悲しき鬼 2017-09-03 18:02:37 |
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分かった、直前から回しておくね。
やりにくかったら教えて欲しい。
──…
(穏やかな昼下がり、いつもと変わらず縁側で本を読んでいたものの不意にぞくりと背中が粟立つような嫌な気配を感じると反射的に顔を上げて。縁側から見える景色はいつもと変わりなく、天気も良い。しかし髪を靡かせる柔らかい風が何故か身体に纏わり付いてくるようでその嫌な気配に息を詰め、背中を嫌な汗が滑るのを感じながら意識は花の小径の方へと集中して。)
全然平気だよ、ありがとう。
────……なんだか、嫌な風。
(いつも通りの、のんびりとした昼のこと。今日は何をしようかな、なんてことを考えながら部屋で暇を持て余しているとふわり、と何気なく自身の頬を撫でた風に何故だかぞくりと鳥肌が立ち鈴は小さな声でポツリと呟いて。雨でも振るのかと部屋を出て空を見上げても天気は見事なまでに晴れ渡っているし、辺りの風景だって何も変わりはない。しかし自身の背中からぞわぞわと何かが這いずる感覚に鈴の足は自然と縁側に居る自分の心の拠り所でもある彼の元へと向いており。「碧、」と少し不安げな声で彼の名を呼んではきゅ、と彼の着物の袖を小さく握り彼の澄んだ青の瞳を見上げ。)
──…何故、…
(普段ならすぐにその穏やかな青い瞳を相手に向け安心させる彼の視線が相手を捉えることはなく。相手の手を握り返したものの、花の小径で動いた白い影にぐらりとその瞳に怯えとも憎悪とも付かない色が浮かび反射的に相手を庇うように相手を背後にやって。やがてゆらりと姿を現したのは彼と同じように真っ白な肌と髪を持つ3人の鬼。ただ違うのは、瞳が燃えるような赤であることと角が生えていることだけで、生気を感じさせない作り物のような彼等はじっと碧と向き合って。相手を背後に庇ったまま、横に出した手は小刻みに震えており)
!……鬼、……
(いつになく緊張した空気の中、彼の視線を辿るように目線を向けた先には彼と同じ白銀の髪と雪のように白い肌を持ち、角の生えた鮮血と同じ色の瞳をした3人の鬼が。その無機質でなんの感情も持たないような瞳に思わずびくりと身を固めたものの、自分を庇うようにしている彼の手が震えていることに気が付けば自分のと彼の置かれている状況下が少し良くない状況だということを理解して。碧を迎えに来た?それとも私を消しに来た?ドクドクと煩い心臓とは裏腹に頭はやけに冷静で、小さく震える拳をギュッと1度握りしめたあとに「碧。」と彼の震える手にそっと自身の手を重ねては少し恐怖に揺れている瞳を鬼たちへちらりと向けて。)
…鈴、君は部屋に。
(相手の手を握り返したものの、視線は前に向けたままそう小さく言って。嫌な汗が背中を滑り、沈黙が恐ろしい。相手が動くよりも前に聞こえた声、「──またそのように、野蛮なモノを飼い慣らして。良い加減身を弁えたらどうだ…その汚らしい色を、我等に向けるな、碧。」口を開いたのは一番背の高い鬼、昔何度も聞いた声、自分を蔑む紅い瞳、視線。一瞬にして嫌な記憶の波が押し寄せてはぐらりと歪んだ視界、落ち着けと自分に言い聞かせながらも身体は言う事を聞かず無様にもかたかたと手を震わせる。そうだ、彼らは、青い瞳を何よりも嫌っていた。)
ッ、……わかった。
(ここでわがままを言って残ってしまっても、きっと彼の足でまといになってしまう。鈴は彼の言葉に素直に頷いては屋敷へと踵を返し──が、ふと耳に届いた1人の鬼の言葉。汚らわしい色?その言葉の意味を理解するなり鈴の頭にはかぁっと血が上り、気が付けば屋敷へと向いていた足は鬼たちの方へ向けられ、今度は自分が碧を庇うような姿勢で前に立っており。「撤回して。碧の瞳の色が汚らわしくなんてない。」先程まで鬼たちに抱いていた畏怖の念よりも、彼を貶されたことに対しての怒りが勝っているのかいつの間にか手の震えは止まり、鈴の瞳は真っ直ぐに鬼たちの方へと見据えていて。)
──ッ…駄目だ、鈴。何も言うな、見てはいけない。
(相手を部屋に下がらせればひとまず彼女の安全は確保してやれるかもしれないと思ったその矢先。自分の前に立つ彼女の姿を見ればその青い瞳を見開かせ、そのまま彼女が何も見なくて済むように瞳を覆うようにして抱き寄せて。「──ほう?随分躾のなっていない犬を飼い慣らしているようだ。…碧、いつまで我等から逃げ惑う?お前が鬼であることに変わりはない。鬼でありながら血の渇きに争うことの方が辛いだろう…一族に戻れ、お前の力を持ってすれば村一つ滅ぼす程度難は無いはず。そいつの記憶を奪い、村諸共沈めろ。」紅い瞳の彼は、抑揚のない声でそう紡ぎその後ろに控えた2人の女も物言わぬまま此方を見つめて。相手を肩口へと抱き寄せたまま、答えることはできず、ただどうすれば彼女を逃がせるか、必死で考えを巡らせるも鬼が近くにいるせいで身体が共鳴しているかのようで気分は優れず背中を滑る冷や汗に僅かに眉顰め)
……碧、
(いつも自分を優しく抱きしめてくれる彼の手が、今は震えている。何かから逃げ惑うように、怯えるように。視界が閉ざされ、鬼の言葉だけがやけに耳に届いては鈴の頭の中に疑問符ばかりを置いていき。碧の力が村を滅ぼせる?どういうこと?今すぐにでも彼に聞きたいが、今はそんなことをしている場合ではない。ぎゅ、と1度彼を強く抱き締めたあとに「私、信じてるよ。私のことは大丈夫だから、心配しないで。」と出来るだけいつも通りの声を装って彼に囁いて。大丈夫、きっと隙を見つければ逃げられるよ、と。きっと優しい彼のことだから、自分を安全に逃がすことばかり考えているのだろう。鈴はもう一度大丈夫、と囁いてはいつものようにへらりと笑って見せて。)
(相手の微笑みと鬼の言葉、どうして良いか分からずただ相手を抱きしめる腕に僅かに力を込めただけで。「まさか、隠していた訳ではあるまい?人間を絶望と悲しみの底に突き落とし、村を滅ぼした過去を。お前は真に鬼らしい冷酷かつ残虐な鬼だ、人間などと共存出来る訳もない。」自分を揺るがそうとするかのように紡がれる言葉の数々、鈴をこれ以上此処に留まらせてはならないと意を決すると相手の身体を離してじっと相手を見つめて。その瞳にはどこか全てを諦めてしまったような色が浮かび、悲しそうに微笑んで見せ。)
──鈴、よく聞くんだ。君は此処に居てはいけない、村へ戻るんだ。…鬼に、抗うことがそもそも不可能だった。鬼のくせに、人間に愛されようだなんて。
…もし、もしも私がまた何処かで穏やかに暮らせるようになったらその時は、鈴を迎えに行くから──だから。
嫌。…そんなの、また碧が1人で苦しむだけじゃない。私はそんなの絶対に嫌。
(そんな事言わせない、とまるで彼の言葉を遮るようにすずのような声は静かに落ちた。そんな顔で言われても説得力が無いもの。そう言ってにこりと笑えば、彼の両頬に手を添えてしっかりと彼の青と自分の黒を絡ませた後にそっと彼と自分の額を合わせ。「碧の過去なんてどうでも良いわ。種族が違ったって相手を愛おしいと感じればそれは愛でしょう?私は、過去に何があったとしても碧が好きよ。」──だから、1人で苦しまないで。懇願にも似たこの思いは、人間が鬼に持つものではないかもしれない。だが、畏怖すべき存在の彼のことを鈴はどうしても愛おしいと思ってしまう。それならば仕方ないんだ。ただ好きな人を守りたいと思って何が悪い。すずは彼の頬から手を離しては、少女らしい白く小さな手で自分より背の高い彼をぎゅっと抱きしめて。)
(相手の言葉に何も言うことができなくなってしまった彼の背後で再び声が響く。「…人間よ、今己の村へと逃げ帰れば見逃してやろう。それでも尚此処に居るなどと抜かせば、貴様を喰らい尽くす。」どこまでも紅い瞳が相手を射抜くように見つめて)
……私は、逃げたりなんてしない。碧を1人にしないって約束したもの。
(怖い。威勢のいい事を言いながらも声は震えているし、心臓だって今にも破裂しそうなくらいバクバクしている。でも、彼をここに1人にすることは絶対にできない。彼に無理をさせて自分だけ安全なところにいることはしたくない。鈴はもう一度だけ碧をぎゅ、と抱きしめたあとにそっと彼から離れては彼を後ろにかばうように手を広げて。「……貴方になんか、食い尽くされたりしない。」きっと、この精一杯の虚勢もこの鬼には通用していないだろう。すべてを見透かすような紅から今にも逃げ出したい気持ちを抑えて、鈴は真っ直ぐな黒の双眸を相手に向けて。)
…威勢の良いことだ、さぞや喰らい甲斐があるだろうな。
(相手を見つめたまま嘲笑さえも浮かべる事はなく、彼の合図と共に鬼の女二人が碧の手首を術で壁に張り付け、手出し出来ないように動きを封じてしまい。一瞬の出来事、相手を床へと引き倒した鬼の瞳は恐ろしいほどに紅く、無機質で恐ろしさを感じさせるもの。胸元にかざされた真っ白な手は碧と同じ、しかし灯った光の明るさは彼とは比べ物にならないほど強く、暗く澱んだ色で、その瞬間身を引き裂くほどの耐え切れぬ強烈な悲しみと絶望が相手の心を嵐のように激しく掻き乱し。)
っう、ぁああ……ッ!
(まるで悲しみで体を切り裂かれたかのような感情の嵐に鈴は苦しげに悲鳴をあげる。碧に悲しみを食べられるのとは違う、まさに食い荒らすと言うに相応しい荒々しく強大な負の能力に鈴の体はぐっ、と一度跳ねたあとにそのままぐったりと力を無くして。「ッ…」と唇をギュッと噛み締めながら涙の膜を張った瞳で血のように紅く妖しい鬼の瞳を睨みつけて。今にも大きな瞳の縁から零れてしまいそうだった涙は、空から降り注ぐ太陽の光に反射してキラリと光って頬をこぼれ落ち。)
──…やめて、くれ──!
(目の前で心を喰らわれ深い絶望に悲鳴を上げる彼女の身体がぐったりと力を失えば青い瞳はぐらりと揺れてその奥に血のような紅がぶわりと広がって。彼女に何の非が、という言葉は続かず苦しそうな吐息に変わり、見る間に穏やかな青は真っ赤に染まり。鬼の力ばかりが体の中で暴走し、息もできないような痛みに小さく呻きを零したのも束の間、昼間にも関わらず一本の角が生えれば腕を拘束した術で出来た鎖が激しく音を立てて。屋敷を照らしていた青い空には暗雲が立ち込め、花を揺らす風が強く不穏なものへと変われば視線を上げて鬼を見つめる深い紅が憎悪に揺らめいて)
だ、め…ッ、碧…!
(辺りの空気が変わったことに悲しみの海から何とか顔を上げれば苦しげに顔を歪ませ、涙をポロポロと零しながら優しい海の色から血のような紅になった瞳を持つ彼に少しずつ手を伸ばして。鬼の力に負けないで、という言葉は出そうとしても苦しげなうめき声にしかならずに涙が地面に水玉模様を描く。心がぐしゃぐしゃと掻き回される中で、彼の存在だけが蜘蛛の糸のように自身の理性を守る。涙で揺らぐ視界の奥に碧の姿を捉えては、彼に届くようにと震える手を精一杯伸ばし。)
(空気の震えるような殺気、相手の声は耳には入らず自由を奪っていた鎖を力で引き剥がすとその手首から血が滴り、次の瞬間には鬼が彼女にしたのと同じように鬼を地面へと引き倒し覆いかぶさっていて。相手の心を掻き乱す悲しみは搔き消え、しかし彼が鬼を見下ろす瞳はどこまでも紅く。胸の上に翳した白い手、灯る明かりは鬼と同じ澱んだ暗い色、完全に自我を失っているようで容赦なく鬼の生気を奪っていき)
ッ……
(急激に軽くなった自身をかき乱す強大な負の感情や深い悲しみが無くなればそれと同時に鈴の彼に伸ばしていた手もぱたりと力なく地面に落ちて。自身に覆いかぶさっていた鬼が居ないことに気が付けば、碧がまるで鬼を喰らい尽くしているように正気を奪っていく姿が目に入り。ダメ、と震える唇から言葉を紡げばまだ上手く力の入らない体に鞭を打ってふらふらと立ち上がり、そのまま彼の元へと駆け寄れば彼の鬼へ翳している手を上からぎゅっと握り。「ダメだよ、…ッ碧、碧!」彼の名を呼びながら怯むことなく彼を抱きしめればまだ自分の呼吸すらも整っていないまま震える手で彼を包み込んで。)
…──ッ、!
(真っ赤に染まった彼の瞳が再びぐらりと揺れては一瞬手の光が弱まり、青と赤とが色を変えて瞳の中でせめぎ合えば苦しそうに頭を抑えて。鈴、と小さく呟くように呼んだ声は未だ無機質なもの、汗が首筋を滑りその苦しさに喘ぐように薄く口を開いて。荒れ狂う鬼を押さえつけて意識を戻すのは酷く難しい、かろうじて相手の手をゆるく握り返し)
うん、鈴だよ。……大丈夫、ここに居る。怖がることはなぁんにもないよ。
(まるで、母親が子どもをあやすように。鈴は碧の背中をぽんぽんと一定のリズムで叩けば自分はちゃんと相手の側にいると優しげな声色で告げて。まだ涙の線の残る顔でふわりと微笑めば彼と繋いだ方の手に軽く力を込めては「私は大丈夫だから、もう平気だよ。」とようやくいつも通りの平穏な心に戻ったことを彼に伝えてはだから大丈夫だとまた彼を抱き締めて。苦しまなくて良いよ、逃げてもいいんだよ、と心の中で呟いた言葉は人間である自分には理解することの出来ない鬼の一族への少し無責任な言葉かもしれないが、それでも鈴の本心であることは間違いなく。)
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