「ストックホルム症候群って知ってるか」
「──1973年のノルマルム広場強盗事件を由来とする、精神医学用語。監禁や誘拐といった非日常的な体験を長時間共有することで、被害者が加害者に対し、本来有り得ないはずの共感や同情、時には……愛情すら抱いてしまうこと。まあ、別に特殊な症状なんかじゃなくて、只の環境への適応だという声もあるけれど」
「ナターシャ・カンプッシュがガーディアン紙で反論したあれも知ってるのか、流石だな。じゃあ、リマ症候群は?」
「──それの逆。監禁する側の犯罪者が、監禁している被害者に親近感を抱いて攻撃的な態度を和らげてしまうこと。在ペルー日本大使公邸占拠事件で日本人職員と交流したゲリラ兵たちがこれだった……軍に突入された最後の瞬間には一度日本人を殺そうとしたのに、結局引き金を引けなくて、部屋を飛び出した瞬間に特殊部隊兵に射殺された。でも、貴方はリマになってはいないんじゃない?」
「どういう意味だ?」
「リマに罹り易いのは、被監禁者に比べて生活レベルや教養レベルが極端に低い人たちだもの。そういう恵まれない境遇にあった人たちは、非監禁者の持つ知識や人的教養に触れる“良い”新体験を得ることで、被監禁者に一種の恩情を抱く。だからリマに陥る──加害を躊躇ってしまうようになるの。私の知る限りの貴方は、私よりずっと頭が良いし、生活も充実してる。リマに罹る理由がないわ」
「……本当に、そう思うか?」
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