悲しき鬼 2017-09-03 18:02:37 |
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…っ、すず、…!
(相手に名前を呼ばれれば一瞬意識が戻ったのか真紅の瞳の奥に青が揺れて。意識が浮上したことで再び激しい痛みに襲われたのか片手で頭を抑えるとなんとか相手から離れ、鬼の意識を沈めてしまおうと。出来るだけ相手と距離を取りながらも「逃げて…私に、見つからないところに…!」となんとか相手をこの屋敷内のどこかに逃がそうとして。赤と青が揺らぎ合う度に苦しそうな呼吸がせり上がって来ては必死に押さえ込みながら玉の汗の浮かぶ顔を俯かせて)
碧、でもッ………
(逃げろ、という言葉に相手はどうするのかと問いかけようとするも、彼の今の行為を無駄にする訳にもいかないという気持ちもあり、少しその場で思い止まり。だがその時間も一瞬であり「わかった、」と顔を上げて真っ直ぐに相手を見ては凛とした声でそう告げて。その瞳は何か決意を秘めたような、またはなにか考えがあるような瞳をしており、ぐいっと目に溜まった涙を1度拭った後に相手の横をすり抜けてぱたぱたと走り出して。)
(相手が小走りで部屋を出て行くとその強い瞳に安心したように小さく息を吐いて。これだけ怖い思いをしていながら、相手の瞳は真っ直ぐで人を思いやる優しさがあった。強い子だと思いながらも意識は揺らぎ、その苦痛に眉を顰めながら彼女の事だけは守りきらねばと。ただ、中途半端に鬼が悲しみを得たせいで渇きが酷い、悲しみが欲しいという欲が湧き上がってくるのを押し留めながら一人部屋の中で蹲って鬼の意識と葛藤して)
(暫く時が過ぎた──と言っても、むしろ夜が濃くなったような頃。また先程のようにぱたぱたと慌ただしく廊下を駆ける音の後に、「碧!お待たせ!」と少し息を切らしながら鈴が部屋に戻ってきて。その両腕にはこれでもかというくらい大量に満開の花が抱えられており、「あのね、ごめんなさい。もうすぐ散っちゃうような花だけ摘んで来たから許してね。」という戻ってきたことではなく花を勝手に積んでしまったことへの申し訳なさそうな言葉の後に鈴はゆっくりと相手に近づいて。その表情にもう悲しみも恐怖も何もなく、ただただいつもの明るい少女の顔に戻っており。)
…っ、鈴…どうして、
(まだかろうじて残っていた意識を持ち上げれば目の前には大量の花を抱えた彼女の姿、思わず目を見開くと声を漏らして。自分は彼女に逃げろと指示をしたはずだ、それでなかったとしてもあれほど怖い思いをして鬼に姿を変えた自分の元に戻ってくるわけが無いと。しかし目の前の彼女は花を抱え、明るい笑顔まで浮かべている。ただ少し、花と相手を前にして痛みが落ち着いた気がして相手を見上げる瞳はほとんど青く、奥で微かに紅が揺らめいているだけで)
あのね、どうしても悲しみが欲しくなったら、それが要らないくらいに幸せな気持ちで心を埋めちゃえば良いのよ!
(にっこりとまるで満開に咲く向日葵のような笑顔を咲かせればその少女らしい細腕にたくさん咲いた花々をそのまま空に向かってぱっ、と放り投げて。投げられた花々は優しく降り注ぐしとやかな雨のように鈴と彼の頭上から降り注いで。月明かりに照らされながら花弁を散らしつつ花々が落ちてくる風景は実に幻想的な光景で「ね?貴方の赤の瞳だってとっても綺麗だもの、きっとこんなに素敵な後継見たら悲しみなんて要らなくなっちゃう!」とその中で楽しげに笑う少女や月明かりに照らされた美しい鬼も含め、まるでおとぎ話のような空間で。)
…鬼は、私とは別人格なんだ…私には制御ができない、だから…この光景を綺麗だとも、思ってくれないかもしれない…
(少しだけ悲しそうに言うも碧の意識には安心をもたらしたようで少しだけ表情を和らげて。瞳はやがて青く染まり、夜の間は角だけが残るも小さく息を吐き。「怖い思いをさせたね…ごめん、」と悲しそうに言いながら)
そんなの分からないわ!綺麗なものに種族なんて関係ないもの!
(相手の両頬をそうっと両手で包んでは優しげな笑顔を浮かべてもうすっかり美しい青色になった相手の瞳を覗き込んでは優しげな笑顔を浮かべて。「ううん、ちょっとびっくりしただけだから平気。」とにっこり微笑んでみせれば先程まで彼が焦って自分のことを守ろうとしていた理由に納得がいき「私のことを守ろうとしてくれて有難う。碧はとっても優しいね」と今の素直な気持ちを言葉にして。種族など関係なく、やっぱり友達にはなれるんだということが分かって何処か嬉しそうで。)
優しい、なんて…鬼だということを君に隠した。
私たちは人間が食事を取るのと同じように悲しみを喰らう、朝になったら君は村に戻るんだ。此処に居たら君はいずれ、私に心を喰い尽くされてしまう。
(小さく首を振りつつ青い瞳でまっすぐに相手を見つめながらそう告げて。相手が此処に身を置けば、きっと制御が効かず夜が来る度に相手の心を食い荒らす鬼になる、そのせいで相手が壊れてしまうことがただ恐ろしく。相手を見つめるその眼差しは昼間一瞬見せた寂しげで愁いを帯びたもので、その青い瞳に月の淡い光が差し込んで)
そんなの分からないわ!
(相手の両頬をそうっと両手で包んでは優しげな笑顔を浮かべてもうすっかり優しい青色になった相手の瞳を覗き込んではにっこり笑って『試してみなければわからない』と告げて。朝になったら村に戻れ、という言葉に一瞬その優しげな笑顔が固まっては「…………そう、ね。帰らなくちゃ。」と少しだけ俯いて表情に影を落とし。帰らなければ。でも何処へ?と自問自答を心の中で繰り返したもののその答えが結局見つかることはなく、ただ鈴の気持ちは泥沼にハマってしまったかのようにズブズブと思考の沼に落ちていき。)
…鈴は、どうしてこんな場所まで?
此処が妖の住処として恐れられていることは、あそこの村の人間なら知っていた筈だ。
(相手の表情にさした影を見れば小さく息を吐いて、何故相手が此処を目指してやって来たのか、それを尋ねて。一人になったとはいえ、他に目指すべき場所はなかったのだろうか、何故わざわざ恐れられている場所に。月が高くなり、差し込む淡い光が床に散らばった花々を照らす様に目を細めて指先で花に触れながら早い時間に鬼の意識から解放されたことに安堵していてその口調は穏やかなもので)
……私ね、帰る家がないの。
(ぽつり、と畳に落ちた声は彼女らしくもなく酷く静かで、そして少しの悲しみが混じっていた。「私のおうち、元々裕福じゃなくてね。おうちも人から借りていたものだったの。父様と母様が亡くなって、お金もなくなっちゃったからおうちを追い出されて。……だから、ここに来て、妖が居なかったらここで住もうと思ってたんだけど。」淡々と告げられた言葉は、今日会ったばかりの彼に伝えるべき内容ではないかもしれない。これならば何か嘘を付けばよかったと早々に後悔をしては鈴は小さな溜息を吐いて。「碧が居たなら、帰らなきゃね」とへらりと気の抜けた笑顔を浮かべては、そうっと相手から離れて。)
…気の遠くなるほど昔から、私もずっと一人だ。
君が居てくれたらどんなに良いか…だけど私は人間じゃない。過去には人間の心を喰らい尽くして、命を奪ってしまったことだってある…忌み嫌われるべき妖だ。
そんな者と一緒に居て、苦しむのはきっと鈴の方だ。
毎晩怖い思いをするのも嫌だろう、?
(相手の話を聞いてはそれに応えるように言葉を紡いで。何も相手を追い出したい訳ではない、それでも自分のエゴで相手を此処に置いたとして辛い思いをするのは相手の方だと。誰かを傷付け、喪う事を恐れてこれまで一人で生きてきた自分になにができるだろうか。)
……。
(顔を俯かせながらふる、と小さく首を横に振っては「怖くない。」と小さな声で一度呟き。少女らしい小さな手をきゅ、ときつく握りしめたあとにそろそろと相手の手に触れては「怖くない、碧だから。」と触れた手を見つめながら今度はしっかりとした声で告げて。確かに彼は人間では無いし、もしかしたら自分は殺されてしまうかもしれない。でも、どうせ村に戻っても餓死をするのが関の山。寂しい思いをしながら死ぬくらいなら、いっそのこと彼に殺された方が幸せなのではないかと思ってしまうのだ。「もう、一人は嫌なの。」そんな言葉を唇から紡いだ後、ぽたりと畳に落ちたのは一粒の雫。顔こそは見せないが、鈴は小さく震えていて。)
…分かった、それなら一つだけ約束をしよう。
もしも自分の身に危険を感じたら、その時は私のこの簪を壊して欲しい。
そして鈴を此処に置くことに、さっき言った通りの危険を伴う事を忘れないで。私を信頼しても、紅い瞳の私だけは信頼してはいけない。
(深く息を吐くと意を決したようにそう言って。せめて相手が命を落とすような事になる前に自分自身を消し去ることのできる唯一の方法を伝えて。一瞬躊躇うも肩を震わせる相手をそっと抱き締めるとその背中に腕を回し「鈴が望む限り、私が君を守るよ、だから泣かなくて良い」と小さく囁いて)
……うん、
(こく、と相手の言葉に小さく頷けば素直にその言葉を聞き入れ。もしもの時は簪を壊せ、などと言ってくるということはきっとその簪を壊すと彼の身に何かが起こるのだろうと頭の片隅で考えればそんな悲しいことはしたくないな、と素直に思い。ふわりと抱きしめられた体は、まるで幼子をあやすかのように優しく抱きしめられ、なんだか久々に誰かの温もりを感じたような気がして鈴はまたはらはらと大きな瞳から涙を零し。「ごめん、」と零れた言葉ははたして此処に留まることへの謝罪なのか、それとも涙が止まらないことへの謝罪なのか、)
…今日はもうお休み、疲れただろう。
(相手の髪を優しく撫ぜながら、彼自身も少し眠たそうにそう言って。月は徐々に傾いて、あと数刻もすれば辺りが薄明るくなり始める頃だろうか。今日はもう鬼が出てくることもなさそうだ、もう随分と長い間夜にゆっくり休むこともできなかったため落ち着いていられる今の状況にほっとしていて。眠る時に誰かが側にいるなんていつぶりだろうか、そんなことを考えると酷く安心できて相手を眠りに誘おうと優しく背中を叩いていた手はやがて力を失い、相手よりも先に眠り込んでしまったようで)
……碧、?
(とん、とん、と心地よく背中を叩く手に瞳を瞑りながらあともう少しで深い眠りについてしまいそうだ。と思った頃。段々と背中を叩く間隔が伸び、終いにはその手はゆっくりと力を失ったのを感じ取れば鈴はゆっくりと目を開けて。海色の瞳は閉じ、陶器のように白く滑らかな肌は本当に作り物のようでただ寝ているはずなのに絵のように美しく鈴は少女らしく少しの嫉妬を感じて。「……おやすみ」という言葉の後に、どうせ寝ているのなら許されるかな、と相手の胸に顔を埋めればそのまますやすやと寝息を立て始め。)
(朝、差し込む優しい日の光の眩しさに目を覚ますと朝を迎えたことに気づいて。腕の中で寝息を立てる相手の姿に昨晩のことを思い出すと少しだけ微笑んで。夜の間の鬼の姿は影を潜め角も跡形もなく消えていれば久々に気持ちの良い朝を迎えられたと小さく伸びをして。相手に自分の着ていた羽織を掛けると起き出して、縁側で陽の光と頰を撫でる優しい風に目を細めつつお湯を沸かし始め)
……ん、……
(柔らかに頬を撫でていく心地よい風と眩い光を感じながら薄らと目を開くと、縁側に座る背筋のピンと伸びた美しい白銀の髪の後ろ姿が目に入り、まだ覚醒しきっていない頭で嗚呼、夢じゃなかったんだなぁ。と呟けば今日からもう自分が一人ではないことにじんわりと胸が熱くなり、視界が歪みかけ。少し体を起こすと、ぱさりと自分の体から羽織が落ちて、どうやら彼が自分にかけてくれたのだろうと察せば愛おしそうに目を細めながらそれを大切そうに撫でて。「碧、」と相手の名前を呼んではそうっと起き上がり、彼の羽織を肩に羽織りながら「おはよう」と両親が死んでから1度も、誰とも交わしたことのなかった言葉を久方ぶりにさくらんぼ色の唇から紡いでふわりと花の綻ぶような笑顔で微笑んで。)
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