Nobody 2017-11-19 03:10:28 |
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……あんた、ああ、思い出した。あれだ、津原……だったよな?
(掌からシャツの袖の中へするりと忍び込ませたペンの冷たさを愉快に感じ取りながら、目の前の店員が彼女の鞄をまさぐっては当惑し、謝罪もそこそこに店の奥へきまり悪げに去っていくのを、冷えた目つきで嘲るように眺めており。と、そのとき背後から聞こえたのは、長いことつめていた息をようやく吐きだすような深い深いため息の音。振り返れば彼女から、緊張や不安から漸く解放されたというように小声で礼を述べられて。告げられた名前を肯定する代わりに沈黙し、薄いメイクを施した自然な綺麗さのある彼女の顔をじっと見下ろして数秒──定期考査明けに張り出される成績優秀者の名簿とその時騒がれる女子生徒の顔がここでようやく脳裏に閃き、慣れない様子で名を呼んで。そうだ、津原、津原……映奈だ。軽くかぶりを振って感謝の言葉を受け流すと、声音は大して変わらぬものの、今自身も立ち会った一件はまるで普通の出来事化のようにいたわりの声をかけ。それからふと再び彼女の顔を見て、本の微かに眉をしかめ)
礼を言われるようなことはしちゃいない。災難だったな……つーか、顔まだ白いけど大丈夫かよ。
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