Nobody 2017-11-19 03:10:28 |
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>>40 メーヴィス・ロウ
“Ipse se nihil scire id unum sciat”、か……ソクラテスみたいなことを言うね、おまえ。どうやら俺が考えてたよりずっと聡いお嬢さんらしい。ああ、だから惚れたんだろうなあ……おまえさえ良けりゃあよ、このままひと晩心行くまでデートして、互いのことを深く知り合うってのも悪くないと思うんだ。でもおまえ、どうせ俺を振るんだろう?
(刑事としての在り方をあくまでも貫き通したまま、犯罪者の心理への感化を断固として跳ねのけたまま。それでもその範囲において、こちらの人格をハナから否定的に見ず、真実のみを求めて慎重に探る姿勢。それは彼女の秘める刑事としての才能の強さを覗わせ、嬉しい驚きを浮かべた表情で器用に片眉を上げて呟き。激情に駆られながらも、冷静さを見失わない。殺意に滾りながらも、己の本分を忘れない。殺人鬼を憎悪しながらも、清らかさ故に全否定しない。嗚呼、こんなにも絶妙な味わいの女が己を地の果てまでも追わんと決意している刑事だとは、全く神とやらはなんと慈悲深い男だろう。余りに恵まれた己の人生に思わずクックッと笑いながら次にしみじみと呟いたのは、こともあろうに愛の告白。たちの悪い冗談とも本音ともつかぬ言葉を連続して零しながら男はやおら立ち上がり、彼女が全身を緊張させて拳銃を構えなおすのを気にも留めずに、懐からライターを取り出すと咥え煙草に火をつけて。口元の紫煙を美味しそうにくゆらせながら、それはマリファナだったのか錯覚させるほど恍惚とした表情で、夢見心地に彼女を見据え。)
ロウ。信じられないかもしれないがな、俺は結構、あんたのことが好きなんだ。べっぴんなところも、肝っ玉のあるところもな。俺ぁてっきり、本当はあんたも俺のことが好きで、だから追いかけてくれてるものとばかり思ってた……ああ、だから俺のことをちっとも理解する気がないってぇのは、正直少しだけ残念さ。残念だがまあ、そこは時間をかけてゆっくり知って貰えれば良い。取り合えず、今言ったそれで今夜のところは及第点だ。
さあ、今度はおまえさんが自分のことを俺に教えてくれる番だぜ。例えば好きな酒はなんだい、え? カナダのドーソン・シティにゃあ、サワートゥっていう特殊なカクテルを出すバーがあってな。こいつはな、しわくちゃになった人間の足の指をグラスに入れて美味しく呑むってもんなんだ。嗚呼、あんたの好きな酒が知れたら、毎月毎月、殺した奴から大切に切り取ったそれを瓶の中に堕とし入れて、美しく包装して、あんたにプレゼントするんだがなあ……
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