Nobody 2017-11-19 03:10:28 |
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>>クレイグ・ウォーカー
見つけた……見つけた、見つけた…やっと――!
(此方を振り返ったその姿、顔をしっかりと確認すると言葉では形容し難い強烈な歓喜が全身を打ち震わせた。十余年の時を経て、あの日幼い自身の目に映った姿と比べれば随分と窶れてしまっている。生きとし生けるものの宿命である老いが着実に彼を蝕んだのだと言う現実は、逃れようもなく見せつけられた。それでも、死んでさえいなければ自分にとっては何の問題にもならない。見紛う筈のない、初めて目にしたあの日のあの瞬間から、一瞬たりとも揺らぐ事の無い想いを向ける彼をとうとう見つけ出したと言う甘美な事実に酔いしれながら、ぽつりぽつりと呟いた。本当は、彼の姿を見つけた時のシュミレーションを何度も何度も頭の中で繰り返し、何パターンにも及ぶ綿密な計画を立てていた筈だった。どんな場所のどんな状況で見つけたとしても、必ず彼を捕まえられるように。然しながら、結局の所そんなものは彼を見つけた瞬間の喜びと興奮の前には何の役にも立たないのだと言う事を思い知る事となる。いきなり現れて声を掛けて来たかと思えば、笑っている顔とも泣き出しそうな顔とも言えない複雑な顔をしてぶつぶつと何やら呟きながら近付いて来る女の姿は、嘸かし気味の悪いものだろう。
とは言え、漸く見つけた彼を目の前にして、ただ気味の悪い女だと拒絶されこの千載一遇のチャンスをフイにする事は出来ない。ふらふらと近づいて彼との距離は大凡2mほど、互いの姿をはっきりと目で確認出来るその距離で徐に手帳の中に挟んであった古い一枚の写真を取り出したかと思うと、そこに映るひとりの女性の姿を彼に見せつけるかのように腕を伸ばした。映っているのは他でもない在りし日の"あの女"。最早数えるのも億劫になるほどの人数を手に掛けてきたであろう彼のこと、10年も前に殺した女の存在など欠片も覚えていない可能性の方が高い。仮に覚えていたのしても、何の話だと白を切られてしまえば元も子もない――のだが、こんな手段を取ってしまうのは若さ故の浅はかさなのだろうか。ともあれ、今の自分にはこれしかない。知識も経験も不十分、年若くまだ青い少女が嘗て世界中を震撼させた殺人鬼を相手に彼の記憶を呼び起こさんとして早口に過去の出来事を語り始め。)
マライア・アンズワース――10年前のクリスマス、リッチモンドで殺された女です。外科医の未亡人で、娘と住み込みの家政婦とで3人暮らし…時々、貴方を家に連れて来ました。貴方が家に来る時、あの人はいつも酔っ払って、楽しそうに笑って……あの日もそう――ううん、あの日はいつもより酷かった。
酔っ払ってふらふらのあの人が帰って来た、貴方と一緒に…貴方はあの人の腕を肩に担いで、それから大きな紙袋を持ってキッチンに入って来ました。覚えてますか、キッチンでオレンジジュースを飲んでいた女の子……貴方はテーブルの上に紙袋を置いて、「食べな」って、そのまま二階に上がって行った…
――紙袋の中身は、クリスマスケーキだったの。
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