくなり、心許なく揺らめいてもうすぐ消えてしまいそうになる。代わりになるものなんて持っているはずもない。持っているものは手提げの洋燈の他には何もなく、辛うじて服を纏っているだけだった。もはや無心で下り続けている理由を私は思い出すことが出来ないが、気づいた時から下へ下へと向かっているのだから私の行き先は其処に違いない。思考はとっくの昔に放棄した。螺旋階段の一番下に辿り付いたのは一体どれだけの時が経ってからか。たった三十分のことであったかもしれないし、もう一日経ったかもしれない、もしかしたら百年下り続けていたのかもしれない。階段を降り続けた先にあったのは重く冷たそうな鉄の扉。丁度私が通れるほどの大きさで、問題なく開閉すると知れば躊躇うことなく飛び込んだ。中には空っぽの棺がひとつ。ふっと火が吹き消えて、辺りを闇が覆う。――ああ、扉の先は私が安らかに眠るためのモルグであった。)
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