リルン 2018-01-22 22:08:36 |
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ネガティブ思考症シリーズ 第一弾「ネガティブ思考症」
この世界は残酷だ。何回も何回も思ったこと。このようにしか、考えられない私。そう、これがネガティブ思考症。貴方達の世界で言えば、「鬱病」に近いだろう。でも、この病は多分それよりも、もっと酷い。ネガティブ思考すると同時に、世界はそれと同じようになり、思考者をもっとそう思わせる……という感じだ。
そんな訳で今、私は隔離病棟にいる。酷いことだ。口を塞がれ、何も言えないようにされ、身体も紐で縛られ、身動きが取れない。病室は白い所が黒ずんでいて汚かった。看護が来るのは、一年に一回ぐらい。だけど、どの人も私を見ようとしなかった。さっさと仕事を済ませて、そそくさ出ていく。
「……」
何も言えない。病室は物凄く静かだ。
「……っ……」
涙が滲み出てきた。枯れていたはずの涙は、まだまだ出てくるらしい。こういう時は寝るのが一番だ。私は動けないまま、そっと目を閉じる。
十分寝て、目が覚める。いつもの部屋だった。でも、身体の縛りが無くなっていた。
「!!」
自由に動かせた。さらに、口の塞ぎも消えていた。
「……何がどうなってる……?」
いきなりの不幸からの脱出に戸惑う私。
「……大丈夫……?」
「!?」
私以外の声に振り向く。そこには一人の女性。
「縛られていたからね。さすがに酷すぎるもの」
「…………」
私はじっと女性を見つめる。
「私は此処の看護師なの。……まぁ、見習いだけどね」
「……看護師……」
「そう。……で、新たに私が貴方の担当になったの。でも……まさか、こんなに酷い処置されていたなんて……」
看護師の女性は明らかに悲し気な顔で私を見る。
「……知ってる? 私の病名――――」
「ネガティブ思考症……でしょ?」
「!!」
「私の世界で言うと、鬱病。でもこの世界には、もっと酷い病があるんだね……」
「……貴方は何者?」
「……私は、異世界から来た看護師。この世界のことは詳しいよ」
「……この世界は――」
「〝残酷だ〟でしょ? 今は言わないで。言っていい時は、どうしようもなくなった時。その時に言えば、きっと世界は変わる。貴方をこんな思いにさせるこの世界は確かに残酷だよ……。でも私はね、この世界はその為だけに作られた訳じゃないと思うの」
残酷な状況を作り出すためだけの世界ではない……ということなのか? 私にはよく分からなかった。でも何故か心が楽になった気がした。
「……。私、貴方みたいな人と出会ったの、初めて」
私をこんな気持ちにさせたのは……この女性が初めてだった。今まで家族だった人にも周りの人達にも軽蔑され続けた。だから優しくされるのに慣れていなかった。これが……嬉しいって気持ち。これがきっと安心という感情。するとふと、
「……私はキラル。貴方は?」
名前を聞かれた。そういえば、私に名前なんてあったっけ……。いや、ない。私は名前という存在を知らずに今まで生きてきたから……。
「…………」
「……ん? どうしたの?」
キラルに聞かれ、はっと我に返る。慌てて回答を考える。そして思いついた。
「……私、名前ない。だから、キラル。貴方が私の名前、付けるの」
そう言うと、キラルは目を見開く。
「え……! いいの……? こんな私なんかで……」
コクリ。私は頷く。
「んー……。何がいいかな……」
私の名前を考えるキラル。
「……。 トキ……なんてどう?」
そう提案される。自分に言い聞かせるように呟いてみる。
「……トキ。……私はトキ……」
その様子に、
「え……!? 嫌だった?」
そう言って、キラルは慌てる。
「……いい。トキでいいよ」
そう、私は告げる。
「良かった……。じゃあ、今日から貴方はトキだよ」
キラルはにこっと笑った。私はその笑顔が輝いて見えた。気がした。
気付くと、朝。もうキラルはいなかった。いつの間に寝てしまったんだろう。でも、キラルは来ない。そう、もう来ないのだ。
「!!」
ネガティブ思考をしてしまった。これでもう本当の本当にキラルは来ない。
「……キラル。短い間だったけど、ありがとう。でも、もう貴方とは会えない。……いい? 言っても。言って、世界は変わるのかな? ……ねぇ、キラル」
独りで呟く。無機質で汚い病室は空しく私の声を響かせる。結局私は、独りなのだ。どうあがいても、この運命は変えられない。……そんな世界はこれっぽちも…………
いらない――――――
「この世界は残酷だ……!!」
変わりゆく世界。意識も遠ざかる。それでも私はキラルの言う、世界変化が起きることを祈った――……
目が覚めると、そこは部屋。真っ白で何にもない。そこに一人、女性が立っていた。女性は誰かを待っているようだった。
「 !」
私は知るはずもない女性の名前を呼ぶ。振り向いた女性は、前に見たことがあるにこっと笑い、私を見て言った。
「――――――トキ!」
世界は変わった。別世界に。そこは、ある女性がいた世界。私が前の世界で出会った女性。今度こそ、幸せになれるのかもしれない。ようやく……やっと……。
…………
………………
「 。トキ――――」
「 ――――――」
『この世界は――残酷だっ!!』
「――――――――」
トキが幸せになったことで、新たなネガティブ思考者。その者によって、世界は再び変えられた――。
―続―
※これは小説家になろうにて、リルンという名で投稿してるものです。
決して奪ったものではないので安心して下さい。あたしのオリジナル小説です。
ネガティブ思考症シリーズ 第二弾「ネガティブ思考と新たな世界」
この世界は残酷だ。何回も何回も思ったこと。このようにしか考えられない新たな病。そう、これがネガティブ思考症。貴方達の世界で言えば、「鬱病」に近いだろう。でも、この病はそれよりもっと酷い値になる。ネガティブ思考すると同時に、世界はその思いと同じようになり、思考者をもっとそう思わせる。新たに分かったこと、それは先程も言った〝この世界は残酷だ〟という言葉を言うことで、今の世界が壊れ、新たな世界が作られることだ。何故、そんなに知っているかって? それはかつて私も、ネガティブ思考者だったため――――……
新たなネガティブ思考者によって、世界は変えられた。目が覚めると、そこは公園。
「 は何処に行ったのだろう……」
私はまた、知るはずもない女性を探す。
「トキ、人探しかい?」
背後から声を掛けられ、振り向くとそこには――――
「……!!」
私の目の前であの言葉を言った人が気味悪い笑みを浮かべ、立っていた。
「そう、僕が新たなネガティブ思考者。……て言っても、ネガティブ思考はあまりしないけどね」
「……どういうこと?」
「正確に言うと、能力を使えるってことだよ。ネガティブ思考症の能力がね」
「え……」
能力が使える……? いや、実際にネガティブ思考症にかかっていないと、使えないのでは……? この人は一体何者なんだ……?
「……僕は能力者。 どんな能力も使える者だよ」
「……。 は何処にいるの?」
私はまたもや、知らない名を呟く。
「トキ、まだその女を探してる訳? 名しか知らぬ女性を」
「……だって、私の名付け親だから」
私は前の前の世界にいた頃、ネガティブ思考症で隔離病棟にいた。身体と口の自由を奪われ、縛られる毎日。そんな時、一人の看護師と出会う。その女性は異世界から来て、今はある理由でこの世界で見習い看護師として、滞在しているのだと言う。
「ネガティブ思考症……。私の世界で言う、鬱病よね」
そう、彼女は言って私を見た。
「……この世界は――」
「〝残酷だ〟でしょ? 今は言わないで。……貴方をこんな思いにさせる世界は確かに残酷だよ……。でも私はね、この世界はその為だけに作られた訳じゃないと思うの」
彼女はとても前向きだった。異世界から来た彼女ですらも、この世界を残酷だと言ってくれた。私はこの人となら、幸せになれるんじゃないかと思った。
「……私は 。貴方は?」
名を名乗った彼女。でも私には名がなかった。
「……。トキ……なんてどう?」
私は嬉しかった。私を必要としてくれる人がいて、その人に名前を付けてもらえることが。
「今日から貴方はトキだよ」
彼女はキラキラ笑顔を出す。私も彼女みたいに笑えたらいいのに……。
「彼女の名は分かる。……そう、キラル。でも顔が分からない。前の世界では、自然に彼女だと分かった。でも、貴方に変えられた世界では、何故か顔が出なかった。分かるのは笑った顔と名前だけ……」
私は彼に今までのことを話した。
「なるほどね。それでそこまであの女を。でも、残念。彼女はもうこの世界にいないよ」
「!?」
「彼女は、僕の世界変化によって、自分の世界を壊され、死んだ……」
「!! ……キラル……」
「もう会えないことを悔やむことだな。……これからは僕が君の傍にいるよ」
彼は私に手を伸ばす。だけど私は手を払う。
「……ふざけないで……。やっと……やっと幸せになれると思ったのに……。やっとこの病が治ると思ったのに……!!」
「トキ、まさか――――」
「さよなら。お前なんか消えればいいのに……。どうせお前は消える」
「!! やめ…………ろ……」
「キラルを私から奪ったこと、後悔することよ……。もう私には何も残ってない……から……」
そう言って、私は一人の能力者を消した。
『彼女は死んだ……』
そう、能力者は告げた。私の精神は壊れかけていた。
「もう……あの言葉言ってもキラルはもう戻ってこない……。……死んだ方が会えるのかな……キラル」
私はこの世界に絶望を感じた。
この世界は残酷だ。何回も何回も思い続けた。私の病は悪化した。もはやこの世界を信じられなくなっている。あの後、私はもう一度、あの言葉を言ってみた。でもやっぱり何処にもキラルはいなくて……。この世界の存在意味が分からない。先が真っ黒。何も見えない。
「どうせキラルは来る……どうせ来る……」
ネガティブ思考して、祈る私。
……どうか……来て……キラル……
時間はどんどん過ぎていく。いくら待っても、キラルは来ない。
「……キラル……。貴方は本当に死んじゃったの……?」
それでも待ち続けた。すると、
「……ごめん……トキ……」
声が聞こえた。 懐かしい声……。
「……キラル?」
「……そうだよ、トキ」
私は振り向く。涙いっぱいに溜めた目を思いっきり開く。記憶が思い出されていく――――……。
「トキ……ごめんね。置いて行って……」
なんでこんなに悲しいのだろう。許したい気持ちでいっぱいなのに、私は――
「何で……置いて行った……?」
……こんなにも、怒りがあるのだろう。いや、これは怒りじゃない……。悲しいんだ。辛いんだ。
「……っ。私だって貴方を置いて行きたくなかった……! でも……」
「あの能力者によって、殺された……そうでしょ……?」
「……。ごめんね、トキ……ごめん……」
キラルは泣き崩れた。
「……ごめん、キラル。怒るつもりじゃなかった……」
「分かってるよ……。貴方は一人で、辛かったんだよね……寂しかったんだよね……」
「……うん」
「ごめん……寂しい思いさせて……」
「……もう、何処にも行かない……?」
馬鹿だ。キラルはもう死んでいてこの世界に、長くはいられないのに。傍にいてほしいだなんて……。
「……うん、いるよ。貴方が私のことを忘れない限り、私は貴方の傍にいるよ」
「……キラル……貴方のことは絶対に忘れない……。一生忘れない……!!」
私は泣いた。病になってから初めて泣いた気がした。でも……なんで……こんなにも涙が出るんだろう……。こんなにも……温かい涙。
「……嬉しいよ。貴方にそう言ってもらえて。……ありがとう」
キラルが輝きだす。もういられないらしい。
「……キラル!」
「……トキ?」
「貴方のこと、愛してるから……! ……誰よりも」
「!! ……私も愛してる、トキ。誰よりも貴方を……」
「……うん。ありがとう」
「……さよなら、トキ……」
輝きがさらに増す――――――――……
目が覚めるとそこは、誰かの部屋。起き上がろうとすると、急に痛みが走る。つい、目を閉じると
「あ、気が付いた?」
声が聞こえた。そっと目を開ける。
「あまり無理しない方がいいよ」
「……え?」
「君、そこの近くで気を失ってたんだよ」
看護してくれた人の言葉を聞き、私ははっと思い出す。キラルが消えゆく中、さらに増す光が眩しすぎて、気を失ったんだ……。でも……もう、キラルはいない。今度こそ、ネガティブ思考して祈っても、来ない……。
「……っ。うぅ……」
私は涙を流した。流し出すと、止まらなかった。どんどん流れる涙……。
「……辛かったんだね……。悲しかったよね……」
看護の人がかける言葉は、あまりにも温かくて……キラルと重なった。
『でも、もう大丈夫。私がいるから……』
なんて優しい言葉……。温かい……。
「……うん」
ありがとう……キラル。
「落ち着いた?」
そう、看護の人は声を掛ける。
「ありがとうございました。……なんかすみません……」
「いや、いいよ。君も辛い思い、したんでしょ……? きっと大事な人を失ったんだな……って思ったよ……」
「!? ……どう……して……」
「……かつて、私もそうだったからさ。君を見て、昔の私を思い出したよ。私も、ネガティブ思考症だったの。今は違うけどね……」
「……そうだったんですか……」
「……私も大事な人がいたの。私の病など気にせずに、私と仲良くしてくれた。でも……」
「い、いいです。もう分かりますから」
「……うん。……ねぇ、私と友達にならない?」
「え……?」
「君の役に立ちたいの。今度は私が誰かの為に働く番。それできっと……あの人への恩返しになると思うの。それに……君の傍にいたいしね」
私はつい目を見開く。嬉しかった。
「……私も、大事な人への恩返しをしたい。そして、貴方へお礼がしたい。だから……私は、貴方の傍にいる」
「……! ありがとう……えっと……」
「私はトキ。貴方は?」
「私は……アミン。トキ、ありがとう」
「ううん、アミンこそ……。こんな私を救ってくれてありがとう」
「お互い様だよ。それより、トキはこれまで何回、世界を変えてきた?」
「2回ぐらい……。いや、もっとあるかもしれないけど、私、昔の記憶がなくて……」
「……そっか。私は10~11回は世界を変えてるよ……」
「……そんなに……」
「うん。私は5歳の時から、ネガティブ思考症で、能力も十分、使えたの。私の両親が、私を愛してくれる親に変わるまで、世界を変え続けた」
「……アミン……」
「でも、両親は完全には変わることなく死んだ。最後に言ったこと……それは〝本当は愛していた〟という後悔の言葉だった。私はそれを聞いた時、自分は何ということしたのだろうと、自分を責めたよ。そんな時、私はあの人と出会った。そう、大切な人。彼女は私を見つけて、〝そんなに責めないで……。貴方はきっと悪くない〟って言ってくれたの。私は今度こそ、失わないようにしようと思ったんだけど……」
「……誰かの世界変化に、彼女は巻き込まれた……?」
「……! どうしてそれを……?」
「……実は、私の大切な人もそうだった。私の場合は、ある能力者によって……だけど……」
「……そっか……」
アミンはこれ以上、聞いてこなかった。お互い、辛いことを経験してきたのだと、分かったからだ。
「……アミン、どうやってネガティブ思考症を治したの?」
「あぁ、それは分からないんだ……。自分でポジティブに考えようとして、しばらくしたら、いつの間にか治ってたんだ……」
「そんな早くに!! ……でも、私はアミンより強くない。しかも、大切な人は、最近死んじゃったし……」
そう、アミンの大切な人はきっとかなり前に……だろう。でも、私の大切な人……キラルはついさっき、消えていった。そう簡単に明るくなれなかった。
アミンと会って、数年は経つ。私は未だに、キラルの死を受け入れられなかった。アミンは私に
「最初はそういう物だよ。時間かけてゆっくり落ち着かせたらいいよ」
と言ってくれた。このまま、アミンと過ごせばキラルの死を受け入れていけるのだろうか……。でも、アミンといると、辛さを忘れられることは、事実だ。
「……トキ? どうしたの……?」
と、アミンは心配そうに尋ねた。
「あ、ううん。何でもないよ。ちょっと考え事してただけ……」
「……そっか。あ、そういえば今日は、この世界に来て半年……だったのよね?」
「あ、そういえばそうだったね」
「同じく。私と会った日でもあるけど……」
「そうだね……。あの時は本当、この世界に絶望を感じてたなー……」
「トキにとっては、大切な人を失った日でもあるからね……」
「うん。でも、アミンに会えたから……この悲しみは楽になった。まだ悲しみは残るけど……それでも、もう生きていく理由、見つけたから」
「……強くなったね、トキ」
「へ?」
「あの時のトキとは、大違いの強さだよ。もう、私より強いよ」
「それはないよ……。私はまだまだ弱い。でもいつか、大切な人やアミンみたいに、強くなりたいと思ってるよ」
「……そっか。トキ、これからも、一緒に歩いて行こうね」
「あ……」
私はキラルとの最後の別れの言葉を思い出す。
『……うん、いるよ。貴方が私のことを忘れない限り、私は貴方の傍にいるよ』
キラルの言葉はいつも温かった。アミンの言葉はキラルの言葉と同じくらいに温かくて、私はドキドキしながら精一杯の笑顔で――
「うん」
こう、アミンに告げた――――――……。
―続―
※これは小説家になろうにて、リルンという名で投稿してるものです。
決して奪ったものではないので安心して下さい。あたしのオリジナル小説です。
ネガティブ思考症シリーズ 第三弾「ネガティブ思考と新たな試練」
この世界は残酷だ。何回も何回もそう思い、このようにしか考えられない原因不明の病。そう、これがネガティブ思考症。貴方達の世界で言えば、「鬱病」に近いだろう。でもこの病はそれよりもっと酷い値になる。ネガティブ思考すると同時に、世界はその思いと同じようになり、思考者ををもっとそう思わせるという恐ろしい病気だ。さらに先程言った、〝この世界は残酷だ〟という言葉を使うことで、今の世界が崩れ、新しい世界へと舞台が変わることも最近分かった。世界変化する際の影響はほぼないが、時に何人かが世界変化に巻き込まれ、死に至ったケースもある。実を言うと、私の大切な人もその一人。変化に巻き込まれ、死んでしまったのだ。影響はもう一つある。それは、世界変化を起こす度に、記憶の一部がなくなること。私も大切な人の顔・姿を忘れてしまって、分からなくなったからだ。何故、そんなに知ってるかって? ……それは私もその病の患者だったから――……
私はついに、永遠にいようと誓う仲間が出来た。名前はアミン。彼女は、両親からの愛を求め、世界変化を起こしたのだと言う。しかし、両親の愛は本物で、〝愛したかった〟という気持ちだったことを知り、後悔で心が埋め尽くされたのだと……。事情は違えど、ネガティブ思考症には間違いない。私は、この人となら〝今度こそ〟一緒に歩いていける気がした。彼女との約束……守ると誓った。だって、彼女の傍にいたいから。
ある日、私はアミンがいる所に行こうと歩いていると、
「…………て分かったの……!」
アミンの声が聞こえた。先客がいるようだ。
「貴方のオーラよ。貴方のオーラは他の人と違うからね」
と、知らぬ女性の声。
「またオーラって……。だから何? オーラって……」
「簡単に言うと、個人の雰囲気だよ。雰囲気が風や空気によって、流れてくるの。……これで分かるかしら?」
「つまり、貴方はアミンのそのオーラを感じ取って、此処に来た訳ね」
「! トキ……」
「……初めまして。あたしはメフィー。ネガティブ思考症の謎を調べてるの」
「……私はトキ。メフィー、何故アミンを追う?」
「あたしは、思考者を探してた。けど、どうもアミンは他の思考者と違ってね」
「ただ単にオーラが違うだけじゃない……」
と、アミンは溜め息つきながら言った。
「貴方はただ、オーラの特別なアミンを実験台として使いたいだけでしょ?」
「!?」
「トキ……?」
「アミン。オーラが他の思考者と違うことは、かなり珍しくてそれは専門家も能力者も注目しているの。そして、実験台にしたがってる」
「……トキ、貴方はなかなか鋭いわね。その通りよ。私は専門家。ネガティブ思考症にも、様々な発病方法があるらしく、それを調べているの。調べてたら、アミンのオーラを感じて、今までと違うって思ったの。それからあたしはアミンを追うようになったの」
「……私のオーラ……」
「今日はこれで引き上げてあげる。でも、また来るから」
そう言うと、メフィーは部屋を出て行った。
「……アミン。メフィーって……」
「……メフィーは、珍しい物に特に興味があって、見つけると自分の物にするまで追うの。しつこくて……」
困り果てたようにアミンは苦笑いした。
「……て、私とアミン、オーラ違うのは分かるけど、アミンのオーラはそんなに特別?」
「……特別らしいよ。私は全然分からないけど。周囲も、よく私の方へ視線を向けるし……やっぱり特別?」
アミンは苦笑いした。私はどうもそうは思えなかった。オーラが特別だったとしても、所詮、人間は人間だ。他の人と何も変わらない。
「貴方は普通だよ。特別じゃない。オーラが他の人と違っても、人間には変わりない。だからアミンは、他の人と同じ。私と同じなんだ……」
「……トキ……。そうだね」
アミンはようやく笑顔を見せてくれた。私はその様子にほっとした。
数日後、私はアミンの部屋に行くと、アミンがいなかった。
「あれ? 何処行ったのかな……?」
アミンを探すことに。しかし、何処見てもアミンの姿はなかった。ある場所を横切ろうとすると、異常な臭いが充満していた。
「! 何、この臭い……」
その臭いの方へ行くと、そこには……
「……! アミン!!」
アミンが倒れていた。
「アミン! しっかりして……!」
アミンの意識はある。生きていることに少しほっとするが、危険な状態であることには変わりない。
「……とりあえず、此処から出ないと……」
すると、ガタンと物音がした。後ろを見ると、外の光がなくなっていた。
「え……」
出口が塞がれ、私達は閉じ込められてしまったようだ。……それにしても、此処は臭いが酷い。私の体調も悪くなってきていることが分かった。
「う……早く……出ないと……アミンが死んじゃう……」
私は必死にもがく。が、敵わず、ついに気を失ってしまう。
『これで二人は確保した。ふふ、実験が楽しみだわ』――――――……
此処は何処だろう? ほわほわとして、何だか気持ちのいい所だ……。ん? ほわほわ?
「……ん」
目を覚ますとそこは巨大なビーカーの中のようだ。
「! ビーカー!? ……てか、アミンは……」
アミンは向かいのビーカーの中にいた。目を閉じていた。裸にさせられていた。まだ意識は戻ってないようだ。
『やっと目が覚めた?』
ある声に、私は反応する。
『貴方達を悪くするつもりはないわ。……大人しくしていればね』
「……メフィー……」
『数日ぶりね、トキ』
「でも、貴方が必要なのはアミンだけじゃ……」
『前まではそうだった。でも、気が変わったの。貴方も連れて行こうってね』
「……実験台にされるんですか」
『そんなことしないわよ。でも、あたしの研究に手伝ってもらうけどね』
「……っ。私達を実験台にしないでっ!」
『……悪くはしないわ。大人しくしていれば』
「……此処から出して……」
アミンが意識を取り戻し、メフィーを睨んだ。
「! アミン……」
「トキ、此処から出るよ!」
「え……? どうやって?」
「こうやって……さ!!」
アミンは持っていたナイフをビーカーにぶつけ、割った。
「! 私も!」
偶然持っていたナイフをぶつけ、割った。アミンは素早く服を着る。
「逃げよう!!」
「うん……!」
アミンは私の手を引いて走る。
「……待ちな」
威圧のある声に私達はギョッとし、止まった。
「あたしに逆らうとは、いい度胸してるわね……あんた達」
口調が変わり、より追い詰められる。
「……あんた達が逆らう気なら、仕方ない……。トキ、アミン。あんた達には死んでもらう」
「!」
怯えるアミン。でも、私はじっとメフィーを見た。私はいつも、人間に裏切られてきた。……これで何度目だろうか? 言葉によって人を傷付けるのは。
「……どうせメフィーは死ぬ。どうせ死ぬ……」
そう、ネガティブ思考した。
「……! トキ……?」
「!? やめ……ろ…………」
メフィーが苦しみだす。
「貴方はとんだミスをした。ネガティブ思考者に何かすると、命の危機が迫るんだよ……」
「……え?」
メフィーは驚く。まだこのことを知らなかったようだ。
「ネガティブ思考者はネガティブ思考すると、それ通りになり思考者をもっとそう思わせる、そうでしょ? でも、その力を使って、人を傷付けたり、消したり死なせたりも出来る」
「……っ。あたしは簡単なことを、見落としたんだ……。馬鹿だよね、あたしは」
メフィーの瞳は、どんどん光を失せていく。もう死が近いようだ。
「……。どうせメフィーは死なない」
アミンを助けるため、自分の身を守るため、私はメフィーを殺すと決めた。なのに、何故か殺せず、言葉によって人を助けた。
「……どうして……?」
メフィーは目を見開いて尋ねる。
「……殺したくないから」
「え……?」
「私達の病、ネガティブ思考症について分かってること言う。だから、もうこれ以上私達に迫らないと約束して」
「……観察は?」
「……それは、アミンの許可が出れば、良しとする。勝手にするのは、許さない」
「……そっか。でもいい」
「?」
「あたしはあたしの力で調べるから。それでこそ、研究は面白いの」
「……とにかく、今回は貴方を見逃す。でも次はないよ」
「……ありがと……」
「メフィー。私を見るぐらいなら、見てくれていいよ。でも、今回みたいにしたら、もう許さないから……」
アミンは真っ直ぐ、メフィーを見る。
「……あたしは、あんた達の病を治す方法を考えることにする。アミンみたいにポジティブに考える以外の方法をね……」
「……メフィー。そうしてもらえると助かるよ」
そう言って、私とアミンはメフィーの研究所を後にした。
「……あんな思考者、初めてだ……。でも、まあまあ楽しめた。今後はあの二人を見守ることにしよう。……あたしの研究目的として」
メフィーは研究室に落ちている残骸を拾う。ビーカーが割れ、液体が出ている。もう、この部屋は持ちそうにない。メフィーが後にした研究室は爆発し、跡形もなく消えた。
私達は無言で歩いていた。私はアミンの手を取り、早歩きする。
「……トキ……?」
「!」
急な呼び掛けに、私は驚いた。
「……トキ、何でメフィーにそんなチャンスを与えたの……?」
「……アミン、私は信じたくなったんだ。人は、ネガティブ思考者を閉じ込める人ばっかではないことを」
「え……」
「……私の周りにいた人は皆、私を閉じ込めた。そこは隔離病棟。口と身体……全身を縛られ、身動きも取れなかった。でも、ある人が現れてから私の人生は変わったの。それの影響でもあるかなー……。メフィーの最期の嘆き……ではないけどさ、〝馬鹿だよね、あたしは〟という言葉を聞いて、私の心の何かが動いた気がするの。それで〝殺してやる〟が〝殺したくない〟に変わって……それで、メフィーにチャンスを与えたの」
私は昔のことを思い出す。隔離病棟に入れられ、全身を縛り付けられた絶望の日々。一人の人によって、その運命は崩れ、人生に光が差した。しかし、あっけなく世界変化によりいなくなってしまった。能力者によって。私の精神は壊れ、能力者を殺した。でもあの時……メフィーの時は、〝殺してやる〟という気持ちの何処かに〝もう誰も傷付けたくない〟という物があった。きっと、キラルやアミンの影響だろう。頭の中で……心の中でキラルが悲しんでいるように思えた。それで私はきっと……。
「……トキの言う、〝あの人〟はそれ程大きな存在だったんだ……」
「うん。当時あの人が来た時、他の看護師と同じように、そそくさ帰るだろうと思った。でも、起きた時、異変を感じたの。身体・口の縛りが無くなっていたの。……驚いたわ。その人がこう言ったの。〝大丈夫……? 縛られていたからね。さすがに酷すぎるもの〟……これがあの人との初めての会話。その人は当時、名の無かった私に名前を付けてくれた……」
私の目から溢れる涙……。アミンは近寄って私の涙を手で拭いてくれた。そして優しく――――……
「貴方の名前はトキだよ……」
私に改めて名前を付けた。そう、私はトキ、最初に好きになった人……キラルによって付けられた名前。生きている証を作ってくれた人。そして改めて私は、それを付けられた。アミンによって。アミンに拭かれても、涙は止まらなかった。悲しくなんかない。絶望の涙じゃない。悲しみはあるかもしれないけど、これは嬉し涙だ。そう思わせる程、今流れている涙が温かった。アミンがずっと私の傍にいてくれた。私の服に一滴、別の涙――アミンの涙。アミンが泣いている。アミンの辛い過去を詳しく聞きたいと思う自分がいた。でも、きっとそれは今知るべきではないと私は思った。私とアミンはしばらく泣いた。二人で悲しみではない何かを感じながら――――――……
―続―
※これは小説家になろうにて、リルンという名で投稿してるものです。
決して奪ったものではないので安心して下さい。あたしのオリジナル小説です。
うーん(´-ω-`)
現実的に言うと主人公の子がこの世界は残酷だって言ったことでその子は現状よくなったかもしれないけど、その子の変わりに誰かが苦しんでいると思うな〜
この世界は残酷だって言う前に自分を変えた方がいいと思う。
春菜さん
この主人公のネガティブ思考はあたしのものを参考にしたものなので…w
そうなってしまってるかもですね…w
まぁ…ネガティブ思考症の病状がこれですからね……
かなりの人に迷惑はかかってるでしょうね…w
今回は主人公目線なので、周りの人のリアクションはあまり取り入れてませんが
実際は悲鳴でいっぱいだと思いますね…w
霧雨
もう読んでくれたんかww
ネガティブ思考症 あたしが病んでた時に書いた小説
ネガティブな思考のほとんどはあたしのを参考にww
ネガティブ思考症シリーズ 最終弾「ネガティブ思考~決意~」
この世界は残酷だ。何回も何回もそう思わせ、このようにしか考えられない治療困難な病。そう、これがネガティブ思考症。貴方達の世界で言えば、「鬱病」に近いだろう。でも、この病はそれよりもっと酷い値になる。ネガティブ思考すると同時に、世界はその思いと同じようになり、思考者をもっとそう思わせるという恐ろしい病だ。さらに先程言った〝この世界は残酷だ〟という言葉を使うことで、今の世界が崩れ、新しい世界へと舞台が変わることも最近分かった。世界変化する際の影響はほぼないが、時に何人かが世界変化に巻き込まれ、死に至ったケースもある。実を言うと、私の大切な人……キラルもその一人。変化に巻き込まれ、死んでしまったのだ。影響はもう一つある。それは、世界変化を起こす度に、患者の記憶が一部、無くなること。私もキラルの顔・姿を忘れてしまい、分からなくなったからだ。……え? 何故そんなに知っているかって? ……それは私もその病の患者だったからーー……
そんな私に仲間が出来た。名前はアミン。ある日……キラルを永遠に失った日から私の傍にいると誓ってくれた。私もキラルやアミンへの恩返しに、アミンの傍にいると決めた。アミンはと言うと、同じくネガティブ思考症の患者だった。彼女は両親からの愛を求め、世界変化を何回も何回も起こしたのだと言う。しかし、両親の愛は本物で、最期に〝愛したかった〟という言葉を聞き、後悔で埋め尽くされたのだと……。しかし、知っているのはこれだけで、アミンの過去について、詳しくは知らなかった。アミンと会ってはや一年になる。そろそろ聞いてみてもいいかもしれない。そう考えた私は、アミンの部屋へ向かった。
アミンの部屋に着くと、アミンは待っていた。
「! アミン!」
「来ると思ったから。さ、入って」
アミンは笑顔で私の手を引く。私も笑顔でそれを受け入れる。
「トキが何の目的で此処に来たか……分かるよ。〝アミンの過去について聞かせて〟でしょ?」
「! どうして分かったの……?」
「いや、今日でさ私達が出会って一年じゃない? それで、この機会に私の過去を聞きに来るんじゃないかって思ってね。まさか本当に来るとは思わなかったよ」
そう、アミンは微笑みながら言った。
「……うん、アミンの言う通りだよ。でも、嫌だったら話さなくてもいいんだよ!? そんな……無理にとは言わないし……」
「ううん、私はトキにだけ話したいの。私の過去を……知ってほしいの」
「……! アミン……ありがと……!」
「いいの。……少し長くなるけど……いい?」
前に少し話したことも含めて話すね。私は5歳になって原因不明の病にかかったの。その時からかなー……マイナスに思い始めたのは。そして、私はネガティブ思考症になった。力も使えるようになった。……でも、それから両親は私を避けるようになった。私は振り向いてもらいたくて……それで誰かに教えてもらった、ネガティブ思考症の能力を使ったの。そして願った。どうか違う世界では私を見てくれますようにって。……でも両親は変わってくれなかった。だから、両親が私を愛してくれる親に変わるまで、世界変化を起こし続けたの。でも最後まで変わらなかった。最期に両親は〝本当は愛したかった〟って言って亡くなった。……あの言葉を忘れたことないよ……。……ずっと残ってる。……それを思い出す度、私は何てことをしてしまったんだと……心の私が私を追い詰めた。その時、私は人生を変えてくれた人に出会ったの。その人は私に〝そんなに責めないで。貴方はきっと悪くない〟って言ってくれた。その人の名は、キラル。
「……!? キラル!?」
私は驚いた。アミンの話を聞くなり、キラルと重なっていた。似てるなと感じていたけど、まさかキラル本人だとは思わなかったからだ。
「……! 知ってるの?」
「その人は……キラルは……私の大切な人だよ……!」
「!? どういうこと……?」
「……キラルは確か異世界の看護師。そう、色々な世界へ移動出来るんだ!」
「……! なるほど……」
「……ねぇ、ちょっと待って。どうやってキラルが世界変化に巻き込まれたこと知ったの? キラルはあの能力者の世界変化で……死んじゃったのに……」
「え……? いや、キラルは私の前で、世界変化に巻き込まれて死んだよ……?」
「!? じゃあ、アミンが会ったキラルの特徴を教えて」
「う、うん。確か……髪は少しだけ短めで……前向きだった……かな」
「……うん。私が会ったキラルも全く同じ。キラルが二人……?」
「……どういうことだろう……」
「もしかしたら、私達は名前が同じ、性格も同じ……双子のキラルに会っていたのかもしれない」
「確かに何もかも同じなら、ありえるけど……そんなことって……」
「きっと、二人のキラルは再会を願ってたんだ……。例え死んでから会うことになっても……それでも二人は再会を望んだ。そんな時に、私達と会った。私達を見て、二人のキラルは自分達と重ねた。そして傍にいようと決めた。能力者によって殺された時、二人のキラルは再会したんだと思う。そして、二人とも優しいから……最期に私達にメッセージを送ろうと……。だからあの時、私がネガティブ思考でキラルが来るよう、願った時、来てくれた。それはアミン。貴方もそうじゃなかったかな……?」
私の言葉にアミンは目を見開く。しばしの沈黙。やがて口を開いた。
「……思い出したよ……。キラルと過ごした全てを……キラルの言葉を……。世界変化でキラルが死んじゃった時……それはそれは悲しかった。泣き叫んだよ。そしてネガティブ思考で願った。キラルにもう一度ーー……と。来てくれた。キラルは少し悲し気な顔で微笑んで、〝大丈夫、貴方はもう一人でも生きていける。それに……貴方と似た人もすぐそこにいる。……決して忘れないよ〟って言ったの。そして光に包まれ、消えた。キラルのその言葉を信じてずっと待ってた……。そう、貴方の訪れを。そうしている内に、ネガティブ思考症は治ってた。今思ったら、きっとこれは、キラルがくれた最後のプレゼントだと思うの。……そしてあの日、トキとようやく出会えた。長年待ち続けた存在に。キラルの言葉は……やっぱり真実だった……!」
アミンは涙を流した。そしてやっと全てを言えたアミンはずっと泣いていた。
「……きっと、キラルはこれで安心したと思う。全てを話した者、そしてそれを理解する者、二人の者は二人のキラルに救われた者。今頃、二人のキラルは笑い合ってるよ」
そう、私はアミンに言った。涙を堪えながらーー……
上手くいったね。
そうだね、キラル。
貴方のおかげよ、キラル。
ううん、貴方も頑張ってたじゃない。
これで、トキとアミンは幸せになったし。
これで、私達も再会出来たし。
一石二鳥だね!
~キラルパート~ 過去と現実
私達二人は幸せに暮らしていた。ある日、両親の勝手な思いより、私達は離れ離れになった。私は妹のキラルを探した。私は姉のキラルを探した。すると、此処にいると危ないと知った私達は偽りの職業を持つことにした。正確に言うと、そういう設定にするのだが。姉のキラルは看護師。妹は介護師。私達は他の世界へ移動することが出来た。その力を使って、姉のキラルは看護師の旅に出た。妹のキラルはアミンに会った。
私は少しばかり看護師について勉強した。さすがに働かないと……っと思ったからだ。幸いにも、私は勉強に関しては多少出来る方だった。勉強はそう長くはかからず、3ヶ月程で看護師の免許を取った。
「さて、免許も取ったことだし、違う世界で看護師するかー」
私は手を空にかざす。すると、そこから異世界に繋がり、私は異空間に入った。
私は気が付くと、異世界に到着していた。
「……ごめんなさい……お母さん、お父さん……」
泣き声が聞こえた。その声を辿り歩いていくと、一人の少女がしゃがみ込んでいた。
「……どうしたの?」
「!」
少女は振り返り、涙いっぱいの目をパチパチとさせ、ただ茫然と私を見つめる。
「……何かあったの……?」
「……信じてもらえないかもしれないけど、私、世界変化させることが出来る病で……それで……私のお母さんとお父さんが……うぅ……。私、お母さんとお父さんを殺しちゃったの……」
そう言うと、少女は泣き叫んだ。
「うわーーーーん……。ああああ……」
その病については、噂で聞いたことがあった。それは確か……そう「ネガティブ思考症」。彼女はきっと、小さい頃からその病に苦しめられ続けたのだろう。
「……そんなに責めないで。……貴方はきっと悪くない……」
私はか細い少女を抱き締めた。
「……貴方は一人じゃないよ……」
「……ヒック……ありがとう……」
少女は泣きながらも笑った。
「……私はキラル。貴方は?」
「……アミン。私の名はアミン」
「アミン、これからは私がアミンの傍にいるよ。ずっと守ってあげる」
そう、決意した。……キラル、ごめんね。でも私は、アミンの傍にいたいんだ。ちょっと会えない日々が増えるけど許して。
異世界を通じて、やっと来たのはキラルとよく来ていた世界。此処でなら、まだ安心して看護師出来るかなと、私が自ら選んだ。
「よし、移動完了。さらに、此処で働いている設定にしたから、いちいち言う必要なしっと!」
そう言っていると、
「キラルさーん! ちょっと来てくれるー?」
「あ、はーい! 今行きますー!」
先輩の看護師さんに呼ばれ、私は急いでナースステーションの方へ向かった。
ナースステーションに着くと、先輩の看護師さんと一人のベテラン医者が待っていた。
「お待たせしました! あの……用件は?」
「おぉー! 来たか、キラルさん」
「はい、何でしょう?」
「実はな、この病院には隔離病棟があってね、そこには一人だけ患者がいるのだよ。そこで相談なのだが、その患者の担当になってくれないか?」
「え? 私ですか?」
「そうだよー……。他の人にも頼んでいるのだが、誰も引き受けてくれなくて……。お願いだ! キラルさん……!」
「……そうなのですか……。分かりました。私が引き受けます」
「おぉー! それは助かる! 感謝するよ! それじゃあ、よろしく!」
「はい、分かりましたー!」
隔離病棟にいるたった一人の患者。よっぽど重症なのだろうか? 気になり、私はその唯一の患者に会いに行くことにした。
そこは暗く、汚かった。一つだけ、名前の札がある扉。此処に唯一の患者がいるらしい。カラカラカラ……。扉を開けた先に一人の少女がいた。しかし処置が異常だった。
「!?」
口と身体が縛られ、言えば自由がない状態だった。少女の目には、涙があった。
「そんな……酷すぎる……。……ん?」
ふと見ると、患者の詳細が書かれている部分を見つけた。
「……『患者の病名:ネガティブ思考症』。これって……! ……あ、まだ書いてある……。
『扱い危険! 口と身体を縛らないと貴方はネガティブ思考によって殺されてしまう! 看護は年に一回で5~10分で済ませ、即退出しろ! 遅い程、貴方の生存率が低下していくぞ!!』……。そんな……どうしてこんなことを……。とりあえず、縛りを解かなきゃ……」
私は急いで患者を自由にしようと、縛りを解き始めた。
アミンの傍にいると約束した。私は懸命にアミンを支えた。少しずつ元気を取り戻していくアミン。アミンが満面の笑顔を出せるようになるのも、そう遠くないかもしれない。
「ねぇ、キラル。キラルは私のことを守ると……傍にいると言ってくれたよね?」
「うん。今もそのつもりだよ」
「うん、だからね。私もキラルのこと守るの」
「え?」
「……守られっぱなしは嫌だもん。それに、私のせいで大切な人がいなくなるのは嫌だから……」
アミンは微笑んだ。私は両親を失った直後のアミンを思い出し、複雑な気持ちでいながら
「ありがとう、アミン。大丈夫、必ず貴方は私は守るからね」
アミンを抱き締めた。
『この世界は残酷だ。さよなら、世界』
「!? キラル、危ない……」
「え……。うわっ!!」
誰かが言った言葉によって、どんどん崩れ行く世界。
「キラル、これが世界変化させることの出来る病……ネガティブ思考症だよ……」
「……こんな風に、世界ってすぐに壊れてすぐにまた新しい世界が誕生するんだ……」
「キラルにとっては新鮮なことかもね。私は何回も見てるけど……」
「うん、新鮮。……でも、私も崩れるみたい……」
アミンは振り向く。私の背後に崩れる世界。
「!! キラル、逃げてーー!!」
アミンは私の手を取ろうとする。が、通り過ぎた。
「……! キラル……?」
「もう、私は死ぬの。もう世界変化に巻き込まれてるよ……」
「そんな……い、嫌……! 消えないで……。私、生きていけないよ……」
アミンの言葉を聞き、私は消え行く中、目を閉じた。そして、姉のキラルがいる世界での出来事を知り、ふと笑った。
「……大丈夫だよ」
「え……」
それだけを言い、私は世界の崩れに巻き込まれ、意識を失った――――……
患者を自由にして、しばらくして患者は目を開けた。そして、自分の縛りが無くなったことに気付き、驚きを顔に出した。
「!!」
患者である少女は、身体を動かした。改めて、自由を確認した少女は混乱していた。
「……何がどうなってる……?」
私は安心させようと思い、少女に声を掛けた。
「……大丈夫……?」
「!?」
私の声にぎょっとし、振り返る少女。
「縛られていたからね。さすがに酷すぎるもの」
そう、理由を告げるが、少女はまだ私を警戒しているようだ。
「…………」
「私は此処の看護師なの。……まぁ、見習いだけどね」
「……看護師……」
「そう。……で、新たに私が貴方の担当になったの。でも……まさか、こんなに酷い処置されていたなんて……」
私を見つめる少女の瞳は光を映していなかった。私は悲しくなった。すると少女がポツリと言う。
「……知ってる? 私の病名――」
「ネガティブ思考症……でしょ?」
先に私が言うと、少女は目を見開く。
「!!」
「私の世界で言うと、鬱病。でもこの世界には、もっと酷い病があるんだね……」
少女はその言葉に顔をしかめ
「……貴方は何者?」
と尋ねた。
「……私は異世界から来た看護師。この世界のことは詳しいよ」
「……この世界は――」
「〝残酷だ〟でしょ? 今は言わないで。……貴方をこんな思いにさせるこの世界は確かに残酷だよ……。でも私はね、この世界はその為だけに作られた訳じゃないと思うの」
少女は再び目を見開く。
「……私はキラル。貴方は?」
「……私、名前ない。だからキラル。貴方が私の名前付けるの」
そう言われ、私は驚く。何にしようかと凄く悩み、思い付いた名前は……
「……。トキ……なんてどう?」
少女――トキは少しだけ笑った。
――――――暗くて何も見えない。結局会えなかった。このままずっと一人なのか……。そう思っていると
「……キラル!」
「!!」
振り返ると、そこにはずっと会いたかった――
「……キラル!!」
姉のキラルだった。
「ようやく会えたね」
そう、キラルは微笑んだ。
「会いたかった……キラル……」
「私もだよ、キラル」
私達はついに再会を果たした。それぞれで起きた出来事の詳細を話し合った。
「トキを置いて来てしまったの……。あの子は私以外、話せる相手いないのに……」
「私も……アミンを置いて来てしまった……。大丈夫とは伝えたけど、絶対あの子にとっては、大丈夫じゃない……」
姉のキラルはトキという存在、妹のキラルはアミンという存在を置き去りにしてしまった。私達は途方に暮れていた。すると、
『キラルにもう一度――――……』
『……どうか……来て……キラル……』
「「この声……!」
「アミン!!」
「トキ!!」
私達は顔を合わせた。どうやら、同じ事を考えていたようだ。
「行こか、キラル」
「そうだね、キラル」
『お互いいた世界に――――……』
それで私達はあの二人に会いに行ったんだよねー。
うん。私達も、あの二人に会ったことで、人生が大きく変わった気がする。
それは私も思う!
……ねぇ、キラル?
何? キラル。
……トキとアミンはこれからも幸せに暮らしていけるのかな……。
……大丈夫よ。あの二人はもう逃げない。どんなに辛いことがあっても、二人一緒なら何でも乗り越えられると思うんだ。
……そうだね。あの二人ならきっと……もう大丈夫。
あれ? キラル、涙出てる……。そんなに優しくしてもらったの? アミンに……。
うん……。私が死ぬ直前までアミンは……私を助けようとした……。出来ることならもうちょっとあの世界にいたかった……。
……そうだね。私も、もう少しトキの傍にいたかった。トキに本当の笑顔を取り戻してもらいたかったの……。
でも、やっと笑顔に出来た。
やっと現れた仲間。
やっと現れた似た人。
これできっとトキは……
これできっとアミンは……
幸せになれたはず――……
……そうだよね? トキ。
……そうだよね? アミン。
貴方達はもう、幸せ……なんだよね? 私達がいなくてもきっと……大丈夫。
そう私達は言うと、互いに笑い、歩く――――
~あれから~
お互いの苦しみが分かったあの日から、早一年が過ぎようとしていた。あれから私達はある街に二人で暮らしていた。最初此処に来た時、私は驚きを隠し切れなかった。
「……え!?」
「どうしたの? トキ」
「此処……あの能力者が世界変化を起こした世界……」
「え……。でも、一回ネガティブ思考で崩された世界ってもう元に戻らないんじゃ……」
「そのはずなんだけど、此処は確かにそう、私が初めてネガティブ思考で作り出した世界。キラルがいた世界。どうして……」
「もしかして、トキの言う能力者は世界を壊したフリして、キラルだけを殺したとか?」
「それはないと思う。だって、ネガティブ思考症の能力は発揮した本人ですらも、阻止出来ないもの。だとしたら……キラル?」
「キラルが戻した……てこと?」
「ううん、そうじゃなくて、キラルは自分の命を引き換えに、この世界が壊されるのを阻止したんだよ。じゃなきゃ、現実にこの世界がある訳ない」
「……ん? ちょっと待って。それなら私がいた世界は? ……キラルが死んじゃった世界は……」
「もしかしたら、残ってるかもしれないね。双子の姉妹、キラルなら姉も妹も同じような力を持ってるかも……」
「……行こう、トキ」
「言うと思った!」
私は笑い、そして向かった。アミンがいた世界へ――――
『やっぱり来た? 二人とも』
「!? キラル!?」
「キラル、何で此処に?」
『貴方達に本当のことを言おうと思ってね。ねぇ、キラル』
キラルが言うと、もう一人、キラルが現れた。
『ごめんね、貴方達のキラルは別人なんだよ。この私がトキと一緒にいたキラル。こっちのキラルがアミンと一緒にいたキラル。そう、私達は双子の姉妹なんだ……。そして……貴方達はさっき、崩れたはずの世界を見たよね? それも、私達がいた世界に。あれはね、貴方達が暮らしていけるようにと、ボロボロだったのを元に戻した世界なの』
『私達二人で元に戻したの。ちなみに、アミンと私がいた世界は残念ながら元に戻せなかった……。あの世界は能力者の世界変化だったから、何とか世界を戻せたんだけど……私がいた世界は能力者ではなく、別の思考者による世界変化だったの。つまり、能力者の世界変化は命と引き換えに阻止出来て、思考者の世界変化は防げないみたい……』
「キラル……私達の方こそ、ごめん。実は分かってたんだ。キラルが双子の姉妹だったこと。そして、この世界を元に戻したのもキラル達だということも」
『!』
「いや、正確には、私とトキで推測したんだけどね」
「うん。私達二人で過去の話をしたの。もちろん、キラルのことも。でも、私とアミンが見た、キラルの死ぬ瞬間が違って……それで、仮設を立てたの。キラルは二人いるのかもしれないと。名前も性格も同じな双子のキラルがいたんだと」
『……そっか。トキ、アミン。此処でお別れだよ……。私達が此処に来た理由……それは、貴方達に最後のプレゼントをしようと思ったから……。そう、それがこの世界。私達が元に戻したこの世界で二人……暮らしてもらおうと思ったの』
『私達はもう目的を果たしたの。だから、もう……戻らなくちゃ……』
二人のキラルは悲しそうに笑った。一人のキラルの目から涙が零れ、その涙はキラルの姿を消していっていた。
「……ありがとう、キラル。私は貴方にどれほど救われたか……。いつか恩返しするから……!」
『……! トキ、貴方はもう十分恩返ししてくれたよ。貴方に出会えて良かった……。トキ。私も貴方に凄く救われたんだよ』
「え……?」
『貴方が私だけに話してくれ、そして私に優しさを与えてくれた。それだけでも私は……支えられたんだよ……』
「……キラル……」
「キラル、ありがとう。貴方はいつも、私の傍で励ましてくれた……。ねぇ、恩返しは出来ているのかな……私」
『もう十分だよ、アミン。それに恩返しされるほどのことなんか、何もしてないもの。でもアミンは私に恩返ししようと……。……ありがとね、アミン……』
「そんな……私は何も……。……ありがとう、キラル」
それぞれのキラルと再会した私達。キラルはさらに消えていく――……
『『ありがとう、トキ(アミン)……。……もう行かなきゃ……』』
「キラル……本当にありがとう……」
「絶対に忘れないよ……キラル」
『さようなら……』
そう言うと、キラル達は光となって消えた。
「……アミン、辛い?」
「ううん、トキがいるから……辛くない。これからも……共に……」
アミンはにこっと笑った。その笑顔はかつてキラルが持っていたものと似ていた。アミンの言葉に、私は笑い、
「私もアミンがいるから、辛くない。共に……歩いて行こう」
そう言って、私達は手を繋ぎながら、歩いた。二人の姿はキラルが残した世界の中へと消えていった――――――……
―終―
※これは小説家になろうにて、リルンという名で投稿してるものです。
決して奪ったものではないので安心して下さい。あたしのオリジナル小説です。
ネガティブ思考症シリーズ 番外編「ある者の過去」
僕はある王家の次男だった。兄は後に王となる存在。僕はそれが嫌で仕方がなかった――――……
ある日、僕は一人の能力者と出会う。
「お前、能力者にならないか。そして、兄を超えてみたくはないか」
そう言われた。
「……能力者とは?」
「超能力……みたいな物かな。どんな能力の使える者だよ」
「……僕がなれるのか?」
「なれるさ。特訓さえすれば。まぁ、なるかならないかは。お前次第だが」
僕は兄を超えたかった。そのことばかり考え――――
「……なる」
僕は兄を殺し、王になった。だが、反乱が絶えなかった。そして、あえなく、国は没落した。
「……どうして……。僕はただ、兄を超えたかっただけなのに……。王になりたかったのに……。何故!?」
僕はただ、世界に絶望した――……
僕はあの時以来、幸せな時トキを過ごす世界が許せなくなった。そして、ある時ついに使った。
「さよなら。トキ――――」
「やめて――――」
「この世界は――残酷だっ!!」
幸せな世界を崩した。幸せに過ごす時トキを壊した。僕はこれからも世界を――――――……。
―終―
※これは小説家になろうにて、リルンという名で投稿してるものです。
決して奪ったものではないので安心して下さい。あたしのオリジナル小説です。
偽姉
誰からも愛され、親しまれる姉が羨ましかった。だから。あたしは姉を消し、妹のあたしがこっそり姉を演じてみた。
家族はあたしを姉として可愛がってくれた。誰もが“あたし„という妹の行方を知ろうとしなかった。それはそうだ。家族が好きなのは姉。つまり長女で、あたしのような妹……次女なんかいらない。大概親は最初に生まれた子が一番可愛くて、愛らしいと思っている。二番目に生まれた子はきっと、邪魔者。あたしがまさしくそうだ。それが今や、あたしが姉となり、皆に愛される。最初はとても嬉しかった。けれど日が経つごとに妹であったあたしの影が薄くなっていっている気がするのだ。あくまで今のあたしは“姉„として愛されている。元のあたしー妹であったあたしーは愛されなかった。さらに本当の姉ーあたしが消したーは、もういない。そう思うと何だか複雑な気持ちになり、少し胸が痛む。
「アキー! ちょっと来てちょーだーい!!」
下から母が呼ぶ。
「今行くー!!」
幸い、あたしと姉は双子の姉妹で、しかも姿も声も背の高さも同じだった。
いつも無視された。あの頃。懸命に親に見てもらおうと努力するけれど、いつも姉ばかり。そしてあたしには暴力を振るう。酷く殴られて病院に運ばれた時もあった。誰も心配せず、見舞いも誰も来ない。
「……」
静かな病室。心音だけ鳴り響く。するとガラッと扉が開く音。
「アカ……!!」
聞き覚えのある声。
「ごめんね……私のせいでアカが……こんな目に……」
姉だった。唯一、あたしの見舞いに来てくれた人。姉は妹のあたしに最も優しかった。
「私、親が嫌いだよ……」
「……! お姉ちゃん……?」
「アカをこんな目に合わせて……。許せないよ……! 私の大切な……たった一人の妹なのに……!!」
姉はいつもあたしのことを思ってくれた。親の暴力もいつも止めてくれていた。そんな姉だから……きっと、愛されるのだろうと心の中で思った。
「……お姉ちゃんが羨ましいよ……」
「……アカ……?」
「あんなに愛されて……可愛がられて……。友達もいっぱいいるし……。逆にあたしがいなくなった方がいいんだよ……。あたしがいない方が……親もお姉ちゃんも……ストレス溜まらずに済むし……」
姉もきっと、あたしへの同情でいっぱいで、ストレスを溜めているのだと思った。あたしがいなくなれば、親も姉も楽になれるだろうと。すると姉は立ち上がって、
「アカ……そんなこと言わないで。私はアカにストレス溜めたことないよ。アカは私にとって大切だよ……。だから、そんなこと言わないで」
そう言って、あたしを抱き締めてくれた。
「……ありがとう、お姉ちゃん……」
「ううん。今度、私からも親に言うからね? ……それでこのことも止まるといいんだけど……」
姉は必死にうーんうーんと考えてくれた。だけどあたしの心は冷たく、“そんなの無理に決まってるよ„という考えでいっぱいだった。
あれから2ヶ月。あたしは無事、退院することになり、姉が来てくれた。
「良かったぁ……無事に治ってくれて……」
「お姉ちゃん……! 来てくれたんだ……」
「当たり前でしょ? 大事な妹が退院だよ? これは行かないと!!」
姉はあたしの手を握って言った。だけど、やっぱり姉以外は誰も来なかった。
「……やっぱり来なかったんだ、親」
「私から言ったのにな……。先行っててって言われたから、行かないんだなって分かったよ……」
「別にいいよ。あたしも親に会いたくないし」
また親に暴力振るわれて、病院行きはもうごめんだ。
「御大事になさって下さいね!!」
そう、看護師が言った。
「ありがとうございました」
あたしを看てくれたことに感謝しつつ、病院を後にする。
「……ねぇ、アカ」
「何、お姉ちゃん」
突然話しかけられたことに少し焦りつつ、姉を見る。すると姉もあたしを見た。
「……ずっと考えてたんだけど、私達って、双子じゃない?」
「うん……それがどうしたの……?」
「……それ、利用出来ないかなって」
「……え!?」
「アカが私になって、私がアカになるの。姿も声も背の高さも同じだから、きっとバレないわ」
「で、でも……それじゃあ、お姉ちゃんが暴力受けちゃうよ!? それは駄目だよ……!!」
「……私はどうなってもいいの。それでアカが楽になれるなら、私は何だってする。だから、アカは気にせずなりたかった“姉„になって」
「……お姉ちゃん……!! 嫌だ……。嫌だよ……!! お姉ちゃんがあたしの代わりに苦しむぐらいなら、耐えた方がよっぽどマシ……! あたし、お姉ちゃんにはああなって欲しくない……」
「そう……。分かった、じゃあ……」
姉は鞄かばんからナイフを出す。
「……!? お姉ちゃん……!?」
「これで……私を殺して。本当はアカを殺人犯にしたくなかったけど……こうするしかないの。だから……アカ。私を親だと思って、殺して」
「そ、そんな……出来ないよ……!! お姉ちゃんがいなくなったら……あたし……!!」
「大丈夫。私はずっと貴方の傍にいるから。貴方に見えなくても……ちゃんと傍にいるから……。さぁ、アカ。私を殺して。この未来秋みらいあきを……!」
「……分かった……。お姉ちゃんが……そう望むのなら……!!」
――――ッ!!
少しずつ赤い華が咲いていく。姉はあたしに微笑んだ。
「幸せに……なっ……て……」
崩れ、固く目を閉じる。突き刺さった銀。赤い華。広がる赤。あたしの手から赤い水が落ちる。
「お姉……ちゃん……」
『“姉„になって』
そう、姉が言った気がした。あたしは目を閉じ、そして呟く。
「……此処で死んだのはあたし。あたしは私になる。私は未来秋。此処で死んだのは私の妹。未来明みらいあか……」
「秋ー? どうしたのー?」
母の呼ぶ声ではっと我に返る。最近、昔のことを思い出してしまうよう。
「……あ、ごめん! すぐ行くね!」
あたしは急いで一階に下りる。
「何ー? お母さん?」
「秋ー! これ、貴方にって届いていたわよ? 何これ?」
「あぁーそれは多分、買った物だよ。ありがとう、お母さん」
あたしは荷物を受け取り、二階へ上がる。嫌な予感した。
「……これ、何なんだろう……」
姉宛だったからまだ良かったものの、もし妹宛だったらと思うと怖くて体が震えた。
「開けないと……何も始まらない……。あたしなら出来る……あたしなら……ファイト、明」
勇気を出して、段ボール箱を開けてみる。
「……ひっ……!!」
そしてあたしは衝撃を受ける。そこには死んだ姉が着ていた服があった。赤く染まり、泥で汚れた服。
「な……何……で……」
よく見ると、紙が挟まっていた。
「え……何……」
そこにはこう書かれていた。
『プレゼント』
「ひゃ……!?」
天罰が下った気がした。あたしはあたしの運命を受け止めるべきだったと。
“貴方は姉のようにはなれない„そう、言われた気がした。
それから数ヶ月に一回、姉に関わる物が送られるようになった。あたしは引きこもりがちになった。
「秋ー? どうしたの……?」
母はそう言って気遣うが、あたしにとっては余計傷付くことだった。
「……ごめん、一人にして……」
「……そう……。御飯、此処に置いておくからね。食べなさいね」
そう言って、母は一階に下りた。
「……お姉ちゃん……」
あたしはそっと姉に関わる物を見る。姉の服、靴、髪、そして……冷凍保存された首がそこにあった。
「……あたし、やっぱり言うよ……。本当のこと。そして元の生活に戻る。姉を演じるのはもう終わり。お姉ちゃん、ありがとう……。そして、ごめんね……」
姉に話しかける。も、返事はない。姉は目を閉じたまま。もう硬かった。まるでマネキンのように。あたしは決心して、扉を開け、一階へ。
「……話があるの、お母さん」
「どうしたの? 秋」
「……私、秋じゃないの」
「……え? 何を言っているのよ。貴方は未来秋よ」
母は笑う。だけどあたしは真剣だ。あたしの真剣な顔に、母から笑みは消え、焦り出す。
「そんな……違うわよね? 貴方、秋よね? そうだよね……?」
母の反応に心が痛むも、逃げることは出来ない。本当のことを伝えて、元に戻る。それが、あたしに出来る、姉に対しての唯一の償い。
「私は秋じゃない。秋はもう死んだの」
「……えぇ!? 信じられないわ! 私をからかっているの?」
「……信じられないのなら、証拠を見せてあげる。二階に来て」
そう言って、あたしは階段を登ろうとした。すると、母はあたしの腕を掴む。
「よくも騙してくれたわね……。貴方、誰なの!?」
怒りの言葉を聞き、本来の母を思い出す。暴力振るった、あの母。
「私は未来明。貴方が憎む者。秋の妹」
そう名乗って、手を振り払い、二階へ行く。あたしは扉を閉め、姉の首を見つめる。
「これで……元通りだよ……お姉ちゃん」
しばらくして、バァンと母が二階の扉を開けた。
「来たね、お母さん。入って」
「言われなくても入るわよ! 貴方、今までどういうつもりで――」
「怒るの、早い。先に話聞いて」
そう言って、母を止める。
「何よ、証拠って」
「……これだよ」
母に姉を見せた。
「……!?」
「この首こそ、姉。私は妹の明。今まで私が姉を演じてたの」
「あぁぁ……秋……。 秋……! 秋ーーーーーーーーーー!!」
母は絶叫した。大声で泣いた。姉の首を抱き締め、髪を撫でる。その様子をあたしは静かに見下ろす。少し落ち着いたところで、母はあたしを睨む。
「貴方がしたのね!? 私の大切な……大切な秋を……!!」
「そうだよ……私が姉を殺した。お姉ちゃんみたいになりたかった……」
「あんたね――――」
「でも駄目だった。私はやっぱりお姉ちゃんには敵わない。結局は全部壊れた。私はただの操り人形だったよ。ただ姉の真似をして、姉として愛されただけ。結局、妹のあたしは愛されなかった」
そう、ただ姉を愛しただけ。あたし自身には愛がなかった。ほら、こうして怒って……あたしを睨んで……あたしは邪魔者だと言いたいんでしょ?
「そんなことで秋を……秋を!! 許せない……お前を殺してやる……!!」
「いいよ」
「……は……?」
「あたしはもう生きていても仕方ないもの。姉も死んで、あたしにはもう頼れる存在はいない。しかも、姉はあたしが殺した。姉になりきっていても、いつも心の中に妹のあたしがいた……! あたしは必死に妹のあたしを消した。だけど消えなかった。結局、あたしは姉すらなれなかった。姉でもなく、妹でもないあたしは何だろうね……?」
あたしはそっと母に近付く。
「こ……来ないで!! 人殺し!!」
「あはは……人殺しか……。あたし、本当は人殺しとして生きるべきだったのかもね。そうしていたら、こんなに壊れることなかったのに……」
さらに母に近付く。
「来ないでって言ってるでしょ!? 明!!」
「!!」
今、何て言われた? 明? 明? そう、あたしは未来明。明はあたしの名前。母があたしの名前を呼んだ? そんな馬鹿な。
「……秋になりたかったのね……明」
「!?」
母が急にあたしに向かって、普通の母に戻った。何で? 何で? あたしが嫌いじゃないの?
「貴方も……秋のように愛されたかった……。ただそれだけだよね……?」
「…………」
恐る恐る首を縦に振る。すると、母はあたしをそっと抱き締める。
「……え」
「ごめんね……。愛してあげられなくて……ごめんね……」
「……!!」
あたしは母が頭おかしくなったのかと思った。でも抱き締められて、分かった。母は本当はあたしのことも……。
「!?」
母は驚く。あたしも驚き、恐る恐る離れる。すると、母が刺されていた。
「……!? お母さん……!?」
「私はいい……から……。貴方は逃げなさい!」
「え……!?」
「まだ分からないの……!? 私の後ろの人が……貴方を嫌っていたのよ……!!」
「!?」
母の後ろにいたのは、義理の妹だった。
「……お母さん、喋りすぎ」
そう言って、母の体に深くナイフを突き刺す。
「ぅ……明……早……く……」
そして母は息絶えた。妹はナイフを引き抜き、こちらを見る。
「あぁ……やっと見つけた……。お姉ちゃん? ……いや、未来明」
義理の妹はゆっくりと近付く。
「……ずっと探してたんだよぉ? 貴方のこと。遊んで欲しかったから……」
妹は気味の悪い笑みを浮かべながら、さらに近付く。
「……鈴すず。貴方が……あたしを……?」
「あはははは!! やっと気付いたんだね! 遅すぎて待ちくたびれたよ!!」
「どうして貴方が……?」
「そんなの簡単よ!! 義理の姉が絶望でいっぱいになっている姿を見て、楽しむためよ。おかげで楽しませてもらったわ。フフフ……」
鈴は体勢を低くして、あたしに告げた。
「……**」
「……!!」
あたしはギリギリのとこで避けた。鈴の目は本気だった。
「私を追い込んで、楽しかった?」
「ええ、おかげ様……で!!」
鈴のナイフがあたしの腕をかする。
「うっ……!!」
「あはは、やっと刺さった!! さぁ……貴方も終わりよ」
もう駄目だと目を閉じる。
「……ぐあっ!!」
その声に目を開けると、鈴が血だらけで倒れていた。
「え……何が……起こったの……?」
「貴方も終わり」
――――――!!
「え……?」
あたしの体から次々と流れ出る血。そして、そこにはいるはずのない人物がいた。
「な……なんで……――――……」
その光景を見下ろす。さっきまで生きてた明と義理の妹、鈴。そして母。目的達成。この家の者は全員死亡した。
「……貴方のおかげだわ、亜希あき」
私はそっと目を閉ざす首の頭を撫でる。
「……姉ごっこは楽しかった? 明」
そう言って、気味悪い笑みを浮かべた。
―Bad end―
言葉思い
「好き」
「ありがとう」
「ごめんなさい」
「おはよう」
「お休みなさい」
「こんにちは」
「こんばんわ」
「さようなら」
「いただきます」
「ごちそうさまでした」
これらの言葉を言ったことがありますか。気持ちを誰かに伝えたことがありますか。きっと皆様は家族や友達、大切な人……様々な人に言ってこられたと思います。このような言葉には様々な意味が込められています。だからこそ、口に出して言うことは大切なことです。メールやLINE……このような物で伝えるのもいいですが……少しだけ考えてみて下さい。もちろんお互い遠くにいるという状況ならば仕方がありません。ですが、そうでない方でも今はそうであってもいつかお互い会うことになるという方でもこのことを考えながら……これから話す、僕の話を聞いて下さると有難い限りです。ちなみに僕はこのような言葉を言ったことはありません。寧むしろ、言えませんでした。なぜなら僕は――声を出せないからです。――――――
僕は小さい頃に、重い病にかかり近所の小さな病院に入院しました。難病で手術しても、助かる確率はわずか5%でした。明らかに助かるはずがありませんでした。両親はただただ泣くばかりでした。まだ幼かった僕はどうして親が泣いているのが分かりませんでした。きょとんとした顔で
「ママ……パパ……どうしたの……?」
そう尋ねても、両親はただ泣いて、僕を抱き締めるだけでした。
そんなある日、親が僕に言いました。
「新しく出来た薬を試してみるって、お医者さん、おっしゃったの。もしかしたら助かるかもしれないよ、亮りょう」
ああ、僕としたことが、名乗り忘れていましたね。僕は美瀬野みせの亮りょうと申します。本題に戻りますが、どうやら僕に新しい薬を試すと。要は人体実験みたいなものです。僕の体は人体実験に使われることになりました。そのことを思い出したのは実は最近です。両親が話しているのを偶然聞いた時、僕はこの時のことを思い出しました。今思えば、どうして親は僕の体を使うように言ったのが疑問です。僕が退院して10年経った時、聞かされたのは……
「あの時はどんな小さな希望でもって思って……貴方に薬を使って下さいと医者に頼んだのよ」
薬は僕の病を和らげました。ですがその時から僕は、声が出なくなりました。声を出そうにもかすれ声しか出ず、おまけに出そうとすると、吐血してしまうのです。そして僕は誰にも感謝の言葉「ありがとう」や気持ちを伝える言葉―例えば「好き」とか―を言うことなく、声を失いました。伝えたくても伝えられないことが僕を苦しめました。こんなこと考えてはいけないと分かっていたのに、死にたいとも思いました。
『気持ちも伝えられず、ただ生きていくだけ……。ただ呼吸するだけ……。こんな世界……生きていても仕方がない……死にたいな……。でも、親が……あの医者が繋いでくれた命を無駄にしたくない……。もう少し…頑張ろう…僕はまだ**ない……』
あれから20年。僕は社会人になりました。未だに声は戻ってこなく、いつも通り他の社員とは手話で会話していました。あれから僕は何とか生きていました。精神が病みそうになりながらも、生きなければいけないと、命を繋がなければ申し訳ないと思いながら。
「おはよう、亮君」
優し気な声が聞こえ、振り向くと可愛らしい女性が僕を見て微笑んでいました。長い黒髪を下ろしていて、清潔感のある人でした。彼女は僕の同僚の本田 唯さん。いつも笑顔で僕に挨拶してくれます。
『おはようございます、本田さん』
その度に僕は必死に手話で伝えようとします。それを懸命に観察し、いつも笑顔で頷く本田さん。他の人は僕とのコミュニケーションを面倒臭がって、紙に書いて会話しています。仕方ないことだなと、僕はそれを受け入れていました。だけど本田さんだけは、頑張って理解しようとしてくれ、手話も僕のために勉強し、いつも僕に手話しながら話してくれました。そんな本田さんに僕は心を寄せていきました。
『本田さんは優しい人だな……。あの人なら…僕の苦しみ…分かってくれるのかな…。絶対フラれるって分かっているのに……僕は馬鹿だ。僕は…本田さんが好きになってしまった……』
ある日、僕は決意しました。本田さんに気持ちを伝えよう、と。そのために僕は何回も声を出すリハビリをしました。途中で吐血してしまうこともしばしばありました。それでも僕は本田さんに言葉で思いを伝えたかったのです。フラれることになったとしても……気持ちを伝えたい。それが僕の思い全てでした。僕は本田さんを呼び出して、二人で話したいと頼みました。すると、彼女は
「いいよ」
と、小声で返事してくれました。嬉しい気持ちと緊張が混ざり合い、複雑になっていたのを覚えています。ですが不安もありました。思いを伝えて、嫌われないかと……。彼女は僕にとって、かけがえのない存在でした。そんな彼女に嫌われ話しかけて来なくなったら……。そう考えると震えが止まりませんでした。だけど、逃げちゃ駄目だと、思い直して僕は待ち合わせ場所へと歩き出しました。
そして約束の時間。彼女は急いで待ち合わせ場所に駆けつけてくれました。
「お待たせ……!! 亮君!! ごめん…待ったかな…?」
息を切らせ、本田さんは言いました。
『いえ、僕も今さっき来たところなので』
僕は必死に手話で本田さんに伝えました。すると、本田さんはほっとした表情になり
「良かった……」
そう言って、はぁはぁと息を切れているのを、整えていました。しばらくして
「話って何?」
本田さんは息を整え、走ったせいで乱れた長い髪を直して、僕を見つめました。僕は声を出して、思いを伝えようと喉に力を入れました。口の中の血を飲み込んで、すっと息を吸って――――――
「ぼく、は……あな、たの……こと、が……好きです……!!」
僕なりに頑張りましたが、やっと出た声は酷くかすれ、何を言っているのか分からないぐらいのものでした。しかし彼女は大きな目を見開かせていました。
「……!! 亮君……声が……!!」
僕はコクリと頷きました。すると本田さんは涙を浮かべて僕を抱き締めました。
「……!?」
「ありがとう……亮君。私のために……頑張って声を出してくれて……。辛かっただろうに……。でもね、貴方の思い……伝わったよ……!!」
「……ほんだ……さ、ん……!!」
本田さんは僕を離して、改めて僕を見てそして笑顔で――――
「私も好きです、亮君。いや……美瀬野 亮さん」
僕は初めて幸せを感じました。相変わらず、声は出ないままで、出てもかすれ声で血が出てきますが、僕はもう一人じゃなくなりました。本田 唯さんという大切な人も出来ました。現在、彼女は僕の傍にいてくれ、サポートしてくれています。いつもあの笑顔を見せてくれます。僕はとても幸せな日常を送っています。これまで経験したことのないような…幸せな毎日。そして僕も言えました。「好きです」という大切な思いを。もし僕と同じように大切な思いを伝えていないのであれば、まずは家族に言ってみて下さい。きっと喜びます。恥ずかしいと思っても、言ってみて下さい。一回言えば、恥ずかしくなくなります。かつての僕みたいに、伝えたくても伝えられない状況にいつなるか分かりません。だから今、声が出せる時……思いが固まった時……貴方がその大切な思いを言えますように。そしてその思いが相手に届きますように――――――……
―終―
<雑談&後書きコーナー>
亮『僕の話、いかがでしたか? 今回、僕の話をさせて頂いたのは、ただ単に幸せを伝えたい訳ではありません。もし、そんなこと言うと、リア充爆発しろと言われ、僕は殺されます…笑 そうではなくて、思いを伝えることは大切ということです。中には僕よりも酷い症状を持ち、一切話せない人もいらっしゃると思います。その方は声で伝えれなくても、他のことで気持ちを表したらいいのです。例えば、手紙。あえて手間のかかる、手紙がお勧めです。もちろん現在、便利な世界ではメールやLINEで伝える方が早いかつ、楽です。この小説を書いた、作者も携帯のメールとかでよく気持ちを伝えています。ですが、手紙の方が気持ちが込められます。自筆の手紙を貰ったら、きっと誰だって嬉しいと僕は思うのです。ちなみに僕もそんな手紙が来たら、嬉しいです。声が出せる方は、声が出せるうちに、たくさん声を…喉を使って下さい。僕みたいにいつ、声が出なくなるか分からないからです。そして話せない人を馬鹿にしてはいけません。この世の中にも…声を出したくても出せない人もいるのです…。思いを伝えることは大切ですが、言っていいことと、悪いことがあるのです…。僕が伝えたいことは以上です。聞いて下さった皆様、ありがとうございました』(手話なため、後に唯が通訳)
唯「お疲れ様、亮君」
亮『本田さん!! お疲れ様です!!』
唯「話、聞いてたんだけど、実際亮君は心のない言葉、言われたことあるの?」
亮『ちょっとね…』
唯「そうなんだ……酷いね、その人」
亮『もう過ぎたことです。あまり気にしません。だって僕には貴方がいますから』
唯「…!!/// ちょ…ちょっと亮君…恥ずかしい…」
リ「…………」
亮・唯「!? どうし…ました…? リルンさん…?」
リ「ここは二人イチャイチャするとこじゃないんですけど…!?」
唯「ひゃ…!! リルンさんが怖い…!!」
リ「いや…別に貴方達を離そうと思わんから大丈夫やけど…さ。ここ、後書きなんだよね。ここ、作者が感謝やら何やら語るとこ」
亮『いや…あの…この小説が伝えたかったことを僕が伝えたんですけど…』
リ「いや、まぁ…うん。それはありがとう、助かったわ…でもね? だからってイチャイチャはするな…ヨ?」
亮『ひええ!! 怖いです、リルンさん、落ち着いて……』
リ「じゃあ、こっからあたし言うから…邪魔しないでね?」
亮・唯「はい!!」
リ「長くなってすみません……。ここまで読んで下さり、ありがとうございました。この雑談も読んで下さった皆様は神様です、本当に。優しすぎます、泣きそう…。泣きませんけど…w さてさて、いかがだったでしょうか。短すぎですね、すみません…」
亮『本当短いですよね、この小説。これ、小説なんですか?』
リ「むぅ……!!」
唯「私、あまり出てないです。もっと出たかったです」
リ「うぐぐ……」
亮・唯「ジィィ……」
リ「……最後になりますが、この小説に関わった全ての方に感謝しつつ、後書きとさせて頂きます!! ありがとうございました!!」
亮『強制終了ですか!?』
唯「リルンさん……ちゃんとして下さい」
リ「お前等ちょっと黙ろうか……」
※グダグダですみませんでした。雑談まで読んで下さった方、ありがとうございました!!
この物語はフィクションであり、登場人物等は架空です。
覚醒現象伝説ー古キ言イ伝エー
あらすじ
原因不明の現象『覚醒現象』。人間誰もが覚醒する可能性をもつ。そんな中、一人の少女が運悪く覚醒し、『覚醒人間』となってしまう。『覚醒人間』とは、その名の通り、人間が覚醒した者を言う。覚醒した者は、感情を忘れ獣化して大暴れすることから、『覚醒現象伝説』と呼ばれ、人々から恐れられ、伝説化した。
~プロローグ~
「ごめんね」
そう呟く声が響く。そこには赤い人形。その人形は酷い形をしていて、さらには鉄くさい臭いもする。もちろんのこと、目には光を宿さない。その奇妙な人形はふと、首が取れた。そして広がる赤い水。
「……私の力不足で……貴方をこんな目に……」
人形の前に立つ一人の少女。しかし少女もまた、赤かった。白いフリフリの服に赤い華が奇妙に咲いていた。少女は人形の首を手に取る。そして、少女は首を握り潰す。
「……処理、完了」
※1リルンとルリア(赤猫教)は同一人物です。
※2オリジナル小説です。
~言い伝え・覚醒の始まり~
ある言い伝えがあった。
『月満チシ時、人間多数■ス。
月赤キ時、人間一人、覚醒ス。
全テガ覚醒セバ、■■■■セム』
古い言い伝えのため、一部文字が滲んで読めない。そして、誰も信じようとしなかった。所詮、ただの言い伝えだと思っているからだろうか。だが、言い伝えはもう一つあった。
『千年ヲ経テ……■■ハ■■シ、人間救ワレル。救ワレシ人間、極楽浄土へ導カレザルコト無シ』
その言い伝えによると、千年経てば、人間は救われ、死後、極楽浄土へ行けるという。人間はその言い伝えを信じた。そうすることで、たとえ苦しくても、耐えればいいことがあると。そう思い込んだ。
「……何で……。どうして……」
一人の少女は言い伝えを聞き、震える。
「……私……人間じゃ……ない……」
そう、彼女は汚れた獣の血を持つ者だった。今は力で隠しているが、彼女には翼と牙と鋭い爪があった。見た目は可愛らしい少女だが、人間とは比べ物にならないぐらいの握力の持ち主だった。彼女はかつては人間だった。しかしある日、言い伝えが本当になり、覚醒した。そして彼女は人間ではなくなってしまった。
「…………」
そして変わった。彼女は力を解き放ち、獣の姿になる。
「……人間狩り……始める」
~人間狩り終始~
※残虚な表現が含まれます。苦手な方は回れ右して下さい。
彼女は次々と赤に染めた。その度に彼女の服・顔・髪に赤い華が咲く。
「あはは!! あははははは!!」
高い笑い声をあげ、彼女は狩りを楽しむ。そして目の前の人を狩ろうと爪を立てる。
「…………――!!」
「!?」
一瞬、彼女は正気を戻す。目の前には、彼女の大切な人。しかし、その人はもうボロボロだった。彼女の爪はその人の胸を刺していた。
「留美……もう……やめる……んだ……!!」
「!! ああ……あああ……あああああああああああ!!」
大切な人が傷付き、彼女……留美は叫ぶ。彼女の周りは大切な人の赤だらけだった。
「留美……!!」
必死に止めようと、大切な人は彼女を押さえる。
「……!!」
ようやく留美は落ち着く。も、手遅れだった。大切な人に深く突き刺さる爪。
「留……美……ゲホッ……落ち着く……んだ……。ハァ……ハァ……。お前は……たとえどうなっても……人間……だ!! ……あの言い伝え……関係ない……。たとえ……ゲホッ、ゲホッ……覚醒して……人間じゃ……なくなったと……しても……お前は……留美という名の……人間だ……――――…………」
彼女の頭に乗せられた手がふと落ちる。
「ああああ……」
留美は赤い涙を零す。いつの間にか雨が降っていた。雨は大切な人の赤を流していく。体温を奪っていく。
「…………照」
そっと目の前の彼の名を呟く。もう冷たくなったその体はただ赤を流すだけ。
「……ごめんね……。貴方をこんな目に合わす私は……もう、人間じゃないよ……。ゴメン……ね」
留美の青い目はふと、赤くなる。動かなくなった“人形„の頭を掴み、持ち上げる。
「照……。アナタは止メテクレタ……。だけど、ゴメンね……。私ノ暴走……止マリソウニ……無イヤ……」
青い目は点滅し、完全に赤くなり、“人形„を握り潰す。
「……処理、完了」
そう言い、留美はその場を去った。彼女の目は赤い涙で溢れていた。
「……何……コレ……。何で……コんなに……出るノ……? 私……当然の……コト……シタだけ……ナのに……」
赤い涙は次々と零れる。知らず知らずに。分からないまま、歩く。視界が何故かぼやける。彼女の足取りは、どこか頼りない。
「……どう……して……」
彼女は倒れ、気を失う。すると、姿は元の人間に戻り、涙も普通の涙に戻った。
~伝説の謎~
覚醒した人間の最期は、赤い涙を流した時。言い伝えではそう書かれている。その後どうなるかは分かっていない。留美の行方は分からなかった。だが10年経って、彼女と似た人物が発見された。彼女はまだ生きていた。心や体の傷はそのままで、虚ろな目をしていた。しかし、この少女が留美だという確信はない。実は彼女と似た人物はもう一人いた。場所は森。そこに一人の少女が倒れていたのだ。生きてはいるが、未だに意識不明だという。この少女と虚ろな目の少女の関係も明らかになっていない。だがどちらにせよ、彼女はもう人間じゃなかった。姿こそ人間だが、10年経っても見た目が変わっていなかった。そして未だに覚醒する人間がいる。その度、行方不明者も出る。一体何がこのようにさせているのか。言い伝えは誠であった。それにしても、この言い伝えを書いたのは誰なのか。そして、その人物はどうしてそのことが分かったのか。その謎が解けるのは、どうやらまだまだ遠い先の話のようだ。
~留美~
ココハドコ? ワタシハ誰? ドウシテワタシハココニ居ルノ? ワタシハ何? 何、何、何? ……あぁ、そうだ。私、人間じゃなかったんだ……。私は獣。人間から覚醒した獣。かつて私も人間だった。なのに、あの赤い月を見た瞬間、血が騒いだんだ。そして気付けば、姿が獣になっていた。翼が生え、牙や爪が鋭くなった。……あぁ、もう私は人間に戻れないのだろうか……。どんどん忘れる感情。
「……人間狩り、始める」
そう呟いてから、私の意識は闇に落ちていた。勝手に体が動き、爪を立て、噛み付き、次々と赤い華を咲かせた。人々は赤い華を咲かせ、崩れ落ちる。中には青い華も咲かせていた。そしてふと、意識は戻る。私の周りは赤だった。私の服も赤い華を咲かせていた。そして気付いたんだ。私は自分で自分を孤独にしていたのだと。
あれからどう過ごしたかなんて覚えてない。どれだけ経ったのかも知らない。分かることはただ一つ。私はもう永遠に人間に戻れなくて、ずっと独りだということ。……ねぇ、私は何のために生きているの? どうして覚醒したの? 何で私なの? 私はどうして**ないの? どうして姿が変わらないの? ねぇ……誰か答えてよ……。教えてよ……。返してよ……。私の人生を……私の未来……。
~新たな事件~
町は火に包まれていた。人々は逃げ惑う。悲鳴が町中、響いていた。そこに一人、少年が立っていた。手からは炎を出している。彼の目は血のように赤く、平然と建物を燃やしていく。警察は少年を捕まえようとする。も、不思議なパワーで警察を突き飛ばした。
「……邪魔を……するな。人間ども」
そう冷たく言い放ち、炎を大きくし、町全体を焼き尽くそうとする。
「そこまでだ! 獣!!」
その声と共に、バァン!と、銃声が聞こえた。
「……く……!!」
少年の手から赤が溢れ出す。
「……またお前か……。この前、左手を使えなくしたはずだが……」
彼は前も町を燃やそうとしていた。そこで銃に撃たれ、左手に傷を負ったのだ。かなり傷は深く、もう左手は使えなくなったはずなのだ。しかし、あれからまだ数日しか経っていないのに、左手が使えるにまで回復している。驚くべき回復力だ。少年はキッと睨み、
「またお前か、人間」
痛みに耐えながら言う。
「お前が心を変えるまで、何度でも現れるさ。お前、何故こういうことをする」
「人間には関係のないことだ。俺の問題だ。話すまでもない」
少年はそう言い、左手を庇い、今度は右手を向ける。
「……お前は知っているか? お前と同じように赤い目を持ち、暴走した少女のことを」
「……俺の先生だ」
「そうか。ならば話は早い。お前の先生はかつて、人間だった。名前は留美。幸せに暮らしていたんだ。そして感情は暴走し、大暴れしたんだ」
「……先生は辛かっただろう。俺も元は人間だった。だが俺は、この町の人間が憎いのだ。俺を苦しめ、嘲笑い、俺を見下した奴等だ。今度は俺が苦しめるんだよ……!!」
少年は右手から炎の球をを作り出す。
「落ち着くんだ!! 先生は大切な人を傷付けてしまい、今、行方不明になってしまっている!! お前も同じ過ちをするのか!?」
「!!」
少年は驚き、右手を下げる。
「先生が……行方不明……? そんな……そんなはずない……。だって先生は……今、此処にいるんだ……!!」
そう言って、少年は首に付けたペンダントを握る。
「此処に先生はいらっしゃる!! よく見ろ!! 人間!!」
少年のペンダントは怪しく光っていた。その光は少年の周りを包み、そしてふとあの少女は現れた。
「……!! 留美……」
留美という名の少女。そう、この少年が暴走する前、獣化した少女だった。
「先生!! この者達にその声を……!!」
少年は少女に跪く。少女はゆっくりと目を開ける。……赤かった。あの獣化した少女が帰って来てしまった。
「…………ニンゲンドモ、ヒサシブリね……。ワタシのトウジョウ……ビックリシタカナ……?」
留美はそう呟く。時々、目の赤が点滅する。もしかすれば、正気に戻るかもしれない。そう思った銃を持つ男は一歩前に出る。
「びっくりしたよ……。留美さん。まさか行方不明の貴方が来るとは思わなかったからね」
その声に留美は視線を男に向ける。……青だった。少し微笑みながら
「何とか……生きてました。一時はどうなることかと思いましたけど……」
「留美さん。貴方の行方不明は衝撃でした。その姿を見せれば……喜びます。私と来て下さい」
男は留美を保護したかった。もちろん、後にあの少年も。男は覚醒現象についての研究をしていた。覚醒した少年少女のほとんどは実は幸せながらも悩むことがある子ばかりだということが分かったのだ。だから男は二人の話を聞きたいと願っていたのだ。
「……私を……どうする気ですカ……」
留美の目がまた赤くなり始めている。これはまずいと男は留美に向かって言う。
「貴方を傷付けることはしません。彼のことも。私は貴方達を守りたいのです。どうか信じて下さい」
男は頭を下げた。その様子に留美は目を見開く。驚きのあまり、目の色も青に戻る。
「せ……先生!! 駄目ですよ!! 人間を……憎い人間を……!!」
「憎く思ってる人間は誰? 貴方? それとも私?」
「!?」
「貴方は、私を利用して、憎い人間を殺そうとしているんでしょ?」
「り……利用だなんて……」
「いいえ。だって私は、人間を憎んでるっていつ言った? 私は誰も憎んでないわ。そもそも貴方から私に近付いてきたじゃない!!」
「……!!」
「貴方は、彷徨ってた私に声を掛けた。“大丈夫か?„って。心の壊れた私でもしっかり届いた。最初は助けの手だと思って手を取った……。だけど違った……。貴方はただ……獣化した私を利用して憎い人を殺そうと企んでいただけだった……。そして、しまいにはある機械に封じ込められ、しかも呼び出された時の私は、獣化した状態であるようにプログラムされていた……」
「……」
少年の目の色が変わった。男は嫌な予感がし、叫ぶ。
「留美!! 逃げるんだ!!」
留美は顔を上げる。目が赤い!! これはやばいと男は身構える。
「大丈夫。目は赤いけど、まだ獣じゃないから」
そう言って、留美は笑い、男の元へ飛ぶ。
「!?」
「赤い目だからって、完全に獣化してる訳じゃないの。獣の能力が使えるだけ。私を連れて行って……!!」
よく見ると、留美の目は片方ずつ色が違った。片方は青。もう片方は赤。奇妙だったが、どこか美しかった。
「……留美!! 行くよ!!」
「うん……!!」
男は留美の手を握り、駆け出す。
「……待て、留美……。逃がさねぇよ……?」
少年はニヤリと笑い、怪しく光るペンダントを留美に向ける。
「……ペンダントに……吸い込まれる……!?」
「留美!! 駄目だ!!」
留美を引っ張る。留美の体が緑色に光り出す。
「嫌……戻りたくない……。また……獣に……」
「今助ける、留美!」
「え……」
「私があのペンダントを壊します!」
「あ……貴方……」
「あぁ、申し遅れました。私は覚醒人間保護課のレン・キルラです。あの言い伝えについて調べ、覚醒した人達を保護する者です。留美はそこにいて下さい。すぐに戻りますので……!」
「……レ、レン……早く……ね」
留美の体がますます緑になっていく。時間がないようだ。レンは走る。
「もうやめるんだ!」
その声に少年は振り向き、レンを見て言う。
「……お前のせいで俺の計画はぐちゃぐちゃだ。計画は実行しないでやる。留美のことも……解放してやる。ほらよ」
少年は首に付けていたペンダントを外し、地面に落とし、それを踏み潰した。緑色の光はすぅ……と消えた。
「分かってくれて私も嬉しいよ」
「……一つ、条件がある。約束してくれるなら、もう人間を殺さない」
少年の目は相変わらず赤い。
「何だ?」
「お前が此処で死んでくれたら……な!!」
そう言って、右手を上げ高速に炎の球を作る。
「さようなら、邪魔者……!!」
レンは覚悟を決め、目を閉じる。
「レン、危ない……!!」
バァン!!
爆発音。レンは目を開けると、目の前が炎に包まれていた。
「レン、大丈夫?」
そこには、留美がいた。
「留美!? 留美は大丈夫なのか……?」
「私は大丈夫。良かった、レンが無事で」
そう言って、留美は微笑むが、留美の体が炎に包まれていた。
「私は大丈夫だから。レンは下がってて。私は人間じゃない。獣だから」
「……留美……!!」
レンが手を伸ばすも届かず、留美は少年の方へ向かう。留美は少し振り向く。レンに向かって微笑み、そして目を真っ赤に染めた。姿を獣に変えた。だけど前とは違う。人間を襲う獣ではなく、人間を守る獣だった。
「ようやく目覚めてくれましたか! 先生!」
少年は獣化した留美を見て、気味悪く笑う。留美は少年に向かって、同じ気味悪い笑みを浮かべ
「エエ、オカゲさまで……ね?」
そう言って、少年の元へ歩く。
「そうか。では予定通り、殺やろうか。人間どもを」
「その前に」
「?」
「殺したい人間がいるの。ソイツからでイイかしら……?」
「いいぜ。あいつだろ? あの男」
少年はレンの方へ指をさす。
「……いいえ」
留美は少年の後ろへ回り、低い体勢になり、
「……貴方……よ!」
そう言って、爪を立てる。
「……ぐっ!!」
深く突き刺さり、赤い華が少年の服と地面に咲く。
「くっそ……獣が……ナメやがって……! ええい、俺もなる!!」
少年は元から赤かった目をさらに赤くし、爪に牙が出始める。
「ヘヘ、コレデオレモつよクなったゼ!」
そう言うと少年は留美を突き飛ばす。
「きゃ……!!」
留美は転げ落ちる。
「留美……!!」
レンはもう見ていられず、銃を少年に向けて撃つ。
バァン! バァン!
「……レン!?」
「ぐあっ!?」
二発は少年の両足に命中。これできっと動けないだろう。
「留美、今のうちだ!! 逃げよう!!」
「……うん……!!」
留美は少年をちらっと見て、レンの方へ飛ぶ。
「そうはさせねぇ……よ!!」
少年は右手を上げ、炎の球を作り出す。
「さようなら、先生」
ニヤリと笑い、炎の球を発射した。
「留美、危ない……!!」
「!?」
留美が気付いた時には、もう目の前だった。
「あぁ……せっかく自由になれたのに……終わりか……」
そう言って目を閉じる。
「留美ーーーー!!」
レンは手を伸ばす。するとピカッと光った。
~事件の終結~
レンは目を開け、顔を上げる。
「私は一体……。……はっ! 留美は……」
下を見る。留美が倒れていた。
「……留美。ごめん……」
そう言いながら下へ。留美に近付く。
「留美……」
レンは涙を零す。留美を守れなかった。私のせいだと、レンは自分を責めた。
「……う……」
小さくうめく声。その声の主は目を開け、目の前の光景を見る。時間が止まったように、動いてなかった。だが一部だけ、動いていた。
「……レ……ン……?」
「!?」
一部が驚く。前で涙を流していたのは……
「留美……!!」
そう言って、留美を抱き締める、レン・キルラだった。
「あぁ……良かった……。留美が無事で……良かったです……!!」
「レン……。私は大丈夫。だけど……どうして助かったの……?」
「私は何もしていませんが……。誰かが時を止めたのでしょうか……」
「でも……それにしては違うと思う……。炎の球、ないし……」
「あ、そう言えばそうだな……。炎の球を破壊してついでに時を止めた感じ……」
「これは……時間を稼げということなのかも……!」
「だが留美、動けるのか……?」
「少し痛むけど大丈夫!」
「そうか。じゃあ、行くよ! 留美」
「うん……。だけど、あの子……どうなるの……?」
「あの少年はここまで町に被害を出しちゃったから……残念ながら保護対象には出来ない。それに暴走を止めれるかどうかも分からない」
「……そうか……。もし保護出来るなら、あの子も連れていったらいいと思ったんだけど……」
「……申し訳ありません。では、行きましょうか」
「うん」
レンと留美は少年が暴れた町を出た。しばらくして、紫色の光が出、時間が進んだ。
「!? あいつら何処に行った!? くそ、逃げられたか……」
少年は元の姿に戻る。すると、目から赤い涙が出る。
「か……はっ……!! もう……俺も終わり……なの……か……。嫌だ……ま、まだ……俺は死にたくねぇーー!!」
少年はそう言うも、体から力が抜け、ついには気を失ってしまう。そして留美の時と同じように、涙は元の色に戻った……。
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