────むかしむかし、貧しい村に子供の兄弟が二人きりで住んでいる家が二軒隣どおしにありました。
村に狼が出て、親が食べられてしまったのです。
どちらの家も兄が働き生計を立てて、弟が家を支えて生きていましたが、長くは続きませんでした。
子供ながらに借金をして暮らすほか、生きる術はどこにもなくなっていったのです。
借金取りの大きな男は家に無理やり入り、戸を壊し、机をひっくり返し好き放題。
返せる物は何も無いのだと、弟に手は出さないで欲しいと泣きながら言ったときです。
「お前達二人を売り物にさせてくれるのならば借金はなしにしてやろう、そればかりか弟の方は里親の見つかるよう身なりの良い子しか行けないような寺にいれてやろう。」
幼馴染みどおしの兄の二人は決心してしまいました。
赤色の着物がよく似合う、愛想の良く、それでいて器量も良い男花魁。
青色の着物がよく似合う、凜として、それでいて芸達者な男花魁。
たちまちこの二人は店どころか遊郭一の人気花魁となっていきました。
「カラ松、疲れたろうに。」
隣の障子からそんな声がすれば、
「おそ松、お互い様だろう」
そう返すほどに仲の良い二人は、血の繋がらぬ間ながらも双子花魁とまで呼ばれた。
「カラ松、カラ松」
「どうしたおそ松」
赤い着物の彼がため息を漏らすと白い紫煙が登ります。
「今夜来る、身請け目当てのあの緑の客、お前に押し付けていい?次は挙式の場所さえ告げられそうで」
「きっと拗ねるに違いないぞ。俺もあの紫の青年。今夜はお前に任せても良いか?金銀財宝いくら持たれてもお前をおいて婚約などしたくない」
「一緒に身請けされるのは?」
「どうせ離れ離れにされるだろう?」
「俺たちは双子だからなあ」
「ああ。どこでもいっしょの双子だ」
青い彼の三味線が美しく響く。
「トド松と十四松も富豪に貰われ、何よりさねぇ」
「俺の十四松だ、優しい子。幸せになってほしいものだ。」
「俺のトド松。可愛い子。きっと幸せになるに違いないね」
三味線に合わせて赤い彼が唄う。
青い彼もつられて唄う。
しばらく二つの声はやまなかった。